デート・ア・オルフェンズ   作:鉄血

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「死なねぇ!死んでたまるか!このままじゃ・・・こんなところじゃ・・・!終われねぇ!!だろ?ミカァッ!」

オルガ・イツカ


第二話

それから、およそ三時間後。

 

「五河ー、どうせ暇なんだろ、飯いかねー?」

 

始業式を終え、帰り支度を整えた生徒たちが教室から出ていく中、鞄を肩がけにした殿町が話しかけてきた。

昼前には学校が終わることなど、テスト期間以外ではそうない。周りをみると、ちらほらと友人とどこに昼食を食べに行くか相談している集団が見られた。

 

「ごめん。今日は約束があるんだ」

 

「なぬ?女か?」

 

士道の言葉に女かと反応する殿町。

それに士道は答えた。

 

「まぁ、そうだけど・・・琴里だよ」

 

「んだよ、脅かすんじゃねぇよ」

 

「殿町が勝手に驚いただけでしょ」

 

「でもま、琴里ちゃんなら問題ねぇだろ。俺も一緒に行っていいか?」

 

「別に。かまわないよ」

 

と、士道が言った途端、殿町が士道の机に肘をのせ、声をひそめるように言う。

 

「なあなあ、琴里ちゃんって中二だよな。もう彼氏とかいんの?」

 

「さぁ?聞いてないけど?」

 

「いや別に他意はねえんだが、琴里ちゃん、三つくらい年上の男ってどうなのかなと」

 

「さぁ、そんなの琴里に聞けば?」

 

士道は殿町の質問にあまり興味を示さず農業の本を鞄に片付けて席から立ち上がる。

 

「だっておめ、琴里ちゃん超可愛いじゃねぇか。あんな子と一つ屋根の下とか最高だろ」

 

「別に。そう考えた事ないけど」

 

士道からしてみればよくトレーニングの邪魔をしてくる世話のかかる妹というだけとしか思わなかった。

だが、鉄華団の皆と同じ家族なのだから守っていこうという意識はある。

 

「そういうもんかねぇ」

 

「そういうもんでしょ」

 

───と、その瞬間。

 

ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ─────────

 

「・・・・・!!」

 

教室の窓ガラスをビリビリと揺らしながら、街中に不快なサイレンが鳴り響く。

 

「な・・・・なんだ?」

 

殿町が窓を開けて外を見やる。

サイレンに驚いたのか、カラスが何羽も空に飛んでいた。

教室に残っていた生徒たちも、皆会話を止めて目を丸くしている。

と、サイレンについで、聞き取りやすいようにするためか、言葉を一拍ずつ区切るようにして、機械越しの音声が響いてきた。

 

『───これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します───』

 

瞬間、静まり返っていた生徒たちが、一斉に息を呑む音が聞こえた。

──空間震警報。

皆の予感が、確信に変わる。

 

「おいおい・・・マジかよ」

 

殿町が額に汗を滲ませながら、乾いた声を発する。

だが、殿町を含め、教室の生徒たちは、顔に緊張と不安こそ滲ませているものの、比較的落ち着いてはいた。

少なくとも、恐慌状態に陥ったりする生徒は見受けられない。

この街は三十年前の空間震によって深刻な被害を受けているため、士道たちは幼稚園の頃から、しつこいほどに避難訓練を繰り返されていたのである。

加えて、ここは高校。全校生徒を収容できる規模の地下シェルターが備えられている。

 

「シェルターはすぐそこのはずだよ。落ち着いて避難すればいい」

 

「お、おう、そうだな」

 

士道の言葉に、殿町がうなずいた。

走らない程度に急ぎ、教室から出る。

廊下には、もう既に生徒たちが溢れ、シェルターに向かって列を作っていた。

と────士道は気づいた。

一人だけ、列と逆方向───昇降口の方向に走っている女子生徒がいたからだ。

 

「銀髪の人?」

 

そう、急ぎながら廊下を駆けていたのは、あの鳶一折紙だった。

 

「銀髪の人、何でシェルターがない所に・・・」

 

士道は首を傾げながらも、殿町とともに生徒の列へと並ぶ。

銀髪の人のことは気にはなったが、別にどうでもいいかと思い列に待つ。

 

「お、落ち着いてくださぁーい!だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃー!おかしですよ、おーかーしー!おさない・かけない・しゃれこうべーっ!」

 

前には生徒を誘導しているタマちゃんの姿が・・・

 

「・・・・なんか自分より焦っている人を見ると落ち着くよな」

 

「そう?俺は別に思わないけど」

 

殿町の言葉に素っ気なく言う士道に殿町は苦笑する。

まぁ実際、なんとも頼りない彼女の様子に生徒たちは不安を感じるより、緊張がほぐされているように見える。

ふと士道はあることを思い出し、ポケットを探ってスマートフォンを取り出した。

 

「ん、どうしたんだよ五河」

 

「琴里に電話」

 

士道は短く言って着信履歴から琴里の名を選んで電話をかける。

が───繋がらない。何度か試すが、結果は変わらなかった。

 

「ダメか。琴里、ちゃんと避難すればいいいけど」

 

まだ中学校を出ていなかったら大丈夫だろう。

問題は、もう既に学校を出ていた場合だが。

だが、あの近くにも公共シェルターがあるはずだし、普通に考えれば問題ないのだが、どうにも嫌な予感が拭いきれなかった。

今朝の言葉が先程からずっと渦巻いたままだった。

 

「確かあれがあったっけ?」

 

確か琴里の携帯には、GPSというものがついていた筈である。

慣れない手つきで操作すると、画面に上から見た街の地図と、赤いアイコンが表示された。

 

「──!」

 

それを見て、士道は息を飲んだ。

琴里の位置を示すアイコンは、約束のファミレスの真ん中で停止していたからだ。

士道は生徒の列から抜け出しすぐさま走り出す。

 

「お、おい、どこいくんだ五河!」

 

殿町の声を無視して士道は走る。

列を逆走して昇降口に出る。

そのまま速やかに靴を履き替えると、外へと駆け出していった。

校門を抜け、学校前の坂道を駆け下りる。

士道は、今出せる最高速度で足を動かしながらファミレスへと向かう。

士道の視界に広がっているのは、車の通らない道路に、人影のない街並みだった。

街路にも、公園にも、コンビニにも、誰一人として残っていない。

先程まで、誰かがそこにいたことを思わせる生活感を残したまま、人間の姿だけが街から消えている。

まるでモビルスーツの戦闘が始まる前の街道のようだった。

三十年前の大空災以来、神経質なほど空間震に対して敏感に再開発されたのがこの天宮という街である。

公共施設の地下はもちろん、一般家庭のシェルター普及率も全国で一位と聞いた事があった。

それに最近、空間震の頻発もあってか避難は迅速だった。

 

「無事だと良いけど・・・!」

 

呟きながら走る。

そして走りながらスマートフォンの画面を開く。

琴里を示すアイコンは、やはりファミレスの前から動いていなかった。

士道は琴里の無事を心配しながら、ファミレスを目指して走り続けた。

 

と───

 

「・・・っ、なんだ?」

 

士道は足を止め、顔を上方に向けた。

視界の端に、何か動くものが見えた。

士道は眉をひそめ目を動かす。

 

「三つ・・・いや四つか。何か飛んでるな・・・」

 

だが、すぐにそんなものは気にしていられなくなった。

なぜなら───

 

「くっ・・・・!!」

 

士道は思わず腕で顔を覆った。

突然進行方向の街並みがまばゆい光と共に包まれたからだ。

続いて、耳をつんざく爆音と同時に、凄まじい衝撃波が士道を襲う。

 

「ちっ・・・!!」

 

反射的に足に力を入れ踏ん張ろうとしたが無駄だった。

台風も勝るに劣らぬ風圧に煽られ、バランスを崩して後方へ転がる。

 

「一体なんだ・・・?」

 

まだ少しだけチカチカする目を擦りながら、身を起こす。

 

「街が・・・」

 

士道は自分の視界に広がる光景を見て、一瞬だが呆然とする。

今まで目の前にあった街並みが目を瞑った一瞬のうちに跡形もなく、なくなっていたから。

 

「何なんだ・・・一体」

 

士道はそう呟く。

何の比喩でも冗談でもない。

まるで削りとられるかのように消し去っていた。

そして、クレーターのようになった街の一角の、中心。

そこに、何やら金属の塊のようなものが聳えていた。

 

「誰かいる」

 

士道はそんな物よりも先の爆発によって消えさった筈の場所に人の気配を感じ警戒する。

遠目のため細かい形状までは見取れないが───椅子のような形をしているように見える。

だが、重要なのはそこではない。

その椅子の肘掛けに足をかけるようにして、奇妙な服を纏った少女が一人、立っていたからだ。

 

「アイツ・・・何かヤバイな」

 

雰囲気でピリピリとした感じが士道には伝わっていた。

すると、少女が気怠そうに首をこちらへと回し、士道の方へと顔を向けた。

 

「ん・・・・?」

 

自分に気付いたのだろうか。少しだけ遠く分かりづらい。士道が再び警戒するように見ていると、少女はさらに動きを続ける。

ゆっくりとした動作で、椅子の背もたれから生えた武器の柄のようなものを握ったかと思うと、それをゆっくりと引き抜く。

それは───幅広の刃を持った、巨大な剣。

虹のような、星のような幻想的な輝きを放つ、不思議な刃。

少女が剣を振りかぶると、その軌跡をぼんやりとした輝きを描いていく。

そして───

 

「・・・・・ッ!?」

 

彼女が、自分に向かって、剣を横薙ぎに振り抜いてきた。

咄嗟の判断で頭を下げる。

その、今まで自分の頭があった位置を、刃の軌跡が通り抜けていった。

もちろん、剣が直接届くような距離ではない。

だが、実際─────

 

「食らったらヤバかったな」

 

士道は視線を後ろに向けて刃の軌跡が通り抜けた場所を見る。

自分の後方にあった家屋や店舗、街路樹や道路標識などが、みんな同じ高さに切り揃えられていたからだ。

一拍遅れて、遠雷のような崩落音が聞こえてくる。

士道は現実離れした芸当を前にしても、注意をそらせない。

なぜなら彼女から注意をそらせば死ぬような気がしたからだ。

だが。

 

「───おまえも・・・か」

 

「・・・・っ!」

 

ひどく疲れたような声が、頭の上から響く。

士道は顔を上げる。

顔を上げると目の前に、一瞬前まで存在しなかった彼女が立っていたからだ。

そう、それは───先程まで、クレーターの中心にいた彼女だった。

 

「っ──」

 

意図せず、声が漏れる。

歳は自分と同じか、少し下。

膝まであろうかという黒髪に、愛らしさと凛々しさを兼ね備えた顔。

その中心には、まるで宝石のように様々な色の光を他方向から当てているかのような、不思議な輝きを放つ目が鎮座している。

装いもまた奇妙なモノ。

布か金属か、よく分からない素材が、ドレスのような形を作っている。

そしてその手には、身の丈ほどあろうかという巨大な剣が握られている。

状況の異常さ。

風貌の奇異さ。

存在の特異さ。

どれも士道には体験したこともない出来事だった。

だけど。

自分が少しだけ気を奪われた理由に、そんなモノは含まれていなかった。

 

「───────」

 

一瞬。ほんの一瞬だけ彼女にだけ目を離せなかった。

それくらい。

彼女はオルガに会う前の自分に似ていたから。

 

「アンタは───」

 

無意識に。

士道は声を出していた。

彼女が視線を此方に向けてくる。

 

「・・・名、か」

 

どこか心地がいい調べのごとき声音が、空気を震わせる。

しかし。

 

「────そんなものは、ない」

 

どこか悲しげに、彼女は言った。

その時に士道と彼女の目が初めて交わった。

それと同時に、名前がない少女が、酷く憂鬱そうな───まるで、今にも泣き出してしまいそうな表情を作りながら、カチャリと音を鳴らして剣を握り直す。

 

「何するつもり?」

 

士道は彼女の行動に問いを投げる。

だが、彼女はそんな士道に不思議そうな目を向けてくる。

 

「・・・なんだ?」

 

「アンタは、その剣で何するつもりだって聞いてるんだ」

 

「それはもちろん───早めに殺しておこうと」

 

さも当然の如く言った彼女に士道は顔を変えずに言う。

 

「俺はアンタに恨みなんか買った覚えなんてないよ」

 

「?」

 

言葉の意味が分からなかったのか、彼女は首を傾げる。

 

「じゃあ意味を変える。アンタは何で俺を殺そうとするの?」

 

士道は確かに敵対者には容赦はしない。だが、無関係な奴は殺す意味がない。

だが彼女は?

 

「───だっておまえも、私を殺しに来たんだろう?」

 

「は?」

 

困惑する回答に士道は眉を潜める。

 

「なんで?」

 

「───何?」

 

「何で意味もなく俺の邪魔をしないアンタを殺さなくちゃいけないの?」

 

士道はそう言って彼女を見つめる。

少女も士道を観察するように見つめていると、自分から視線を外し、空に顔を向けた。

何かと思い、士道も目を上方へ向けると、

 

「何アレ?」

 

訳のわからないモノをみたような反応をした。

何しろ空には奇妙な格好をした人間が数名飛んでいて──ミサイルらしきモノをいくつも発射してきたのだから。

 

「チッ─!!」

 

士道は直ぐ様回避行動に入る。だが───

 

「えっ?」

 

目の前の不思議な光景に声を漏らす。

空から放たれたミサイルが、少女の数メートル上空で、見えない手にでも掴まれたかのように静止していたからだ。

彼女が、気怠げに息を吐く。

 

「・・・こんなものは無駄だと、何故学習しない」

 

言って彼女は、剣を握っていない手を上にやり、握りつぶすように握る。

すると何発ものミサイルが圧縮されるようにへしゃげ、その場で爆発した。

爆発の規模も恐ろしく小さい。まるで、威力が内側に引っ張られているかのようだった。

 

「おー、凄いな剣の人」

 

士道は確かにその行動を見て、思った事を口にする。

空を飛んでいる人間たちが狼狽しているのが、何となくだが分かる。

だが、攻撃をやめようとはしない。

次々とミサイルが飛んで来る。

 

「───ふん」

 

彼女は小さく息を吐くと、まるで泣き出してしまいそうな顔を作った。

先程自分に剣を向けようとしたときと、同じ顔。

そして───

 

「・・・消えろ、消えろ。一切、合切・・・消えてしまえ・・・・っ!」

 

そう言いながら。

彼女は不思議な輝きを放つ剣を空に向けた。

そして無造作に一振りする。

瞬間に風が、嘶いた。

 

「・・・・っ、チィ・・・!」

 

すさまじい衝撃波が辺りを襲い、太刀筋の延長線上の空に、斬撃が飛ぶ。

上空を飛行していた彼らはそれを慌てて回避し、その場を離脱していった。

士道はその衝撃波で吹き飛ばされ、壁に激突した。

 

「ガッ!?」

 

その衝撃が強かったのか意識が薄れていく。

そして彼が最後にみた光景は・・・

諦めたような顔をした彼女の姿だった。

 




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