「カルムはアローラ地方の出身で、家庭の事情でガラルに引っ越してきたらしい」
と、キバナはワカバタウンへ向かう道すがら、スマホを片手に語った。
「で、二十歳くらい――今からざっと十年くらい前だな。ガラルのジムチャレンジに参加した。そのセミファイナルトーナメントの一回戦でオレさまにぼろ負けして挫折。
野生のオタチが草むらから飛び出してきて、ゆっくり歩いていく三人の脇をぴょんぴょんと跳ねていった。
「それじゃあ、キバナさんはカルムさんのことを知ってたんですか」
「アローラキュウコン見て思い出した」
「珍しいですもんね」
「相性最悪だしな。すっげー手こずらされたの、よく覚えてるぜ」
ポッポの群れがやかましく鳴きながら頭上を通っていった。それを目で追って、キバナは小さな声で続けた。
「――負けて嫌になる気持ちは分からなくもないけどな」
万感の思いが込められているような声音だった。
思わず黙ってしまったマサルの代わりに、ネズがさらりと言った。
「ライバルに恵まれて良かったですね」
キバナが上を向いてしまうとその表情は誰にも窺えない――神様以外。
けれど、
「まぁな」
と軽く答えた声は、なんだか笑っているように聞こえたのだった。
†
半壊した研究所はあらかた片付けられていて、あとは工事の手が入ればすべて済むという具合になっていた。
ウツギ博士はマサルの無事を泣いて喜んで、キバナにもネズにもハグをして礼を言った。
それからようやく落ち着くと、三人のためにお茶を入れてくれた。
「マグノリア博士とも連絡を取って、いろいろ話したんだけどね」
とウツギ博士は言った。
屋根が半ば落ちたせいで、朝の陽ざしがテーブルに降り注いでいる。これもなんだか悪くはないでしょ、なんて思っているような顔で、オタチがマサルの足にすり寄った。
「君が持っていた“ねがいのかたまり”というやつは、巣穴の中にダイマックスポケモンを無差別に呼び寄せるためのものなんだってね?」
「はい、そうです」
「おそらく、だけど、うずまき島はルギアの巣穴と呼べる場所でしょう? そこにねがいのかたまりが干渉して、さらにきんのはっぱがホウオウとの縁を結んで、それでホウオウが来てくれたんじゃないか……なんて思っているんだ」
「なるほど」
本当ならホウオウはスズの塔の上空を住処としていて、塔の最上階でしか会えないのだという。それを捻じ曲げてうずまき島に降り立たせたのだから、きっとねがいのかたまりの力が干渉したのだろう、という話だった。
ホウオウが来てくれなかったらあの場で死んでいたかもしれない。そう思うとマサルはぞっとした。
「それで、君たちはすぐに帰っちゃうの?」
「いえ、せっかくなんで、ジョウトを一周してから帰ろうと思ってます」
キバナさんが朗々と答えた。
するとウツギ博士はにっこり笑って、
「そっか! やっぱワタルくんの言った通りだったね! それじゃあこれを!」
「……手紙?」
「ワタルくんから、君たち三人宛さ」
三人はちょっと互いの顔を見合った。
マサルが代表して封筒を開けた。キバナは座ったまま、ネズは立ち上がって、マサルの手元を覗き込んだ。
『マサルくん、キバナくん、ネズくん
本当は直接言うべきだったのだが、事後処理に追われていて、このような形になってしまったことを許してほしい。
この度はジョウトの事件解決に協力してくれてありがとう。君たちがいなかったらどうなっていたか分からない。心から感謝するよ。
何かお礼を、と思ったのだが、君たちが一番喜ぶものが分からなくてね。
もししばらくジョウトにとどまるようだったら、ぜひ各町のジムリーダーたちのところへ行ってみてほしい。君たちの強さに彼らも興味を示しているし、ジョウトの恩人をエスコートしたいという気持ちもある。バトルでもガイドでも喜んで引き受けてくれるだろう。
フスベシティに行く前にはおれに連絡を入れてほしい。ぜひ相手になりたいのでね。
では、平和なジョウトを楽しんでいってくれ。
ワタル』
読み終えると、三人はにんまりとした笑顔を突き合わせた。
「道場破りコース確定じゃねぇかよ」
「ワタルさんのお墨付きなんだから、公式の練習試合っつってもいいだろ!」
「やりましたね! これで堂々と戦えますよ!」
「君のそーゆーところ、嫌いじゃねーです」
「スケジュール的に一週間がギリだから……ちょっと急いだ方がいいかもな」
「じゃあ早速行きましょう! ウツギ博士、ありがとうございました! また来ますね!」
「お世話になりました」
「ありがとうございました!」
バタバタと慌ただしく駆け出していった三人を、博士の「気を付けていってらっしゃい!」という声が見送ってくれた。
おしまい
これにて完結と相成ります。
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またどこかでお会いできることを祈っております。
それでは。
本当にありがとうございました。
井ノ下