マサル、ジョウトへ行くってよ。   作:井ノ下功

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うずしお−1

 轟音と振動。

 

「っ、な、なんだ?!」

 

 マサルは飛び起きると慌てて部屋を出た。

 

「博士! ワタルさん――っ?!」

 

 研究室に飛び込んだ瞬間、薄いピンク色の煙に視界が覆われた。

 

(これ……マタドガスのガスだ!)

 

 煙の向こうからはバトルの音と、誰かの怒鳴り声のようなものが聞こえてくる。が、すごく遠くのことのようにくぐもっていて、よく聞き取れなかった。

 マサルはガスを吸い込んでしまわないように腕で口を覆いながら、研究室の中に踏み込んだ。

 

(みんなは……確か、こっちの方……いた!)

 

 回復装置にセットされたままになっていたマサルの手持ちたちは、戦闘の気配を鋭敏に察知して、ボールの内側をカタカタと叩いていた。みんなすっかり元気になっている。

 

(よし、僕も行かなきゃ!)

 

 マサルはベルトにボールをセットしながら、一つを放り投げた。

 

「リザードン! 吹き飛ばせ!」

 

 軽く吠えたリザードンが翼を打って、風を巻き起こした。バタバタバタ、と資料が舞い上がる音と一緒に、ガスがみるみるうちに晴れていく。

 あっと言う間に視界はクリアになった。

 と、

 

「ウツギ博士!」

 

 博士が床に倒れているのが目に入って、マサルは駆け寄った。

 

「大丈夫ですか、博士!」

「う……」

 

 小さな呻き声を上げて、博士はうっすらと目を開けた。腕から血が流れている。マサルは咄嗟に辺りを見回して、落ちていたタオルを拾うと傷に押し付けた。

 

「博士、僕どうすればいいですか? あ、ロトム! heyロトム、病院に連絡して!」

 

 明るい声が『了解ロト~』と応えて、カバンのポケットからふわりと出てきた。

 

「ま、マサル、くん……」

 

 か細い声で呼びかけられて、マサルはパッと耳を寄せた。

 

「悪いん――けど……今すぐ、うずまき島、か……――う、に――ってほしい……」

「うずまき島?」

 

 ガスを吸い込んだせいでひどく掠れていた声を、どうにか聞き取る。

 博士はかすかに頷いた。

 

「ルギ――ウオウが、降り立つ――て言われ……――で、ワタルくんが、押さえて――から……君――って、知られる、前に……――」

「わかりました!」

 

 ロトムが繋いだ先に簡単に状況を伝え、よたよたと駆け寄ってきたオタチにきずぐすりとタオルを渡す。

 

「オタチ、博士をよろしく」

「きゅい!」

「行こう、リザードン!」

「ぎゅあっ!」

 

 マサルは裏手の窓から外に飛び出すと、リザードンの背に飛び乗った。

 

「heyロトム、うずまき島までナビゲート開始!」

『了解ロト!』

「リザードン、しばらくは低空飛行でよろしく。ばれないように気を付けていこう!」

「ばぎゅあ!」

 

 力強く返事をして、リザードンは体勢を低くしたまま一気にスピードを上げた。

 

 †

 

 眼下の海には大きな渦潮が発生していた。そのすぐ隣に大きな島がある。

 

『目的地周辺に到着したロト! ナビを終了するロト~!』

 

 スマホロトムがするりとカバンに潜りこむ。

 

「ここが、うずまき島――」

 

 それは岩山のような島で、人が住む場所ではないと一目で分かった。ぐるりと周囲を回ると、山の側面に一ヶ所だけ穴が開いていた。それは洞窟のように島の内部に続いている。

 マサルはリザードンに乗ったままその中に飛び込んだ。

 

(おわ、見たことないポケモンがいっぱいだ!)

 

 状況が状況でなければ一通り捕まえておきたいところだった。

 

(ダメダメ、今は急いで、ルギアかホウオウか分からないけど、ここにいるっていうどっちかを確保しないと!)

 

 マサルは頭を振って進行方向を睨みつけた。

 

(僕はガラルのチャンピオンなんだから――誰にも心配されないように、しっかりやらなきゃ! 大丈夫、僕は一人でもやれる! 心配なんかいらないってところを見せるんだ!)

 

 リザードンの首をぎゅっと抱きしめる。リザードンはマサルに応えるように、さらにスピードを上げて深層を目指した。

 

 島の最深部には、透き通った湖が広がっていた。神秘的な色を湛える、美しい湖。

 マサルはリザードンから降りて、湖のへりに立った。

 

「ここ、かな……」

 

 マサルはある種の確信をもって呟いた。大きく深呼吸をする。まどろみの森の最奥部の空気と似た味がした。

 カバンのジッパーを開ける。

 

「お」

 

 ぎんのはっぱが光を放っていた。蛍光灯の下でないからよく分かる。

 

(やっぱりここだ! 間違いない!)

 

 マサルはぎんのはっぱを取り出し、湖の上にそっと浮かべた。

 

「っ!」

 

 咄嗟に帽子を押さえる。どこからともなく強い風が吹いたのだ。

 湖が渦を巻いた。ぎんのはっぱは光を強めながら、くるくると回って沈んでいく。

 底が見えるほど強く、強く渦を巻いて――

 

「――カッコイイ……!」

 

 湖の中から現れた大きなポケモンに、マサルは思わず目を奪われた。

 

 伝説のポケモン、深海を統べる神――ルギアが、マサルを見据えて大きく吠えた。

 

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