マサル、ジョウトへ行くってよ。   作:井ノ下功

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バークアウト-2

(どうしよう……僕、どうすればいい……?)

 

 息が浅く、荒くなる。

 だが、カルムは容赦などしなかった。

 

「早く出したまえ。でないと――こおりのつぶて!」

「うわっ!」

 

 氷の塊がマサルめがけて発射された。だが、

 

「ばぎゅあっ!」

「うぉれおぉっ!」

「リザードン?! インテレオン?!」

 

 勝手にボールから飛び出してきた二体が、それらを打ち払い、尻餅をついたマサルの前に立ちはだかった。

 

(怒ってる……)

 

 怒った顔のまま二匹はマサルに向かって頷くようにした。

 マサルはそれを見てすぐに立ち上がった。

 

(そうだ、僕が先に折れちゃいけない!)

 

 自分を奮い立たせる。負けるわけにはいかないのだ。

 

「リザードン、ほのおのキバ! インテレオン、ねっとう!」

 

 狙いはパッチルドンだ。マサルの指示を正確に受け取って、二匹は同時に技を放った。

 が、

 

「バリコオル、サイドチェンジ!」

「っ!」

 

 それは立ち位置を入れ替えるための技だった。狙われていたパッチルドンがバリコオルに変わって、身代わりになる。

 ほのおのキバの直撃を受けてバリコオルは沈んだ。しかし、

 

「パッチルドン、こごえるかぜ!」

 

 吹き抜けた冷たい風に、二匹が身震いした。動きがわずかに遅くなる。

 

(すばやさが下がった――マズい!)

 

「でんげきくちばし!」

「っ、リザードン!」

 

 リザードンの巨体が吹き飛ばされて、洞窟の壁に激突した。マサルがそちらに目をやった、その隙にすかさず次の攻撃が飛んでくる。

 

「フリーズドライ!」

「しまっ――」

 

 みずタイプに対してこうかばつぐんになるこおり技。マサルは血の気が引いていくのを感じた。

 

「インテレオン!」

「ぅ……うぉれおんっ!」

 

 普段温厚なインテレオンが雄たけびを上げて、その場に踏みとどまった。まるでマサルを悲しませまいとするかのように。

 マサルは奥歯を強く噛んだ。

 

(負けない……負けたくない!)

 

 久々に心の底からそう思った。バトルの時はいつだって負けたくないのだが、これほど“負けてはならない”と思ったのはムゲンダイナ戦以来だった。

 

(僕がここで負けたら、きっと、ひどいことになる……っ!)

 

 だから折れない。折れることは出来ない。

 少なくとも、自分のために立ってくれるポケモンがいる限りは。

 

「インテレオン、ねっとう!」

 

 煮えたぎる激流があられを溶かしながらパッチルドンを押し流した。

 カルムの足元に転がって、やけどの痛みにのたうつパッチルドン。

 

「畳みかけるぞ。ねらいうち――」

 

 ――不意に、カルムがマサルの背後を指差した。

 

「ふぶき」

「っ?!」

 

 パッと振り返る。と、そこに真っ白いキュウコンが現れた。あられの中から今まさに生まれたかのように見えたのは、特性・ゆきがくれのせいだろう。

 

「うわあああっ!」

 

 豪風に吹き飛ばされ、マサルは冷たい地面に背中から倒れた。

 

「……う、……っ」

 

 一瞬暗転した意識を引き戻してのろのろと頭を廻らせると、今の技で最後の一ポイントを削られたインテレオンが力なく倒れているのが見えた。

 もう戦えるポケモンはいない。マサル自身も立ち上がれない。

 

(……負け、た……)

 

 事実を認めた瞬間、全身から力が抜けた。もう指一本も動かせそうにない。途端に傷が痛み出した。裂傷だけではなく打撲も何ヵ所もあるだろう。ぐらぐらと視界が揺れるのは貧血だろうか、それとも負けたショックだろうか――

 

「んぐっ」

 

 胸元を踏まれて目を開けた。スマホのレンズがこちらを向いている。

 

「さぁチャンピオン、インタビューといこう。――負けた気分はいかがかな?」

 

 負けた気分? そんなのいつだって同じだ。野良試合だろうがハンデ付きだろうが、こんなルール無用の乱闘だろうが全部一緒。勝ったら嬉しい、負けたら――

 

「……悔しいです」

 

 マサルの静かな声が気に障ったようで、カルムは鼻の横を引き攣らせた。

 

「それだけかね?」

「もっと強くなれる余地がある、って分かりました」

 

 マサルはインタビューの定型文をなぞった。テンプレではあるが本心でもある。負けるということは別の方向に勝ち筋があるということだ。自分がまだ知らない戦略が。

 そんなことより、マサルは気になってしまって仕方がなかった。

 

「あの、あなたはどうしてそんなに強いのに、ロケット団を組織して悪いことをしているんですか? どうしてトレーナーじゃないんですか? あなたならきっと、ルールを守っても――うっ、ぐっ……!」

 

 胸を強く踏まれて、マサルは呻き声を上げた。

 カルムが鬼の形相になって睨みつけてくる。

 

「貴様に何が分かる? 貴様のような能天気なガキに――何が分かるというんだ?」

「っ、あ……」

「強くなれる余地? そんなものありはしない。都合のいい夢を見るな。いいか、ここがお前の限界だ。この先は無い。勝負に負けるとはそういうことだ」

「っ……そんな、こと……ないっ……」

 

 マサルは力を振り絞り、まだ動く左手でカルムの足を掴んだ。

 

(負けたらそれでおしまい? そこが限界? そんなことあるもんか! だってそうだとしたら――ホップは――キバナさんは――ダンデさんはどうなる?)

 

 時々は足を止めるかもしれない。

 大きな壁にぶつかったりもする。

 行先を見失うこともあるだろう。

 けれど、決して引き返すことなく、その先を求める人たちを。

 

(僕は一番近くで見てきたんだから!)

 

 カルムの言葉を受け入れるわけにはいかなかった。

 

「僕の知ってる強さは……負けても折れない強さだ……っ! 何度目の前が真っ暗になっても、次の道を探し出そうとする強さだ! そういう強い人たちを僕はたくさん知ってる! っ……僕も、そうありたい……だから……だから、“次は負けない”!」

 

 カルムは醜悪に顔を歪めた。ぎり、と歯ぎしりするのが聞こえ、

 

「――次など無い! ここでお前は終わりだ!」

「っ!」

 

 手を蹴飛ばされた。胸ぐらを掴まれて持ち上げられる。抵抗するような力は残っていない。

 そのままマサルは湖に落とされ――

 

「キュウコン、ぜったいれいど」

 

 ――めのまえがまっくらになった――

 

 










人は氷漬けになっても生きていられるのか?
――答えはポケスペを見よ!!

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