マサル、ジョウトへ行くってよ。   作:井ノ下功

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じこあんじ−1

 ワタルの後についてヨシノシティを出る。一気に木が増えて、ホーホーたちの鳴き声があちこちから聞こえてきた。

 

「無事ジョウトに着いたこと、ダンデくんに連絡したかい?」

「あー、いえ……それは、まだ……」

「してあげた方がいい。すごく心配していたからね」

 

 そう言われると、怖いとかなんとか言っていられなくなってしまった。

 

「……heyロトム、ダンデさんに電話して」

『了解ロト~』

 

 コールは一回で即座に繋がった。

 瞬間、怒鳴り声が飛んできた。

 

『マサル?! 今どこで何をしているんだ?! ジョウトに行くって突然どうしたんだ、君は馬鹿か?! というか一方的に通話を切るのはやめてくれ! 人の話は最後まできちんと聞きなさい!』

「……はぁい、すみませんでした……」

『まったく……ジョウトの今の情勢を知っているのか?』

「じょーせー?」

『ロケット団が復活して毎晩町を襲っていると、こっちのニュースでもやっているだろう? まさか、本当に何も知らないで行ったのか?』

「あー、はい」

 

 電話越しでも風圧にやられそうなほど大きな溜め息が聞こえた。

 

『君ってやつは、本当に……ワタルさんに連絡しておいて良かったぜ……』

「あ、はい、助かりました。ねぇワタルさん」

「そうだね」

『えっ、もう会ったのか?!』

「はい。さっそくロケット団の襲撃に出くわして――あ」

『襲、撃?』

「……元気です。元気なので平気です、はい」

「どくばりくらって死にかけてたけどね」

「ワタルさん!?」

『マサル?! どくばりってどういうことなんだ?!』

「ええと、あの……と、とりあえず無事なので! ワタルさんのおかげで! つまりダンデさんのおかげでもあります! ありがとうございました! それじゃあまた連絡しますんでサヨウナラおやすみなさい!」

 

 一息に言い募るとマサルは通話を切った。

 はぁ、と息を吐いてスマホをしまうと、ワタルの呆れた目と目が合った。

 

「ついさっき一方的に電話を切るなと怒られていなかったか?」

「あー……そんなような気もしますね……」

「駄目だよ、マサルくん。心配してくれる人たちのことは大切にしなくては」

 

 マサルはちょっとムッとして黙り込んだ。

 

(どうして会ったばかりの人にそこまで言われなくちゃいけないんだろう? それに、ダンデさんにだって別に心配してくれって頼んだわけでもないんだし……まぁ、おかげで助かったんだけどさ)

 

 ふくれっ面を隠さないマサルに苦笑を向けて、ワタルは前方を指した。

 

「ほら、見えてきた。ワカバタウンだ。急ごう。きっと待ってるよ」

「待ってる? 誰がですか?」

「ウツギ博士だよ。マグノリア博士から連絡があったらしくてね、会うことがあったら案内してあげてほしいと頼まれたんだ。君に会ったことをさっき伝えたら、ぜひ連れてきてほしいって」

「そうだったんですか」

 

 たぶん、きんのはっぱとぎんのはっぱのことが気になっているのだろう。それを知りたいに違いない、とマサルは思った。

 

(それは僕も知りたかったから、嬉しいなぁ。お土産買って帰らなきゃ)

 

「ワタルさん、ジョウトの名物って何です?」

「名物? やっぱ、いかりまんじゅうじゃないかな」

「あー、お饅頭かぁ。マグノリア博士って甘い物お好きかなぁ」

「ふっふふ、のんきなものだ。だが、そのためには手を貸してもらわないといけないかもしれないな」

「手を貸す?」

「ああ。ロケット団のせいで、いかりまんじゅうの店は臨時休業中だからね」

「えっ!」

「君の実力は先ほど見させてもらった。ロケット団流の戦い方には慣れる必要があるけれど……」

 

 と、ワタルは何かを含んでいる微笑を浮かべた。

 

「観光に来たつもりだったんだろうが、悪いね。今はとにかく手が足りなくて。手伝ってくれるだろう、ガラルのチャンピオン?」

「はい」

 

 マサルは即答した。

 

「はっきりした目的があって来たわけじゃないですし……僕が力になれるなら喜んでお手伝いします」

「心強いな。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

 ワタルとがっちり握手をする。その手のひらの硬さに、マサルはダンデを思い出した。

 ワカバタウンの中もかなり静かで、人の気配はまったく無かった。それがもともとこの町の性質なのか、襲撃を恐れて息を潜めているのか、マサルには分からなかった。

 

「さあ、着いた。ここがウツギ博士の研究所だ」

 

 温かな光を灯す家のインターフォンを押すと、中からパタパタと駆けてくる音がして、

 

「はいはいはいはい……あっ、やあ、ワタルくん!」

「こんばんは。お久しぶりです、ウツギ博士。夜分遅くにすみません」

「いやいやいやいや、いいんだよ! さぁ入って入って。あっ、君が噂のガラルチャンピオンくんだね?」

 

 ようきな性格で眼鏡をかけたリグレーみたいだなぁ、と思いながらぼんやりしていたマサルは、はたと我に返り慌てて帽子を取った。

 

「はじめまして。マサルです」

「マサルくんだね。よろしく! マグノリア博士から聞いているよ。すごい強いんだってねぇ。あと、なんだか不思議なものを持ってきた、って。あ、ごめんごめん、僕はウツギ。ここでポケモンの研究をしてるんだ。テーマは進化! ポケモンってすごいよねぇ。特に進化のメカニズムはまだ解明されていない部分がたくさんあって、研究しても研究しても終わりが見えないよ! ガラル地方のポケモンの中にも面白い進化をする子がたくさんいるよね、たとえばマホミル――」

「――博士」

「ああごめんごめん、つい熱が入っちゃって!」

 

 ワタルが咳払いをしたものだから、ウツギ博士はぱたりと口を閉じた。

 それから改めて二人を招き入れ、しっかりと鍵をかけた。

 

「ごめんねぇ、最近物騒なものだから。こんな状況じゃなければ、ジョウトのあちこちを案内してあげたいところだったんだけど。あっ、ヨシノシティはどうだった? 大丈夫だった?」

「被害は最小限に抑えられましたよ。マサルくんのおかげでね」

「おお、さっすがチャンピオン!」

 

 真っ直ぐに褒められて、マサルは照れくさくなった。

 研究所の回復装置でポケモンたちを休ませながら、勧められるまま夕食をご馳走になる。その間、ウツギ博士はマサルが出したきんのはっぱとぎんのはっぱをしげしげと眺めては書架に行ったり、パソコンを叩いたり、あれこれわたわたと走り回っていた。

 大きな尻尾の上に体を乗せて、跳ねるように移動していたポケモンが、器用にお茶を運んできた。

 

「わあ、ありがとう」

 

 マサルはお茶を受け取って、そのポケモンを撫でた。

 

「知らないポケモンくんだ。ノーマルっぽい顔してるねぇ。性格はひかえめかな?」

「それはオタチというんだよ」

「オタチ。尾っぽで立つから? あはは安直。分かりやすくていいね。よーしよしよし」

 

 短いけれど柔らかい毛に手をうずめて、もふもふもふと撫でまわす。オタチは気持ちよさそうに尻尾の上で体を揺らして、マサルの膝にすり寄った。

 

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