今回はタイトル通り、あの艦娘が登場です。皆さん好きでしょう?w
【時雨(しぐれ)】
時雨は白露型と呼ばれる駆逐艦、その2番艦である。時雨の名を持つ艦船としては“神風型駆逐艦(初代)時雨”に続き、2隻目。また、同じ駆逐艦である雪風と共に“呉の雪風、佐世保の時雨”と並び称された武勲艦でもある。1933年の12月9日に起工し、36年の9月7日に竣工。以後9年に渡って戦いの日々を生き抜き、45年の1月24日にその身を海に沈めた。
艦娘としての時雨は、俗に言うボクっ娘。背中の砲台のせいかガンキャ○ンと呼ばれることも。また、彼女は金剛や響と同じように2度改装を行うことが出来る。その可憐な容姿か艦船時代の出来事、図鑑の説明文の健気さから人気も高い。
今回のお話は、艦娘時雨が宿毛湾泊地にやってきて、ほのぼのと、時に慌ただしく過ごす……そんなお話。
時刻はヒトフタマルマル……午後12時ぴったり。僕の目の前には、念願とも言える宿毛湾泊地鎮守府、その本館がそびえ立っていた。
「……ふぅ」
少しだけ緊張。その緊張を無くすように息を1つ吐く。ついでに玄関の横にある窓で簡単に身嗜みをチェック。トレードマークの左肩にかかったおさげに、赤い髪飾り。犬の耳っぽいと金剛と川内に言われた髪……うん、バッチリ。服装も問題なし。艤装も、今すぐ出撃と言われても大丈夫……よし、準備万端。改めて玄関前に戻り、この鎮守府の提督を待つ。本来なら僕が直接行くべきなんだけど……提督がここで待つように言っていたと山田総司令に言われたんだから仕方ない。
まだかな、まだかなと思っていると玄関が開いた。その中から出てきたのは、僕の思い描いていた青年……ではなく、小さな青い髪の提督服を着た子供。上だけ着ていて袖を捲っているのがなんとも微笑ましい。そんな姿を見ながら、僕は“もうそんな時期か……”と納得していた。
「久しぶりだね、氷狐。ちっちゃい姿も久しぶりだ」
「しぐれ、あーうー♪」
最後にちっちゃい氷狐の姿を見たのはいつだっけ……もう1年近く前になるのかな。それはともかく、挨拶はしっかりしないといけないよね。金剛も川内もそのあたりしっかりしてるし。“最年長”の僕がしない訳にもいかない。そう考えた僕は、無意識に浮かべていた笑顔をそのままに敬礼する。
「白露型駆逐艦2番艦、時雨“改二”。本日よりここ、宿毛湾泊地鎮守府に配属することになりました。よろしくお願いします!」
「あーうー♪」
よろしく。氷狐は満面の笑みを浮かべ、そう僕を歓迎してくれた。
「オー! 久しぶりネー時雨!」
「久しぶり時雨。元気してた?」
「もちろんさ。2人も元気みたいで安心したよ」
あれから少し経ち、僕がいるのは鎮守府の食堂。そこにはこの鎮守府の全ての艦娘が揃っていた。1隻報告になかった艦娘がいるケド……本部で見かけたことがある。確か、装甲空母の大鳳だったかな? まぁ、後で自己紹介するだろうから、その時にみんな紹介してもらおう。
さて、今僕が話しているのは、僕と同じ氷狐の先生役だった金剛と川内。2人共僕より先にこの鎮守府に来て過ごしていたんだか羨ましいよ。でも、これで同じ土俵に立てた……氷狐は渡さないよ。
そんな思いが顔に出たのか、2人は僕に挑発的な笑みを見せてきた。いいね、この俗的でピリピリとした雰囲気……氷狐に教えていた時、3人揃えばいつもこんな雰囲気だった。それだけ3人共氷狐のことが好きなんだけどね。
「あのー……」
そんな雰囲気の中、僕たちに……というか僕に話し掛けてきた艦娘がいた。この子は……電、かな? 何か聞きたそうな感じだね……他にも何隻か同じ雰囲気の艦娘がいる。特に帽子を被った銀髪の子。
「僕に聞きたいことがあるの?」
「はい、なのです」
「響もあるね」
「暁もいい?」
「いいよ、何でも聞いて」
なるほど、この子達は暁型駆逐艦の子達か。よくよく思い返せば、本部にもいたね……僕は基本的に書類整理ばかりやってたから、あんまり接触はしなかったケド。確か、もう1隻いるハズ……姿が見えないし、今は席を外しているのかな?
電ちゃんの聞きたいことは、なんで金剛と川内の2人と仲がいいのか。これは聞きたいというより確認かな? 僕が昔、2人と一緒に氷狐の先生役だったって言ったらやっぱりって顔をしたし。まぁ、いきなり来た艦娘が仲間といきなり気安くしてたらちょっと気になるよね。2人がちゃんと仲良く出来てるようで安心したよ。
「次は響の番だね」
「うん、なにが聞きたいの?」
「時雨さんは、“5人の最初の艦娘”……その時雨さん?」
「うん、そうだよ」
響ちゃんの目が驚愕に見開かれる。他の子達は……金剛と川内以外……は何それ? と不思議そうな顔。正直、僕は響ちゃんが“5人の最初の艦娘”を知っていること自体予想外なんだけど……その言葉を知っているのは、軍校を卒業した者、或いは軍関係者くらい。艦娘では最初期から10数年くらいの間に生産、出現した子くらいなんだけど。そういえば、響ちゃんは深海凄艦から艦娘に戻った子だって報告書に書いてあったっけ。だったら以前の鎮守府とかで知っててもおかしくないかな。資料だって探せばあるし。
“5人の最初の艦娘”というのは文字通り、この世界に最初に生まれた5隻の艦娘……という意味ではない。この日本海軍に“初めて正式に配属した5隻の艦娘”を指す言葉だ。
― 駆逐艦“時雨” ―
― 軽巡洋艦“木曾” ―
― 重巡洋艦“古鷹” ―
― 航空母艦“加賀” ―
― 戦艦“長門” ―
妖精が現れて建造機を作るまでに、僕達はたった5隻で深海凄艦と戦い続けた。数日程度だったけどね。つまり、僕は艦娘の中でも最古参と言っていい程に古くからいた艦娘、この場では最年長の艦娘になる。とは言っても、艦娘は年齢によって見た目は変わらない。人間の姿を象(かたど)ってはいても、その根本は艦船の九十九神みたいなもの。年を取らないし、整備や改装すれば劣化も防げるからね。
最初はただの時雨だった僕も今では改二となった。他の4隻が今どうしているかは分からないケド……噂ではもう沈んだとも、どこかの鎮守府にいるとも聞く。便りがないのは元気の印なんて言うケド、今はそれを信じてる状況。案外本部にいるかも知れないね……僕が会ってないだけで。
とまあ“最初の5人の艦娘”の話をしたんだけど……電ちゃんと暁ちゃん、大鳳ちゃんのキラキラした眼差しがくすぐったい。響ちゃんも同じような感じだね。僕が駆逐艦だからか、この話を知った子達、特に駆逐艦の子達に僕は憧れのような視線を向けられることが多々ある。ただ長く生きてるだけなのにこういう視線を向けられるのは……やっぱりくすぐったい。悪い気分ではないけどさ。
今更だけど、僕は彼女達の名前を知っている。でも彼女達を知っている訳じゃない。ただ、長く生きていれば彼女達と同名の艦娘と会うこともあったから名前だけは知っているんだ。後でちゃんと自己紹介しないとね。
「暁は聞きたいこと……っていうかお願いなんだけど……ちょっと失礼なことなんだけど……いい?」
「ちょっと失礼な……? なんだい?」
「時雨さん、なんだか犬っぽくて可愛いから……頭撫でさせて!!」
「何を言ってるんだ姉さん」
「いいよ」
「いいのですか!?」
暁ちゃんに頭を撫でられながら、僕は少しきにないた艦娘に目を向ける。扶桑型戦艦“山城”……艦船時代、僕と艦隊を編成したことがある艦。艦船時代の記憶がある以上、艦娘は姉妹艦やかつて共に編成された艦に対して思い入れや特別な情を抱くことが多い。僕で言えば、白露型のみんなや西村艦隊のみんなが当てはまる。だからかな、山城達を見かけるとついつい目で追ってしまう。同じ名前でも、僕も彼女達もかつての艦船と同じじゃないと分かっていても……目で追わずにはいられない。
不意に、山城と目が合った。そういえば、報告書では山城は白夢大将の鎮守府に既に同名艦が居たことでこの鎮守府でちょっとした騒ぎを起こしてしまったとあった。詳細なことこそ書いていなかったケド、それが事の深刻さを物語っているようだった。同名艦がいることによる扱いの差等の問題は度々本部での議題に上がる。と言っても、僕は山田総司令の口から聞く程度しか知らないケド。問題の解決策としては、同名艦がいない鎮守府への異動、改修、そして……解体。
改修とは、艦娘を形を得る前……霊的な状態に戻し、他の艦娘に宿すこと。戻した艦娘の意識は消えてしまうケド、その力は宿した艦娘のモノになり、その艦娘の中で力として共に在り続ける。それは、れっきとした艦娘同士の“絆”なんだ。でも、解体は違う。
形を得る前までに戻す、というところまでは改修と同じ。だけど、解体は戻したらそこで“終わる”。再び形を得られることはなく、その魂は無に還る。解体する際に残る僅かな資材が、その艦娘が居たこと示す唯一の証となる。だから僕達は解体を酷く恐れる。解体されたら、意志も記憶も何もかもなくなるから。山城がそうならなかったのは、喜ぶべきだね。
だから、僕は……出逢う全て山城に対して、まずはこう言うことにしている。同名艦(おなじ)山城であっても、彼女達は1人の(ちがう)山城だから。
「久しぶり。そして……」
― はじめまして ―
「……ええ、久しぶり。そしてはじめまして、時雨」
あれからしばらく経った今の時刻はフタフタヒトヒト……午後10時11分。昼食には僕の歓迎会が開かれた。料理はあの場にいなかった氷狐と雷ちゃんが作ってくれたもので、とても美味しかった。久しぶりに氷狐の料理を食べられて大満足したし、雷ちゃんの料理も負けず劣らず美味しかった。僕が作れるのはせいぜい玉子焼きとお味噌汁、焼き魚くらいだからレパートリーがある人が羨ましいよ。自己紹介は料理を食べながら軽くした。その時に青葉が何か言おうとして川内と山城に頭を挟み込むように跳び蹴りを決められてノックアウトしてたケド……何を言おうとしてたんだろう。何かこう、致命的な敗北感を感じるのは何故だろう。
だけど、そんな敗北感を感じていたのも昼過ぎまで。今は勝利の余韻に浸っているところ。何故なら……。
「しぐれ。うーあーうー」
「うん、ありがとう氷狐」
僕の後ろでは氷狐が1組の布団を敷き終わっていた。そう、僕は氷狐の部屋で寝泊まりするんだ。他のみんなは3人~4人で1部屋となっていて、そこに1人加えると流石に窮屈になってしまう。そこで僕はこれ幸い……こほん、仕方なく氷狐と相部屋にすることを提案し、その提案が氷狐によって通った。川内達の悔しそうな顔に少し優越感……こほんこほん、心苦しさを感じるケド、決まったことだし仕方ない。もう1人艦娘が加わるとこの部屋に加わると3人相部屋、更に加われば僕を含めた艦娘3人は違う部屋に移ることになるケド……それまでは氷狐と2人きり。しかもちっちゃい氷狐の状態なので布団も1組。つまり同じ布団で眠るということ。
僕だって艦娘とはいえ立派な女の子。甘い蜜月の日を好きな相手と過ごしたい気持ちもあれば、性に関する知識も人並みにはある。ついつい意識してしまうのは仕方ないことだろう。とはいえ今の氷狐は子供の姿。そうなることはないだろうね。なっても何の問題もないけどさ。
「しぐれ~」
「なに? 氷狐」
そんなことを考えていると、何やら眠そうな声で呼ばれた。声のした方を見れば、そこには布団に入って眠そうにしている氷狐の姿。白い着流しがよく似合っていて……じゃない。どうやら氷狐は早く寝ようと催促してるみたいだ。僕としてはもっと氷狐とおしゃべりしていたいんだけど……眠いんじゃ仕方ないね。
僕は氷狐と同じ白い着流しに着替え、氷狐の隣に入り込む。尚、今僕は氷狐の目の前で着替えた訳だけど、別に羞恥心がない訳じゃない。でも氷狐になら見られてもいいから大丈夫なんだよね。それはともかく、僕は隣で眠る氷狐の体を抱き締める。こうして触れるのも、声を聞くのも、一緒に眠るのも本当に久しぶりだ。
― 久しぶりと感じるのも……久しぶりだな ―
ふと思い出しそうになる記憶を無理やり押し込め、目の前の眠る少年の髪を撫でる。ここにいる。ここに“在る”温もりを確かめながら、僕も目を閉じる。どうか、この始まった日々が永久に続きますように。
「おやすみ、氷狐」
どうか、良き夢を見られますように。
「くっ、まさか時雨がいきなり氷狐と同じ部屋になるなんて……」
「あら、心配?」
「そりゃあね。まあ、負けるつもりはないけどさ」
「私達の方が、他のみんなよりも1歩リードしてるしね?」
「まあ……ね」
(あ、この流れはまたあの時の話になりますね……お願いですから、青葉がいない時にしてほしいものです……聞いてる方が恥ずかしいから)
未だに5ー3をクリア出来ない作者です。Z1はようやく来てくれましたが。
今回から時雨編が始まります。最初から改二ですが、ゲームでは60まで上げないとだめなんですよねぇ。それはともかく、これで先生役艦娘三人娘が揃いました。今後もキャットファイトは苛烈になっていく……のか?
それから、時雨編が終わり次第番外編を書こうと思います。幻想記のように4つ書くのか、一つだけなのかは未定。意見や質問などがありましたらどしどし感想やメッセージを送って下さい。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、ptをお待ちしてますv(*^^*)/