ホウオウの首にしがみついて、風を切る音を全身で聞く。吹き付ける強風に耐えながら目を開けると、ホウオウのいる辺りは青空が広がっていたが、海岸線は雨模様だった。
ホウオウはまっすぐそちらに向かった。嵐と晴天がしのぎを削り、やけに強い天気雨になった。
(あっちにルギアがいるんだね)
目指す方角に目を凝らす。
ルギアの巨体はすぐに確認できた。足元を気にしているような様子だった。
(あれは……すなあらし?)
嵐の一角に、明らかに違うものが交ざっていた。天地を貫く砂の竜巻。
それが唐突に消えて、代わりに日差しが強くなった。
すなあらし。ひでり。
「キバナさんだ!」
言った瞬間、巨大な炎が噴き上がった。
烈火が空を赤々と染め上げる。遠目に見ても分かるほどすさまじい威力。熱がここまで届きそうなぐらいだった。
「うっ、はっ……すげ……!」
圧倒されたマサルが感嘆の息を漏らした。
その時。
不意にルギアが翼を打ち、嵐の勢力が強まった。攻撃の体勢に入っている。雨と風が彼の口元に集まるのが見えた。
(マズい、間違いなく強いやつだ!)
「ホウオウ!」
マサルの声に従って、ホウオウがスピードを上げた。
ルギアの前に滑りこみ、くちばしを大きく開く。
――っ!!
嵐と業火が激突した。
「うっ……!」
技の衝撃に危うく吹き飛ばされそうになったのを、ぎりぎりのところでこらえる。
今、ルギアは完全にホウオウを敵視していた。
「ルギアを鎮めよう。ホウオウ! 回り込んで!」
左へ旋回。
(ハイドロポンプが来る!)
マサルはじっとルギアを見つめた。放たれる瞬間を見極める。気分は“みきり”だ。もちろんマサルにそんな技は使えないが、二度も見たのだから大体のタイミングは掴んでいる。
あとは集中力と勘!
「――今だ。ホウオウ!」
ぽんっ、と叩いたのに合わせて、ホウオウはすっと体を沈めた。
瞬間、放たれた激流がマサルの頭上をすれすれに掠め飛んでいった。
(あっぶな! でも――!)
隙が生まれる。
「突っ込め!」
技の直後で固まっていたルギアに、ホウオウが突っ込んだ。鋭いかぎづめのついた足で翼の付け根を掴み、押し倒す。
ズンッ
二つの巨体が砂浜に落ちた。
「おわっ!」
ついに耐え切れなくなってマサルは宙に放り出された。
(やっばい死ぬ!)
「マサル!」
リザードンが急旋回してマサルの下に回り込み、ネズが受け止めた。
「あっぶねぇ」
「ひぇ……助かりました、ネズさん、リザードン……」
そのまま砂浜に――カルムの目の前に降りる。
カルムは膝をついたまま、マサルを睨み上げた。
「貴様……敗者のくせに、私の前に立つな……!」
「ルギアを放してください」
「私が捕まえたポケモンだ! 貴様が口出しできると思うなよ、小僧!」
吠えたカルムに寄り添って、キュウコンが唸り声を上げる。
「貴様らの言うことなど誰が聞くか! 私の戦う場はここだ、ルール無用の戦場だ! ――誰にも認めてもらえない土俵で独り相撲をする惨めさを、貴様らが理解できるわけがないだろう!」
「だからってこんなの間違ってる!」
「間違ってなどいない! ポケモンをルールの中に押し込んだ生ぬるい
「あっ……遊び……遊びなんかじゃない……!」
言ってやりたいことが山ほどあったのに、どれも上手く喉から出てこなかった。だからマサルは感情のままに怒鳴った。
「遊びなんかじゃない! 馬鹿にするな!」
「黙れ、負け犬が吠えるな!」
「オーイ、ブーメランだぜソレ」
キバナがひょいとマサルの頭に手を置いて、ニヤリとした。
「オレたちは敗者から言葉を奪わない。悔しいと泣くことも、次は勝つと吠えることも、全部認めて受け止めて、またいつでも挑みに来いって言うのさ。だからオレたちは戦い続けられるんだよ」
「……戯れ言を」
「わかんねぇからお前はそこにいんだろうな。まぁ、なんにせよお前はこれでお終いだ。ジュラルドン」
顎先だけで与えられた指示を、ジュラルドンは正確に理解した。キュウコンを優しく押しのけて、カルムからモンスターボールを奪う。
「やめろっ!」
それを思いきり踏みつぶした。
ホウオウの足の下で暴れていたルギアがぴたりと止まった。解放されたのを感じ取ったように、ホウオウがそっと彼を放す。
二羽のポケモンは砂浜の上に並んで立った。
――――――!
神々しい声が蒼穹に響き渡った。
そして二体は同時に飛び立った。ルギアはうずまき島の方へ。ホウオウは北側の空へ。
飛び去った後の空に、大きな虹が架かっていた。
「良かった……これで……全部……――」
安心が胸に広がった瞬間、マサルの瞼が急に重たくなった。目の前が真っ暗になる感覚は二度目だが、一回目のような不快感は無かった。両脇にいる大人二人が慌てた声を出すのを遠巻きに聞きながら、マサルは素直に意識を手放した。