マサル、ジョウトへ行くってよ。   作:井ノ下功

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インファイト−3

 コート内で散々感想戦をやっていたら、「長いです! いい加減にしてください!」と飛び込んできたスタッフに、続きはオフィスでやってくれと追い出されてしまった。

 

(はぁ……負けた……)

 

 シャワールームを借りて砂ぼこりを流していると、悔しさがじんわりと染み出てきた。さっきやった試合の光景が頭の中をぐるぐる駆け巡る。

 

(運要素を出来るだけ排除して勝つには――やっぱり二体目まででリザードンを少しでも削っておかないと厳しいよな。そうすると――わざ――もちもの――とくせい――……うーん、熱が出そう!)

 

 ラフな格好に着替えてシャワールームを出る。

 ダンデのオフィスに入ると、難しい顔でパソコンと向き合っていたダンデが顔を上げた。

 

「感想戦、どこまで配信する?」

「どこまででも。別に聞かれて困ることは言ってませんし」

「だよなぁ。じゃあ全部上げるぜ!」

「なんで迷ってたんです?」

「かなり詳細に戦法を語ってたから、この先の戦いで不利になるんじゃないか、ってスタッフが心配してたんだ」

「……へぇ?」

 

 ピンときていない様子で首を傾げたマサルに、「だよなぁ」とダンデが笑みを漏らす。

 

「それで、ヨロイ島はどうだったんだ? 師匠はお元気だったか?」

「ああ、はい、それはもう!」

 

 マサルはソファに飛び乗って、ヨロイ島でのことを話し始めた。マスタード師匠の課題のこと、ジムリーダーを目指す弟子に絡まれたこと、ディグダを探して島中を駆けずり回ったこと、ウーラオスのキョダイマックスのために必要なミツのこと――

 

「そしたらホップが来ていて、探すのを手伝ってくれました」

「そうか! ホップはどんどん成長していくな。元気そうで何よりだ」

「しばらくヨロイ島にいるって言ってましたよ」

「じゃあ今度行ってみるぜ。久々に師匠にもお会いしたいし」

「そうですね」

 

 簡単なあいづちを最後に、マサルはふと言葉を切った。

 

「……どうした?」

 

 気配の変化を鋭敏に感じ取るダンデは、まるで野生のポケモンみたいだ。

 マサルは言おうかどうか少しだけ迷って、

 

「――……実は、カバンが壊れちゃって」

「!」

「サメハダーが後ろから飛びかかってきたんですっ! ああもうあの海マジで嫌い! なんなんすかあのサメハダーの、サメハダーの……サメハダーァァアアアアアアっ!」

 

 うああああああと叫びながらソファに倒れ込む。

 

「ムカついたんでめちゃくちゃ倒しまくりました……」

「生態系を崩さない程度に頼むんだぜ……」

「兄弟で同じこと言わないでください……」

 

 マサルはクッションを抱き締めて転がった。

 

「今修理に出してるんですけど……やっぱあのカバンじゃないとなんか落ち着かなくって」

「そうか……早く直ってくるといいな」

「はい……」

 

 返事をしながら、無理だろうと思っている部分がある。けっこうひどくズダズダにされてしまったのだ。あの無残な姿を元通りに出来るなら、いくら掛かってもいいと思っている。金で解決できるならそんな簡単な話はない。

 そんなことを思っていると、スマホがひょいと目の前に浮かんできた。

 

『マサル、ブティックから電話ロト~』

 

 ブティック、ということは、タワーへ来る前にカバンを預けてきたところだろう。

 

「はーい。もしもし――」

 

 電話の内容は、カバンの修復はやはり難しいという話だった。試行錯誤したけれど、元通りにはどうしてもならない。別の生地でつぎはぎするか、いっそまったく違うものに加工してはいかがでしょうか、と。

 マサルは意気消沈しながら、のっそりと起き上がって返事をした。

 

「……はい。わかりました。じゃあなんか、何でもいいです。加工して……なんか、持ち歩けるものにしてください」

『かしこまりました。――それとですね、その……修繕するために一度分解したところ、中から不思議なものが出てきまして』

「不思議なもの?」

『はい。背の部分の生地の中から、金色と銀色の――葉っぱ? のようなものが』

「はぁ……」

『どうなさいますか?』

「……一応取りに行くので、保管しておいてもらっていいですか」

『かしこまりました』

 

 電話を切る。

 それを見計って、ダンデがヒトカゲ柄のマグカップをマサルの前に置いた。

 

「ありがとうございます」

「カバン、駄目だったのか?」

「はい……」

 

 しゅんとしたままマグカップを持ち上げる。ホットミルクだった。ほんのり甘くてどこか懐かしいような味がした。

 

「気落ちするのは分かるが、落ち込みすぎるんじゃないぜ」

「はい……これ飲み終わったら立ち直ります」

「うん、それがいいぞ」

 

 ダンデが優しく微笑んで頷いた。

 

(お父さんのカバンが壊れた、ってことより、ずっと一緒に旅をしてきた相棒が壊れたってことの方が、こたえてるんだよなぁ……くっそサメハダーめ、もっと倒してくれば良かった……)

 

 逆恨みであることは理解しているから、わざわざもう一度島に行ってまでやろうとは思わないけれど。

 マサルはホットミルクを飲み干した。

 大きく伸びをしながら立ち上がる。

 

「んー、よし! 長居しちゃってすみません! そろそろ僕、行きますね!」

「おう。また来てくれよな!」

「はい! 次は勝ちますから!」

「次も負けないぞ!」

 

 それじゃあ、とマサルは元気に駆け出していった。

 

 彼の次のダンデへの連絡が「ちょっと僕ジョウト地方に行ってきます」になることなど、誰にも予想できないことだった――。

 







サメハダーァァァアアアアアアッッッッ!!!



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