なんでだ?
翌、十月二十五日。
士道は朝一番に目が覚め、身体を起こす。
そしてリビングに降りると、真那が台所に立っていた。
「あ、おはようございます。兄様」
「うん。おはよう」
士道は真那に短く返事を返すと、ガラスコップを手に取り水を入れる。
と、真那が隣で唇を開いた。
「その、兄様」
「なに?」
暗そうな表情でそう言う真那に士道は首を傾げる。
「今日、また誰が消えていやがるんですよね。・・・兄様はどういった気持ちだろうと思いまして・・・」
「・・・気分は良くないに決まってる」
「・・・そうでやがりますよね」
真那は士道の言葉を聞き、そう返事を返す。
と、机に置かれたタブレットから〈ラタトスク〉から通達があった。
「真那。確認してもらっていい?」
「わかりました」
真那はそう言って、タブレットの所まで歩いていき画面を開けた。そしてその内容を目に通すと、真那は目を見開いた。
「兄様ッ!!」
真那は甲高い声を上げて士道に目を向ける。
「四糸乃さんと、山吹さん・・・それに────」
士道は真那の次の言葉を聞き────
「十香さんが!!」
バキャッ!!
その言葉に、士道は左手に持っていたガラスコップを握り潰し、ガラス片が床に散らばり落ちる。
士道の手に収まっていたガラス片が士道の手のひらを喰い破り、ぽたりぽたりと血と水が滴り落ちていく。
「兄様!?手が!?」
真那が慌てたように駆けつけてくるが、士道は気にすることなく握る手の力を緩めることはなかった。
「・・・・・」
士道は苛立ちを隠そうとせず、真那に言った。
「・・・ちょっと頭冷やしてくる」
「何言ってやがるんですか!?まず手を治療しねーと!兄様、手のひらを見せてください!」
そう叫ぶ真那に、階段から白いリボンを結んだ琴里が降りてきた。
「さっきの音はなに・・・って、おにーちゃん!?どうしたの!?」
琴里は眠たげな表情から、一変して慌てた様子で士道達のもとへ駆けつける。
「琴里さん。救急箱持ってきてください!!」
「う、うん。わかった!」
琴里はそう言ってリビングにある戸棚を開けて、救急箱を探す。
「兄様、手を開いて下さい」
「ん」
士道は真那に言われた通りに、左手を開く。
ガラス片が突き刺さったその手のひらは皮膚が裂け、見ているだけで痛々しかった。
「・・・・・っ」
真那は消毒液と包帯を取り出し、ピンセットで士道の手に刺さったガラス片を引き抜いていき、真那はガラス片を引き抜き終わった士道の手のひらに消毒液を染み込ませた綿を当てていく。
「しみねーですか?兄様」
「別に。平気」
士道はそう言ってはいるが、士道のその顔は相当自分に対して苛立っているように見えた。
「・・・・・・」
真那はそんな士道の表情を伺いつつも、包帯を士道の左手に丁寧に巻いていく。
「はい、終わりました。兄様」
「ありがとね。真那」
「いえ、当たり前の事をしただけです」
真那はそう言って、救急箱の蓋をパタリとしまった。
と、黒いリボンを髪にくくった琴里が士道に言う。
「士道。十香が狙われた事に苛立つの分かるけど、今は抑えて。七罪の思うツボよ」
「・・・分かってる」
「分かってないでしょ。顔に出てるわよ」
琴里はそんな士道にはぁと息を吐く。
「とにかく、今日は学校に行って残りの容疑者と話して来なさい。その後、夜から美九の相手をしなきゃいけないんだから。・・・いい?」
「・・・・・」
士道は納得していなさそうな表情を作っているが、今こんな所でもめても仕方ない。琴里は更に言葉を続ける。
「“一番の最短コースは本物の七罪を見つけることなの“。下手に手を出して返さないだなんて言われたら打つ手なんてほとんどないわよ」
「・・・分かった」
士道はそう言って、部屋へと戻っていった。
真那と二人きりになった琴里は、はぁと息をついた。
「七罪もやってくれるわね。士道が一番嫌がる事をしてくるだなんて」
「・・・あんな兄様、始めてみました」
そう言う真那に琴里は唇を開く。
「完全にスイッチが入ってるもの。七罪を攻略するのに、まずは今の士道を収めないことにはどうしようもないわ」
琴里はそう言って階段に視線を向ける。
(・・・本格的にモンタークって男やユージン・セブンスタークから、聞き出さないといけないわね)
あの二人だけが知っている士道の過去を。
琴里は視線を戻すと、洗面所へと歩いていった。