銀河の果ての果て。
惑星セージにて激しい戦闘中。敵の前衛基地のワープ室を破壊するべく突入していた。しかし部屋に入り破壊間際に敵に襲われる。同僚と私は応戦するものの、ジリ貧だった。このままじゃやられる!そう思ったとき。光に包まれた。
「うわあっー!」
「ギャラクシースター!」
同僚が手を伸ばしてくれるが、間に合わない!私は何かに引っ張られて、落ちていった。
真っ白な光の中を、上下左右も判別つかない空間を落ちていく。目を開けると様々な記憶が私の中に流れ込んできた。これは誰の記憶だろう。
四百万年の戦い。
サイバトロンとデストロン。
コンボイ総司令官と破壊大帝メガトロン。
私の仲間たち。
鮮明な記憶から、朧げな記憶へと変わっていく。
手に収まるほど小さなトランスフォーマー。
ーあれは、かつて私たちと共に戦ったというマイクロン?でも、私はマイクロンに会った事なんてないのに。
手はトランスフォーマーの物ではない。有機生命体っぽい、柔らかそうな肉の手。
ー誰の手?私?あれは私の手なの?
そんな気がした。推測が確信へと変わる。あれは私の手だよ、と誰かが頭の中で囁いている。誰なの?誰が私にこの記憶を見せているの。
夢のような記憶はまだ続く。今度は様々なトランスフォーマーが現れた。
コンボイ総司令官。メガトロン。真面目そうな軍人。年若い青年。大勢のマイクロンたち。複数のデストロンと思わしきトランスフォーマー。年老いた軍人。スナイパーらしき青年。
約十体の機体が争っている。
前にも見た光景だと思った。いつか、どこかで。もう帰れない場所で。胸が切なくなる。締め付けられて、熱い息が上がってくる。悲しみが懐かしさが、私をより混乱させた。何が起こっているんだろう。
長いトンネルを抜けて、ようやく光は景色へと変わった。それも金属物から有機物ばかりの土地に変わっている。
ギャラクシースターは森の中に出た。周りに見える、茶色の棒に緑がふさふさしている物は「木」だと知っていた。埃っぽい地面も、大地だと知っている。ここに似た惑星で何度も戦闘したことがあった。その中のどれかだろうか。ということは、私はワープ事故に遭ったのか?
おそらくそうだろう。でなければ、数分間で景色がまったく変わってしまった説明ができない。ここはどこだろうか。とりあえず救難信号を……。
そのとき、視界の端で何かが輝いた。そちらに目を向けると、パネルが岩の中で光っている。何かたしかめようと、ギャラクシースターは岩の前に片膝をつき、右腕からジャックナイフを出した。そして丁寧に岩を壊し、削る。岩から取り出してやると、パネルからマイクロンが現れた。
「ええ!」
驚いた!本当にマイクロンだ。ギャラクシースターのオペラ(赤ピンクっぽい)色に似て、ルビー色の機体だ。
彼……多分、彼だ。彼は私の大して厚みもない、不安定な肩に乗ろうとしている。だが安定していない。仕方ないので、両腕で抱えてやり「ここにいてね」と言う。マイクロンからはピロピロと返事があった。でも何て言っているかわからなくて、困ってしまう。
ギャラクシースターは青い空を仰いだ。
かつて争いを嫌ってセイバートロン星を出ていったはずのマイクロン。どうしてこんな場所にいるんだろうか。
「もしかして、ここは……。マイクロンたちが逃亡した先の星、なの?」
だとしたら、とんでもなく遠くに来てしまったことになる。とにかく、救難信号を出して救助を待つことにした。
ーサイバトロン基地、地球ー
サイレンが基地内に響き渡る。それぞれの仕事を行なっていた戦士たちは、コントロールルームに集まりマイクロンの反応場所を特定していた。
副官のラチェットが特定に成功する。
「今回は近いですね。このポイント、森の中……んん、これは」
「どうした、ラチェットのとっつあん?」
「同じポイントから救難信号がでている」
「なんだって?」
コンボイ、ホットロッド、グラップ、そしてラチェットも驚いた。自分たち以外にサイバトロンが地球に来ているらしい。しかし救難信号を出しているということは……。
「何かしら怪我をしているかもしれん」
「おう、それならよ。早いとこ助けてやんねーとな」
「急ぎましょう、司令官」
「うむ。発進する!!」
一方そのころ。デストロンでは。
「今回はここか……」
すでに森に到着していた!
「サンドストーム、スタースクリーム!お前たちは空から探せ。アイアンハイド、行くぞ」
「かしこまりました、メガトロン様!」
「ひひっ!ラリホー!」
「トランスフォーム!」
四機はそれぞれマイクロンを探し始めた。サンドストームは湖の方に。スタースクリームは山の方へ飛んでいく。
サンドストームは気分が良かった。また戦闘を楽しめるからだ。マイクロンを見つけてメガトロン様に献上した後に、サイバトロンたちをやっつけられたら、さらに気分がいい。サンドストームは仕事に精を出した。
湖に行く途中、ひらけた場所でトランスフォーマーを見つけた。だがやけに小柄だ。良くセンサーをこらすと、そのトランスフォーマーが女であると気づいた。なぜこんなところにいるのだろう。しかも、両手で持っているのはマイクロンではないか?サンドストームはとにかく上司に通信した。
「メガトロン様、マイクロンです!すでに他のトランスフォーマーによって目覚めています」
『なに!サイバトロンか!?』
「いえ、それが女なんです。マークは判別できません」
『女だと?ワシが確認する。映像をまわせ』
「はは!」
サンドストームは映像をメガトロンにまわした。それを見た破壊大帝は驚く!
『こやつ、たしかファイヤーロード部隊の者だったはず。宇宙の果ての惑星で戦っている奴等が、なぜ地球に?コンボイが呼び寄せたのか?……ううむ。ええい、構うものか!サンドストーム、叩きのめせ!!!』
「仰せのままに!ラーリホー!!!」
サンドストームは急降下すると銃を連射した!突然の奇襲にギャラクシースターは襲われてしまう!
「きゃあああ!?」
「そらそらそらそら!」
突然エネルギー弾の雨をくらった。ギャラクシースターは身をていしてマイクロンを庇う。雨の切れ間に顔を上げて、襲撃者を確認した。
「あれは、サンドストーム?」
見たことがない機体のはずだった。そうさっき程までは。ギャラクシースターはあの夢で見たのだ。そう、あんなカラーリングで機体の影も一致している。
「あいつがいるってことは、ここは地球?!」
いや待て、なぜサンドストームの配属先が地球だと知っているんだ。わからない。知っている。いや、知っているはずがない。私はサイバトロンなんだぞ、なぜデストロン兵士の配属先なんて知っているんだ。おかしい。
「もう!もう!」
頭がこんがらがり、言葉が混ざって絡まってしまう。出てくるのは鬱憤だ。
ギャラクシースターはマイクロンを大切に抱えて走り出した!弾の雨は何度も降り注ぐ。時々大きな木に隠れつつ、雨を防いだ。こちらからもエネルギー弾を撃つが、狙いが定まらず当たらない。戦場は湖へと移っていった。
サイバトロンたちは湖にワープした。人間だったなら、森林の深い匂いと湖の美しさに見とれていただろう。だが彼らはロボット生命体。まだ自然の美しさについては、ピンときていなかった。
ワープして早々。銃声が森の向こうから響いている。全員が気を引き締め、ロボットモードへトランスフォームした。
ホットロッドは音がしている方向を凝視する。
「もう戦闘が始まっている?一体誰が……?」
音はすぐそこまで来ていた!
「来るぞ!」
グラップの声と同時、サンドストームが上空を通過していく。
「あれは、サンドストーム!」
「げげっ!サイバトロンの奴ら!!メガトロン様、メガトロン様!」
続いてスタースクリームが現れた。
「あれはサイバトロン。トランスフォーム!」
ロボットモードになった彼は、パートナーマイクロンとエボリューションした。
「ナル光線キャノン!!」
すぐに激しい銃撃戦が始まった。そこに ギャラクシースターが現れる。
「あれは、コンボイ総司令官!」
ホットロッドがすぐに反応する。
「誰だ!新手か?」
「待って!私はサイバトロンよ!!」
銃を向けられ、慌てて肩のサイバトロンマークを見せる。それを確認したホットロッドは銃を下げた。
「なんだ、同じサイバトロンか」
「私はギャラクシースター。ファイヤーロード部隊の隊員です。あなた方は、コンボイ部隊の方々ですか?」
コンボイが頷く。
「そうだ。君がマイクロンを復活させたんだな」
「やっぱりこの子はマイクロンなんですね」
両腕の中の存在はやはりマイクロンだった。ならば守ってやらないと。再びサンドストームとスタースクリームの攻撃が開始される。銃撃の中を走り、ギャラクシースターはコンボイ部隊と合流した!
「ちい!あの女、サイバトロンと合流しちまったぜ!」
「構うものか!ナル光線キャノン!!」
「ジョルノ、エボリューション!」
マイクロンとトランスフォーマーが合体ーエボリューションーしている!胸が熱く滾る。なぜそんな気持ちになるのかわからないが、その気持ちを燃料に応戦する!当たった!
「ら、ら〜りほ〜〜」
あえなくサンドストームは落ちていく。姿が見えなくなった。
「くっ、また先にいなくなりやがって」
同僚のやられっぷりは、もはやデストロン名物になろうとしていた。一機対五機では分が悪い。逃げるべきか、頭をよぎったところでメガトロンとアイアンハイドが到着した。
「マイクロンはどこだ!」
「あそこです!あの女が持っています!」
センサーを凝らすと、たしかに女がマイクロンを抱えていた。苛立ちを込めて目を細めると、視線を遮られる。コンボイだ忌々しい!
「ええい!退却する!」
メガトロンの号令によって戦いは一時終わった。
ギャラクシースターはほっと息をつく。破壊大帝メガトロン、なんて迫力だろう。画面の先ではあんまり怖くなかったが、やはり実物は違う。
……画面の先から?私が見かけたのはスコープごしからだったはずなのに。
自らの記憶違いに首を傾げる。
「おう、どうした?」
「あっ、いや。なんでもないわ」
こんな違和感、話してもどうしようもない。私だって持て余しているのに、グラップに話しても困らせてしまうだけだ。おっと、視線が集まっているな。
「えー、改めまして。ファイヤーロード部隊所属、ギャラクシースターです。なぜこの星にいるのかは、わかりません」
「おいおい、なんだそりゃ。一体どういうことだ?」
コンボイは首を振る。
「とにかく、君も基地に来るといい」
「はっ!ありがとうございます」
サイバトロン基地。
基地に戻ると子どもたちが迎えてくれた。今日の学校は終わったようだ。
「おかえりー!」
カルロスの元気な声が響く。その顔はすぐにキョロキョロと何かを探し、目当てのものを見つけた。
「いた!」
小さな生命体と視線が合った。三体の影が私の足元に集まる。ふ、踏んでしまうかもしれないから、あんまり近くに来ちゃダメだよ。
「紹介しよう。地球の子どもたちだ。我々の仲間でもある」
「俺カルロス!」
「僕ラッド」
「私はアレクサ。はじめまして」
「はじめまして」
私は彼らと視線を合わせるために、片膝をついた。できるだけ優しく言葉を発する。
「えーと。私はファイヤーロード部隊に所属しているギャラクシースターと言います。この、マイクロンは、えー、誰に預ければいいか教えてくれる?」
わからなければ司令官に聞こうと思って質問した。子どもたちは私の態度に喜び、色々教えてくれた。それに質問もいっぱいされた。
「えー?君のマイクロンじゃないの?」
「私たちがマイクロンたちがいる場所まで案内するわ!」
「まだパートナーじゃないんだね」
「どこから来たの?セイバートロン星?」
「別の部隊なんでしょ?どんな部隊?」
「ギャラクシースターってもしかして女性?」
い、息つぎできねえ!
「惑星セージから来たの。私は女よ。サイバトロンの中じゃ、別に珍しくないわ。ファイヤーロード部隊はいつも最前線に行くの。勇敢な兵士たちがいっぱいいるわよ」
こんな説明でいいだろうか。様子を窺うと子どもたちはさらに喜んで質問攻めをする。それを止めたのはホットロッドだ。
「ほーらお前たち、質問はそれくらいにしてくれ。俺たちはギャラクシースターに、いくつか確かめなきゃならないことがあるんだ」
「何を聞くの?」
「色々さ。さあ、こいつを頼むよ」
ホットロッドは私に頷いてみせた。多分マイクロンを子どもたちに預けろってことだろう。私はそっとマイクロンを下ろしてあげた。彼はまたピロピロピと鳴くと、カルロスの元へ走った。そして三人と一体でどこかへと移動した。
「では、私たちはコントロールルームに行きましょうか」
「うむ」
コントロールルーム。
「それでは、説明してくれ」
「はっ!私は惑星セージでデストロン基地内部へ侵入。ワープ室を攻撃中、光に包まれました。そしてこの星にいましたので、ワープ事故に巻き込まれたと考えられます」
コンボイとラチェットは驚かない。それより納得してくれている。
「ふむ。ワープ事故に遭って、遠くの星に転移した報告は聞いている」
「珍しいですが、ないわけではありません」
ホットロッドとグラップは聞いたことがないのか、感心した様子で話しを聞いていた。
ギャラクシースターはある懸念を抱いていた。それを正直に吐き出す。
「あの、コンボイ司令官。お手数ではありますが、よろしければ私の部隊の……ファイヤーロード部隊の安否を確認してもらえませんか?私がいなくなった後、どうなったのか知りたいんです」
コンボイはすぐに許可してくれた。
「いいだろう。すぐにとりかかる。君はその間ラチェットの治療を受けていたまえ」
「ありがとうございます!!」
「さあ、こっちに来なさい」
ラチェットは別室に私を連れて入ると、テキパキと怪我を治療していく。手際の良さに見とれてしまった。そういえば。
「あの、他の方はよろしいんですか?」
「君の怪我が先だ。ずいぶんやられている」
「そんなことはありません。あっちではこのぐらいが、日常茶飯事です」
ラチェットの声が怒りを含んだものになった。
「……君のところの軍医は何をしているんだ」
「私よりも重傷の患者を見ています」
「……なるほど。すまない」
「いえ。あの、リペアは私にさせていただけませんか。このくらいは自分でできるようになりたいんです」
「いいだろう。では、まずこの器具を持ちなさい」
「はい」
治療が完全に終わり、ホットロッドとグラップを呼びに司令室へ戻った。中に入ると、妙に空気が重い。
「あの、ラチェットさんがホットロッドさんとグラップさんを呼んでいましたよ」
「ギャラクシースター……」
ホットロッドさんの声も重い。一体どうしたんだろうか。
「ギャラクシースター。ファイヤーロード部隊は生死不明となっている」
そのことか。「またですか」と返した。驚いたのは黄色の機体だ。
「また?何のことだ?」
「ファイヤーロード部隊が生死不明と言われるのは、これが初めてではありません。私が知っているだけで、三回はそう言われていました」
「うへえ。どれだけ激しい前線に行けば、そんなことになるでい?」
「ほぼ毎日戦闘があるところ?」
ホットロッドとグラップは顔を見合わせた。ここだって、時にはほぼ毎日戦闘になる。でも生死不明とはならない。
コンボイは決定事項を告げる。
「ギャラクシースター、ファイヤーロード部隊の安否がわかるまでこの部隊に配属となる。これは決定事項だ」
「わかりました。コンボイ部隊に、一時的とはいえ配属されるなんて光栄です。よろしくお願いします!」
こうして新しい仲間が加わった。「これからよろしくお願いします」と、元気に挨拶をする様子を、ホットロッドは気にかけていた。
基地の外、沈む夕日を見つめる。
なぜか郷愁の念にかられ、頭を振った。今日は不思議な現象に遭いすぎている。朧げな記憶、ワープ事故、この胸の痛み。まるで自分であって自分じゃないみたいだ。
それよりも仲間たちのことが気がかりだった。ファイヤーロード隊長は、ともに作戦を行った同僚は無事だろうか。逃げられただろうか、私みたいに事故に遭わずにすんだのか。
「みんな、無事でありますように」
そこに子どもたちが来た。今度は二人増えている。
「あ、いた!」
「こんな所で何しているの?」
「夕日を見ていたの?いい眺めでしょう!」
その元気に圧倒されながら、正直に話した。
「仲間たちのことを考えていたの。みんな無事かな?全員生還していますようにって、そう祈っていたわ」
子どもたちの笑顔が悲しみに変わった。
「あ、ごめん」
「いいのよ。実際に、ここの夕日って情熱的で素敵だわ」
努めて明るい声を出すが、いかんせん空気が重い。それを入れ替えるために、さらに声をかけた。
「ねえ、私ね。部隊の無事がわかるまで、ここに配属されることになったの。だから、これからよろしくね」
萎れた花のような雰囲気がパアッと明るくなった。
「仲間が増えて嬉しいわ!これからよろしく!」
「いえー!」
「やっほー!」
想像の十倍も喜ばれて、愛想笑いが本物の笑みに変わる。
今はここでできることを頑張ろう。仲間たちはきっと大丈夫だろうから。
その様子を、窺うホットロッドがいた。
「へへっ」
自分が声をかける必要はなくなった。子どもたちのおかげで、ギャラクシースターが元気になったからだ。
夕日を見る。
彼女の部隊が無事であることを、彼もまた祈ってくれた。
〈つづく……?〉