艦これ! 妖提督と艦娘の日々   作:d.c.2隊長

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大っ変長らくお待たせしました。待ってて下さった皆様、申し訳ありませんでした。ようやっと更新でございます。

悲報、ほのぼのの消失。長門大暴走。


長門 8ー3

 「期は熟した……とでも言おうか」

 

 私こと長門がいるのは鎮守府にある軍港。私が時雨と共にちょっとした勉強をした日から丁度3日目……あちらの準備は完了したと報告が来た。時刻はヒトヒトサンマル……午前11時半。今この宿毛湾泊地鎮守府にいるのは、時雨、暁、響、雷、電、文月、川内、青葉、金剛、山城、榛名、翔鶴、大鳳、イムヤ……私を含めれば15人。

 

 「少ない……嗚呼、少ないなあ氷狐。私を含めてもたったの15人……2艦隊も出撃すれば鎮守府の防衛は不可能。如何に“5人の最初の艦娘”である時雨がいても、それぞれが一騎当千の実力を誇っていたとしても、それはあくまでも……どこまでも“個人”。数で負ければ対応仕切れず、質が加われば身動きが出来ず、この鎮守府を守ることなど出来はしない」

 

 日が高く、美しく光る水平線の彼方に黒い影が見え始める。ようやくだ……ようやく、私と氷狐は同じ場所で、誰にも邪魔されず、守り、守られ……幸せな日々を過ごす。他には誰もいらないんだ。他には何もいらないんだ。私と氷狐が生きられる世界が、共にいられる世界があれば……他には何もいらない。

 

 艦娘も……深海棲艦も、海軍も! 仲間も!! その全てが私達にとって不要……いらないんだ。

 

 「ほのぼのとした日常は楽しかった。新鮮だった。お前は私達を愛してくれたし、私達はお前を愛した。だがな……私はやっぱり、お前とだけがいいんだ」

 

 私は黒い影に背を向け、鎮守府の中へと戻る。とてもじゃないが、この鎮守府の戦力では数で潰されるのがオチ。そもそも、深海棲艦が直接鎮守府を狙うということは殆どない。それは鎮守府の場所を知らないということもあるが、一番の理由は鎮守府に侵攻するような好戦的な深海棲艦がいないからだ。海軍は、世界は勘違いしている。負の感情により海の底から現れる人類の敵、それが深海棲艦だと。その深海棲艦と戦うために、人類の願いが生んだのが艦娘だと。

 

 

 

 ――違う。

 

 

 

 先に生まれたのは“艦娘”だった。後に生まれたのが“深海棲艦”だった。正しく言うなら……“艦娘が深海棲艦になった”。軍艦として生きていた時代とは違う平和な世界に生まれ変わり、自分の存在意義を失い、愛する者は側にいない。絶望するには充分だった。

 

 原理など誰も知り得ない。人が知ることが出来ない存在だからこそ、私達艦娘と深海棲艦は“人智を越えた存在”なのだ。どれだけ予想しようが、考察しようが、ああだこうだ言い張ろうが、私達でさえ知らない真実を知ることなど出来はしない。

 

 「話がズレたな……まあいい。私がやることは決まっている」

 

 

 

 

 

 

 「長門、準備はいいかい?」

 

 「ああ」

 

 あれから数10分、私は艤装を装備した状態で再び軍港へと来ていた。側にはこの鎮守府の全戦力が集結している……僅か15人ではあるが。

 

 あの後、私は黒い影が近付いてきていると氷狐に報告した。氷狐は私の言葉を聞くや否やすぐに秘書艦だった電に確認させ、確かであると知ると同時に放送を使って皆に出撃準備をさせた。正直、普段の行動や緩い雰囲気からでは想像もつかない速度だった。本来ならば、突然の襲来に慌てふためいている間に私が行動を起こすハズだったんだが……まあ仕方ない。こうなった以上、私も何らかのことをしなければ疑われてしまうだろう。

 

 「超長距離射撃か……」

 

 「私では届きマセーン」

 

 「榛名も自信が……」

 

 「私も無理ね……というか、どの戦艦娘でも厳しいを通り越して不可能だと思うんだけど」

 

 「普通なら無理だね。だけど長門……君なら出来る」

 

 しかし、私が何かする前に時雨が私にやれと言ってきたのが超長距離射撃。明らかに戦艦娘の射程を越える位置にいる敵艦隊を狙撃しろと彼女は言ったのだ。普通ならば、熟練の戦艦娘が不可能だと言っていることを配属されてから一週間に満たない新米の戦艦娘にさせるなどという無茶ぶりはしない。しかし、時雨は私が自分の良く知る“5人の最初の艦娘”だと思っている……本当に、お前がいてくれて助かったよ。

 

 「任せてくれ。なぜかは分からないが……出来る気がするんだ」

 

 私は未だに影としか映らない深海棲艦の軍団に砲口を向ける。射角良し、風向き良し。当てられる自信はあるが、あまり数を減らしてはいけない。やりすぎない程度に数を減らし、私自身はこの一撃の後に下がる。そして時雨達が深海棲艦と戦っている合間に……これで行こう。深海棲艦は半数ほど沈めれば問題ないだろう。私は腕を組んで仁王立ちし、かつての自分を思い出すかのように口を開いた。

 

 「全主砲斉射!! 撃(て)ぇっ!!」

 

 轟音を響かせながら飛び出した私の砲弾は、数秒の間を置いて水飛沫を上げた。流石に遠過ぎて深海棲艦側の被害の確認は出来ないが、水飛沫の位置から考えて狙撃そのものは成功したらしい。そう考えながら、私は2射3射と同じように狙撃していった。

 

 「うん、もういいよ長門。後は僕達に任せて」

 

 「ああ、分かった」

 

 『それじゃあ皆……出撃!』

 

 【了解!!】

 

 私以外の全員が時雨の側にいる意識体となった氷狐の号令の下、深海棲艦に向けて進み始める。私は逆に鎮守府の中へと戻り、艤装のチェックを行って万が一の為の防衛戦力として動けるようにしなければならない。

 

 つまり、今この鎮守府には妖精を除き、動かない氷狐のカラダと私しかいないということになる。このまますぐに事を起こしてしまってもいいが……急がば回れと言うし、時雨達が深海棲艦と接触、開戦してからでいいだろう。そうすればすぐには戻ってこられない上に、意識は完全に鎮守府から逸れる。今でも問題ないだろうが、念には念をいれなければならない。

 

 「もうすぐだ……」

 

 嗚呼……待ち遠しいナァ。

 

 

 

 

 

 

 「榛名、良く聞いて」

 

 もうすぐ深海棲艦と接触するというところで、響さんが小さな声で私に話し掛けてきました。誰にも聞かれたくないということなんでしょう。

 

 「ある程度余裕が出来たら、わざと被弾して下がるという名目で鎮守府に戻るよ。イヤな予感がする」

 

 「それは……やっぱり」

 

 「うん……長門が気になるんだ。今までも可笑しな部分はあったけど、今回の狙撃と時雨さんの対応で確信した……あの長門は、間違いなく“5人の最初の艦娘”の長門だ」

 

 響さんの言うことには、正直に言ってやっぱり……という思いがありました。新米艦娘に向けるにはあまりに厚い時雨さんの長門さんへの信頼、金剛姉様でも出来ないような超長距離射撃を難なく成功させる実力……むしろそうでないなら説明がつきません。そして、響さんの考えでは長門さんは自分が記憶喪失だと偽っていて、それもほぼ確信出来ている……ですが、鎮守府の危機だというのにそのスタンスを変えていないというのがどうにも不自然です。最初に深海棲艦の接近に気付いたのも長門さんですし……怪しいというのが榛名の素直な気持ちです。

 

 「響さんだけ戻るというのは……」

 

 「……もう深海棲艦はすぐそこだ。無理だね」

 

 つまり、響さんの言ったプランで行く他にないということ。それまで鎮守府には提督のお体と長門さんだけに……提督のお体と長門さんだけ? まさか、長門さんの目的は……!?

 

 「響さん!」

 

 「話は後! 来る!」

 

 「くっ……榛名、いざ参ります!」

 

 戦いは始まってしまいました。長門さんの狙撃で数が減ったとは言え、まだまだ数は多いです。エリートやフラグシップ級も多々みられますし……問題なのは、一番奥にいる明らかに他の深海棲艦とは違う威圧感を出している深海棲艦。長い黒髪に巨人と見紛う程の異形の艤装を従えているかのようなあの姿……私の記憶が正しいならば、資料に乗っていた戦艦棲姫という名の姫級の深海棲艦だったハズです。まさか姫級が直接鎮守府に襲いかかってくるなんて……いえ、これは利用出来るかもしれません。かなり危険ですが……。

 

 「主砲、撃ちます!!」

 

 「っ!? 榛名ストップ!! ソイツは……」

 

 金剛姉様が私を止めようと呼びかけていることを無視して、私は姫級に向かって主砲を放つ。結果、私が放った砲弾は姫級の奇妙な防壁によって阻まれました……あれが、姫級が持つという結界。並大抵の攻撃では突き抜けること叶わず、波状攻撃を仕掛けて無理やり突破するしか方法がないと言われるほど。鎮守府全体で見て練度が低い私の攻撃では突き抜けることは出来ないでしょう。ですが……狙いはダメージを与えることではありません。

 

 「弱イナ……砲撃トハコウヤルンダ!!」

 

 「っ!!」

 

 冷笑を浮かべた後、姫級の背後の異形の口が開いて中から巨大な砲身がせり出し……私に向かって轟音と共に放ってきました。直撃すれば一溜まりもないでしょう……ですが、予め反撃されることを予測していれば直撃を避けることは不可能ではありません。

 

 「くぅぅぅぅっ!!」

 

 撃たれる前から回避行動に移っていた私の横を砲弾が飛んでいったことを風圧から感じつつ、私は砲弾が後方に着弾したことによる爆発の風と波に体が打たれましたが……ギリギリ小破止まりまでダメージを抑えられました。余波だけでこの威力なら、掠っただけで致命的になりそうです。本来ならまだやれますと叫ぶところですが……響さんに視線を送ると、丁度重巡深海棲艦を沈めた響さんと目が合い、コクリと頷き合いました。

 

 「榛名! 無事デスカ!?」

 

 「金剛さん、榛名は1度下がらせよう。ダメージのこともあるし、長門1人だけじゃいざという時に対応出来ないだろうし……司令官、時雨さん。いいよね?」

 

 「氷狐、どうする?」

 

 『響の言う通りだね……榛名は鎮守府まで後退して長門と一緒に鎮守府の防衛をお願い』

 

 「すみません……了解です」

 

 会話しながらも戦い続ける皆さんに背を向け、榛名は鎮守府へと向かいます。正直に言って、長門さんを榛名1人でどうにか出来るとは思えません。いえ、そもそも杞憂かも知れません……ですが、可能性がある限りは警戒はしておいた方がいいでしょう。そう考えながら鎮守府の軍港まで戻ってきた榛名ですが……。

 

 「長門さんが……いない」

 

 鎮守府防衛の為に軍港に居るハズの長門さんの姿がありません。補給や艤装の調整をする時間を考えても、榛名達が敵艦隊に向かう時間と戦闘時間、こうして榛名が戻ってくるまでの時間を考えれば、もう軍港にいててもいいハズ……それなのに姿がないということは。

 

 「……提督が危ない」

 

 そう呟き、榛名は執務室へと向かいます。長門さんが何の目的でこの鎮守府にやってきたかは分かりませんが……恐らくは提督が目的だと、榛名は考えています。それが命なのか、それとも提督自身なのかは分かりませんが。時々、長門さんが提督を見る目には狂気というか……狂愛というような色が含まれているような気がしていました。それが見えるのは一瞬だけなので気にしないでいたんですが……。

 

 「……提督に注意を呼びかけるべきでしたね」

 

 「まさかお前が来るとは思わなかったよ……榛名」

 

 執務室へと続く廊下……そこで足を止めた榛名の前に居る、提督の身体を抱き上げて執務室の方から歩いてきた長門さんを見て、榛名はそう思いました。

 

 

 

 

 

 私を除いた全戦力が鎮守府から出て行って開戦した頃を見計らい、氷狐の身体を手に入れてそのまま鎮守府から去ろうとしていた私だったが……いやはや、まさか読まれているとは思わなかった。ただまぁ、読まれていたところで何の問題もないんだがな……しかも来たのが最も練度の低い榛名だ。私という存在を過小評価していると考えるべきだろうか?。

 

 「響が来るかと思っていたんだがな」

 

 あの駆逐艦は私を疑っているようだった。榛名も同じように疑っているようだったから、私を止めに来るとすれば練度の高い響だと考えていたんだが……ああ、なるほどと私は傷ついた榛名を身体を見て理解する。私を榛名だけで止められると思っていたんじゃなく、榛名“しか”私を止められる艦娘がいなかったんだろう。何せ相手は戦艦棲姫率いる深海棲艦の大群だ、練度の最も低い榛名なら、下げても私の狙いに気付いていない味方に怪しまれないし戦力的にもどうにかなる。私に対して少しでも時間稼ぎ出来ればいいという考えか?

 

 「提督を離してください」

 

 「断る。氷狐は私のモノだ。私だけのモノだ」

 

 「提督は、あなただけの提督じゃありません! モノなんかじゃありません!!」

 

 「今はそうだろう……だが、私は氷狐を……彼を私のモノにする。私以外のこの世の全てから隠して隔離して興味を無くさせて意識させなくして見せなくして聞かせなくして口から出せなくして忘れさせて私だけを見せて聞かせて嗅がせて味わわせて触れさせて意識させて興味を持たせて依存させて認識させて考えさせる……邪魔をするというのなら、貴様は暗く冷たい水底へと堕ちて逝け」

 

 私の物言いが許せないのだろう、普段温厚な榛名にしては珍しく声を荒げていたが、私が自分の考えを言い始めた辺りから身体を震わせながら1歩2歩と怯えたように後退りする。その姿が、私にはとても滑稽に映った。私は氷狐を私だけのモノに出来るならば、彼への想いと思い出以外の全てを棄てる覚悟がある。榛名が後退りしたということは、私程の覚悟を持っていないということだ……それでも、艤装の砲をこちらに向けている。流石は氷狐の下にいる艦娘と言ったところだろう。

 

 だが、私を止めるには足りないな。

 

 「撃てば氷狐に当たるぞ?」

 

 「くっ……」

 

 「分かり切っていることだろう。こうして私が氷狐を手にしている時点で……いや、仮にしていなくとも、私と対峙した時点でお前は詰んでいる。気付いているだろうが、私は“5人の最初の艦娘”の1人だ。戦ってきた時間も、磨き上げた練度も、艤装の性能も、何もかもがお前とは違うんだ……こうして話に付き合わず、踏み潰すのは容易だぞ」

 

 事実として、榛名を倒すのは容易い。榛名は氷狐を気にして攻撃出来ないが、私は何も気にする要素はない。それでもそうしないのは、こうして私を止める為に現れた榛名に僅かばかりの敬意を持ったからに過ぎない。

 

 だが、こうして話すのにも飽きた。時間も惜しい。そう考えた私は、弾薬燃料を補給済みの艤装の砲を榛名へと向ける。私と榛名の距離は5mもない……避けられることも防ぎきることも出来ないだろう。

 

 「さようなら榛名。お前のことは……まあ、嫌いではなかったよ」

 

 その言葉を最後に、私は容赦なく砲を放った。

 

 

 

 

 

 

 痛い。熱い。苦しい。全身が痛みを訴え、周囲の炎が身を焦がし、熱された空気と細かな瓦礫が呼吸をする度に苦痛を生む……榛名は今、そんな状態でした。崩れた鎮守府の建物の瓦礫とあちこちに揺らめく炎……正に戦場と呼べるようなこの場所が、ほんの少し前までは私達の大切で安心出来る場所だったなんて……信じられません。信じたくないです。しかもそうしたのが仲間だと思っていた人で……そんな人が、躊躇いなく私達の大切な場所を壊したことが信じたくなくて……でも、疑っていた分納得しているところもあって。

 

 「……ぐすっ」

 

 5人の最初の艦娘……そんな相手の主砲を至近距離で受けて尚、身動き出来ないとは言え五体満足な榛名は、きっととてつもなく運がいいのでしょう。力量の差は歴然。普通なら死んでいる場面で生きている。嗚呼、なんて幸運なんでしょうか。

 

 

 

 「ふぇ……あぅ……ひっ……うぐぅぅぅぅ……!」

 

 

 

 幸運な(そんな)訳がない。止めるべき相手を止められず、助けるべき相手を助けられず、失敗してはいけない場面で失敗した。そのクセに榛名はこうして生きている。例え力の差があっても止めるべきでした。例えこの身に変えても助けるべきでした。例え命尽きようとも成功させるべきでした。

 

 「ていと……ごほっ……てい、とくぅ……! ああああっ!!」

 

 初めての任務失敗。その代償はあまりにも大きく……榛名はしばらくの間、自分の無力感に打ち拉(ひし)がれながら泣き声を上げることしか出来ませんでした。

 

 

 

 

 

 

 「ほう、まだやっているのか。時雨はまだ分かるが、まさか全艦健在とはな」

 

 榛名を倒した後、氷狐の身体を横抱きしながら海に出た私の視界に深海棲艦と戦う時雨達の姿が映った。深海棲艦の数は戦艦棲姫を含めて10隻と少し……予想以上に時雨達の実力が高い。とは言うものの、時雨以外の艦娘は小破ないし中破している。誰1人沈んでいないのはさすがだ。深海棲艦側は残っている艦は皆大破。だが、戦艦棲姫は姫の持つ結界と戦艦特有。装甲のおかげかまだ余裕があるようだ。

 

 「マダダ……マダ私ハ沈マナイ!!」

 

 そうだな……お前は沈む訳にはいかない。氷狐を……蒼を求めてここまで来たんだからな。

 

 

 

 「だが、お前には沈んでもらう」

 

 

 

 私の艤装が火を噴き、それなりに離れた場所にいる戦艦棲姫目掛けて砲弾が飛んでいき……直撃した。時雨達も戦艦棲姫も何が起こったのかわからないという表情を浮かべていたが、私の存在に気付くとそれぞれ別の表情を浮かべた。時雨達は氷狐を抱き抱えている私に疑問を浮かべ、戦艦棲姫は……憤怒の表情を浮かべた。

 

 「裏切ッタノカ……!」

 

 「生憎、私は氷狐だけの味方だ。まあ、氷狐と出会うまでの暇潰しにはなったよ……お前達との仲間ごっこは」

 

 私が撃った砲は戦艦棲姫の結界と装甲を抜き、沈む一歩手前というところまでダメージ与えていた。最早戦艦棲姫に沈む以外の選択肢はない。悔しいだろう、目的を達成出来ず、欲しいモノも手に入れられないまま沈んで逝くのはさぞかし無念だろう。だが、お前が悪いんだ。私と同じ記憶を持ち、私と同じ目的を持ったお前は邪魔でしかないんだから。

 

 「さようなら、もう1人の私。お前の目的は、私が代わりに達成してやろう」

 

 そう言って、私は嘲笑(わら)いながら沈んで逝く戦艦棲姫にだめ押しに砲撃を叩き込んだ。艤装である異形から出る炎に包まれながら無念そうに沈んで逝った彼女に思うところはある。何せ、戦艦棲姫は私の可能性の1つだったのだからな。

 

 だが、私は氷狐を手に入れた。奴は沈んだ。それが全てだ。

 

 「長門……どういうことなんだ? なんで鎮守府にいるハズの君がここにいて、氷狐の身体を……それに、戦艦棲姫が言ってた“裏切った”って……」

 

 「……私の知る時雨は、そこまで察しの悪い艦娘ではない。それともわかっていて聞いているのか?」

 

 「やっぱり、長門は……榛名はどうしたんだい?」

 

 「ああ、お前は気付いていたんだったな、響。榛名なら……どうだろうな。私の砲撃を至近距離で受けたんだから、只では済んでいないだろう」

 

 『そんな……長門、どうして……』

 

 「どうして? 決まっているだろう氷狐」

 

 

 

 「私は、深海棲艦(こちら)側だからな……この姿、見覚えがあるだろう?」

 

 

 

 【なっ……ヲ級!?】

 

 氷狐達の言ったように、今の私の姿は空母ヲ級の姿となっているだろう。以前にも時雨達の前に姿を現したこともある、あのヲ級に。私は、艦娘長門の姿と深海棲艦ヲ級の姿を自在に変えることができる。この能力を利用して、時には深海棲艦として艦娘と戦ったり、時には艦娘として深海棲艦と戦っていたりしたのだ。

 

 だが、もうそんなことをして“暇潰し”をする必要はなくなった。全ては“蒼”と共に居るため。軍艦時代、私を最後まで守ろうとしてくれた存在と、人と同じ姿を持てた現今の時代で共にいるため。それ以外に目的はない。それが出来れば何もいらない。

 

 「だからさよならだ時雨、仲間だった者達。お前達と過ごした僅かばかりの日常は……悪くはなかったよ」

 

 【っ!? ああああ!!】

 

 『皆!!』

 

 艦娘長門の姿に戻り、傷付いた“かつて”の仲間達に容赦なく砲撃を叩き込んだ。せめてもの情けと今まで氷狐を守ってくれた礼、氷狐が見ているということもあり、大破止まりになるように計算してはなったが……。

 

 「回避率No.1は伊達じゃないということか……流石だな、時雨」

 

 「長門おおおおっ!!」

 

 いつの間にか、私の側面に回り込んでいた時雨。その手の主砲は私の顔に向けられている……そして、それが火を吹いた。

 

 

 

 だが、それは私には届かない。

 

 

 

 「正確な射撃だ、それゆえに読みやすい」

 

 「そ……んな……」

 

 深海棲艦の空母が使う丸い艦載機……私の顔目掛けて放たれた砲弾を代わりに受けたそれは、炎に包まれながら墜落して海に沈んだ。私は艦娘長門であると同時に深海棲艦ヲ級でもあるんだ、艦載機の操作など容易い。因みに、艦載機はさっきヲ級になった時に出していた。

 

 そして、それは1機だけじゃない。その数10機……残り9機は今、時雨の腰辺りの高度を保ちながら逃がさないように取り囲んでいる。唖然としている時雨……そんな彼女に、私は主砲を向け……艦載機諸とも破壊する為に放った。

 

 「……さあ、行こう氷狐。私達以外誰もいない場所へ」

 

 私の周囲に立つ者は誰もいない。ようやく邪魔者はいなくなったと安堵の息を吐き……私はその場から立ち去るのだった。

 

 氷狐と2人だけの世界……そんな幸せな未来を夢想しながら。




シリアス100%でお送りしました。ほのぼのなんてなかった。

予定では長門編の次でラストになるため、残り5話くらいを予定してます。今更な話、同時進行は私の技量では厳しいものでした。出来てる人本当に尊敬します。

ガラケーからスマホに変えましたため、更新速度が更に落ちるかと思います。ご容赦ください。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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