「俺、格好いいか?」
「「ユ、ユージーン!!!」」
ユージン・セブンスターク
ダンテ・モグロ
チャド・チャダーン
士道が教室に戻る為に廊下を歩いていたとき。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁ─────ッ!!」
すぐ先の廊下の角から、女子生徒の悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ?」
士道はそう呟いて角を曲がるとそこには数名の生徒が集まっているのが見えた。
そしてその中心に、白衣を着た女性が一人、うつぶせで倒れているのが確認できた。
「どうしたの?」
「し、新任の先生らしいんだけど・・・急に倒れて・・・・っ!」
呟くと、近くにいた女子生徒があたふたしながらそう返してきた。
「ふーん、よくわかんないけど、とにかく保健室に連れてけばいいんでしょ?」
士道はそう言って倒れた白衣の女性に近づくと、倒れていた白衣の女性ががしっ、と士道の足を掴んだ。
「・・・・ッ!」
「・・・心配はいらない。ただ転んでしまっただけだ」
言いながら、女は廊下にべったりつけていた顔面を、ゆらりと上げる。
「何でこんなとこにいんの?眠そうな人」
士道はそう言って自分の足を掴んだ女性を見る。
「・・・・・ん?ああ、君は───」
女────〈ラタトスク〉の解析官・村雨令音が、のろのろと身を起こす。
「何やってんの?アンタ?」
「・・・見てわからないかい?教員としてしばらく世話になることにしたんだ。ちなみに教科は物理、二年四組の副担任も兼任する」
白衣の胸につけていたネームプレートを示しながら、令音が言ってくる。
「あっそ、ならアンタが副担任ってことでいいんだね?」
士道はそう言って手を伸ばし、令音を立ち上がらせる。
「・・・ん、悪いね」
「別に、気にしてないよ」
士道はそう言い、この場から去ろうとすると、令音が言う。
「悪いが、君には少し用があるんだ。歩きながら話そう」
「俺、家に帰って野菜に水あげなきゃいけないんだけど?」
「それは気にしなくていい、〈ラタトスク〉の人員がやってくれるからね」
「ならいいけど」
士道はそう言って、令音の後をついていく。
「で、眠そうな人、結局用ってなに?」
「・・・・昨日琴里が言っていた強化訓練の準備が整った。君を探していたところだ。ちょうどいい、このまま物理準備室に向かおう」
「分かった。で、訓練って結局何するの?身体を鍛えればいいの?」
「・・・・うむ。琴里に聞いたが、シン、君は女の子と交際をしたことがないそうじゃないか」
「・・・?こうさいって何?」
令音は士道の言葉に少し目を見開け、驚いたような顔をする。
そして少しだけ驚いた声で言う。
「まさかそこからとは・・・別に責めているわけじゃない。身持ちが堅いのは大変結構なことだ。・・・だが、精霊を口説くとなるとそうも言っていられないんだ」
「ふーん」
士道は若干適当に言いながらも、令音の後をついていく。
と、職員室の近くを通ったときだったろうか、
「・・・・あれ?」
士道は、奇妙なものを目にして立ち止まった。
「・・・どうかしたのかね?」
「いや、あれ・・・・」
視線の先を、担任のタマちゃん先生が歩いていたのだが───その後ろに、どうも見覚えのある、髪を二つ結びにした小さい影があったのである。
「あ!」
士道の視線に気づいたのだろうか、小さい影───琴里が表情をパァッと明るくした。
「おにーちゃぁぁぁん!」
瞬間、琴里が、吸い込まれるように士道の腹に飛び込んでくる。
「・・・ん」
士道は琴里をうまく受け止め、琴里に言う。
「何で高校にいるの?琴里」
士道がそう言うと、琴里の後ろからタマちゃん先生が歩いてきた。
「あ、五河くん。妹さんが来てたから、今校内放送で呼ぼうとしてたんですよぅ」
「へー」
よく見ると、琴里は来賓用のスリッパを履き、中学の制服の胸に入校証をつけていた。
ちゃんとした手続きを踏んで学校に入ってきたらしい。
「おー、先生、ありがとー!」
「はぁい、どういたしましてぇ」
元気よく手をブンブンと振る琴里に、先生がにこやかに返す。
「やー、もうっ、可愛い妹さんですねぇ」
「うん・・・まぁ」
士道は若干戸惑いながら、曖昧な返事をした。
先生は琴里と笑顔で「バイバイ」と手を振り合うと、職員室の方に歩いていった。
「・・・で、琴里」
「んー、なーに?」
琴里が、まるっこい目を見開きながら首を傾げてくる。
「琴里・・・昨日のあれ、〈ラタトスク〉とか精霊とか、訓練とか────」
「その話はあとにしよーよ」
口調はいつもと変わらないままだったが、なぜか変な感じがして、黙りこむ。
と、士道の後方から、令音の静かな声が響いてくる。
「・・・早かったね、琴里」
「うん、途中で〈フラクシナス〉に拾ってもらったからねー」
自分では後にしよう、と言ったわりには、普通に艦の名を出している。
少し不条理なものを感じながら、士道はしかめ面をした。
琴里は能天気そうな笑顔でそれを見てから、士道を先導するように廊下を進み始める。
「それよりほら、おにーちゃん。早く行こ?」
言って、琴里が手を引いてくる。
「分かったから走るなって・・・」
今日はやけに引っ張られるなと呑気なことを士道が考えているうちに、二人は目的地に到達した。
東校舎四階、物理準備室。
「さ。入ろー、入ろー!」
琴里に促され、士道はスライド式のドアを滑らせた。
そしてすぐに眉間を寄せて目を細める。
「・・・ねぇ」
「・・・何かね?」
士道の言葉に、令音が小首を傾げる。
「何これ、この部屋」
物理準備室など、生徒がそう入る場所ではないし、実際、士道も中に入った事は一度だけだ。
だからこそ、はっきりと認識できる。
───ここは、違うと。
何しろ今士道の目の前には、いくつものコンピュータにディスプレイ、その他見たこともない様々な機械で埋め尽くされている。
前まではなかったモノだ。
「ねぇ、前にはこんなのなかったけど、なにこれ?それに前に此処にいた影が薄い人は?」
そう。元々は、初老の物理教師の長曽我部正一(影が薄い人)がいたはずだ。
その先生の姿や匂いが何処にもない。
「・・・ああ、彼か。うむ」
令音があごに手をやり、小さくうなずく。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・ねぇ」
士道は数秒間の間があった後、再び声をかけるが、令音がスルーし、言う。
「・・・まぁそこで立っていても仕方ない。入りたまえ」
「・・・あっそ」
士道はもう、詳しい事は聞かない事にした。
聞いてもよく分からないなら、聞く意味はないだろう。
士道はそう言って近くの椅子に座る。
その後に琴里が部屋に入っていく。
そして、慣れたような様子で白いリボンで括られた髪をほどくと、ポケットから取り出した黒いリボンで髪を結び直す。
「────ふぅ」
するといきなり、琴里の雰囲気が変わった気がした。
気だるげに制服の首もとを緩め、令音の近くの椅子に座る。
そして琴里は、持っていた鞄から小さなバインダーのようなものを取り出した。
中には綺麗に何時もの飴がいれてある。
その中の一つを選ぶと、口に入れて、入り口近くの椅子に座った士道を見て言った。
「さて、士道いまから始めるわよ」
「了解」
士道はそう言って琴里を見る。
士道の様子を見て、令音が足を組み替えながら首肯した。
「・・・君の真意はどうであれ、我々の作戦に乗る以上は、最低限クリアしておかねばならないことがある」
「何?」
「・・・単純な話さ。女性への対応に慣れておいてもらわなければならないんだ」
「・・・・?どういうこと?」
士道は眉をひそめて令音が言った事に質問する。
「・・・対象の警戒を解くため、ひいては好意を持たせるためには、まず会話が不可欠だ。大体の行動や台詞は指示を出せるが・・・やはり本人が緊張していては話にならない」
「そんなもんか?」
戦場での緊張は知っている士道ではあるが、ただ人と話すだけで緊張をするのだろうか。
士道はそう思いながらも呟く。
「まぁ、士道はそんな事には程遠いわよね」
琴里はそう言って士道を見る。
「鈍感、筋トレ馬鹿、野菜馬鹿、女の子と話すのを幾つか確認したけど、どれもこれも興味なさそうに話してるから逆に心配なのよね」
それにと、琴里が士道の頭を押し、ぎゅっと令音に押しつけた。
「・・・・ん?」
「・・・なにこれ?」
士道はそう言って、琴里を見る。
「ほら、これだから士道に出来るか逆に心配になってくるのよ・・・」
琴里は頭を押さえながらやれやれといった感じで首を振る。
「まっ、やるだけやってみるけどね・・・」
琴里はため息をつきながら言った。
「・・・じゃあ訓練を始めようか」
「うん」
士道はそう言って琴里達を見た。
その先が、琴里達にとって取り返しのつかない事になってしまうことをまだ知らないまま。
感想誤字報告よろしくです。
最近は少し短いですが、9月頃には長くなると思います。