それでは、どうぞ。
電です。私と氷狐さん……氷狐司令官さんとの改めた自己紹介の後、私達は食堂へとやってきました。何でも氷狐司令官さんは朝食を取っていないそうで、お腹が空いてるから何かないかと聞かれたからです。話は変わりますが、私達艦娘は人間と同じように食事を取ることが出来るものの、必ずしも必要というワケではありません。九十九神という存在である以上、この身体は見た目こそ人間と変わりませんが、その大元が軍艦であることも変わらないからです。かと言って人間と同じ食事が出来ないワケではありません。私達艦娘にも五感が存在しますし、司令官さんの手の温もりも、甘味(かんみ)の疲れが吹き飛ぶような甘味(あまみ)も感じることが出来ます。なので、私達艦娘は基本的に人肌の温かさや甘いものが大好きなのです。
何が言いたいかと言うとですね。
「うー……」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
食べる物が、何もないのです。
「本部からの配給は……いつだっけ」
「ヒトフタマルマル……今日のお昼なのです」
今の時刻はマルハチヨンハチ……8時48分。配給が来るまでまだ3時間以上あります。思えば、司令官さんが来ることは分かっていたのですから食料の確認をやっておくべきでした……というか正直、食料の備蓄が一切ないことにびっくりしました。最近出来たとは聞いていましたが、まさか資材しかないとは予想外なのです。
「うー……お腹は空いたけど、無い袖は振れないね」
「なのです……買いに行こうにも街は遠いですし……」
「そもそもお金持ってきてないからね。仕方ないから、今出来ることをして時間を潰そうか」
「はい、なのです」
司令官さんの言葉を聞いて、電は今出来ることが何かを思い浮かべます。メモ帳や手帳が欲しいところですが、無いので仕方ありません。“秘書艦”としては必須なのでしょうが、建造されたばかりの電が持っているワケがないのです。
秘書艦というのは、提督……電の場合、氷狐司令官さんのお手伝いをする艦娘のことです。1日のスケジュール管理に書類整理、お茶汲みやその他のお世話など、次は違えど人間の秘書官とやることは殆ど変わりません。勿論、違う部分もあります。
再び話は変わりますが、1つの鎮守府が保有出来る艦隊は第四艦隊までと定められています。1つの艦隊には最大6隻までとこれまた決められいます。その理由としては、提督が指揮出来る艦娘の最大数が、個人差はあるものの6隻が丁度良いという統計が出ているとか。1度指示した後の戦闘は艦娘任せにしている提督もいるそうですが、そういう提督は一部を覗いてあまり戦果が芳しくないらしいです。
さて、ここで話を秘書艦に戻しますが……秘書艦は、その艦隊の第一艦隊の旗艦でもあるのです。提督が最も信頼する艦娘と言っても過言ではありません。それは、私達艦娘にとっては最大級の誉れであり、喜びなのです。今は電しかいないので電が暫定的に秘書艦の立場にいますが、仲間の艦娘が増えていっても、ずっと秘書艦でいることが電の目標なのです。
「資材はありますから、工廠で建造をしませんか?」
「そうしようか。どんな子が来てくれるんだろうね」
電の提案を、氷狐司令官さんはあっさりと汲んでくれました。先ほどずっと秘書艦でいたいと考えていた電としては、この建造で仲間を増やすという行為は両刃の剣なんですが……我が儘は言えません。それに、もしかしたら電の姉妹艦……お姉ちゃん達が来てくれるかもしれませんし。そう考えたら、建造が楽しみになってきました。
「司令官さん、早く行きましょう!」
「そうだね、行こう」
自然と自分の声が弾んでいることを自覚しつつ、電と氷狐司令官さんは工廠へと向かうのでした。因みに、氷狐司令官さんの名前を呼ぶのは心の中だけです。恥ずかしいですし。
声が弾んでいるのは、もしかしたらお姉ちゃん達が来てくれるかもしれないという期待と……自然と氷狐司令官さんが、手を繋いでくれたから。
“建造”とは、燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトの4種類の資材を妖精さん達が作った特別な機械に投入し、艦娘を生み出すことです。電達艦娘の艤装に取り付ける主砲やソナーなどを造る際にも使われ、その場合は“開発”と呼称するのです。どちらもより多くの資材を注ぎ込めばより良い結果に……なるワケではないのです。資材の割合によって駆逐艦が出やすい、戦艦が狙えるといったことになるそうです。電も詳しいことはわからないです。
今、氷狐司令官さんは投入する資材の量を決めています。新米提督の方は先ほど言った多くの資材を使えば良い結果になると勘違いしてほぼ最大の量を入れることが多いそうです。氷狐司令官さんは……。
「あれ? 全部最低限なんですね」
「うん。これから来てくれる子に、これ以上の資材は必要ないからね」
「……?」
氷狐司令官さんの言い方は、まるで誰が来てくれるかが分かっているようでした。本来なら、建造が終了する時まで誰が生み出されるのかは分かりません。建造にかかる時間である程度絞ることはできますが、確実に誰々が出来る、というのは分からないのです。
「司令官さんは、誰が生まれるのか分かるんですか?」
「うー? 分からないよ?」
「え? でも、今から来てくれるって……」
「うん、言ったね。でも誰が来てくれるかは分からない。分かるのは、その姿だけ。名前は分からないよ」
いえ、サラリととんでもないことを言わないで欲しいのです。普通なら姿すら分かるハズないんですが……氷狐司令官さんには、一体何が見えているんでしょうか。また不思議が増えたのです。
そんなことを考えている間に、氷狐司令官さんは資材の投入を終えていました。建造にかかる時間は……20分。時間や投入した資材が各最低数……30ずつであることから考えて、生み出される艦娘は駆逐艦だと電は予想します。
「司令官さん。高速建造材は使いますか?」
電の言う高速建造材とは、読んで字の如く高速で建造するためのものです。これを使えば5時間以上かかってしまうような建造も、あっという間に終わらせてしまうという便利なものなのです。しかしながら効果に比例するような貴重品ですので、当然数にも限りがあります。
「あーうー……うん、使おう。この子も早く僕達に会いたがってる」
「会いたがってる……?」
「電と同じ服を着た、長い紫にも見える髪をした子だよ。帽子が良く似合っているね」
そう言って氷狐司令官さんは妖精さんに高速建造材を使うようにお願いした後、艦娘が出てくる扉の前に立ちます。私はその隣に立ち……氷狐司令官さんが言っていた艦娘の姿を想像していました。
電と同じ服ということは、吹雪型の皆か暁型のお姉ちゃん達でしょうか。電は軍艦時代のことは覚えているのですが、艦娘となった姿の皆さんを知らないのです。一昨日生まれたばかりの電は、電以外の艦娘を知りません。必然的に、これから生まれる艦娘が初めて会う電以外の艦娘となるのです。
因みに、同じ軍艦を元とした艦娘……例えば、電以外の“電”が生まれる可能性も充分にあり得ます。その場合、名前は全く同じなのですが、微妙に性格や細かな仕草などに違いが出るそうです。今回は氷狐司令官さん曰わく紫っぽい色の長髪に帽子だそうですので、電以外の電が生まれるということはなさそうです。
「あ、司令官さん。建造が終了したのです」
「うん。さぁ……おいで」
電が建造が終わったことを告げると、氷狐司令官さんはゆっくりと扉に向かって手を伸ばします。その姿は今の言葉と浮かんでいる笑みから、生まれる艦娘を祝福し、歓迎しているのだと分かります。その声に導かれるかのように、キィ……と見た目よりも軽い音と共に扉が開きました。
扉から、ゆっくりと手が伸びてきました。その手は電と同じように小さいので、駆逐艦であることは間違いないみたいです。伸ばされた手はしっかりと氷狐司令官さんが伸ばした手を握り締め……その手の主は、ゆっくりと扉から出てきました。
氷狐司令官さんの言った通り、手の主は電と同じセーラー服を着た紫っぽい長髪の女の子の姿をしていました。被っている帽子がよく似合っていて……見たことがないハズなのに、凄く懐かしいと感じました。ううん、見たことがなくても、電には分かります。本能的に、この艦娘が誰なのか分かります。だって、この艦娘は……。
「待ってたよ、君がここに来てくれるのを。僕は八意 氷狐……君の提督だよ。君の名前を教えて欲しいな」
「司令官、ごきげんようです。私は暁(あかつき)よ。一人前のレディーとして扱ってよね!」
特三型……暁型駆逐艦ネームシップ“暁”……電のお姉ちゃんなのです。
「それでは、今からお昼ご飯を作りたいと思います」
「おー!」
「なのです!」
暁お姉ちゃんが出てきて、軍艦時代のことや今の姿のことを話したり、氷狐司令官さんにしたように鎮守府を案内していると、知らない内にヒトフタマルマルに来るという配給が来ていました。いつ、誰が、どうやって配給がされたのかは一切分かりませんが。何はともあれ配給された物資は食料は食料庫や冷蔵庫、資料や書類、手引きや辞書などの書物や紙は資料室に執務室、チェスなどのボードゲームや娯楽品は娯楽スペースへとそれぞれ適切な場所にありました。配給というよりも、必要なものを揃えたといった感じですね。実際この鎮守府にはそういう予め必要である物が一切なかったので、元々こうして配給という形で送ることにしていたのかもしれません。
それはさて置き、電達は食堂……その調理場にいます。目的は氷狐司令官さんが言うようにお昼ご飯を作る為なのです。
「今回作るのはクリームシチューです。ルーあったし。2人は料理出来る?」
「やったことないのです」
「私もないわね」
「それじゃあ教えながらやろっか。と言っても、野菜切って、お鍋に切った野菜とルーを入れて煮込むだけだけど」
そうして始まった氷狐司令官さんのお料理教室。とは言っても、電達がやったことは氷狐司令官さんが言ったようにお野菜の皮をピーラーで剥いて、教わりながら人参やジャガイモなどのお野菜を切っただけなのですが。
氷狐司令官さんと暁お姉ちゃんと3人でやった初めてのお料理は、ちょっとドキドキしたけれどとっても楽しかったのです。だけど……。
「暁、包丁はしっかり握って、野菜を押さえる手は猫の手みたいに曲げる。じゃないとケガするよ?」
「わ、分かってるわよ!こうよね」
「ほら、また傾いてる。こうだよ」
「あ、う……」
ちょっと不器用な部分があったお姉ちゃんが、氷狐司令官さんに密着(←ここ重要なのです)されて注意されつつ教えてもらっていたのが凄く羨ましかったのです。今日あったばかりですが、純粋な青年という電の感想に違わず天然さんだということは分かりました。暁お姉ちゃんも恥ずかしいのか真っ赤になりつつも満更でもないみたいです。
そんなこんなで出来上がったクリームシチューは、形が歪な野菜と綺麗な野菜が入っていて見た目は少し悪いけど、とっても美味しかったです。因みに、電は手際がいいと頭を撫でてもらったので満足なのです。
「こら暁、人参食べないとダメだよ。一人前のレディーは好き嫌いなんてしないよ?」
「うぐっ!」
「電もブロッコリー食べようね」
「はうっ!」
氷狐司令官さんは、ちょっと厳しいところもあるみたいです。
「ねぇ電。この鎮守府には私とあなたしか艦娘はいないのよね?」
「はいなのです」
現在の時刻はフタフタマルマル……午後10時。お外はすっかり暗くなり、特に音もしない静かな夜なのです。電と暁お姉ちゃんがいるのは、電に与えられた部屋。鎮守府は旅館に近い構造をしている為、電みたいな駆逐艦娘には部屋は1人で使うには広すぎるのです。そのため、氷狐司令官さんにお願いして相部屋にしてもらいました。因みに、氷狐司令官さんの部屋はこの隣だったりします。
「まだ開発資材はあるハズなのに、なんでかしら?」
「さぁ……?」
暁お姉ちゃんの言うように、開発資材には余裕があります。最低限の資材を使った建造なら、軽く10回は出来るくらいには。ですが、氷狐司令官さんは建造を行わず、着任したことや建造したことを本部に知らせる報告書を書くために執務室に籠もっていました。その間電達は配給された物のチェックと整理、設備がちゃんと動くかの再確認としっかりお仕事していましたよ? 配給品の中にメモ帳があって良かったのです。お布団やパジャマなどは最初から鎮守府の各部屋にありました。シンプルな白い無地のパジャマでしたので、時間が出来たら街に買いに行こうと思います。
「まぁ、司令官には司令官の考えがあるのよね、きっと」
「なのです。それに明日は出撃するみたいだし、燃料と弾薬を温存したかったんじゃないかな?」
メモ帳を開くと、今日の日付の部分には自分の字で八意 氷狐提督着任と書いてある。その下……つまり明日のスケジュールには、起床時間と朝食の時間の記入がされ、更に続いて書いてある“出撃”の二文字とその時間。
明日、ヒトサンサンマル……午後1時30分に、電達は初めての出撃をする。とは言っても鎮守府近海を巡回する程度ですぐに帰ってくる予定だし、仮に戦闘になっても駆逐艦級の深海棲艦が1~2隻くらいだと氷狐司令官さんから聞いている。油断は禁物だけど、気負うことはないのです。
「そっか、明日は出撃なのね……じゃあ明日に備えて早く寝ましょ?」
「はいなのです」
2枚のお布団を敷いて、部屋を暗くする為にスイッチを押す。するとパチッという音の直後、部屋の中はお外と同じように真っ暗になりました。しかし、窓から入ってくる月明かりが足下が分かる程度の明るさをくれます。その明かりを目で追っていけば、窓の向こうに金色に淡く光るお月様が見えました。艦娘となってから初めて月を見上げた気がします。
思えば、今日という日は“初めて”に溢れる日でした。遅刻という初めての失敗……失敗から始まるのが何とも電らしいというか……自分で考えて悲しくなりますが。初めて出来た提督は、懐かしさを感じる不思議な提督でした。初めて誰かを案内しました……電は鎮守府の構造はもう完璧に覚えましたよ。初めて仲間が出来ました。それが暁お姉ちゃんだったのはびっくりしたのです。初めてお料理をしました。氷狐司令官さんにくっついて教わっていた暁お姉ちゃんが羨ましかったのです……。初めて好き嫌いをしました。クリームシチューは好きですが、ブロッコリーは……。初めて秘書艦として働きました。実は氷狐司令官さんの為にお茶汲みもしたのです。その後に淹れてもらったお茶と電の淹れたお茶の味の差に愕然としました……同じ茶葉を使ったのに、あの差は何なんでしょう……。
後半は暗くなってしまったけれど、今日は本当に楽しかったのです。世界が戦争をしていることを忘れてしまいそうなほど平和な時間……だけど、明日は出撃という事実が、戦争という現実を電に突き付けてきます。
「暁お姉ちゃん」
「ん?」
「一緒のお布団で寝ても、いい?」
「全く、電ったら子供ね。いいわよ」
「ありがとう、なのです」
少し温かくなったお布団に暁お姉ちゃんと2人で入り、ゆっくりと目を閉じる。すると思い浮かんでくる、氷狐司令官さんの顔……なぜだか顔が熱くなってきました。だけど、撫でてくれた手のひらの感触を思い出すと……心が暖かくなってきたのです。
「おやすみなさい」
今日は、気持ち良く眠れそうです。
「……ねぇ電」
「……なんですか? 暁お姉ちゃん」
「司令官……いい人よね」
「……ですね」
「……」
「……」
「……ねぇ電」
「……なんですか? 暁お姉ちゃん」
「明日秘書艦変わっ」
「イヤなのです」
今回は電視点でのお話。初めての建造は暁でした。因みに、作者の初めての建造は電でした(初めての建造にして初めての重複ですorz)
第六駆逐隊の集合は二次創作においてテンプレな気もしますが、やはり揃えてあげたいですよね。
尚、この作品は作者の前作及び東方projectとは一切繋がりはありません。同じ名前のキャラがいても、それは他人の空似です←
それでは、皆様からの感想、評価、批評をお待ちしております。