艦これ! 妖提督と艦娘の日々   作:d.c.2隊長

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大変長らくお待たせしました。ようやく投稿することが出来ました……本当に申し訳ありません。


時雨 5ー2

 朝起きたら、目の前に見覚えのある青年の寝顔があった。突然の予想外な光景と寝起きの頭という状況の僕が判断したのは、“なんだ、夢か”というあまりにベタなものだった。そうして夢と判断した僕は、目の前の青年……氷狐の頭。そこにある獣の耳に手を伸ばした。

 

 「ん……ぅ……」

 

 「……相変わらずふさふさふわふわしてる……」

 

 ふさふさ、もみもみ、ふわふわ、なでなで。そんな擬音が出るかのように獣の耳をしっかりと堪能する。夢だとしても目の前の気持ちよさそうに眠っている氷狐を起こすのは忍びないので、やんわりと優しく、を欠かさない。そこまでしてようやく、僕は目の前の光景が夢ではなく現実のモノであると理解した。最も、少し驚いただけだけど。そもそも僕達はちっちゃな氷狐よりもこの青年の姿の氷狐の方が馴染み深いし。

 

 「んー……」

 

 「わっ、と」

 

 不意に、氷狐がぎゅっと抱き締めてきたた上に足を絡めてきた。必然、僕と氷狐の身体が密着する。それはもう余すところなくぴったりと。だけど僕は慌てない。先生役をやっていた時にはこうして一緒に眠ることもあり、こういう状況になったことも1度や2度じゃないからね。ただ、僕は正面から……つまり、向かい合うように抱き締められている。つまり……氷狐の顔が、物凄く近い。

 

 「ひ、ひひひ氷狐? ちょ、ちょっと顔ぎゃ近いかにゃ!?」

 

 動揺から出た言葉は恥ずかしいほどに、自分でも分かるくらいに噛み噛みだった。うん、こういう状況は慣れてるみたいなことを言ったケド、思った以上に大丈夫じゃなかった。目の前には好きな相手の寝顔がほぼゼロ距離にあって、その相手に抱き締められているなんて状況に慣れることなんて殆どないと思う。あるとすれば熟年夫婦くらいじゃないかな。

 

 (というか本当に顔が近いっていうか僕にも氷狐にもいろいろ当たってるというか寝顔可愛いくも格好良くも見えるというか今ならキス出来るかもっていうか僕のファーストキスとか色々ハジメテを貰って欲しいというか落ち着け僕! そう、まずは落ち着くんだ時雨。今は妄想とか暴走する時じゃない。この状況をどうにかしないと……嬉しいケド、離れたくないケド、精神が保たないし)

 

 大根乱……じゃない、大混乱の僕。そんな状態の僕を止めたのは、目の前の氷狐……じゃなくて、無粋な闖入者だった。

 

 「ヘイ、提督! グッドモーニ……」

 

 「……」

 

 その闖入者の名前は金剛。僕と目が合った彼女は、なぜか顔を青くしてガタガタと震えだした。おかしいな、僕はにっこりと笑顔を浮かべながら、目で“そこでジッとしててね”と訴えかけてるだけなんだけどなぁ。

 

 僕は氷狐の手と足をやんわりと身体から離し、布団から出て金剛の方に向かう。相変わらず金剛はガタガタ震えてるケド、僕は見ないフリをした。

 

 「ねぇ、金剛。今日の天気予報は分かる?」

 

 「とぅ、トゥデイは晴れだと聞いてマスガ……」

 

 「うん、今日はきっと氷狐が雲一つない晴れのように笑ってくれて……」

 

 

 

 

 

 

 ― 僕が今から真っ赤な雨を降らすでしょう ―

 

 ― デッドオアダイ!? の、ノオオオオ!! ―

 

 

 

 

 

 

 全く、金剛にも困ったものだね。ノックもなしに“僕と氷狐の部屋”に入るなんて……と考えながら部屋にある時計で時間を確認する。針が示しているのは、6時半丁度。氷狐を起こして急いで着替えれば、教えてもらった朝食の時間に間に合うかな。今日の朝食は川内が作るらしいし、楽しみだな。

 

 

 

 そうして氷狐を起こして食堂に来た僕達。中にはもう暁型駆逐艦の子達と川内、青葉、山城がいた。川内と雷ちゃんは料理を並べていて、電ちゃんと暁ちゃんは飲み物、響ちゃんはお箸を並べて行ってる。うん、僕ももっと早く起きて手伝うべきだったね。

 

 「おはようみんな」

 

 「おはよう!」

 

 【司令官(提督)、時雨(さん)、おはよう(ございます)!】

 

 「って司令官さんが元に戻ってるのです!?」

 

 「お、今回は割と短かったね」

 

 「うーん、もうちょっとだけちっちゃい司令官を見ていたかったような気も……」

 

 うん、朝から賑やかだ。やっぱりこういう雰囲気はいいね。朝から楽しいと、その日はずっと楽しくなる気がする。それに、こうして大勢で食べるのもいいなぁ……本部にいた頃は、ずっと1人……たまに山田総司令と食べたりしてたっけ。そもそも書類処理を任せられていたから部屋から出ることが少なかったし。うん、こうして大勢で食べられるだけでも、この鎮守府に移って良かったと思えるね。1番の目的は氷狐だけど。

 

 「あれ? 金剛と翔鶴、大鳳はまだ寝てるのかな?」

 

 「ああ、翔鶴さんと大鳳さんは金剛さんを入渠場に運んでるよ」

 

 「うー? なんで?」

 

 「なぜか金剛さんがボロボロの状態で通路に倒れてたからだよ。その隣に赤いナニカで“お仕置き”と書かれてたから、誰かの地雷を踏んだんだろうね。それが何かは分からないケド……ね」

 

 氷狐に説明していた響ちゃんの視線が僕に向けられる……まあ別に隠すことじゃないケド、ちょっと氷狐には知られたくないな。あれはお仕置きであって暴力じゃないケド、そう取られたら嫌われるかもしれないし。僕は“ナイショだよ?”という意味を込めて、右手の人差し指を伸ばした状態で口元に持っていく。その時にパチンと片目を閉じることも忘れない。

 

 すると響ちゃんは、僕の込めた意味をどう取ったのか青い顔をしてコクコクと何度も頷いた。そんなに怖がらなくてもいいんじゃないかな……氷狐は氷狐で“お仕置きなら仕方ない……のかな?”なんて呟いてるし……流石氷狐、ちょっとズレてる。そんなところも僕には魅力的な部分に映るから恋っていいよね。かつて物言わぬ艦船だった僕が、こうして艦娘という人間の少女のような姿になって、こんな素敵な感情を持てるようになるなんて……想像出来なかったなぁ。

 

 

 

 だって僕は……いつも誰かに置いて逝かれて、遺されてきたんだから。

 

 

 

 一瞬頭を過ぎる、艦船時代の記憶。大丈夫、あの時のことは忘れていない。もう、遺されるだけの僕じゃない。チカラは得た。誰にも負けない、なんて自惚れることは出来ないケド……僕1人のチカラだけじゃ、まだまだ足りないケド……。

 

 「どうしよう。金剛達を待つ?」

 

 「でも川内さん、もう並べちゃったし……私達だけでも先に食べちゃう? 司令官はどうしたい?」

 

 「あーうー……誰か金剛達を呼びに行ってくれる? すぐ来れそうなら、待ってあげよう」

 

 「あ、じゃあ電が行くのです!」

 

 「暁も一緒に行くわね」

 

 「私も付いてくわ……2人だけだとちょっと心配だから、ね」

 

 「でも、案外金剛さん以外の2人はもうすぐ来るんじゃないですかね? 入渠時間長かったですし」

 

 「長かったってどれくらいなんだい? 青葉さん」

 

 「12時間程でした」

 

 【大破!?】

 

 この賑やかな鎮守府の仲間達がいるなら、どんな状況だってひっくり返せる……そう思える。それに、氷狐がいるだけで……僕はいつも以上にチカラを発揮出来るしね。川内も金剛もいるし、報告書で見た限りではみんなの練度も悪くない。大鳳ちゃんは生まれたてらしいから、これからに期待、かな。

 

 さて、どうやら高速修復材を使って直ぐに修復することになったようだし、金剛達が帰ってくるまで朝ご飯はお預けかな……全く、金剛め……というのは流石に冗談。後でやりすぎたことを謝っておかないとね……でも、僕の幸せな時間を潰したのは赦さない。

 

 

 

 

 

 

 それは同日の昼食を食べ終え、僕がこの鎮守府で初めて出撃する時に目の前で起きた。

 

 「は……? え? あえ?」

 

 目の前で、氷狐が雷ちゃんとキスをしていた。何を言っているか理解したくないケド理解してるし、何が起こっているか理解したくないケド理解してる。出撃する前に、氷狐が、雷ちゃんと、キスした。あまりの衝撃に、僕の目の前が真っ暗になる。まさか……僕がいない間にそこまで……そこまで深い仲の艦娘がいるなんて。ちまたではケッコンカッコカリという提督が最も信頼する艦娘に、まるで人間が行うように指輪を贈ったり書類申請をしたりすることでその艦娘の性能を限界以上に引き出すことが出来る意味不明な妖精さんの謎技術があるらしいケド。因みにこのケッコンカッコカリ、行った提督と艦娘はそのまま結ばれることもある。また、これはあくまでも技術なので複数の艦娘にすることも出来る……ただし、よっぽど仲が良くないと鎮守府内の雰囲気が悪くなったりする。

 

 それはさておき、今は目の前の見たくない現実を受け入れないといけない。嗚呼、雷ちゃんが凄く幸せそうな顔をしてる。身長差があるから雷ちゃんは精一杯背伸びして、氷狐が腰を折って口付けする……いいなぁ。羨ましいなぁ。爪先立ちでのキスなんて前に読んだ少女漫画くらいでしか見たことないケド、雰囲気とか憧れるなぁ。

 

 「氷狐……幸せになってね……」

 

 「いや、あれは旗艦の子みんなにやってるよ。大鳳と青葉以外経験済み」

 

 「……えっ?」

 

 隣にいた川内がそんなことを言ってきた。あれ……というのはキスのことだよね。それを旗艦の子みんなにやってる? ひょっとして出撃のたびにやってるの? まさか氷狐が、そんな節操なしになっているなんて……と絶望しかけたケド、どうやらあのキスには理由があるらしい。川内から詳しく聞けば、キスによる粘膜の接触を通じて意識体となる為に必要な妖力を送り込んでいるんだとか。そうして意識体となることで、氷狐はまるでその場にいるかのように艦隊の指揮を取ることが出来るという……。実際、この妖力を送り込んで意識体になり、指揮を取るというのは僕達先生役が教えていた時にもやっていたことだったりする。その時はキスじゃなくて、手を繋いでそこから妖力を送り込んでいた。かなり時間は掛かってたケド。

 

 まあ、今はそんなことはいいんだ。問題は、氷狐がどこでこんな方法を覚えてきたのか。氷狐は見た目も大人だし、永く生きているから以外と知識はある。ただし、その知識というのは生きる為に必要なことに限られる。簡単に言えば、サバイバル知識という点ではかなりの知識を持っている。でもライフスタイルや生きる上で不必要なもの……テレビや恋愛などの知識には疎いんだ。子孫繁栄などのことを考えれば恋愛、或いは性知識などは知っていてもおかしくはないケド、氷狐は妖怪。その辺りの欲求は薄いみたい。余程のことがなければ性的欲求や興奮状態に氷狐がなることはないんだ。つまり、キスで妖力を送るなんてことを氷狐が自分からするハズがない。あるとすれば、それは誰かの入れ知恵……そう考えた僕は、雷ちゃんが氷狐から離れたことを確認してから氷狐に話し掛けた。そして、それを聞いた僕は……すぐにとある場所に通信を入れることになる。

 

 「ねぇ氷狐。ちょっといいかな」

 

 「うー? なにかな? 時雨。もうみんな行っちゃうよ?」

 

 「大丈夫、1つだけ聞きたいことがあるだけだから。ねえ氷狐、さっきのキスで妖力を送る方法……どこで知ったの?」

 

 

 

 

 

 

 「紫が教えてくれたよ? ちゅうしながらなら、楽に妖力を送れるかもって」

 

 

 

 

 

 

 ども、恐縮です。青葉です……と誰にでもなく脳内で話し掛けます。なぜこんなことをするのかと言えば……まぁ、軽い現実逃避です。現在、青葉達は北方海域のモーレイ海へと哨戒任務に向かっています。今回は雷ちゃんを旗艦に青葉、時雨さん、山城さん、復活した金剛さん、翔鶴さんのメンバーで艦隊を組んでいるワケなんですが……この鎮守府ではお馴染みの提督と旗艦娘とのキス、それを目撃した時雨さんから何やら黒~いオーラ的なモノが出てるんですよね。出撃前にはどこかしらに通信を入れてましたが……その時に“総司令”という言葉が聞こえたような聞こえなかったような。まあそれはともかく、青葉が言いたいのは……現実逃避したい程に時雨さんが怖いということです。あらあら、雷ちゃんなんか背中がぶるぶる震えてますよ。まぁそうですよねぇ……真後ろにいるんですから、そのプレッシャーはハンパないですよきっと。

 

因みに、順番は雷ちゃんを先頭に時雨さん、山城さん、金剛さん、翔鶴さん、青葉となってます。いやぁ後ろから見てる分には非常に面白いです。とばっちりでプレッシャーが襲いかかってきているのであんまり楽観的にはなれませんが。ただ、提督とのキスを目撃しただけでこれなら、それ以上ならどうなるんでしょう……怖いもの見たさでこっそり教えてもいいんですが、なぜか山城さんの全砲門がこちらを向いているので止めておきましょう。青葉も命は惜しいです。

 

 そんな冗談はさて置き、青葉が今注目しているのは時雨さん。昨日の内に5人の最初の艦娘とやらを調べて見たところ、なかなか面白いことが分かりました。それは、艦船の種類の強弱関係なく、5人の実力が“拮抗”していたということです。それは演習による模擬戦や戦果、遠征に至る全てにおいてであり、面白いように実力が横一列に並んでいたというのです。駆逐艦が戦艦、空母と並んでいる。しかも時雨さんの戦果の中には、戦艦級の深海凄艦を落としたという文が幾つも見受けられました。流石に最初からという訳ではないようですが、配属から二年以降はそんな破格とも言える戦果で埋め尽くされていました。他の4人も変わらない戦果でびっくりしましたよ……特に古鷹さん。同じ重巡洋艦として憧れますねぇ。

 

 そんなことを考えながら、何気なく雷ちゃんの背後霊のようになってる提督を見る。青葉は秘書艦にはなっても旗艦にはなったことがないので、当然提督とはキスしてません。青葉の好きはラブではなくライクなので、いくら好きな相手でもキスはちょっと恥ずかしいんです。青葉にだって羞恥心はあります。

 

 ただ、なんというか……そう、イヤな予感がするんですよねぇ。流石に雷ちゃんが同じ失敗をするとは思えませんし、特に身の危険を感じている訳でもない。この辺りの深海凄艦も決して手強いという訳でもない。なのにも関わらず、青葉はイヤな予感を感じている。

 

 

 

 「なんなんでしょうか……この感覚」

 

 

 

 ただ、何となく……提督から目が離せなかった。

 

 

 

 

 

 

 『山田総司令? 時雨だけど』

 

 「おや、時雨。どうかしましたか? ……はい……はい……ほう、そうですか。分かりました、任せて下さい」

 

 「時雨からですか?」

 

 「ああ、丁度いいところに。霧島、紫大将をこの場まで運び込んで下さい。手段、及び生死は問いません」

 

 「落ち着いて下さい。御命令とあらば紫大将は引きずり回してでも連れてきますが、何をするんですか?」

 

 「なに……白黒はっきりするだけですよ」




5ー3の最後のゲージが削れない……orz
尚、編成は雷改、榛名改、金剛改二、響改、熊野改、古鷹改です。なっかなかクリア出来ません。ぐぬぬ。

それはともかく、時雨編が終わり次第、何らかの特別編的なものを書こうかと思います。前作の幻想記のような1話完結のものか短編集のようになるかは分かりませんが。もし、「こんな話が読んでみたい!」というような意見がありましたら、感想、メッセージ、活動報告のいずれかにお書き下さい。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、ptをお待ちしておりますv(*^^*)/
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