次か、その次でエピローグかな
ここがそうなの?俺達の本当の居場所
ああ、ここもそのうちの一つだ。
そっか。綺麗だね
三日月・オーガス
オルガ・イツカ
────空が割れるかのような音が辺りに響き渡る。
次の瞬間、十香の振るった剣の延長線上にあたる全てのものに一本の線が引かれた。
一部を削り取られたビル。その下に広がる地面。さらにその先に広がる街並み。
そしてその線を霊力の波が通り抜け、そこに存在したものを一切合切粉砕していった。
「・・・・!」
ビルの床にへたり込んだ美九は、目の前を通り過ぎていった斬撃の余波に吹き飛ばされないように身を低くしながら、のどから空気を発した。
「・・・・っ!・・・・っ!」
美九は声にならない声を上げ、士道の名を呼んだ。
しかし、返事はない。
「・・・そんな・・・嘘・・・嘘でやがりますよね?」
真那もその光景に首を横に振りながら座り込む。
「ふ────はは、ははははははっ!」
美九が床に手のひらを突いた瞬間、上空から高笑いが響いてきた。
「消えた。消えた。ようやく────消えた。私を惑わす奸佞邪知の人間が・・・・!」
そう言う十香に向かう二人の影が十香にその手の武器を振るう。
「十香ぁ!!あんたねぇ!!」
激昂する耶俱矢の巨大な槍と剣がお互いにぶつかり合う。
「・・・・ッ!」
夕弦はペンデュラムを操りながら風で十香を狙うが、それを十香は耶俱矢と一緒に纏めて薙ぎ払う。
「・・・くっ!!」
「ふん・・・雑兵がいくら集まろうと変わらん」
そう言う十香に氷柱が襲いかかる。が、それを〈暴虐公〉の一振りで全てが破砕される。
「・・・どう、して!どうして、士道さんを・・・!」
四糸乃が泣きそうな声でそう十香に叫ぶが、十香は短く鼻を鳴らすだけだった。
そんな時だった。
────────────
「・・・・え・・・?」
狼の遠吠えのような咆哮が聞こえ、真那が顔を上げる。
上空。
十香達がいる宙よりも遥か上空から。
〈────────────!!〙
赤い眼光が軌跡を描きながら、狼王が流星の如く此方へと向かってくる。
「────な」
そこで、士道が上空から迫っている事に気づいたのだろう、十香が顔を上げた。
「この────まだ生きていたか・・・!」
「士道さん!」
「兄様!!」
「「士道!!」」
「・・・・!」
バルバトスの姿を視界に入れた五人は顔に笑みを浮かべた。
十香は〈暴虐公〉を振りかぶるが、それを耶俱矢達は見逃さなかった。
「させるかぁ!!」
「首肯。やらせません」
「なっ!?貴様ら!!」
耶俱矢の【穿つ者】と夕弦の【縛める者】が蠢動し、風を生み出す。そして【縛める者】が十香の〈暴虐公〉へと絡みついた。
すぐさまそれを外そうと十香は夕弦達の元へと向かおうとするが、その足を四糸乃達が凍らせる。
「行かせません・・・!」
『よっしゃおっけー!よしのんも張り切っちゃうよー!』
「くっ!!」
十香は振り上げた〈暴虐公〉を耶俱矢達ごと纏めて薙ぎ払おうとした時、その動きを止めた。
剣を振り上げた精霊は、不意に頭を通り抜けた感覚に身体を支配された。
埋もれた記憶の一欠片が、彼女の意識を切り裂く。
「私は、この光景を、どこかで──」
────見たことが、ある。
それを認識すると同時、記憶が───彼女が知らないはずの光景が、頭の中にありありと映し出される。
巨大な剣を振り上げる精霊。そして、空から落ちてくる一人の悪魔の姿。
そして着陸した時に名を呼ぶその名前。
(無事、十香?)
「十───香・・・・」
記憶の中、響く名を反芻する。
それは、確か。今空より迫ってくる男や周りいる人間が、自分を呼称するのに使った名だった。
十香。十香。聞き覚えのないはずの言葉。だが────
「く・・・・」
瞬間────彼女の頭に鋭い痛みが走る。
そして、その瞬間に。
「十香」
空から振ってきた悪魔が赤い眼光と共に、彼女の目の前まで肉薄していた。
「貴様・・・・っ!」
彼女は渋面を作る。だが、そんな十香に士道はバルバトスを解いて言った。
「帰ろう、十香。俺達の皆の居場所に」
士道は耶俱矢達に風で支えてもらいながら、十香をまだ動く左腕で抱きしめる。
そして────
「────────」
士道は十香の唇に、自分の唇を押し当てる。
頭がぐるぐるとまわる。埋もれていた自分の記憶からばらばらと破片が顔を出していく。まるで自分の身体が自分のものではなくなる感覚。「シドー」その名に、意識が侵食されていく。その名が響くたび、気持ち悪くなっテ、でも、なんダか悪くナイ気分で。「シドー」あアなんで忘れていたんだロウ。私に名前を付けてくれタ。存在がひっくり返サレ────
「────シ、ドー・・・?」
十香は、のどを震わせ、自分を抱く少年の名を呼んだ。
そして、まるでそれに合わせるように、十香の纏っていた闇色の霊装が、手に握っていたけんが、粒子となって消える。
「・・・ん」
士道は短く答えて少しだけ笑みを浮かべると、そのままゆっくりと目を閉じる。
「し、シドー!大丈夫か!?」
と、十香が焦ったように声を上げる。
「・・・なにが?」
士道はそう言うと、真那が言ってくる。
「その右目です!血だらけじゃねーですか!!急いでラタトスクに行かねーと!」
「・・・ん、ああ・・・そっか」
昔は当たり前だった“見えなくなった右目“に士道は短く返事をし、真那に言う。
「じゃあ・・・後はお願い。バルバトスを使いすぎたから今は眠い・・・」
そう言って再びまぶたを閉じる士道とそれを見守る十香達に、街並みの間から朝日が差し込み始めた。
そして、それと同時に士道は意識を失った。
バルバトス「契約代金、叩きつけられたんですけど」
右目と右腕に目を向けながら
ハシュマル「┐(´ー`)┌」