リザードンはフライゴンのように器用でなく、風雨に真正面からぶつかっていった。一直線にうずまき島へ向かって滑空する。背に乗っているネズのことなど忘れているに違いない。ネズは振り落とされまいと必死にしがみついた。
ルギアによって開けられた大穴から中に入る。
風はようやく遮られたが、まだ気は抜けない。吹き込んでくる雨は相変わらず痛いぐらい強く当たってくるし、リザードンが全力で翼を打っているのだ。
(俺はダンデほどゴリラじゃねーんです、よ……っ!)
腕の力がそろそろ限界だ。だが限界だからと気を抜いたら、一瞬で投げ出されるだろう。そうしたら間違いなくお陀仏だ。
(早く着いてくれ!)
ネズの祈りに応えたわけではないだろうが、リザードンはばさりと翼を打って、スピードを緩めた。
着地。
ネズは半ばずり落ちるようにして地面に降りた。
「ここ、ですか……」
膝が笑っているのを意地で押えつける。ほう、と吐いた息が白く凍った。気温がかなり下がっているらしく、雨が凍ってみぞれのようになっていた。濡れた服が一気に冷えて、思わず身震いする。
すぐ目の前に凍った湖があって――
「っ……」
――その中に、マサルの姿があった。
(リアルで見た方がキッツいな)
内臓がひっくり返るような感覚がして目を逸らした。怒りや吐き気、というよりは、恨みとか憎悪に近い感情が胸の中に渦巻く。思わず舌打ち、それから貧乏ゆすり。
唐突にリザードンが吠えて、炎の塊を吐き出した。
「おわっ」
猛火。業火。すさまじい熱量の炎が放出されて、ネズは飛び退いた。
だが、天候が邪魔をするのか、湖は溶けたそばからまた凍っていってしまう。
「ちょいちょい、んな考えなしに撃ったら、ぶっ倒れますよ……」
恐る恐るかけたネズの言葉など、リザードンには届かなかった。
(チッ、おやに似て強情な野郎ですね)
こういう奴は放っておくに限る、とネズは判断して、辺りを見回した。
マサルのポケモンたちがあちこちに倒れている。みんな戦闘不能の状態のようだった。
(ボールに戻す余裕すらなかったってわけですか。ったく……――ん?)
何かきらりと光るものが目に入った。
のそのそと近付いてみる。
(なんだ、マサルのカバンか。きったな。もうちょい整理しやがれってんですよ、俺でももう少し……何だこの――葉っぱ? 光ってやがる)
謎の葉っぱが金色の光を放っていた。
(それにこの――なんでコイツ、こんなに大量に持ってやがんですかね――ねがいのかたまり。これもなんか、光って……)
不審に思ったネズが、きんのはっぱとねがいのかたまりをカバンから出した。
瞬間。
「おわっ!」
ねがいのかたまりが弾け飛び、きんのはっぱが煌々と輝きながら浮かび上がった。
「な、なんっ……なんが起きると?!」
動揺したネズの大声に、というよりは、その葉っぱの光の威容に驚いたようで、リザードンも動きを止めた。
葉っぱはまるで意志を持ったポケモンのようにスゥーっと宙を滑っていき、湖の上――マサルのいる辺りの上で、ピタリと止まった。
光がどんどん強まっていく。
(やべぇかなコレ……でもどうしようもねぇよな! っとに、トラブルばっか起こしてくれやがって!)
金色の光に視界を塗り潰されて――
「――!」
初めて聞くポケモンの声がした。
まだチカチカと点滅している視界を、瞬きを繰り返してどうにか正常に戻す。
見えた瞬間、ネズは息を呑んだ。
「っ――……う、美しか……」
その大きな鳥ポケモンは、虹色の光沢を放つ美しい朱色の体をしていた。金色の尾と
天空を翔る虹色ポケモン――ホウオウ。
呆然と見上げるネズの前で、ホウオウは大きく口を開けた。白に近い炎の塊が発生し、湖目がけて撃ちだされる。
「うおっ!」
あまりにも高温だったためか、ただ溶かしただけでなく蒸発までさせた。水蒸気がぶわりと舞い上がってネズの視界を覆った。
咄嗟に顔をガードした腕を下ろす。と、
「マサル!」
溶けた水の中にぷかりとマサルが浮かんでいた。
「タチフサグマ! お
勢いよく飛び込んだタチフサグマが、マサルを湖から引き上げる。
陸地に転がすと、すぐにリザードンが寄ってきた。自分から熱が出ていることを理解している彼は、余計な炎を出すことなく黙ってマサルに首をこすりつけた。
ネズは真っ先に息を確認した。
(――……生きて、ますね。ハァ……良かった……)
怪我はひどいものの、とりあえず死んではいなかった。
ネズはべたりと座り込んで、前髪をかき上げた。雨に濡れそぼっていたはずの髪は、さっきの炎の余波を受けてすっかり乾ききっていた。さっきまで全身にまとわりついていた嫌な汗も引いている。
「マサル、しっかりすんですよ。すぐ病院に――」
「う……」
小さく呻いて、マサルが目を開けた。