マサル、ジョウトへ行くってよ。   作:井ノ下功

23 / 25
せいなるほのお-2

 ホウオウの首にしがみついて、風を切る音を全身で聞く。吹き付ける強風に耐えながら目を開けると、ホウオウのいる辺りは青空が広がっていたが、海岸線は雨模様だった。

 ホウオウはまっすぐそちらに向かった。嵐と晴天がしのぎを削り、やけに強い天気雨になった。

 

(あっちにルギアがいるんだね)

 

 目指す方角に目を凝らす。

 ルギアの巨体はすぐに確認できた。足元を気にしているような様子だった。

 

(あれは……すなあらし?)

 

 嵐の一角に、明らかに違うものが交ざっていた。天地を貫く砂の竜巻。

 それが唐突に消えて、代わりに日差しが強くなった。

 すなあらし。ひでり。

 

「キバナさんだ!」

 

 言った瞬間、巨大な炎が噴き上がった。

 烈火が空を赤々と染め上げる。遠目に見ても分かるほどすさまじい威力。熱がここまで届きそうなぐらいだった。

 

「うっ、はっ……すげ……!」

 

 圧倒されたマサルが感嘆の息を漏らした。

 その時。

 不意にルギアが翼を打ち、嵐の勢力が強まった。攻撃の体勢に入っている。雨と風が彼の口元に集まるのが見えた。

 

(マズい、間違いなく強いやつだ!)

 

「ホウオウ!」

 

 マサルの声に従って、ホウオウがスピードを上げた。

 ルギアの前に滑りこみ、くちばしを大きく開く。

 

 ――っ!!

 

 嵐と業火が激突した。

 

「うっ……!」

 

 技の衝撃に危うく吹き飛ばされそうになったのを、ぎりぎりのところでこらえる。

 今、ルギアは完全にホウオウを敵視していた。

 

「ルギアを鎮めよう。ホウオウ! 回り込んで!」

 

 左へ旋回。

 

(ハイドロポンプが来る!)

 

 マサルはじっとルギアを見つめた。放たれる瞬間を見極める。気分は“みきり”だ。もちろんマサルにそんな技は使えないが、二度も見たのだから大体のタイミングは掴んでいる。

 あとは集中力と勘!

 

「――今だ。ホウオウ!」

 

 ぽんっ、と叩いたのに合わせて、ホウオウはすっと体を沈めた。

 瞬間、放たれた激流がマサルの頭上をすれすれに掠め飛んでいった。

 

(あっぶな! でも――!)

 

 隙が生まれる。

 

「突っ込め!」

 

 技の直後で固まっていたルギアに、ホウオウが突っ込んだ。鋭いかぎづめのついた足で翼の付け根を掴み、押し倒す。

 ズンッ

 二つの巨体が砂浜に落ちた。

 

「おわっ!」

 

 ついに耐え切れなくなってマサルは宙に放り出された。

 

(やっばい死ぬ!)

 

「マサル!」

 

 リザードンが急旋回してマサルの下に回り込み、ネズが受け止めた。

 

「あっぶねぇ」

「ひぇ……助かりました、ネズさん、リザードン……」

 

 そのまま砂浜に――カルムの目の前に降りる。

 カルムは膝をついたまま、マサルを睨み上げた。

 

「貴様……敗者のくせに、私の前に立つな……!」

「ルギアを放してください」

「私が捕まえたポケモンだ! 貴様が口出しできると思うなよ、小僧!」

 

 吠えたカルムに寄り添って、キュウコンが唸り声を上げる。

 

「貴様らの言うことなど誰が聞くか! 私の戦う場はここだ、ルール無用の戦場だ! ――誰にも認めてもらえない土俵で独り相撲をする惨めさを、貴様らが理解できるわけがないだろう!」

「だからってこんなの間違ってる!」

「間違ってなどいない! ポケモンをルールの中に押し込んだ生ぬるい遊び(・・)で満足している貴様らからすれば異端だろうがな!」

「あっ……遊び……遊びなんかじゃない……!」

 

 言ってやりたいことが山ほどあったのに、どれも上手く喉から出てこなかった。だからマサルは感情のままに怒鳴った。

 

「遊びなんかじゃない! 馬鹿にするな!」

「黙れ、負け犬が吠えるな!」

「オーイ、ブーメランだぜソレ」

 

 キバナがひょいとマサルの頭に手を置いて、ニヤリとした。

 

「オレたちは敗者から言葉を奪わない。悔しいと泣くことも、次は勝つと吠えることも、全部認めて受け止めて、またいつでも挑みに来いって言うのさ。だからオレたちは戦い続けられるんだよ」

「……戯れ言を」

「わかんねぇからお前はそこにいんだろうな。まぁ、なんにせよお前はこれでお終いだ。ジュラルドン」

 

 顎先だけで与えられた指示を、ジュラルドンは正確に理解した。キュウコンを優しく押しのけて、カルムからモンスターボールを奪う。

 

「やめろっ!」

 

 それを思いきり踏みつぶした。

 ホウオウの足の下で暴れていたルギアがぴたりと止まった。解放されたのを感じ取ったように、ホウオウがそっと彼を放す。

 二羽のポケモンは砂浜の上に並んで立った。

 

 ――――――!

 

 神々しい声が蒼穹に響き渡った。

 そして二体は同時に飛び立った。ルギアはうずまき島の方へ。ホウオウは北側の空へ。

 飛び去った後の空に、大きな虹が架かっていた。

 

「良かった……これで……全部……――」

 

 安心が胸に広がった瞬間、マサルの瞼が急に重たくなった。目の前が真っ暗になる感覚は二度目だが、一回目のような不快感は無かった。両脇にいる大人二人が慌てた声を出すのを遠巻きに聞きながら、マサルは素直に意識を手放した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。