ナックルスタジアムの屋上でスマホを眺めながら、キバナは呻いた。
「まぁ……っじで、ワタルさんは天才だな」
早朝のネットニュース。更新されたばかりの速報記事には『ガラルのチャンピオン、ボランティアとして参戦』という見出しが躍っていた。記事の中では、ワタルがダンデに救援を求めて、ちょうどオフシーズン中で手の空いていたマサルが自分から意思表明しジョウトに行った、ということになっている。
「昨日の今日でこの対応か……スゲーや、うん」
これでマサルがロケット団と戦う羽目になることは確定したが、どうせ彼のことだ、放っておいても勝手に巻き込まれて戦っていたに決まっている。
(お人好しじゃねぇけど、黙って傍観するようなやつでもねぇからな。――そもそも
それならこうして堂々と名乗り出ておいた方が何かと都合がいい。
(上手くやりゃマサルの株も上がるし……SNSに目撃情報も上がりやすくなって、こっちもアイツの消息を把握しやすくなった。これで少しはダンデの心労も和らぐ――と、いいんだけどなぁ)
昨晩ダンデからの電話で聞いた話では、さっそくロケット団の襲撃に巻き込まれたマサルがどくばりをくらって負傷したという。
重たい溜め息を漏らす。
(マサルは強いけど、“お行儀のいいバトル”しか知らねぇからなぁ。ルール無用のロケット団の相手はキッツイだろうな)
無論、ガラルでだって野生のポケモンを相手にすれば、トレーナーが負傷することもある。だが、バトル中に故意に狙われて技を受けることは、たとえ野良試合であってもありえない。マサルには想像すらできない世界がそこにはあって、きっと今頃戸惑っていることだろう。
「あのお騒がせ野郎め。ダンデだけじゃなくてマグノリア博士まで心配して、こっちに連絡よこしたっていうのによ」
自分が心配とか迷惑とかを掛けていることを、理解できないほど馬鹿ではないはず。
ただ、それらを受け止める度量だとか、全部ひっくるめて抱き締めるような強さがまだないだけで。
キバナは大きく伸びをして、東の空を眺めた。
そして、ゴウと吹き付けた冷たい風に嵐のにおいが混ざっているのを感じ取って眉を顰める。職業病のようなもので、天候には敏感なのだ。
「……ヤな感じがするぜ。これは砂嵐になるな」
こういう日はワイルドエリアでの遭難者が増えるのだ。そのことを予測したキバナは、小走りにジムの中へ戻っていった。