ストリートファイトスペース。ここには例の如く強いファイターが集まる。それはおそらく変な奴の周りに変な奴らが集まるように強い奴の周りには強い奴が集まるといった類友理論だろう。
夕暮れ時。俺は自分が知る強い奴の中でも3本指に入るであろう強い奴と出会った。というよりは直感だ。なんとなく会える気がしたのだ。
「そういえば、今度の週末あすちゃんとバトルするんだっけ?高校の時にやった全国以来じゃない?」
「はい。あいつと会えるのも久しぶりで楽しみです!」
「あすちゃんのやつ、去年から年末年始くらいしかこっちに帰ってきてなくてずっと向こうでいるから兄さん寂しいよ」
ゆゆゆさんは笑ってはいたけど結構寂しそうな顔をしていた。話題を変えよう。
「そうだ、ゆゆゆさんプロデビューして大活躍じゃないですか!」
「ああ、まぁまだ1年目だからね。2年目からが勝負だよ〜。それに今年はシングルで起用される事が多かったけどダブルやトリプルでもチームを支えれるようにならないと。」
この男の怖いところはどこまでも前へ進もうとする貪欲さだ。それに関していえば右に出るものはいないだろう。俺には無い推進力だからシンプルに憧れる。
「ハハハ…。ゆゆゆさん相変わらずですね。」
「そう?でも、さわらくんだって相変わらずだと思うよ。」
「え?」
「この時間帯にここに来るってことは俺がいると思って来たんだろ?」
そう。俺の直感にも理由があった。実はこの夕暮れ時のこの場所でなんどもゆゆゆさんと野試合をしてきたからだ。それは高校生のときも大学にあがってからもだ。そして来た理由はもちろん…。
「ゆゆゆさん、俺とバトルして下さい。」
「あすちゃんとやる前に俺なんかが調整役でいいの?らんゆり先生とかの方が絶対良いよ〜。」
「いえ、今兄は不在でして…。」
「もしかして自殺の名所めぐり!?」
「なんで、みんなそうなるんだよ!!」
兄さんってそんなに仕事に追い詰められてたのかよ…。まぁ、教員ってブラックだしな…。
「それはさておきあすちゃんとやる前にもう一度自分の実力ちゃんと分かっておきたくて。」
「なるほどね。俺で調整役が務まるかはわからないけど引き受けよう!」
「ありがとうございます!でも調整役じゃなくて本気でお願いします。」
俺は真剣だ。あすちゃんに勝ちたい。だからこの一戦で得るものを少しでも多く得たい。
「…。わかった。じゃあ本気でやらせてもらうよ。」
ゆゆゆさんの顔つきが変わった。さっきまでの優しい顔から一変して勝負するときの顔になった。周りに漂うオーラが半端なく感じてきた。これが、プロ…。
「それじゃあ、早速やろうか。」
ゆゆゆさんは自分の鞄から青い機体を取り出す。
ガンダムソフィエル。ゆゆゆさんがエクシアリペアとケルディムをベースに独自に作ったオリジナルガンダムだ。高校生の時からの愛用機で常に改修し続けてプロとなった今も使われている。さらにゆゆゆさんはオールラウンダープレイヤー。ソフィエル自身もどんな戦況にも合わせて戦えるようになっていてパイロットとの相性も抜群だ。
「ソフィエル…。相手にとって不足なし…!!」
そう言って俺が取り出したのはガンダムアストレア。だがこれもただのアストレアではなくバトル用に改造した機体だ。アヴァランチエクシアなどのソレスタルビーイングの第二世代の機体で近代化を目指したというイメージで作った。名はガンダムアストレアtype.R. Rには「リジリエンス」という「回復力、負けない力」という意味合いが込められている。俺のスタイルもオールラウンダーではあるがゆゆゆさんほど完成されてはいない。ゆゆゆさんは基本にどこまでも忠実でまさにその戦いぶりはまさに教科書。バイブルだ。この戦い、オールラウンダー同士ではあるが力の差は歴然としているのかもしれない。それでもやるしかないのだ。いつだって成長出来るさせてくれるのは強い相手とのバトルから生み出される刺激なのだから。
互いにファイトスペースに自分のガンプラをセットする。
夕暮れ時に緊迫する雰囲気。この感触久しぶりだ。ゆゆゆさんとは大学が同じでも俺が入学して一年経つとプロと契約してからは部活には顔を出さなくなった。
プロになったゆゆゆさんと闘うのは久しぶりだ。テレビでもよく見ているけどその戦いぶりは1年目の戦いには見えない。自分でもわかるくらい心臓の鼓動が早くなっていた。
バトルスタート。
舞台は広大な荒野。何もなく、シンプルでいい。
「さぁ、いくぞ!さわらくん!!!」
ゆゆゆさんが先制してきた。よほど自信があるのかなんのためらいもなく正面から突っ込んできた。
「速い!」
ソフィエルの高速移動から繰り出される射撃をかろうじて避ける。射撃は正確で精密だった。そして計算されている。
「甘いぞ!」
射撃を避けられるのは予測されていたのか、俺が避けたコースにすでに回り込んでいる。これがバイブル…!
「でも、こんな教科書通りじゃ読めますよ!!!」
釣り出したのはむしろ俺の方だった。もともと近接が強い俺のアストレアにとってこの距離はGNソードを繰り出すには好機だ。
「くらえ!!」
アストレアは背後に回り込んだソフィエルに対し攻撃と転回を含めた回転切りを行った。
「やるな!」
ソフィエルもここにはすかさず後ろに飛んで避けたがアストレアは止まらない。回転切りの反動を生かしそのまま近接戦へと持ち込む。連続での攻撃を仕掛けるがソフィエルは速くなかなか当たらない。
「あたれぇ!!」
アストレアの攻撃がソフィエルの右肩にヒットした。しかし音は鈍い。決定打にはならない。しかしここでソフィエルも反撃開始。ビームサーベルを構え攻撃してくる。とてつもなく速く見えなかった。
「見えない…?…うわっ…!!!」
ソフィエルのスピードはハッキリいって異常だ。速すぎて捉えられない。上から横からと次々とダメージを受ける。このスピードを生かした闘いはゆゆゆさんが得意とするやり方だ。
「さわらくん。棒立ちだぞ?あすちゃんは俺より速いよ!」
更に攻撃は早くなる。見えたと思ったら消え、そして攻撃を喰らう。その繰り返しだ。しかも速いだけでなく攻撃も鋭い。適所を狙ってきていて、このまま受け続けると機体が持たない。
「しゃあない。あれを使うか…。」
アストレアの各所に付けられたGNスラスターが展開していく。
「圧縮粒子開放…!!!」
圧縮粒子開放とはアストレアに各所に付けられたGNスラスターの粒子を解放することで機動力を何倍にも跳ね上げらシステムである。
「捉えた!」
高速で動くソフィエルに横からドロップキック。
これはクリティカルヒットだろう。空中を舞っていた天使は地へと落ちていった。
「やるじゃないか。そうでないと面白くないよ!!」
ソフィエルのスピードのギアがさらに上がった。そのままアストレアとソフィエルの一進一退の高機動空中線がはじまった。ほぼ互角。だけどお互い決定打に欠ける。表示される両者の体力ゲージは黄色を示しはじめた。
「これじゃあ拉致があかない!さらに出力をッ!」
アストレアの粒子開放がさらに加速する。機体の熱量もそれに伴って上がっていく。
「粒子開放 過剰放出ッッ!!」
限界を超えた粒子開放は粒子を結晶化させGNビットを精製した。キラキラとそれはとても綺麗だった…。
「これでどうだぁぁ!!!」
さらに機動力を増したアストレアは剣を構えGNビットとと共にソフィエルを落としにいく。完全に捉えた。この一撃で決まる。ゆゆゆさんを倒す日がついにきた…。だがその瞬間ゆゆゆさんはニコッと笑っていた気がした。
その試合に観客がいれば誰しもがそう思っただろう。全世界、全宇宙、全銀河のみなさんがそう思ったはずだ。そう、思ったはずなんだ。いわゆる自明というやつだった。そうあるべきだったのだ。
倒したと思った瞬間、俺にも何が起こったかあまり理解できていなかった。突然ソフィエルがキラキラと輝きだしそしておれの避けられるはずのない超高速攻撃は避けられあっという間にカウンターをくらって負けた。しかもたった一撃で。その時のソフィエル能力は限界の限界を超えていたように感じた。しかしそれはよくあるトランザムシステムとはまた違っていた。なにせ、機体は紅潮していなかったのだから。そして俺はそれがなんなのか思い出した。
「天衣無縫…だったのか…?」
天衣無縫。その言葉を発したのもその存在を思い出したのもいつぶりだろうか。ゆゆゆさんが高校3年の全国大会の決勝で見せた限界を超えた者がさらにその先へ進む究極の場所。天衣無縫にたどり着いた者はその字の如くただ天真爛漫にバトルを楽しみ、その楽しみが爆発的な力を引き出す。と言われているがそれが本当かは分からない。
バトルが終わる頃にはすでに日が落ちていた。
「あの。ゆゆゆさん…。」
「久しぶりに楽しかったよ!さわらびくん!ありがと!!」
「い、いえ。それはこちらこそありがとうございました。その、最後のって…。」
「楽しむ心。忘れちゃダメだよ?」
天衣無縫。自然体でありながらとてつもなく強い。これ以上言葉がいらないくらい強いのだ。勝利にこだわらなければならないこの世界でただ楽しむというのは難しいことなんだけどな…。
「じゃあ、今日はこのくらいにしといて帰ろっか。」
「はい。じゃあ今日はこの辺で。って今日は?!」
「え?これから試合まで毎日やらないの?」
「逆にやってくれるんですか!」
「はじめから、そのつもりだったけど?」
ゆゆゆさん、天然発動。これも天衣無縫の強さの一部か?
「あすちゃんに勝ちたいなら俺の天衣無縫ぐらい破ってもらわないとね!」
「いや、それにはあと100年はかかりそうです…。俺も自殺しようかな…。」
「まぁまぁ、そう言わずに!帰りはラーメン奢ってあげるから〜。」
「本当ですか!?今日替え玉無料のところあるのでそこ行きましょう!!」
そこから俺はゆゆゆさん直々に試合まで特訓を受けることになった。
〜一方京都にて〜
「あちー!京都の夏は暑いんだって!!ちょっとは北陸出身の俺を労われ!!!」
「あすちゃんのやつ学校休んでどこにいるかと思ったら比叡山の山の中って。あいつは授業僧かよ…。しかも虫多いし。ここはど○ぶつの森じゃないだぞ…。」
「やっと見つけた…。」
静かな山の中の歴史ある寺で座禅を組んでいる男がひとりひっそりと佇んでいた。