マサル、ジョウトへ行くってよ。   作:井ノ下功

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閑話:つめとぎ

 ロケット団が拠点にしているビルの最上階に、明かりが灯っていた。

 大きなパソコンの前に男が一人座っている。

 神経質に固められたオールバックの髪と、青い血管が浮かんでいる病的な肌以外は真っ黒だ。下っぱとさして変わらないデザインの黒い服。

 

 だが、彼こそが現在のロケット団のボスを務めている男――カルムだ。

 

 カルムはロトムドローンを飛ばしておいた自分の入念さに感謝をした。科学の力はすごいものだ。こんなに遠く離れていても、夜であろうと、相手の顔から手元からバッグの中身(・・・・・・)まで、ハッキリ鮮明に見えるのだから。

 

「見つけた……きんのはっぱ! ぎんのはっぱ!」

 

 画面にかじりつく。

 

「しかも持ち主はガラルのチャンピオン……ふっ、ははっ、あははははははっ! 皮肉なものだな! 神様のイタズラか?! だとしたら最高のイタズラだ! ――私が世界のチャンピオンとなる最後の戦いに、これほど相応しい相手はいない!」

 

 デスクの上を引っ掻き回し、一冊のファイルを手に取った。

 

「ガラル出身、マサル、現在十一歳。手持ちはインテレオン、カビゴン、ニンフィア、フライゴン、リザードン、ウーラオス――先鋒はカビゴンにしがち、だがウーラオスが入ったからここは変わるかもしれないな――こうげきの高いポケモンが多い短期決戦型――」

 

 パソコンを操作する。開いたプレイリストには、ガラルのリーグ戦やバトルタワー戦の動画がずらりと並んでいた。一番古いものは十年前から、ついさっき配信されたばかりのエキシビション・ダンデ対キバナ戦まで。

 憎たらしい相手が僅差で負けた戦いのサムネイルを見て、ニヤリと口角を上げる。

 

「あれから十年も経っているのに、まだアイツは負け続けて……成長のない男だ」

 

 カルムは鼻で笑った。

 

(それに対して、私はどうだ? ――対策は万全だ。あれからずっと戦い続けてきた。今の私が、負けるはずがない!)

 

 一週間前に配信されたダンデ対マサルのバトルタワー戦を再生する。腑抜けた顔で自分の弱点やクセをべらべらとしゃべる幼い少年。

 ――その姿に、かつて自分を負かした相手の姿が重なって見えた。

 十近く年下の少年に大観衆の前で負かされて、苦汁をなめた記憶がフラッシュバックする。

 

(年下に負ける気分が分かったか? キバナ――挙句の果てに、最大のライバルすら倒されて。よくもへらへらと笑っていられるものだ……)

 

 苛立ちの余り無意識のうちに爪を噛んでいた。

 

(……二度と、二度とこんなガキに負けてなるものか……っ!)

 

 凶悪な光で目をぎらつかせるカルムに、相棒のキュウコンがそっと寄り添った。

 パソコンの中のライブ映像は、ワタルと合流したマサルが歩き出したところだった。

 

(あの方角は――ワカバタウンか。ということは)

 

 カルムはキュウコンの頭を撫でながら、スマホを取った。

 

「――ああ、ご苦労だったな。――次の襲撃先を指示する。ワカバタウン、ウツギ研究所だ。準備が出来次第、襲い尽くせ!」

 

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