艦これ! 妖提督と艦娘の日々   作:d.c.2隊長

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お待たせしました……難産だったというか何というか……長門さんが勝手に動いたorz


長門 8ー2

 この宿毛湾泊地鎮守府に保護されてから3日目の朝がやってきた。ここでの生活は……素晴らしいという他にないだろう。何せ“蒼”が……氷狐がいるのだから。

 

 朝になれば氷狐と出会える。イス取りゲームに勝利すれば氷狐の隣か正面に座り、顔を見ながら各時間の食事が出来る。しかも氷狐が作るにしろ川内が作るにしろ雷が作るにしろ美味い。そして、今の私ではなれないが……秘書艦になればほぼ1日中氷狐と共にいられる。基本的には電が秘書艦らしいが……なんと羨ましい。今すぐにでも変わって欲しいが……現状それは出来ない。新入りの私にはそういう役割はまだ回ってこないのだ。それから、一昨日出撃する者達の見送りに行った時、旗艦……あの時は榛名だった……の者とキスをしていた。ちゅーをしていた。接吻をしていた。あまりの羨ましさに血涙を流してしまい、近くの壁をへこませてしまった……近くに誰もいなかったのが幸いだった。いたら即死だった(信頼度的な意味で)。そして昨日、私は氷狐と共に眠るという偉業を成し遂げたのだ……氷狐の寝顔と匂いを脳内に永久保存するのに一分一秒も無駄に出来なかった為、目は乾いて酸欠になって寝不足という最低最悪のコンディションだが。しかし、その最悪のコンディションさえも私は味方につけることが出来た。なぜなら……。

 

 「なんで出撃も遠征も演習もしてないのにそんなに満身創痍なの?」

 

 「……すまない」

 

 「僕も皆も心配するから気をつけてね……はい、あーん」

 

 「あーむ」

 

 正直死ぬ1歩手前だった私を氷狐が看病ということでこうして側に居てくれる上に食事まで世話してくれるという至れり尽くせりな状況だからだ! 今食べているのは定番とも言うべき梅粥。薄味ながらも梅の酸味が食欲をそそる……まあ最初に見た時は“私は別に風邪を引いた訳じゃないんだが”と内心ツッこんだが……美味いので良しとしよう。この3日間ですっかり胃を掴まれたが、最終的に氷狐は私のモノになるので何の問題もない……おっと、私“達”のモノだったか? まあどちらでも間違いではないがな。嗚呼、しかしこの朝食が終われば氷狐は行ってしまう。安静の為に部屋から出ることを禁じられた以上、心象を悪くしない為に従っておかねば……いや、ここは氷狐の部屋だ。ならば1日はおろか生涯を過ごせる自信が……まあひとまずは食事を終わらせよう。

 

 「長門!? 鼻血出てる鼻血出てる!! 梅粥が真っ赤に!?」

 

 「ふがふが」

 

 

 

 

 

 

 結局体調不良に出血多量が加わって療養期間が長引くことになってしまった。これでは計画が……いや、もう正直に言ってしまえば計画なんてどうでもよくなってきてしまっている。何せ蒼が側にいる日常だ……いやまぁ提督が艦娘と接吻を、キスを! ちゅーを!! しているところを見せつけられたことは凄まじい衝撃ではあったが……胸が引き裂かれるような、タンスの角に小指をぶつけるような、爪と肉の間に針が刺さるような、姫級の攻撃に直撃するような、その他様々な責め苦を同時に受けるかのような衝撃を受けたが。旗艦を任せて貰えるほどの信頼を得れば私にも無理やりではない接吻を、キスを! ちゅーを!! マウス! トゥー! マァァァァウスを!! して貰えるのかと思えばここの生活は素晴らしい。

 

 だが同時に、氷狐を私達……一応“達”は入れておこう……だけのモノにするという誘惑にも抗い難い。私という存在を余すことなく刻みつけて、私に氷狐という存在を余すことなく刻みつけたい。理性がどろどろに溶けるほどに淫猥で、誰にも邪魔されずに不変で、2人だけの爛れた生を送りたい。その為の計画。その為の私。その為の今の暮らし。

 

 ……誘惑には抗えんな。だが、療養を期間が長引いたのは痛い……どこかでリカバリーを……いや、例え戦闘をしなくても“信頼”は得られるか。ここでは、それが出来るのだから。

 

 「お見舞いに来たよ、長門。割と元気そうだね」

 

 (お前がいてくれて助かったよ……時雨)

 

 そんなことを考えながら私は、今居る医務室に入ってきた時雨を見て笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 「療養するように言われたのに……まあ確かに、これなら読むだけだからいいケドさ」

 

 「ありがとう、時雨」

 

 あれから私は、時雨に療養中でも出来ることがしたいと言って彼女にこの鎮守府に所属する艦娘の戦闘記録と、それを照らし合わせて作戦を立てられるようにしたいと言って指揮指南書を持ってきてもらった。これで鎮守府の戦力を図れる……指南書は流し読みする予定だ。記録を見てみると、やはりというべきか撃墜数と被弾率の低さで時雨が群を抜いている。これはこの鎮守府にやってきてからの記録であるにもかかわらず、被弾率が0%を維持しているのは流石は5人の最初の艦娘と言ったところか。

 

 だが、記憶喪失である私が“そんなこと”を知っているハズがない。しかし、ここで知っているとすれば……“5人の最初の艦娘”である時雨は、どう考えるだろうか? 実際に確かめて見るとしよう。

 

 「時雨は被弾率が0%……当たったことがないんだな」

 

 「そういうことになるね」

 

 「そうか……」

 

 

 

 「流石は時雨、“昔”と変わらない回避率だな」

 

 

 

 「……えっ?」

 

 時雨の驚愕している姿に気付かない体を装いながら、私は記録と指南書を読み続ける。ふふっ、氷狐には及ばないが時雨も中々可愛いじゃないか。

 

 今の会話で、時雨の中には渦巻いていた疑念が半ば確信に変わっていることだろう。勿論、ハッキリとした証拠がない以上は“その可能性が高い”止まりだろうが……今の発言しかり、初日の射撃場の壁破壊しかり、“そうである”と意識せざるを得ない。

 

 

 

 つまり、私こそが現在行方不明である5人の最初の艦娘の“長門”である可能性が高い。そして、それは“間違ってはいない”。

 

 

 

 「長門……君はまさか……」

 

 「なあ時雨。君なら今の私をどう使う?」

 

 「ふぇ? あっと、そうだね……」

 

 敢えて時雨の台詞に被せながら、私は時雨に問い掛ける。“今の”というのは勿論、新人の私を、という意味だ。本来ならば、例え戦艦であっても新人であれば部隊後方に配置し、まずは現場の空気や仲間の戦い形を学ばせる。軍艦時代と違い、艦娘として生まれたからには心というモノがある。そのため、戦艦だろうが駆逐艦だろうが緊張はするし恐怖心だって持つ。故に、まずは色んなことを見て学ばせなければならない。例外は、着任したての提督に配属することになる初期艦くらいだろう。

 

 だが、今の時雨ならば……。

 

 「……僕なら、君を直接敵艦隊に叩かせる。君の火力なら直撃すればほぼ確実に相手を沈められるし、僕が相手を撹乱してその場に縫い付けて君が撃てばほぼ当たるだろうから戦闘も早く終わる。仮に外したとしても、着水した時の波で動けなくなるだろうし……」

 

 やはり、時雨は私を直ぐに戦闘に使う方向で話し出した。更には時雨が撹乱したところを私が狙い撃つという戦法……嗚呼、懐かしいなぁ時雨。それは“私達の必勝パターン”だったな。時雨の驚異的な回避率と私の異常な火力で出来る確殺戦法……その説明をすることはズバリ、時雨はもう私を5人の最初の艦娘である前提で考えていることを意味する。

 

 「ふむ……しかし、時雨は新人の私を随分と買ってくれているのだな」

 

 「まあね……そうか、さっきのは無意識……じゃあ行方不明だったのは記憶がないから? でも……」

 

 何やらぶつぶつと呟いているが、この距離では丸聞こえだな。これなら、時雨は私に5人の最初の艦娘の長門という偶像を重ね、無意識に信頼するだろう。“私達が共に過ごした時間”は、それだけのモノなのだからな。なぁ? ……時雨。

 

 

 

 

 

 

 「榛名」

 

 「はい? ああ、響さん。榛名に何かご用ですか?」

 

 鎮守府の建物の外を掃除している最中、私は響さんに声をかけられました。因みに、建物の外の掃除……箒掛けや内部の雑巾掛けなどの清掃は榛名が自分から言い出したことでして、この鎮守府に配属されてからの日課となっています。

 

 これは配属された時に聞いたのですが、私は配属される前は深海棲艦だったそうです。最も、私としての記憶は気がつけばこの姿で海の上に立っていて、他の皆さんに包囲されていたというのが始まりなんですけれど。あっ、今目の前に響さんも私と同じ元深海棲艦だったそうです。しかも私と違って深海棲艦だった時の記憶もあり、更にその前の鎮守府でのこと……深海棲艦になる前のことすらも覚えているのだとか。それ故に、時雨さんを除けば間違いなくこの鎮守府で最強の駆逐艦を名乗れる程の実力です。以前榛名も同じ艦隊で出撃したことがありますが、それはもうお強かったです。

 

 「長門さんのことなんだけど……」

 

 「長門さんがどうかしました?」

 

 響さんが口にした長門さんは、3日前に響さんがいた艦隊が発見した、榛名と金剛姉様、山城さんと同じ戦艦娘の方で、お2人の攻撃にもビクともしない射撃場の壁を破壊するほど火力をお持ちです。記憶喪失と聞いていますが、その真面目でキリッとした姿からすぐに鎮守府に溶け込んだ人です。同じ戦艦娘として、あの火力は憧れますね。

 

 「その……榛名は長門さんに何か感じることとか、気付いたこととかないかな?」

 

 「感じることに気付いたこと……ですか?」

 

 箒を動かす手を止め、響さんに聞かれたことを考えてみる。長門さんに感じることと気付いたこと……食事中に表情が輝くことでしょうか。提督の料理も川内さんの料理も雷さんの料理も美味しいので、長門さんの表情が輝くのも分かります。因みに私は今、3人の方からたまに料理を教わっていたりします。

 

 それはさておき、響さんが聞いているのはそういうことではないのでしょう。それに、わざわざ私に質問してきたというのも気になります。

 

 「特には思い付きませんが……響さんは何か、長門さんに気になることでもあるんですか?」

 

 「……うん、ちょっとね」

 

 そう返した響さんは、帽子を深く被り直して考え込むような姿勢を取りました。その姿を見て、私も改めて長門さんのことを思い返してみます。ですが、やっぱり気になるような部分が見当たりません……いえ、少し気になるというか、感心した部分はありましたね。

 

 「そういえば、長門さんって凄く勉強熱心ですよね」

 

 「……うん?」

 

 「鎮守府の内部の把握とか私達の出撃、遠征の予定表とか見てましたし、今日は時雨さんと一緒にどこかにお勉強しに行くみたいでしたし。後は資料を分けたり提督のところに持っていったりもしてたみたいですね。取りに行こうとした時に持ってきてもらって助かったって、電さんが言ってました」

 

 長門さんがやってきてからまだ3日。出撃も遠征もまだしていない長門さんですが、戦う以外のこともテキパキとこなせる凄い艦娘です。榛名はこうしてお掃除くらいしか出来ないですし……秘書艦のお仕事もしたことはありますが、誤字脱字が目立って金剛姉様にお叱りを受けてしまいましたし。

 

 「……それは……ちょっとおかしいな」

 

 「……?」

 

 「長門さんは自分の名前や艦娘という存在すらも覚えていない記憶喪失。そんな人が資料を分けたり持って行ったり出来ると思うかい? しかも取りに行こうとしたってことは、長門さんに頼んでない……長門さんにそれが必要だと教えていないし、長門さんが知っているハズがない。仕訳も出来ていたって話だし……とても記憶喪失の艦娘に出来ることとは思えないな」

 

 言われてみれば……と思います。資料は文字だらけの物やグラフ、画像付きの物など種類があり、更にはその数も膨大です。その中からピンポイントに選択して分別も出来ている……秘書艦歴の長い電さんでも時々間違うのに、新人である長門さんが出来るというのは……。

 

 「つまり、長門さんは天才さんなんですね!」

 

 「うん、そういう捉え方も出来なくはないんだケド……榛名、時々天然が入るよね」

 

 自信満々に答えたら響さんが何とも言い難い表情で榛名を見ていました。はれ? 榛名は何か間違えたんでしょうか? 改めて響さんの仰っていたことを思い返してみます。長門さんは記憶喪失、なのに資料をちゃんと分け、尚且つその時に必要な物を持ってくることが出来ました。榛名は長門さんが天才だと結論付けましたが、確かに少しおかしいと思います。じゃあ予め知識があったんじゃないでしょうか? あ、でも記憶喪失だったらそんな知識もないんですよね。誰かに教わっていた……というのもないでしょう。長門さんは鎮守府の内部を覚えるように言われてましたし。そもそもなんで長門さんは“その時に必要な書類”を持ってくることが出来たんでしょう。執務室の中には提督と電さんしかいなかった以上、中の様子なんて分からなかったと思うんですが。

 

 「……改めて考えてみると、確かにおかしいですね」

 

 「いきなり意見を変えてきたね。まあそうだね」

 

 「実は記憶喪失じゃなかったり、なんてことは……」

 

 「はっきり言って、響はそうだと思ってるよ……いや、榛名の情報を聞いて余計にそうだと思った」

 

 口元に手を当てながら、響さんはそう言いました。正直に言えば、ここまで話を聞けば榛名も長門さんが本当に記憶喪失なのか疑問に思います。ですが、もし記憶喪失ではないのなら……なぜそんな嘘をつくんでしょうか。そう考えると……榛名は、凄く悲しいです。

 

 「……もう1つ、長門さんがおかしいと思う理由がある」

 

 「まだあるんですか?」

 

 「響達が長門さんを保護した日、鎮守府からそう遠くない海上に深海棲艦の反応があった。でも実際に行ってみれば、いたのは長門さん1人……深海棲艦はどこに消えたんだ?」

 

 「……長門さんが倒した、とか?」

 

 「もしくは響と榛名と同じ、とかね」

 

 ここでようやく、響さんが私に長門さんのことを聞いた理由が分かりました。本当は、響さんはこの話をすることが目的だったんでしょう。長門さんが榛名達と同じ、深海棲艦から艦娘になったかもしれないという話をすることが……ですが、もしそうだとしてもおかしいです。響さんのように記憶が残っているなら記憶喪失ではないですし、榛名のように記憶がないなら行動や知識に疑問が残ります。

 

 この後もしばらく響さんと2人で考えていましたが、結局疑問が晴れることはなく……結論として、長門さんの行動にそれとなく注意するということで落ち着いたのでした。

 

 

 

 

 

 

 「ワカッタ……」

 

 どことも知れない洞窟の中で、南方棲戦姫が通信機を持ってそう呟く。その表情には満面の笑みが浮かんでおり……嬉しくて嬉しくて仕方ないとばかりに体を震わせる。待ち望んでいた時が、すぐそこまできている。もうすぐその存在が手に入る。カウントダウンは既に始まっている。

 

 

 

 「3日後ダナ」

 

 

 

 闇が、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 「ヘイ! 榛名。クリーンは終わりマシタ……って榛名!? ストップストップ!!」

 

 「うーん……あら? 金剛姉様。どうしました?」

 

 「どうしたもこうしたもナイネー……下を見てみなサイ」

 

 「下……ああっ! 地面が抉れて左右に土の山が!?」

 

 「どうしたら箒でそんなことになるんデスカ……はぁ」




その頃の○○は今回はお休みです。

そろそろ物語も終わりが近づいて参りました。長門編では終わりませんが、その次くらいで終わる予定です。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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