マサル、ジョウトへ行くってよ。   作:井ノ下功

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インファイト−1

 一ヶ月後、ヨロイ島から戻ってきたその足で、マサルは即座にシュートシティへ降り立った。ブティックに寄ってから小走りにバトルタワーへ向かう。

 

「heyロトム、ダンデさんに電話して!」

『了解ロト~!』

 

 コール音が少しだけ。ダンデはすぐに応答した。

 

『もしもし』

「あっ、ダンデさん? ご無沙汰してます」

『久しぶりなんだぜ。ヨロイ島はどうだった?』

「その辺の話はまた後ほど。すぐ会いに行きますんで、ウォーミングアップしておいてください」

『お、あぁ、ん?』

 

 ダンデが困惑したような声を上げていたが、マサルは一方的に通話を切った。

 

(ヨロイ島での修行の成果を、っていうか一ヶ月もダンデさんと勝負してないとかもうマジで我慢ならないんだよなぁ!)

 

 バトルタワーへ飛び込む。「あっ、チャンピオンだ!」「チャンピオンがオーナーに挑みに来たぞ!」などと騒ぎ出した周りの人たちへ、ちょっとだけ手を振って応対して、カウンターに駆け寄る。

 

「シングルバトル、手持ちからこの三体で!」

「承知いたしました。では、こちらへどうぞ」

 

 慣れているスタッフは余計なことなど一切言わず、マサルをエレベーターへ案内した。

 バトルタワー、マスターボール級。

 

(よーっし、いくぞ!)

 

 マサルはバトルモードにスイッチを切り替えた。途端に表情が掻き消えることは、本人だけが知らないでいる。

 

 †

 

『キュウコン、ダウン。勝者、チャレンジャー・マサル』

 

 アナウンスが淡々と告げて、負けたトレーナーが去っていく。続けて勝負をしますか? という問いはもうされない領域にまで入っていた。やるに決まっているのだから。

 コート内に備え付けられている回復装置でポケモンたちを回復させながら、マサルは静かに待つ。

 

『バトルオーナー、ダンデとの勝負です。なお、このバトルの様子は録画され、バトルタワーチャンネルから配信されます。ご了承の上――』

 

 一方の壁が開き、ダンデが入ってきた。その瞬間、コート内の空気がピリッと張り詰めた。ゆったりとした王者の足取り。肩書が変わっても服装が変わっても、変わらないきんちょうかん――いや、プレッシャー。

 マサルと正対する位置について、ダンデはにっかりと笑った。

 

「やぁ、久しぶりだな、チャンピオン・マサル!」

 

 その言葉が単なるパフォーマンスでしかないことを、彼の金色の目ははっきりと告げていた。隠し切れていないぎらつきが、『早く勝負を始めたい』と吠えている。

 

「来てくれてありがとう。君とのタワーでの戦績は一勝二敗だ。そろそろドローにしたいところなんだぜ」

「……負けません」

 

 マサルは呟くように言った。ダンデとの久々のバトルが嬉しすぎて、へにゃりと緩みそうになった頬をぎゅっと引き締める。ボールをぐっと握る。バクバクと脈打つ心臓を右手で押さえつけ、背中の裏に回した左手でボールをぐっと握る。

 ダンデは口から下をキャップで隠した。それが素の(・・)表情を隠すための仕草であることをマサルは知っている。外した時にはいつもの爽やかな営業スマイルになっていた。

 

「それじゃあ始めようか! 今までで最高の試合をしよう!」

「はい。――行きます!」

 

 二人は同時にボールを投げた。

 

「いっておいで、ウーラオス!」

「いくぜ、ゲンガー!」

 

 ゲンガー。ゴースト・どく。すばやさやとくこうが高くてバトルタワーでも人気の一体だ。

 

(一撃で沈める――)

 

 対するこちらのウーラオス。ヨロイ島でマスタード師匠から貰ったダクマの進化形。いちげきのかたに育てたから、タイプはかくとうにあくがプラスされて、ゲンガーに対しては非常に有利だ。

 

「ウーラオス、あんこくきょうだ!」

 

 裂帛の気合とともに放たれた拳が、ゲンガーの急所に突き刺さった。必ず急所に当たる技の上、こうかはばつぐんだ。とても耐えられるものではないだろう。

 ゲンガーの体がぐらりと揺らぎ――

 

「ゲンガー、マジカルシャイン!」

「っ!?」

 

 ゼロ距離から打ち出された輝かしい光が、ウーラオスの巨体を吹き飛ばした。

 マサルはわずかに目を開き、事態を察して思わず睨むような目付きになってしまった。

 

「きあいのタスキ……」

「ご名答!」

 

 一撃で沈められる技を受けた時、ギリギリのところで持ちこたえるための道具。ゲンガーが口の中に隠し持っていたのだ。使い物にならなくなったそれを、ゲンガーはペッと吐き出した。

 あの様子では、こちらがウーラオスを使ってくることも読まれていたに違いない。

 

(読まれてた、か……ダンデさんもあそこで修行をしたって話だし、当然と言えば当然か)

 

 完璧に沈められたウーラオスをボールに戻す。

 

「お疲れさま、ウーラオス。――いこうか、カビゴン!」

「二体目はカビゴンか!」

 

 嬉しそうに笑ったダンデが、こちらの動きを探るような目付きになった。

 

(うん、そうですよね。狙いは分かってます……!)

 

 二人の声が重なる。

 

「ゲンガー、みちづれ!」

「カビゴン、たくわえる!」

 

 きあいのタスキ持ちのゲンガーといえば、みちづれ戦法だ。不発に終わった作戦をダンデは素早く切り換えた。

 

「ヘドロウェーブ!」

 

 ゲンガーを中心に毒の波が流れ出る。

 だが、元々のとくぼうの高さに加えてたくわえるの分が上乗せされているから、ほとんどノーダメージだ。カビゴンは波をのっしのっしと踏み分けて、

 

「したでなめる!」

 

 こうかはばつぐんだ。

 

「オーケー、ゲンガー。ナイスファイト!」

 

 ダンデは素早くゲンガーを戻した。

 

(僕がカビゴンを使うことは候補に入れていたはず。だったら、ダンデさんの二体目は――)

 

「いこう、ドラパルト!」

 

 繰り出された二体目を見て、マサルは内心ガッツポーズをした。にやけそうになったのを寸でのところで抑えこむ。

 

(やっぱり!)

 

 高HPを削りきるのに必要な高火力を持ったポケモンが必要で、タイプは不問で、何体か選択肢がある時、ダンデはなんとなくドラパルトを選ぶことが多いような印象があった。おそらくそういう思考のクセがあるのだろう。

 

「りゅうせいぐん!」

 

 ドラパルトの咆哮によって生み出された隕石が無数に降り注ぎ、カビゴンに突き刺さる。床の上で隕石が砕け散り、真っ白い粉塵が濛々と立ち上った。

 

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