「しっかりしたまえ、ガラルのチャンピオン!」
「……へ?」
呆けた声で反問した瞬間、口に何かを捻じ込まれた。冷たい液体が流れ込んできて、思わず喉を鳴らす。
「安心してくれ、ただのどくけしだ」
その言葉の通り、マサルは遠退いていったはずの自分の意識が戻ってくるのを感じた。吐き気も痙攣も収まっていく。ゴリランダーのドラムアタックみたいだった頭痛も鳴りを潜めた。
「しかし、一人でここまでやるとは……さすがだな。話に聞いていた通りだ」
「……話?」
「細かいことは後で。今は――こいつらを一掃する!」
真っ赤な髪を逆立てたその人は、マントを翻して空を指差した。
「蹴散らせ、カイリュー! はかいこうせん!」
降り注いだ真っ白な光線に視界を焼かれて、マサルは思わず目を閉じた。轟音が耳を塞ぎ、ロクロウに悲鳴を上げさせる。
爆音が収まって、恐る恐る目を開けると、
「――う、わ……」
その場にいた全員が倒れていた。問答無用で、一撃で。一番外側にいた敵の何人かは元気に立ち上がって逃げ出そうとしたが、空から降りてきたポケモンに行く手を阻まれて尻餅をついた。
マサルはその光景を呆然と眺めた。
(はかいこうせんを放射状に放って……しかも、僕のポケモンたちは避けて、なおかつ人は殺さないように、威力を調節して? どうやるんだそんなこと……出来るんだ、そんなこと!)
混乱と興奮の渦の中に座りこんでいるマサルを見下ろして、その人はニッコリと笑った。
「はじめまして、おれはワタル。ジョウトへようこそ、マサルくん」
「どうして、僕の名前を――」
「ダンデくんから連絡を貰った」
「ダンデさんから?!」
驚きを隠さないマサルを前に、ワタルはくすりと笑った。
「連絡がなかったとしても君のことは知ってたよ。ダンデくんを破ったガラルの新チャンピオン。――おれは、ジョウトのチャンピオンだからね」
「ジョウトの……チャンピオン……!」
つまりジョウトで一番のトレーナーってことか! と理解した途端、マサルの目がぱぁっと輝いた。
(強いわけだ……戦ってみたい!)
さっきまで死にかけてたことなど記憶の彼方に追いやられたようだった。
ワタルが呆れたように苦笑した。
「聞いていた通りの
「え、なんて聞いたんです?」
「ポケモンバトルに関してはガラルで一番詳しくて粘着質、だけどそれ以外に関してはまったく世間知らずの少年がそっちに行きます、と」
「そんな?!」
(ひどいなダンデさん! 帰ったら文句言わなきゃ……)
実際ニュースの類をまったく見ていないという事実を棚に上げて、マサルはぷくりと頬を膨らませた。
「とりあえず移動しよう。ここまでやっておけば、あとは警察が片付けてくれるからね。少しだけ歩くけれど、大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です」
マサルは立ち上がった。カバンをあさってきずぐすりを取り出し、肩の傷に吹き付ける。どくけしが効いたのだからこれだって効くだろう、と思ったのだ。
(予想通り効いてる……け、ど、めっちゃ染みる!)
涙目になったマサルにポケモンたちが心配そうにすり寄ってきた。彼らを一通り撫でてやる。
「みんなお疲れ。がんばったな。よーし、戻っておいで!」
「一匹くらいは護衛に出しておいた方がいいよ」
「マジですか。じゃあ……インテレオン、まだいける?」
彼はこっくりと頷いた。インテレオンを残して全員をボールに収め、ロクロウからカバンを受け取る。
ロクロウは目を真ん丸にしたまま、マサルを見上げていた。
「あ、あの……」
「ん? 何?」
マサルは片膝をついてロクロウと目を合わせた。
「その……お、お兄ちゃんは、何者なの……?」
「僕? 僕はね、マサル。ガラル地方っていうところから来た、ただのトレーナーだよ」
「でもさっき、チャンピオン、って……ワタルさんが……」
「うん、ガラルのリーグのチャンピオン。この間防衛に成功したから、今年で二年目なんだ!」
マサルはへらりと笑った。
その間抜けな笑顔とさっきまでの猛烈な戦いぶりの温度差に、ロクロウは目を白黒させていたが、マサルはまったく気が付かないで再び立ち上がった。
「じゃあね、ロクロウ。気を付けて帰るんだよ。またね」
「あ、うん……」
「じゃ、行きましょうかワタルさん。どっちですか?」
「こっちだよ」
ワタルの先導に従って後をついていく。
「――あ、ありがとう! マサルお兄ちゃん!」
背中を追いかけてきた感謝の言葉に、マサルは手を振り返して応えた。
ワタルさんは人にも容赦なくはかいこうせんを撃つ人だってワタシシッテルヨHAHAHA