マサル、ジョウトへ行くってよ。   作:井ノ下功

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あくのはどう−2

 影から飛び出てきたポケモンが、咄嗟に飛び退いたマサルの肩口を切り裂いた。

 

「いっ……たあっ?! な、んで……え?!」

 

 肩に走った痛みが混乱を助長する。

 

(トレーナーを狙った攻撃?! そんなの……!)

 

 ガラルではトレーナーに向けた攻撃は違反中の違反だ。わざとそんなことをしようものなら、二度とバトルコートに立てなくなってしまう。

 だが、黒ずくめの連中はそんなことお構いなしのようだった。

 

「そこだ、ナイトメア!」

「ちゃ、チャームボイス!」

 

 ぎりぎりのところで相殺させることに成功した。ニンフィアが心配するように足元にすり寄ってくる。反対側には、心底怯え切った様子の少年が。

 マサルは彼に向かって問いかけた。

 

「ねぇ君……ここでは、トレーナーに向かって攻撃するのって、ありなの?」

 

 少年はきょとんとした目でマサルを見上げた。

 

「公式戦ではなしだけど……ロケット団はそれが普通だよ?」

「ロケット団? って、この人たち?」

「そうだけど……お兄ちゃん、もしかして違う地方の人?」

「あー、うん、その通り――ムーンフォース!」

 

 再び背後から飛びかかってきたゴーストを返り討ちにする。

 それで手持ちが尽きたらしい男が、貧乏ゆすりをしながら喚いた。

 

「くそっ、おい! このガキ、うざいぞ! 潰せ!」

 

 その声に敵が集まってきた――その数、五、十、十五――周りをすっかり取り囲んだ連中が、それぞれ一体ずつポケモンを繰り出した。十五体以上のポケモンに囲まれて、少年が悲鳴を飲み込んでマサルの足にしがみつく。

 マサルはごくりと唾を飲んだ。

 

(ええー……なんだこれ。どういうこと? なんでもありの大乱闘ってこと? マジか……きっつ……)

 

 だが、自分がどうにかするしかなさそうだ。マサルは腹を括った。

 

「君、名前は?」

「え、僕? 僕は、ロクロウ……」

「オーケー、ロクロウ。君のそのポケモン、戦えるよね?」

「えっ?」

「倒せとは言わない。ただ、自分の身は出来るだけ自分で守ってほしい……正直、君の方まで手が回るとは思えない。なるべく気を遣うけど――」

 

 悠長におしゃべりをしている暇など無かった。

 四方八方から一斉にポケモンが襲い掛かってくる。出来るだけ視野を広げてそれらを見ながら、

 

(ダブルバトル×八、ってことね! 全然オーケーじゃないけどオーケー理解した!)

 

 マサルはボールをいっぺんに放り投げた。

 

「カビゴン、たくわえる!」

 

 背後にカビゴンを配置して壁にする。カビゴンにはそこでしばらく耐えてもらうしかない。大丈夫、彼になら任せられる。マサルの信頼を保証するように、カビゴンが軽く吠えた。

 

「ニンフィア、チャームボイス! インテレオン、だくりゅう!」

 

 二体同時攻撃ができるポケモンはそれを基軸に、とにかく数を減らす。

 それをすり抜けてこちらに向かってきた奴には、

 

「ウーラオス、かわらわり! フライゴン、ドラゴンクロー!」

 

 物理単体攻撃で完全に仕留める。

 

(リザードンは疲れ切ってるから駄目……だけど、うん、大丈夫。どうにかいける!)

 

 次々と繰り出される技によって、すさまじい勢いで敵ポケモンが減っていく。

 

「す、すごい……!」

 

 ロクロウが呆然と呟いた。

 

「クソッ、何だこのガキ!」

「たった一人のくせに……っ!」

「もっとポケモンを出せ! 数で押せ!」

「畳みかけろ!」

 

 怒号が飛び交い、包囲網が一段と厚くなった。

 マサルは頬を伝った汗を手の甲で拭って、カビゴンの背に寄りかかるようにしながら戦場を見つめた。

 

「カビゴン、のみこむ! もう一回たくわえる! ――ニンフィア、マジカルフレイム! フライゴン、むしくい! ――インテレオン……っ?!」

 

 矢継ぎ早の指示を遮るように、チクッ、と、腕に何かが刺さった。大した痛みではない、が。

 

「何だ、これ。……針?」

 

 確認した瞬間、ぐらりと視界が歪んだ。

 

(針……針と言えば……どくばり……どくばり?!)

 

 やばい、と思ったマサルがカバンに手を伸ばした時にはもう遅かった。

 全身から力が抜けて膝が落ちる。

 

「お兄ちゃん?!」

「がっ、はっ……ぐ、ぅう……」

 

 手足がしびれて震えていた。頭蓋骨を内側から殴られているような頭痛と、胃がひっくり返るような吐き気に襲われて、脂汗が全身からにじみ出る。

 マサルの手持ちたちがびくりと動きを止めた。

 

「とま、るな……っ! だいじょぶ、だか、ら……」

 

 こちらを窺ったポケモンたちに向かって、どうにかそれだけを言った。ポケモンたちは指示に従って振り向くのをやめたが、まだ心配が勝つようで、動きは精彩を欠いている。

 このままじゃ負ける。

 

「ロ、ロク、ロウ……カバンの、なかに……どくけし、が……」

「この中に?! ちょ、ちょっと待って……えーと……どこ?!」

 

 慌てふためいたロクロウが、カバンのジッパーを全開にして、マサルに見せつけるようにした。

 が、新調したばかりのカバンのせいで、自分でもどこに何が入っているのか分からなかった。ましてこの状態では冷静に考えることなど出来やしない。いろんな道具が雑多に詰め込まれている中に、金色と銀色の葉っぱが輝いているのが見え――それが三重にぶれて、ぼやけていく。

 

(やばい……意識が……)

 

 これって死ぬんだろうか、それは嫌だなぁ……――などと思いながらも、離れていく意識を引き留められなくて、マサルはぐらりと倒れた。

 

「――しっかりしたまえ、ガラルのチャンピオン!」

 

 凛とした声が空から降ってきた。








フライゴンのむしくいはタマゴわざですね……すみません、うちの子が覚えてるせいでそのまま使わせちゃいました……。
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