デート・ア・オルフェンズ   作:鉄血

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ちょっと遅れましたが投稿です。
明日から八月いっぱいまでは投稿ペースが落ちます。
サービス業で働いているので、中々投稿が出来なくなりますので。


鉄華団、決して散ることのない鉄の華。
ユージンなんかはダセェって散々けなしまくってくれたけどよぉ、お前はこの名前、褒めてくれたよな、ビスケット。
弔い合戦なんて、お前が望んじゃいねぇことはわかってる。
だけどよ、もう鉄華団は止まれねぇんだ。

オルガ・イツカ


第四話

「──五河、士道」

 

小さな、誰にも聞こえないくらいの声を発し、折紙は頭の中に彼の顔を思い浮かべた。

間違いなく、"あのときの"の少年だった。

自分の記憶が、間違えるはずはない。

少し残念ではあったが───会ったのはあれ一回きりだったし、向こうが自分のことを覚えていないのは仕方がない。

高校に入学したときからあれこれと接触を試みていたが、全て失敗に終わったし。

今はそれ以上に、気になることがあった。

 

「なぜ、あんなところに」

 

空間震警報の鳴り響く街に、なぜ彼が出ていたのかが分からなかった。

それに───彼は、間違いなく目にしていた。

────精霊を。

 

「鳶一一曹、準備整いました!」

 

「─────」

 

突然響いた整備士の声に、折紙はうつむかせていた顔を上げた。

そしてすぐさま、頭の中に浮遊の司令を発現させる。

するとその指令は折紙が身に纏ったワイヤリングスーツを通して、背に装着されたスラスターパーツに伝わり、内蔵された顕現装置を発動させる。

およそ飛行には向きそうもないフォルムの装備を纏った折紙の身体が、鈍重そうな武器ごと軽やかに宙に浮く。

陸上自衛隊・天宮駐屯地。

その一角に位置する格納庫で、折紙は整備士の誘導に従いながら、自分の専用ドックに腰掛けるように着地し、武器を定位置に収めると、ようやく息を吐いて全ての顕現装置を解除した。

それと同時に、今まで欠片も感じていなかった装備の重量や身体に蓄積された疲労が、一気に折紙の身体に押し寄せた。

後方から機械音がして、背に装備していたスラスターの接続が解除される。

だがその後三分ほど、折紙はその場から立ち上がる事が出来なかった。

このCR-ユニットを使用したあとは毎回こうである。

超人から一般人に戻ると、それだけで身体が異様に重く感じてしまう。

戦術顕現装置搭載ユニット。通称CR-ユニット。

三十年前の大空災の折、人類が手にした技術・顕現装置を、戦術的に運用するための装備の総称である。

簡単に説明すれば、科学的な手段を以て、いわゆる『魔法』を再現するシステムだ。

そして同時に人間が精霊に、唯一対抗できる手段でもある。

 

「ちょっと退いて!担架通るよ!」

 

と右方から怒鳴るような声が響く。

ちらと視線だけを動かして見ると、自分と同じくワイヤリングスーツに身を包んだ隊員が、担架に乗せられていることがわかった。

 

「・・・くそッ、くそッ、あの女・・・・ッ!絶対、絶対にぶっ殺してやる・・・ッ!」

 

担架に乗せられた隊員が、血の滲む額の包帯を押さえて、忌々しげにうめきながら運ばれていく。

 

「・・・・・」

 

毒づく元気があるなら大丈夫だろう。折紙は興味なさげに視線を戻した。

実際、医療用の顕現装置を用いて治療を行えば、よほど深刻な怪我でない限りはすぐに完治する。

前に自分が足を骨折したときも、翌日には歩けるようになっていた。

 

「────」

 

折紙は、細く息を吐くと同時、視線を少し上にやる。

今日の戦闘を思い起こす。

───世界を殺す災厄・精霊。

超人たる折紙たちが幾人束になろうとも、傷一つつけることが叶わない異常。

どこからともなく現れ、気まぐれに破壊を撒いていく、"天災的"怪物。

 

「・・・・・」

 

結局今日の戦闘も、精霊の消失により幕引きとなった。

消失、といっても、精霊を殺した訳ではない。

要は、空間を越えて逃げられただけだ。

 

「・・・・・っ」

 

彼女は表情をピクリとも動かさなかったが、奥歯を強く噛み締めた。

 

「折紙」

 

と、そこで格納庫の奥から響いてきた声に、折紙は思考を中断させられた。

 

「・・・・・」

 

無言で、そちらを向く。まだ身体が慣れていないのか、首がずっしりと重い。

 

「ご苦労さん」

 

そこには、自分と同じくワイヤリングスーツを着こんだ、二十代半ばくらいの女が、腰に手を当てて立っていた。

日下部燎子一尉。折紙の所属するASTの隊長だ。

 

「よく一人で精霊を撃退してくれたわね。・・・友原と加賀谷にはきつく言っとくわ。折紙一人に任せて離脱するなんて」

 

「撃退なんて、していない」

 

折紙がそう言うと、燎子は肩をすくめる。

 

「上への報告はそうしとかなきゃなんないのよ。ちゃんと成果出てますってことにしとかなきゃ予算が下りないの」

 

「・・・・・」

 

「そう怖い顔すんじゃないの。誉めてんだから。エースが席を空けている状況で、よく頑張ってくれるわ。あんたがいなきゃ死んでた人間も、もう一人や二人じゃすまないでしょうよ」

 

彼女はそう言って、ふうと息を吐く。

 

「ただねぇ」

 

燎子は視線を尖らせ、折紙の頭を掴んで自分に向けさせた。

 

「あんたは少し無茶しすぎ。──────そんなに死にたいの?」

 

「・・・・・・」

 

燎子は折紙に鋭い視線を向けたまま言葉を続ける。

 

「あんた、自分がどんな怪物相手にしてるか本当にわかって戦ってるの?あれは化け物よ。知能を持ったハリケーンよ。───いい?できるだけ被害を最小限に抑えて、できるだけ早くロストさせる。それが私たちの仕事よ。無駄な危険は冒さないようにしなさい」

 

「───違う」

 

折紙は燎子の目をまっすぐ見つめ返すと、小さく唇を開いた。

 

「精霊を倒すのが、ASTの役目」

 

「・・・・・」

 

燎子が眉根を寄せる。

それはそうだろう。

彼女はASTの隊長。対精霊部隊の名の意味を、折紙よりずっと深く、重く理解しているはずだった。

理解した上で、彼女は言っているのだ。

───自分たちには、被害を抑えることしかできないと。

けれどそれを承知した上で、折紙はもう一度言った。

 

「───私は、精霊を、倒す」

 

「・・・・・」

 

燎子は息を吐くと、折紙の頭から手を離す。

 

「・・・別に、個人の考えに口を出すつもりはないわ。

好きに思ってなさい。───でも、戦場で命令に背くようなら、部隊から外すわよ」

 

「了解」

 

折紙は短く答えて、ようやく馴染んだ身体を起こし、歩いていった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

目の前の艦長席に座っている琴里を見て、士道は目を細める。

なんせ自分が知らない所で組織の団長をやっていたのだ。彼が疑うには十分すぎる材料だった。

 

「・・・琴里?無事だったの?」

 

「あら、妹の顔も忘れたの、"士道"?物覚えが悪いとは思っていたけど、さすがにそこまでとは予想外だったわね。今から老人ホームを予約しておいた方がいいかしら」

 

琴里の言葉に眉をひそめる士道は琴里に言う。

 

「どうでもいいけど、此処は何処なの?それにコイツらは何?それに───」

 

琴里が、はいはい、と言いたげに手を広げて士道の言葉を止めさせる。

 

「落ち着きなさい。まずはこっちから理解してもらわないと、説明のしようがないのよ」

 

言って琴里が、艦橋のスクリーンを指差す。

そこには先刻自分が遭遇した黒髪の少女と、機械の鎧を纏った人間たちが映し出されていた。

 

「コイツら、さっきの・・・」

 

士道がそう呟くと、琴里は答える。

 

「そ、さっき士道が遭遇したこれが精霊って呼ばれている怪物で、こっちがAST。陸自の対精霊部隊よ。厄介なものに巻き込まれてくれたわね。私たちが回収してなかったら、今頃二、三回くらい死んでたかもしれないわよ?」

 

「ふーん・・・精霊ってコイツのことなんでしょ?なら精霊は一体何なの?」

 

士道はポケットからデーツを取り出し、口の中に放り込む。

士道の言葉に対して琴里は説明する。

 

「簡単に言うと、彼女は本来この世界に存在しないモノであり───この世界に出現するだけで、己の意思とは関係なく、辺り一帯を吹き飛ばしちゃうの」

 

琴里が両手をドーン!と広げ、爆発を表現する。

士道は、再びポケットからデーツを取り出して口にし、言った。

 

「へぇ・・・そうなんだ。じゃあ、空間震ってやつはコイツが起こしてるの?」

 

士道の言葉に琴里は驚くような顔で言う。

 

「カンが鋭いわね、士道」

 

「別に。普通でしょ」

 

琴里の言葉に対し、士道は何事もないように言う。

 

「空間震って呼ばれている現象は、彼女みたいな精霊が、この世界に現れるときの余波なのよ」

 

「へぇー・・・」

 

空間震と言われている現象を作り出しているその原因が、彼女だというのか───。

 

「ま・・・・規模はまちまちだけどね。小さければ数メートル程度、大きければ───それこそ、大陸に大穴が開くくらい」

 

琴里が両手で大きな輪を作る。

士道はそんな規模の空間震があったかと思いながら、食べ終わった手を擦る。

 

「運がいいわよ士道。もし今回の爆発規模がもっと大きかったら、あなた一緒に吹っ飛ばされてたかもしれないんだから」

 

「ふーん」

 

士道は興味なさげに言う。

琴里はそんな士道の様子に半眼を作る。

 

「だいたい、なんで警報発令中に外に出てたの?馬鹿なの?死ぬの?」

 

「え・・・・?なんでって、これ」

 

士道はポケットからスマートフォンを取り出すと、琴里の位置情報を表示させた。やはり琴里のアイコンはファミレスの前で停止している。

 

「ん?ああ、それ」

 

しかし琴里は、懐から携帯電話を取り出して見せた。

 

「あれ・・・?なんで琴里、それ」

 

士道はそう言ってスマートフォンの画面と、目の前に掲げられた琴里の携帯電話を交互に見た。

こんなところに琴里がいるから、てっきりファミレス前に携帯を落としてきたのかと思っていたのだ。

琴里は肩をすくめると、はぁっと嘆息した。

 

「なんで警報発令中に外にいたのかと思ったら、それが原因だったのね。私をどれだけ馬鹿だと思っているのかしらこの阿保兄は」

 

「だって・・・ん?ていうか、なんで?」

 

士道は自分のスマートフォンと琴里の携帯を再び交互に見て言う。

 

「簡単よ。ここがファミレスの前だから」

 

「は・・・・?」

 

「ちょうどいいわ。見せた方が早いでしょ。──一回フィルター切って」

 

琴里が言うと、薄暗かった艦橋が一気に明るくなる。とはいえ、照明がつけられた訳ではない。どちらかというと、天井の暗幕を取り払ったような感じだった。

事実───辺り一体には、青空が広がっていた。

 

「おー」

 

「驚かないでちょうだい。外の景色がそのまま見えているだけよ」

 

「へー、外の景色なんだ・・・」

 

「ええ、ここは天宮市上空一万五千メートル。───位置的にはちょうど、待ち合わせしてたファミレスのあたりになるかしらね」

 

「じゃあ、ここって・・・」

 

士道が思っていた事を琴里は言う。

 

「そう。この〈フラクシナス〉は、空中艦よ」

 

腕組みし、琴里がふふんと鼻を鳴らす。まるでお気に入りの玩具を自慢する子供のように。

 

「空中艦・・・でも、何で琴里がそんなのに?」

 

「だから順を追って説明するって言ってるでしょう?鶏だって三歩歩くまでは覚えているでしょうに」

 

「ん・・・・」

 

「・・・・でも、ケータイの位置確認で調べられちゃうなんて盲点だったわね。顕現装置で不可視迷彩と自動回避かけてたから油断してたわ。後で対策を打っておかないと」

 

琴里が、よく分からない単語を呟きながら顎に手を置く。

 

「何言ってんの?」

 

「ああ、こっちの話。士道にはわからない事だから気にしないで」

 

「ふーん」

 

士道はそう言って再びポケットに手を突っ込む。だが、もうそこにはデーツの残りカスしか残っていなかった。

 

「・・・また、買いにいかなきゃ」

 

士道は緊張感のない声音で、場違いな事をいいながら、青空を見上げる。

その青空はまるで火星で見た青空と同じようにすみわたっていた。

 

 




感想誤字報告よろしくです。
三日月ぽくなかったらごめんなさい。
投稿に関しては問題なく。




皆さんはどのバルバトスが好きですか?
良ければ、言って下さい。その形態で出すかも知れませんので。
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