オルガ、痩せた?
三日月・オーガス
『今からちょうど一年前・・・我らは多くのことを学ぶこととなった』
全校生徒が集まった来禅高校の体育館は今、異様な雰囲気に包まれていた。
壇上に立ったクラスメイトの山吹亜衣が、拳を握りながらマイク越しに声を絞り出す。
『苦汁の味を、敗北の屈辱を・・・・・這い蹲らされた地の冷たさを』
拳を震わせながら憎々しげに言っていた亜衣が、バッと顔を上げる。
『さあ諸君。見るも哀れな敗残兵諸君。私は君たちに問いたい。我らは苦汁を舐めたままなのか?這い蹲ったままなのか?敗北に沈んだままなのか・・・!?』
ダン!て亜衣が拳を演台に叩きつける。マイクのハウリング音が辺りに響き渡った。
『否!否だ!彼奴等は重大な失敗を犯した!それは我らにもう一度この復讐の牙を研ぐ時間を与えてしまった事である!次こそ我らに勝利あれ!』
『おおおおおおおおおおおおおッ!』
周りが盛り上がっている中で、ユージンは隣にいる士道に言う。
「なあ、三日月・・・・」
「んー・・・なに?」
「お前らのクラスっていつもこうなのかよ?」
「まあ、うん。だいたいこんな感じ」
「マジかよ・・・」
頬を引きつらせるユージンに対し、士道は慣れた様子でその光景を見つめる。
そんな中、十香が士道に視線を向けながら言ってきた。
「シドー、亜衣は一体何を言っているのだ?どこかと戦争でも始めるのか・・・?」
「やらない」
士道はそう答えて、隣にいたユージンは十香に説明する。
「今月はあれだ、天央祭があるんだよ」
「天央祭?なんだそれは」
「んー、まあ簡単に言うと文化祭だ。他の学校と合同でやるバカでかい文化祭って覚えてりゃいい」
そう説明するユージンに対し、士道は欠伸する。
話を禄に聞いていない士道に対し、ユージンは十香に説明を続けていく中、壇上にいる亜衣の話が続いていく。
『それじゃあ今から、桐崎生徒会長以下数名が、ストレスと過労でぶっ倒れたので、実行委員の代役を決めたいと思います』
瞬間─────
つい数瞬前まで声を響かせていた生徒たちが、一斉に静まりかえった。
これはまずいと思ったのだろう、亜衣が身振りをしながらフォローを入れてくる。
『いや、っていってももう大体の仕事は終わってるのよ?ホント。会議のとき座っててくれるだけでいいからさ!』
そう言ってはいるが、誰もが視線をそらし始める。
そんな中で、耶俱矢と夕弦が士道がいる此方へと向かってきた。
そして小さな声で耶俱矢が士道達に聞いてくる。
「ちょっと・・・この雰囲気どうなってるのよ?静まりかえってるじゃん」
「さあ?」
士道にとってはどうでもいい事だが、ユージンは苦い顔で二人に言う。
「忙しいんだよ。ああ言ってっけど、実際は滅茶苦茶大変なんだよ。多分やったらオルガみたいになる自身あるぜ」
「だってさ」
「疑問。オルガとは誰でしょうか」
用は忙しいと思えばいいだけである。
静まる空気の中、こちらをジッと見つめられるような視線があった。
「ん?」
士道はその視線の先に目をやると、そこには鳶一折紙がジッとこちらを見つめていた。
ユージンが近くにいる間は、彼女も近づいてこないので士道としてはかなり気が楽にはなったが、ここの所は視線を送ってくることが多くなった。
「・・・・・・」
士道はすぐに折紙から視線を離した視線の先に、殿町が恨めしそうに目を寄こしていた。
「?」
その理由が分からない士道は首を傾げると、殿町がぐるりと身体の方向を変えたかと思うと、不意に大声を発しながら手を高く上げた。
「議長!」
『はい、殿町くん』
「天央祭の実行委員に、五河士道くんを推薦しますッ!」
「は?」
唐突な殿町の発言に思わず、士道は声を出してしまう。
そんな士道に対し、周りからは次々と声が上げられる。
「賛成!頼んだよ、五河くん!」
「賛成!俺達の意思を託せるのはお前しかいない!」
「三日月、お前どんだけアイツから恨まれてんだよ?」
ユージンもそう声が上げられるが、士道としてはそれどころではない。すぐにやらないと言おうとした時、壇上から亜衣が声を響かせた。
『諸君らの声、しかと受け取ったぁッ!二年四組五河士道くんを、他薦、賛成多数により、天央祭実行委員に任命しまッす!』
「は?」
『おおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
体育館に大歓声が上がる中、ユージンが士道に言う。
「・・・多分お前じゃ無理だから俺もやるわ」
士道ができない事を代わりにユージンが手伝ってくれるのが、この中で唯一の救いだろうか。
なおこの後、殿町は三日月にボコられた模様。