轟音と振動。
「っ、な、なんだ?!」
マサルは飛び起きると慌てて部屋を出た。
「博士! ワタルさん――っ?!」
研究室に飛び込んだ瞬間、薄いピンク色の煙に視界が覆われた。
(これ……マタドガスのガスだ!)
煙の向こうからはバトルの音と、誰かの怒鳴り声のようなものが聞こえてくる。が、すごく遠くのことのようにくぐもっていて、よく聞き取れなかった。
マサルはガスを吸い込んでしまわないように腕で口を覆いながら、研究室の中に踏み込んだ。
(みんなは……確か、こっちの方……いた!)
回復装置にセットされたままになっていたマサルの手持ちたちは、戦闘の気配を鋭敏に察知して、ボールの内側をカタカタと叩いていた。みんなすっかり元気になっている。
(よし、僕も行かなきゃ!)
マサルはベルトにボールをセットしながら、一つを放り投げた。
「リザードン! 吹き飛ばせ!」
軽く吠えたリザードンが翼を打って、風を巻き起こした。バタバタバタ、と資料が舞い上がる音と一緒に、ガスがみるみるうちに晴れていく。
あっと言う間に視界はクリアになった。
と、
「ウツギ博士!」
博士が床に倒れているのが目に入って、マサルは駆け寄った。
「大丈夫ですか、博士!」
「う……」
小さな呻き声を上げて、博士はうっすらと目を開けた。腕から血が流れている。マサルは咄嗟に辺りを見回して、落ちていたタオルを拾うと傷に押し付けた。
「博士、僕どうすればいいですか? あ、ロトム! heyロトム、病院に連絡して!」
明るい声が『了解ロト~』と応えて、カバンのポケットからふわりと出てきた。
「ま、マサル、くん……」
か細い声で呼びかけられて、マサルはパッと耳を寄せた。
「悪いん――けど……今すぐ、うずまき島、か……――う、に――ってほしい……」
「うずまき島?」
ガスを吸い込んだせいでひどく掠れていた声を、どうにか聞き取る。
博士はかすかに頷いた。
「ルギ――ウオウが、降り立つ――て言われ……――で、ワタルくんが、押さえて――から……君――って、知られる、前に……――」
「わかりました!」
ロトムが繋いだ先に簡単に状況を伝え、よたよたと駆け寄ってきたオタチにきずぐすりとタオルを渡す。
「オタチ、博士をよろしく」
「きゅい!」
「行こう、リザードン!」
「ぎゅあっ!」
マサルは裏手の窓から外に飛び出すと、リザードンの背に飛び乗った。
「heyロトム、うずまき島までナビゲート開始!」
『了解ロト!』
「リザードン、しばらくは低空飛行でよろしく。ばれないように気を付けていこう!」
「ばぎゅあ!」
力強く返事をして、リザードンは体勢を低くしたまま一気にスピードを上げた。
†
眼下の海には大きな渦潮が発生していた。そのすぐ隣に大きな島がある。
『目的地周辺に到着したロト! ナビを終了するロト~!』
スマホロトムがするりとカバンに潜りこむ。
「ここが、うずまき島――」
それは岩山のような島で、人が住む場所ではないと一目で分かった。ぐるりと周囲を回ると、山の側面に一ヶ所だけ穴が開いていた。それは洞窟のように島の内部に続いている。
マサルはリザードンに乗ったままその中に飛び込んだ。
(おわ、見たことないポケモンがいっぱいだ!)
状況が状況でなければ一通り捕まえておきたいところだった。
(ダメダメ、今は急いで、ルギアかホウオウか分からないけど、ここにいるっていうどっちかを確保しないと!)
マサルは頭を振って進行方向を睨みつけた。
(僕はガラルのチャンピオンなんだから――誰にも心配されないように、しっかりやらなきゃ! 大丈夫、僕は一人でもやれる! 心配なんかいらないってところを見せるんだ!)
リザードンの首をぎゅっと抱きしめる。リザードンはマサルに応えるように、さらにスピードを上げて深層を目指した。
島の最深部には、透き通った湖が広がっていた。神秘的な色を湛える、美しい湖。
マサルはリザードンから降りて、湖のへりに立った。
「ここ、かな……」
マサルはある種の確信をもって呟いた。大きく深呼吸をする。まどろみの森の最奥部の空気と似た味がした。
カバンのジッパーを開ける。
「お」
ぎんのはっぱが光を放っていた。蛍光灯の下でないからよく分かる。
(やっぱりここだ! 間違いない!)
マサルはぎんのはっぱを取り出し、湖の上にそっと浮かべた。
「っ!」
咄嗟に帽子を押さえる。どこからともなく強い風が吹いたのだ。
湖が渦を巻いた。ぎんのはっぱは光を強めながら、くるくると回って沈んでいく。
底が見えるほど強く、強く渦を巻いて――
「――カッコイイ……!」
湖の中から現れた大きなポケモンに、マサルは思わず目を奪われた。
伝説のポケモン、深海を統べる神――ルギアが、マサルを見据えて大きく吠えた。