独自解釈と独自設定過多。ご覧になるかは自己責任でお願いします。
『任務完了……お疲れ様。僕は鎮守府で待ってるから、その子を連れて帰っておいで』
その言葉を最後に、電の後ろにいた氷狐司令官さんは、本当に幽霊みたいにすぅ……って消えていきました。同時に、電の中から温かさも消えてしまったのが少し、残念です。暁お姉ちゃんと響お姉ちゃんは氷狐司令官さんが消えたことにびっくりしていました。
そんな訳で響お姉ちゃんを連れて鎮守府に帰ってきたんですが……そこには、先ほど消えた氷狐司令官さんがさも当然のように立っていました。さっきまでの幽霊みたいな姿は何だったのかとか、深海棲艦からどうやって響お姉ちゃんを艦娘に戻したのかとか、聞きたいことはあったんですけど……。
「2人共お帰り。任務ご苦労様……そっちの子はようこそ、僕達の鎮守府へ。僕は八意 氷狐。電と暁と……これからは君の提督になる。君の名前を教えてほしいな」
「「ただいまなのです!」」
「氷狐……司令官。響、だよ。軍艦時代、その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ」
「響……よろしく。そして……お帰りなさい」
お帰り、お疲れ様。その言葉から伝わる感情は言葉通りのもので、安心と嬉しさで聞きたいことも疲れも吹き飛んでしまいます。ただ、響お姉ちゃんへのお帰りは、何だか……そう、長く帰ってこなかった家族に対するかのような……。
「……ただいま、司令官」
帽子を深く被って顔を隠した響お姉ちゃんの声は、震えていました。でも、言葉の中には沢山の嬉しさと大きな喜びが見えました。氷狐司令官さんはそんな響お姉ちゃんに近付いて、ぎゅっと抱き締めて頭を撫でます。羨ましいですが……今はガマンです。
不意に、氷狐司令官さんが電達を見ながら口を開きました。
「さて3人とも、艤装を工廠に置いてきたら執務室に来るように。色々と答えてあげるよ」
そう言った氷狐司令官さんの姿は、なぜか電には人間とは思えなかったのです。そしてその思いが当たりであると知るのは……このすぐ後のことでした。
「さて、何から聞きたい?」
電達が艤装を置いて執務室に着いた時、氷狐司令官さんはすぐにそう問い掛けてきました。電達が聞きたいことは、ここに来るまでの道中に決めてあります。響お姉ちゃんは個人的に聞きたいことがあるそうですが、それは最後でいいそうなのです。
「じゃあ私からね。さっきの幽霊みたいな司令官は何?」
「あれは僕の意識だけの状態。電に僕のチカラの一部を流し込んで、そのチカラを媒介にして意識だけを電に憑かせたんだ。普通の人は見えないんだけど、九十九神である君達には見えると考えていたんだけど、当たりみたいだね」
「「「……?」」」
早速分からないことが増えました。氷狐司令官さんのチカラとか、電に一部を流し込んだとか、憑かせたとか……え? 電は氷狐司令官さんに取り憑かれていたんですか? でも、氷狐司令官さんなら……えへへ。
「詳しい話は後にしようか。他には?」
「あ、響お姉ちゃんを深海棲艦から艦娘に戻したのはどうやったんですか?」
あの戦いの時、電達は響お姉ちゃんである深海棲艦を無傷で大破させることに成功しました。その後、氷狐司令官さんは幾つかの言葉を投げかけて手を伸ばしたんです。やったことはたったそれだけ。でもその直後に深海棲艦の姿が光に包まれ、光が消えた後に深海棲艦の代わりに響お姉ちゃんが横たわっていたんです。電が慌てて抱きかかえていなかったら、沈んでいたかもしれません。
「……3人は、深海棲艦はどうやって生まれていると思う?」
「深海棲艦が……」
「どうやって生まれているか?」
「……響が聞いた話だと、色んな負の感情の塊がああいう形になったって話だったよ」
響お姉ちゃんの言葉に続くように、電と暁お姉ちゃんも頷きます。深海棲艦。それは海の底にあるという負の感情の塊から生まれる異形の存在で人類の敵。どういう訳か電達艦娘は深海棲艦がどういうものなのかを初めから知っています。怨みや妬み、殺意や悪意など負の感情が海の底に溜まり、異形へと姿を変えて負の感情を振り撒く災いであると。
「うん、その通り。じゃあ君達艦娘はどういう存在?」
「第二次世界大戦時の軍艦が人類の願い、希望などによって擬人化した存在。軍艦の九十九神だね」
「その通り。響はよく知っているね」
「……まぁね」
氷狐司令官さんに誉められて照れたように帽子を深く被って氷狐司令官さんから視線を逸らす響お姉ちゃん。ほっぺもちょっと赤くて、照れてるのが丸分かりです。あっ、暁お姉ちゃんが悔しそうに睨んでる。電も褒めてもらった響お姉ちゃんが羨ましいのです。
「深海棲艦と艦娘の共通点。それは2つとも、方向は違うけど人類の思いによって生まれたということ。正か負か、それだけの違い。光が艦娘で、闇が深海棲艦。そして闇は光を浸食するものだよね」
「浸食って……まさか」
「その考えはあってるよ電。未練を残した艦娘や負の感情に押しつぶされてしまった艦娘。そういった艦娘達は深海棲艦に浸食され……深海棲艦へと成り果てる。響以外にもいるハズだよ? かつて艦娘だった深海棲艦が……ね」
その話を聞いた時、電はどんな顔をしていたんでしょうか。暁お姉ちゃんは、目を見開いて凄くびっくりしているみたいです。響お姉ちゃんは、顔を真っ青にして自分を抱き締めて震えています。氷狐司令官さんは……電達が部屋に来た時から今までずっと、電達を優しいカオで見ています。その顔を見ているだけで、電は勇気を貰える気がするのです。
だからでしょうか。この話を聞いても、電はあんまりびっくりしなかったのです。
「……じゃあ、その逆……深海棲艦が艦娘になるということや深海棲艦だった艦娘がいるということもあるんですよね? じゃないと、響お姉ちゃんはここにいないのです」
「「あっ」」
「よく気づいたね電。電が言った通り、闇が光を浸食するとは逆の光が闇を照らす……深海棲艦が艦娘になることはあるし、響以外にもそういう報告はちゃんとあるんだよ。そして電が聞いてきた、どうやって響を艦娘に戻したか」
ようやく電が聞きたかったことが聞けるのです。でも、今までの話を聞いて電もちょっと予想は出来ていたりします。艦娘が負の感情にまみれることで深海棲艦となるなら、その負の感情を取り除いてあげればいいのです。氷狐司令官さんが言葉を投げかけて、闇から救い出すみたいに手を伸ばしたように。響お姉ちゃんの寂しさを埋めてあげたように。
電の予想通り、氷狐司令官さんがやったのは、響お姉ちゃんに纏わりついた負の感情を言葉やこちらの正の感情で洗い流してあげたということだそうです。何も不思議なチカラは使わない、誰にでも出来る。普通は深海棲艦に話かけようなんてしません。そもそも、深海棲艦になってしまった艦娘の声なんて聞こえません。そういう意味では、確かに氷狐司令官さんは特別なのです。
でも、誰にでも話かけることはできます。声がなくても、手を伸ばせます。手がなくても、歩み寄ることができます。それは、沈んだ敵も助けたい電にとってはとても嬉しいことなのです。
「手っ取り早いのは、轟沈するくらい攻撃して物理的に剥がすことだけどね。報告で一番多いのは、轟沈した深海棲艦の場所から艦娘が浮かんでくるってパターンだし。深海棲艦になる前の記憶は飛んでるみたいだよ。僕達じゃなかったら戦艦の砲撃とか受けてたかもね」
「良かった。響の相手が司令官達で本当に良かった……っ!」
響お姉ちゃんがさっきとは違う意味で顔を青ざめさせています。戦艦の砲撃を受けるとか、負の感情が剥がれても浮かんでこれそうにないですね……って浮かんでこないパターンって過剰なダメージが原因なんじゃ……?
「こんなところかな。響は何かあるかい?」
「……じゃあ、1つだけ。司令官」
「ん?」
「司令官と響はずっと昔、会ったことはないかい?」
響お姉ちゃんが聞いたことは、前に電が感じたことでした。これは執務室に来る道中に聞いたことですが、響お姉ちゃんと暁お姉ちゃんの2人も、氷狐司令官さんに対して懐かしさを感じたそうです。軍艦時代で、造られた時、出撃した時、帰ってきた時、いつの間にかそこにいて、いつの間にか居なかった“青”。それが氷狐司令官さんと重なってしまうのです。
でもそれは有り得ないのです。電達軍艦が造られたのは今より百年近く昔で、当時の人間はもう存在しないのです。それこそ深海棲艦や電達艦娘のような人外でもない限りは。
「ずっと昔?」
「そう。具体的には、響達が軍艦時代の時」
「あるよ」
「そっか、やっぱり勘違い……えっ?」
「「えっ?」」
えっ? あるんですか? 百年近く昔のことですよ? 氷狐司令官さんは……高く見積もっても20歳を迎えたばかりにしか見えません。とてもとても百年以上生きているようには思えません。でも氷狐司令官さんがウソをついているようにも思えませんし……。
「うー? ああ、この姿じゃ信じられないよね」
そう言った氷狐司令官さんは、おもむろに提督服とセットの帽子を取りました。思えば、帽子を被っていない氷狐司令官さんを見たことがありません。でも、今の話と帽子を取ることになんの関係が……と思った時でした。
「あ」
「え?」
「ふぁ?」
帽子の中からぴょこん、と出てきた青い何かの動物の耳。ふわふわとした毛並みが触ると気持ちよさそうです。それに、獣耳の生えた氷狐司令官さんはなんだか可愛……じゃなくて。
「司令官さん……それ」
「触らせて!」
「ちょ、姉さん!?」
「おっと」
それ、本物ですか。そう聞く前に、暁お姉ちゃんが氷狐司令官さんの後ろに回って獣耳に触っていました……場所が場所なら不敬罪っていうか動きが全く見えませんでした。嬉しそうに獣耳を触ってる暁お姉ちゃんは、普段から言ってる一人前のレディーには遠い気がします……。
氷狐司令官さんはくすぐったいのか、時々身をよじったりしてます。ぴくんぴくんと跳ねる獣耳がまた愛らしくて……って動くんですね。まさか本物なのですか?
「んっ……まぁ見ての通り、耳は本物だよ。それに髪で隠れてるけど……ほらんひゃっ!? 暁、ゆびぃ……いれないで……んんっ」
「ふわふわ~、ふわふわ~♪」
氷狐司令官さんが顔の横の髪をかきあげると、そこに隠れていると思っていたもの……電達にもある耳がありませんでした。変わりにある獣耳……どういうことでしょうか。というかそろそろ、氷狐司令官さんの耳に指を入れていじくり回してる暁お姉ちゃんをどうにかしましょう。
「助かったよ電、響」
「いえいえ」
「どういたしまして」
「いったぁ……」
氷狐司令官さんから暁お姉ちゃんを引き離すことに成功しました。今は響お姉ちゃんが羽交い締めにして元の位置に戻っています。因みに、引き離す際に響お姉ちゃんがげんこつを落としています。
「さて……僕はこの耳が示すように、人間じゃない。僕はね……」
― 狐の妖怪なんだよ ―
“妖怪”。それは古来から人々に恐れられた恐怖の象徴。氷狐司令官さんが言うには、遥か昔には鬼や河童のような妖怪は普通にいて、さらには神様なども居たんだそうです。ですが時代が進むごとに人間はそれらの存在を空想のものとして認識するようになり、感謝と恐れがなくなっていくことにその数は少なくなって……今ではほとんどいなくなってしまったんだそうです。
氷狐司令官さんが消えていないのは、他の妖怪が恐れを必要としているのに対し、氷狐司令官さんが必要とするのは“愛”という感情だからだそうです。恋愛、友愛、親愛……そういったものが人々の心にある限り、氷狐司令官さんは存在するのだとか。
「司令官が響達の近くにいたのは?」
「君達は人々の希望や愛国心、愛する家族や恋人を守るといった人間の心に溢れていて、凄く綺麗だったからね……それは今の君達も変わらない。その在り方も、君達自身も凄く、凄く綺麗だよ」
「「「っ……」」」
裏のない微笑みで見つめられながら言われて、電達の顔が真っ赤になります。やっぱり氷狐司令官さんは天然さんなのです。タラシ、という人なのです。本音で言ってるというのが分かるので、言葉が心に入ってきます。
その後、暁お姉ちゃんが聞いた時に答えた意識だけ憑かせた云々について教えてもらいました。
妖怪である氷狐司令官さんは、妖力というものを使って様々なことが出来るそうです。今回は電とちゅーした時に電に妖力を送り、送った妖力を媒介にして意識だけを電の元へと飛ばして幽霊のような状態になったんだとか。幽体離脱、というのと同じだそうです。あの温かい感じは妖力だったんですね。
因みに、何でちゅーなのかと言うと、口移しの要領で送る方が妖力を送りやすく、お互いに気持ち良くなれるからだそうです。ちょっぴり、残念かな。
司令官の秘密……というのかな。それを聞いた夜、響はなかなか眠れずにいた。部屋は姉さん達と相部屋。それでもまだ部屋の広さには余裕があるから、今はいない妹が来たときも相部屋になるだろう。その時が来るのが、楽しみだな。
体を起こして右側を見てみる。そこには姉さんが眠っていて、左側を見れば電が眠っている。姉妹で一緒に眠る……それも願ったことの1つのハズなのに、少し、物足りなさを感じる。妹が1人足りないから? それもあるんだろう。だけど……。
気がつけば、響は立ち上がって枕を持って部屋から出ていた。向かう先は隣の……司令官の部屋。その前に立って、控え目にノックを3回。
「うー? どうぞー」
「……司令官」
「響? どうしたの? こんな時間に」
こんな時間だからだよ……なんて言えないね。
「司令官。今日は一緒に寝ても……いいかな」
「あーうー……いいよ。おいで」
「お邪魔します」
少し考える仕草をした後、司令官は横になっていた布団の端に寄って響が入るスペースを空けてくれた。そこに入ると、既に布団の中は温まっていた……当たり前か。
目の前には、司令官の顔。昼と変わらない微笑みを浮かべて、響の髪を優しく撫でてくれている。ああ、さっき感じた物足りなさはこれなんだ。人々の持つ愛情によって存在している司令官だからこそ感じる、司令官からの無償の愛情。それが響の心を包んでくれて、姉妹とはまた違う形で寂しさを埋めてくれる。
「……ねぇ司令官」
「なぁに?」
「……姉妹は……全員揃うかな。最後の妹に、会えるかな」
「明日には会えるよ。君達に会いたいって、そう言ってる」
「そっか……」
司令官は、生まれていない艦娘の声……無意識を見ることが出来るらしい。自分の意識を持てない状態の艦娘が無意識の状態でこの鎮守府に来ることを望んだ時、司令官や響達に会いたいと望んだ時、それは声となって司令官の耳に届き、工廠の機械の中に艦娘の姿を見ることが出来るんだとか。そして司令官は声の主の建造に必要な資材を無駄なく使えると……他の提督からすれば喉から手が出るほど欲しい能力だね。
「もうお休み、響。消灯時間は過ぎてるよ」
「ごめん、司令官。眠るまで手を握ってもらっても、いいかな?」
「ふふ、いいよ」
司令官の右手が響の右手を握って、左手が響の体を抱き締めてくれる。口にしてないのに、何で抱き締めて欲しいって分かったのかな……。でも、嫌いじゃない。嬉しい。
響を助けてくれた大きな、温かな手。妖怪だからなのか、手には傷一つない上にすべすべとして、大人の大きさなのに子供みたいな不思議な手をしてる。この手が、響の名を呼ぶ声が、響を助けてくれたんだ。髪を撫でてくれて、温かい気持ちをくれるこの手が。司令官。響達の、提督。
「お休み、司令官」
「お休み、響」
もう、悪夢は見ない。独りぼっちの現実は、存在しない。会いたかった姉妹がいる。手を引いてくれる司令官がいる。人間じゃないけど、そんなことは関係ない。響達の最高の司令官。響の……最高の司令官。
「Спасибо(ありがとう)、司令官」
もう眠ってしまった司令官に感謝の言葉と……お礼を1つ。電としたんだし、響もいいよね。そう自分に言い訳して……響は、司令官に内緒で初めてを捧げた。
「雷(いかずち)よ!かみなりじゃないわ!そこのとこもよろしく頼むわねっ!」
次の日、司令官は本当に最後の姉妹……特Ⅲ型、暁型三番艦“雷”に会わせてくれた。これで4人揃った。欲しかった世界が……姉妹がいる世界が現実になった。
「雷ぃ!」
「きゃっ!? え、ちょ、響姉!?」
Спасибо(ありがとう)、司令官。何度でも、何度でも感謝の言葉を送るよ。
泣いて抱きついた響をびっくりしながらも抱き締める雷がいる世界をくれたことに。仕方無さそうに苦笑いして響の頭を撫でる姉さんがいる世界をくれたことに。貰い泣きしたのか少し涙目になって響達を見守っている電がいる世界をくれたことに。そして、あなたという司令官がいる世界に。
Спасибо(ありがとう)。
これは、まだ不思議な提督と艦娘達が紡いでいく日々の序章に過ぎない。始まったばかりで、語っていくことはたくさん、たくさんあるのだ。
このお話は、謎の敵である深海棲艦に対して人類と艦娘と呼ばれる存在が手を取り合い、血で血を洗う戦争の日々を歩む……というのとは微妙に違う。
これは、とある鎮守府に着任することとなった“妖(あやかし)提督”と、数人の艦娘達がほのぼのと、時に甘く、時に慌ただしく日々を過ごしていく。
ただ……それだけのお話。
「ねぇ司令官。私と司令官って、どこかで会ったことない? 具体的には軍艦時代に」
「うん、あるよ」
「そうよね、流石にそんなわけ……えっ?」
「あるよ」
「えっ?」
(((あ、なんかデジャヴ)))
今回で作内で必要な設定と電編、タイトルの妖提督の正しい読み方が分かりましたね。設定の説明に関しては分かりづらい部分や矛盾などがあるかと思いますが、ご容赦を。
何気に揃った第六駆逐隊。作者は揃ってませんがね。響、なぜ来てくれないorz
尚、ここまでで一旦更新ペースを下げようと思います。話数はキリのいいところまで稼げましたしね。
それでは、皆様の感想、評価、批評をお待ちしております。