「明日っからまた月月火ー、ほら水木回って金曜、金曜♪ 夢の日々を、大事に生っきっまっしょうー、もういっちょ♪」
雷の機嫌の良さを表すかのような歌声が、台所から食堂にまで聞こえてくる。現在の時刻はヒトキュウヒトハチ……夜の7時過ぎ。俺と白木曾の演習が終わってから3時間程経っているんだが……。
「明日っからまた月月火ー、ほら水木回って金曜ー、金曜♪ 僕ら日々を、戦って生っきってっこー♪ さぁ行くぞ~♪」
「その歌知ってんのかよ! ていうかまだいたのかよ!?」
「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃないか……どうしよう時雨、やっぱり演習のこと怒ってるんじゃ……」
「ていうか本当になんでまだいるの? 君。さっさと帰りなよ」
「お前ら俺のこと嫌いなんだな!? そうなんだな!? 俺泣くぞ!?」
「はわわ……ケンカはダメなのです」
「大丈夫だよ電。これはケンカじゃなくてじゃれあいって言うんだ」
演習が終わったにもかかわらずまだいる白木曾。夕飯を食う気満々だなぁオイ。しかし、本当になんで白夢大将の鎮守府に帰らないんだろうかこいつ……。
「……あ、ひょっとして帰らないんじゃなくて帰れないのか?」
「……うん」
俺の言葉に涙目になって頷く白木曾。何でも向こうの鎮守府の通信コードや白夢大将の携帯番号などを覚えていない為に連絡が取れず、いつもタクシーを呼んでもらっていたのでどうやってタクシーを呼ぶのかも分からず、自力で帰るという無謀(時雨談)なことをする訳にもいかず、こうしてまだ残っているんだとよ。
「……誰かに頼めば良かったじゃないか」
「頼みづらいじゃん。それに、なんかカッコ悪いし……」
「君のどこがカッコイいの?」
「ごめん真顔で言うのやめて、胸がスッゴい痛いの」
恐らく悪気はないであろう時雨の一言にるー……と静かに泣きながら胸を押さえる白木曾、視線を逸らす俺、我関せずの響、泣き出した白木曾を見て慌てる電、料理中の雷。今はこれだけしかいないが、もう少ししたら出撃している奴らも来るかな。イムヤは暁、青葉と一緒に風呂に入っている。俺と白木曾は演習が終わってすぐに入ったから、今日はもう入らないな。
それはともかく、白木曾はこのまま泊まるようだ。なら、また俺が世話しなきゃダメなんだろうか……演習の相手をしてくれたし、それくらいはしてやるか。だが、真夜中にトイレに行くのだけは止めさせよう。
しばらくして、提督と出撃していた面子と入浴していた3人が食堂にやってきた。その時に丁度雷の料理も完成したようで、俺を含め皆一様に手伝いを始める(白木曾は除く)。おっ、今日は肉じゃがみたいだな……雷の作る肉じゃがは糸こんにゃくに一口程に切られた人参に飴色になるまで炒めた後に他の具材と一緒に似られたら玉葱、元の大きさから半分に切られたホクホクのじゃがいも、安いからという理由で肉は鶏肉を使っている……甘めの味付けで飯が進むぞ。
「いいか、まだ食うんじゃない。どうせ熱いとか言ってガタガタ騒ぐんだからゆっくり冷ませ。いいな?」
「ハイ」
「水のおかわりとかは俺がやるからお前は席から動かないように。いいな?」
「ハイ」
白木曾の挙動に細心の注意を払いつつ、俺は俺で食い始める。こいつは猫舌の上に味覚が子供だ、今日は肉じゃがと沢庵、焼き鮭に出汁巻き卵という内容だが、いつポンコツっぷりが飛んでくるのか分からないから気が抜けない。演習が終わってしまえば、こいつはただのポンコツ艦娘でしかない残念艦娘なのだから。
「お゙っ!? 骨が喉に゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!?」
「しまった、小骨は盲点だった! 早く水を飲むか何かぐん飲みしろ!」
「……! ……!?」
「なんでわざわざデカいじゃがいもをぐん飲みしたんだよ!? 米で良かったろうが!」
激動の夕飯を終えた俺達は、食器洗いなどの片付けをしていた。勿論、白木曾は何もさせていない。というかテーブルの上にぐったりとして動かないでいる。別に死んじゃいないが……2、3回ほど追加で喉に詰まらせる、水を飲んで器官に入って咳き込む、沢庵が嫌いだと言って避ける(時雨が無理やり食わせていた)などなどが起きた為に演習以上に体力を使い切ったのだという……俺との演習は食事の時間程の疲労すらさせることが出来なかったのか……。というかあいつ、戦場とはまるで関係ないところで死ぬんじゃないだろうな……正月に餅を喉に詰まらせるとかして。
「……はぁ」
ふと、演習のこと思い返す。結局、俺は白木曾に勝つことは出来なかった。攻撃を当てたのも、何度も何度も戦った中で1度だけ……それ以降に有効打は与えられていない。順当な結果、と言われればそれまでだが……やるからには勝ちたいと思うのは仕方ない。しかも普段がアレだ、その思いは時雨に挑むよりも強い。そこまで考えて、ふと気になることがあった。
「なぁ木曾」
「ん~……?」
「お前と時雨、どっちが強いんだ?」
「あっ、それ私も気になる」
「響も気になるね。とは言っても、響は同じ駆逐艦とした時雨さんに1票入れるケド」
「じゃあ私は元軽巡ってことで木曾に……」
俺の口にした疑問を切欠に、片付け中の食堂が再び賑わう。皆が皆口々に時雨の方が、白木曾かもしれないと言っているが……実際どっち何だろうなぁ。俺は時雨の実力を把握しきれていないし、白木曾も全力じゃなかったし……そう、全力じゃなかった。何せ、雷巡の本領である雷撃を1度も使わなかったんだからな。因みに、俺も使わなかった……というか魚雷が当たるような相手でもなかったしなぁ。
「ねぇねぇ、司令官はどう思う?」
「僕? ……うーん」
俺達と一緒に片付けをしていた提督にも話が飛び、根が真面目なのか考え込む提督……あ、時雨の耳がピクピクと動いているような気がする。
「僕もあっちの木曾をことをよく知ってる訳じゃないから何とも言えないけれど……時雨の実力を疑ったことはないよ」
「氷狐……」
【……むぅ】
時雨に微笑みかける提督、嬉しそうな時雨、不満そうな皆……なんで混じってんだよ白木曾。俺はまあ、まだ実力云々言われるような練度でもないしな……だが、今日の演習で掴んだこともある。後はあの感覚と覚悟を忘れずにいれば、きっと近い内に皆と一緒に戦えるハズだ。俺も、青を守れるハズだ。
「で、実際のところどうなんですか? 青葉、気になっちゃいます!」
「そりゃあ俺だろ。何せ5人の最初の艦娘で1番の命中率を誇るんだからな!」
「僕は僕で5人の最初の艦娘で1番の回避率を誇ってるんだけどね。あくまでも確率だから、矛盾の話みたいなことにはならないだろうケド……」
矛盾の話……どんな盾も貫く最強の矛とどんな矛も弾く最強の盾を自称した商品を売ろうとした商人がいて、じゃあその最強同士をぶつけたらどっちが強いんだ? という話だったか。時雨と白木曾は絶対命中と絶対回避を自称している訳じゃなくて、過去の戦績からなる確率だから別に矛盾してる訳じゃねえよな……5人の最初の艦娘の最高の回避率と最高の命中率か。
「なぁ、他の3人はどうなんだ? 最高のなんたら、っていうのは」
「他の3人と言いますと……響さん?」
「ここにいる駆逐艦“時雨”、軽……今は重雷装巡洋艦“木曾”以外だと……重巡洋艦“古鷹”と正規空母“加賀”。後は……戦艦“長門”だね」
「長門……」
響が指折りで数えながら名を挙げていくが、3人ともこの鎮守府では聞かない名前だな。とは言っても、知らない訳じゃないが……特に長門の名を知らない艦娘はいないだろうしな。ただ……提督が懐かしそうな、悲しそうな声で長門の名を呟いたような……気のせいか?
「で、どうなんですか?」
「古鷹は5人の最初の艦娘の中で1番状況を判断する能力が高かったかな? 僕は彼女が旗艦の艦隊とは絶対戦いたくないね」
「因みに……古鷹は今は紫大将のところにいるぞ……」
「そんな死にかけのような声で後付けせんでいい」
この後時雨が付け足した古鷹の情報は、何でも彼女はその場の判断速度や洞察力が異様に速く的確であり、こと艦隊戦や窮地に陥った際に真価を発揮するんだとか。配属したての頃に古鷹の提案や作戦で危機を脱したことも多く、演習の相手となった場合は何も出来ずに負けたことすらあるという。付いたあだ名が“提督いらずの古鷹”。
「でも紫に戦略ゲームで勝てたことがないんだってね」
「司令官なんで知ってるの?」
「会ったことあるからね……加賀にも会ったことあるよ」
【ほ~……】
因みに、俺はこの日初めて提督が山田総司令と白夢大将の父親代わりであり、紫大将とは友人だと言うことを後で青葉から聞くことになり、提督と総司令達って幾つなんだ? という疑問で眠れなくなることになる。
「加賀は、なんと言っても制圧力ナンバーワンだよね。次々繰り出される艦載機による攻撃で制空権を握り、敵の行動を阻害する……潜り抜けられるのは僕くらいかな?」
「どうせ俺は潜り抜けたことありませんよーだ」
頼むから俺の姿で子供っぽい仕草や言動は止めてくれ……俺じゃないのに滅茶苦茶恥ずかしいんだが。因みに、この加賀は山田総司令の第一艦隊の旗艦をしているらしく、イムヤもよく話したりしていたんだとか。また、加賀は空母艦娘の中でも最速の矢の発射速度と連射速度の記録保持者でもあるらしい。つくづく5人の最初の艦娘ってのは規格外な奴らなんだな。
「ああ、潜り抜けたっていうか耐え抜いた奴はいたな」
「ああ……」
何だか時雨が遠い目をしてる……最早俺では想像することすら出来ないんだが。そういえば、空母と演習したことはなかったな。翔鶴か大鳳に頼めば相手してくれるだろうか。
「で、最後が全艦娘中で最も深海棲艦を倒した、最多撃破数ナンバーワン。付いたあだ名が“無双”……長門。未だに記録は破られていないんだ」
【最多撃破……】
駆逐艦達の目がキラキラと輝いているように見える。俺も似たようなモンだが……強くなる為に日々修練を積んでる俺にとって、5人の最初の艦娘と並び立ち、追い抜くのが目標……その最多撃破記録、絶対に俺の名前で埋めてやる。
「ところで、その長門さんはどこの鎮守府所属で?」
「どこにも所属していないよ。というか……どこにいるのかも分からない」
【……えっ?】
時雨の言葉に、部屋の空気が凍る。どこにも所属していないなら、まだ良かった。だが、どこにいるのか分からないというのは……まるで行方不明みたいな言い方じゃないか。
「……それって……どういう意味?」
「5人の最初の艦娘“長門”は……僕達が艦隊を組んでいた時の最後の戦いから行方が分かっていないんだ」
食堂での話が終わってから数時間……私ことイムヤは、何となく司令官の部屋の窓から空を見上げていた。今日は私が初めて司令官と一緒に寝る番……ドキドキしているのが自分でも分かる。2人っきりなのだ……色々妄想しちゃうのも仕方ないことだと思う。腕枕してもらったりー、司令官のYシャツ(タンスを漁ったらなかった……残念)1枚で隣で寝たりー、狐になってもふもふさせてもらったりー、18歳未満お断りなことも……いけないいけない、私は歩く18禁潜水艦とは違うんだから。
「……司令官……」
軍艦時代、いつの間にかいていつの間にか居なかった“蒼”の正体。私達が軍艦として生まれるずっと昔から生きてきた狐の妖怪。艦娘として生まれた、落ちこぼれだった私の助けになった……私が大好きだった狐の正体。この鎮守府でその正体を知ってから……私の中の狐への愛情が、動物に対するモノから恋愛のモノへと変わった。
もしかしたら、山田総司令は私のこの感情を知っていたから、私をこの鎮守府に異動させたのかもしれない。私は総司令の第一艦隊所属……自画自賛になるケド、総司令の“とっておき”の1人なのだ。その1人を異動させるなんて、普通じゃ有り得ない。そもそも一時的な出向はあっても異動させるなんてこと自体が殆どない。でもこの鎮守府には……私以外にも異動した艦娘がいる。それも6人も。
(……まあ、何で異動させたかは分かるケド)
司令官と過去の繋がりがある艦娘が異動している。人誑しならぬ艦娘誑しの司令官だからこそ、この異常な異動がまかり通っているんだ。だからこそ、ライバルは多い。それはもう多い。そう、今日この機会が……司令官と夜を共にするこの瞬間こそが、最大の好機。
「あっ、もう来てたんだ」
後ろから声が聞こえたのでそっちに向いてみると……襦袢を着た司令官の姿。襦袢の隙間からチラチラ見える鎖骨とか胸がなんだか扇情的で、自分の顔が真っ赤になるのが分かった。うわー、うわー、胸がないから男の人……種族的には雄かしら?……っていうのは分かるんだけど司令官って髪長いし、何だか人間とは思えない美しさというか妖しさを持ってるのよね……人外だから当たり前なんだけど。女の人にも見えちゃうから不思議。
「イムヤ、髪下ろしたんだ。可愛いね」
ハイッ! ニッコリ笑った司令官の可愛い発言頂きました! 幸せに大破撃沈しちゃった私を誰が責められるかしら。やーもう私司令官にハマり過ぎちゃってるわね……どうしよう、総司令に戻って来いって言われた時に即決出来る自信がないわ。ていうかどうしよう、にまにまが止まらないんだけど。
「え、えへへ……ありがとう司令官。そうだ、司令官はもう寝ちゃうの? もう割といい時間だけど……」
「それもいいけれど……イムヤはまだ眠そうじゃないね」
「ええ。だから、ちょっとお話しましょ♪」
そこからは、今までの私の桃色の妄想が嘘のように普通に……2人で同じ布団に入りながらお喋りをした。私が軍艦として生まれるよりも更に前の話、子育ての話、旅の話、士官学校時代の話、今日に至るまでの鎮守府の暮らし……司令官はずっと楽しそうに話してくれた。その中には……私との出会いの話もあった。私との出会いを覚えていてくれたことが、本当に嬉しい。
気がつけば、司令官の声が聞こえなくなっていた。司令官の方を見てみると、もう殆ど眠りかけてる……0時回っちゃってるもんね、そりゃ眠いか。かく言う私もそろそろ眠い……ちょっとくらい抱き枕にしてもいいよね?
ギュッと、司令官の腕に両腕を絡める。見た目よりも筋肉がある司令官の腕は少し硬い。けれど、それは丁度いい硬さで……くっついてると安心出来る硬さ。この腕に抱かれたら……ってちょっと待ちなさい私。ここには司令官がいるんだから……速まっちゃだめ、速まっちゃだめ……だけど、ちょっとくらいなら……そう考えながら、私の手は下へと伸びていき……。
「……んぅ」
その日、私は虚しさを感じながら眠ることになった。
「ヨウヤクダ……ヨウヤク準備ガ整ッタ」
どことも知れない海の底にある洞窟の奥深く、南方棲戦姫は嬉しくて堪らないといった声で呟いた。求め過ぎる程に求めていた“蒼”……それが、もうすぐ手に入る。そのことが嬉しくて嬉しくて堪らないと。
「……」
そんな南方棲戦姫を、いつものヲ級が無表情で見詰めていた。南方棲戦姫その視線に気付くことはなく、眼下の深海棲艦“達”を見やる。その数、およそ100。皆が皆エリートないしフラグシップという、集めに集めた南方棲戦姫選りすぐりの配下達だった。
「ダガ、マダダ……モウ少シ待ツ必要ガアル……ヲ級」
「ヲッ」
「行ケ」
「……ヲッ」
ただそれだけを命じられたヲ級は南方棲戦姫達に背を向け、洞窟から出て行く。その背中に、待ちきれないとばかりに騒ぐ南方棲戦姫の声を受けながら。
「嗚呼、モウスグダ……私ヲ守ッテクレタ蒼、私ガ守ッタ蒼……モウスグ、私ノモノニ……」
その声に、今まで無表情であったヲ級の顔が歪む。しかしそれを見ている者はおらず、またいつの間にか無表情になったヲ級が水中を泳ぎ、海上へと立つ。目標は、“蒼”のいる宿毛湾泊地鎮守府。作戦は……鎮守府から艦娘達を離した上での鎮守府襲撃及び“蒼”の拉致。そこまで行くためには、どうするべきか。暴れて出撃を誘発するだけでは、他の鎮守府の艦隊が来てしまうかもしれない。しかし直接鎮守府に襲撃をかけてしまうと“蒼”に危害が及ぶ可能性がある。ならば、どうするか。
「中カラ直接拉致スレバいい……もうすぐ会えるな、蒼」
ヲ級しかいない月夜の海に、凛とした声が響いた。
「そんじゃあ、またな」
「ああ。迷子になるなよ」
「大丈夫だって。タクシーで帰るんだから」
「いや、向こうの鎮守府で」
「流石にならねぇよ!!」
【(なると思う(わ/のです)よ……)】
~その後の白木曾~
白木曾「ったく、バカにしやがって……」プンスカ
運転手「まあまあお客さん。はい、着きましたよ。お代は既に頂いているので結構ですので」
白木曾「ありがとな、運転手さん」バタンッタタッ
運転手「さて、いつものパターンだと……」チラッ
白木曾「……あれ、どこに執務室あるんだっけ」クビカシゲ
運転手「やっぱり悩んでる……」アキレ
さて、もう2~3編くらいで本作は終了予定であります。もうしばらくお付き合い下さい。どっちつかずはもうしばらくお待ち下さい。
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