デート・ア・オルフェンズ   作:鉄血

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遅くなりましたが、投稿です。
久しぶりですので三日月ぽくなかったらごめんなさい。
次、バルバトスがやっと出せる!!


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んんっ、ふんっ!はぁ…。
ああっ?なんでそんなに鍛えてんのかって?
愚問だろ。いざってときに大切なものを守れなかったら…
あっ、いや、筋肉に意識を集中させてりゃ、
余計なこと考えねぇで済むからな。ふんっ!

昭弘・アルトランド




第十話

士道は手にした伝票を持って立ち上がり、十香に言った。

 

「行くよ、十香」

 

「ん、もうか?」

 

十香は目を丸くしながら言う。

士道がレジに歩いていくと、十香もそれについてくる。

周囲の客にも、そこまで刺々しい敵意は放っていない。

この街に慣れたようだった。

士道はレジに伝票と、有り金のほとんどの紙幣を置く。

 

「ん、会計済ましたいんだけど」

 

言ってレジに立っていた店員に声をかけ───

 

「何やってるの?眠そうな人」

 

さほど驚いた様子もなく、士道は見覚えのある店員に言った。

 

「ん?どうしたシドー?」

 

十香は不思議そうに顔を向けてくる。

 

「いや、知ってる奴がいたから」

 

士道はそう言って制服を着た令音を見る。

 

「・・・こちら、お釣りとレシートでございます」

 

士道が振り向いている間に、手早く会計を済ませた令音が、紙面をトントンと叩きながらレシートを渡してくる。

 

「ん?」

 

そのレシートの下の方に、『サポートする。自然にデートを続けたまえ』という文字が書かれていたからだ。

 

「ふーん」

 

士道はそう言ってレシートをジャケットのポケットに捩じ込んで十香と一緒に出ていった。

なんだかんだあったが、士道達のデートはうまくいっていた。

色々な物に興味を持ちながら好奇心旺盛に、士道を連れて回る十香と、それについていく親のように歩く士道はまさに他人から見れば、仲がいい二人だと思うだろう。

そしてそのデートも最終局面にまで近づいていた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

時刻は十八時。

天宮駅前のビル群に、オレンジ色の夕日が染み渡る。

そんな最高の絶景を一望できる高台の小さな公園を、少年と少女が二人、歩いていた。

少年の方はさほど問題ない。年齢的に普通の高校生だ。

しかし、少女の方は───

 

「・・・・ふう」

 

日下部燎子は目を細めながら唇を舐めた。

 

「存在一致率九十八・五パーセント。さすがに偶然とかで説明できるレベルじゃないか」

 

精霊。

世界を殺す災厄。

三十年前にこの地を焦土とし、五年前には大火を呼んだ最凶最悪の疫病神と同種の少女。

 

「・・・・・」

 

しかし今燎子の網膜に映るその姿は、ただ可愛い女の子だった。

 

「狙撃許可は」

 

と、静かな───逆に言えば、底冷えするような音声が、燎子の背に投げられた。

振り向くまでもない。折紙である。

燎子と同じくワイヤリングスーツにスラスターユニットを装備し、右手に自分の身長よりも長い対精霊ライフル〈クライ・クライ・クライ〉を携えている。

 

「・・・出てないわ。待機してろってさ。まだ、お偉方が協議中なんでしょ」

 

「そう」

 

安堵した様子も、落胆した様子もなく、折紙がうなずく。

今精霊がいる公園の一キロ圏内には、燎子たちAST要員が十人、二人一組の五班に分かれて待機していた。

二人がいるのもそのポイントのうちの一つである。

公園よりもさらに都市部から離れた、宅地開発中の台地だ。昼間はトラックやクレーンなどの作業車が列を作っているものの、この時間になれば静かなものだった。

数時間前、折紙が発見した少女に精霊の判定が出てからすぐにCRーユニットの起動許可が降りた。

だが、まだ防衛大臣やら幕僚長やらは、対応を協議しているらしい。

要は、攻撃を仕掛けるか、否か、である。

空間震を観測できない現界だったため、空間震警報はなっていない。

つまり住人は誰一人として避難しておらず、今精霊が暴れ出しでもしたら、深刻な被害が出てしまうのである。

かといって、今警報を鳴らして精霊を刺激してしまうのも上手くない。なんとも嫌な状況だった。

 

だが───

 

「これは好機」

 

折紙は、いつものごとく温度のない口調で唱えた。

確かに折紙の言うとおり、これはチャンスでもあった。

なぜなら今、精霊はその身に霊装を顕現させていない。

燎子たちのテリトリーと同じように、精霊を最強で究極で無敵の生命体たらしめている外殻を、纏っていない。

今ならば、こちらの攻撃が届く可能性は十分にあった。

ただしそれもあくまで可能性にすぎないうえ、確実に一撃で致命傷を与えなければならない。折紙が、平常装備に含まれない対精霊ライフルを携えている理由がそれだった。

使用者が悲鳴を上げ、弾道が軋み、目標が断末魔の声を上げる。

ゆえに〈C・C・C〉。

テリトリーを展開させていなければ、反動で狙撃手の腕の骨が折れてしまう、頭のおかしい銃である。

だが燎子は、その銃を使うような事態になるとは思っていなかった。

 

「・・・頭ん中日和ってるお偉方が、この状況で攻撃許可出すかしらねえ」

 

「出してもらわなければ困る」

 

燎子が言うと、ノーウェイトで折紙がそう返してくる。

 

「・・・ま、現場としちゃそうなんだけどさ。攻撃許可を出したけど一撃で仕留めきれなくて精霊が暴れ出しました、ってのと、精霊が勝手に暴れたけど、現界していたなんて知りませんでしたー、ってのだと、責任問題になったときに随分意味合いが違ってくるのよ」

 

「そんな理由で決められては困る」

 

「そうは言っても、十把人絡げの人命より自分の地位が大事なお方が多いからねぇ」

 

言って、肩をすくめる。

折紙の表情は微動にしなかったが、何となく憮然としているような気がした。

と───そこで、燎子の耳にノイズ混じりの音声が届いてきた。

燎子は鼓膜に伝わった情報に、目を丸くした。

 

「──了解」

 

そうとだけ言って、通信を終了する。

 

「・・・驚いた。狙撃許可が下りたわ」

 

正直、少し意外だった。間違いなく待機命令が出ると踏んでいたのだ。

否────そういえば、昨日の校舎への攻撃命令も、今までではあまり考えられない強行策だった。

上層部で人事異動でもあったのだろうか。

まあ、燎子は自分の仕事をするだけだ。具体的に言えば今は───ここにいる中でもっとも作戦の成功率が高いであろう隊員に、引き金を預けることである。

 

「───折紙、あんたが撃ちなさい。今いる面子の中では、あんたが一番適任よ。失敗は許されないわ。絶対に一撃で仕留めること」

 

その言葉に。

 

「了解」

 

折紙はやはり何の感慨も浮かべぬまま答えた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

夕日に染まっていた高台の公園には今、士道と十香以外の人影は見受けられなかった。

時折遠くから自動車の音や、カラスの鳴き声が聞こえてくるだけの、静かな空間。

 

「おお、絶景だな!」

 

十香は先ほどから、落下防止用の柵から身を乗り出しながら、黄昏色の天宮の街並みを眺めている。

日が傾けたこの公園はかつて見た地球の夕日を思い浮かべた。

すると十香が遠くに走る電車を指をさして、目を輝かせながら士道に言ってくる。

 

「シドー!あれはどう変形するのだ!?」

 

「電車は変形しないよ」

 

「何、合体タイプか?」

 

「・・・まあ、合体はするけど」

 

「おお」

 

十香ら妙に納得した調子でうなずくと、くるりと身体を回転させ、手すりに体重を預けながら士道に向き直った。

夕焼けを背景に佇む十香は、それは綺麗でまるで一枚の絵みたいだった。

 

「───それにしても」

 

十香が話題を変えるように、んー、と伸びをした。

そして、にぃッ、と屈託のない笑みを浮かべてくる。

 

「いいものだな、デェトというのは。実にその、なんだ、楽しい」

 

「そっか。良かった」

 

士道はそう言って十香の横に並ぶ。

そして、夕日を見ながら十香に言った。

 

「───どうだった?街の人はアンタを殺そうとする奴はいなかったでしょ?」

 

「・・・ん、皆優しかった。正直に言えば、まだ信じられないくらいに」

 

「ん・・・?」

 

士道はそう言って首を十香に向けると、十香は自嘲気味に苦笑した。

 

「あんなにも多くの人間が、私を拒絶しないなんて。私を否定しないなんて。───あのメカメカ団・・・ええと、なんといったか・・・」

 

「ASTのこと?」

 

「そう、それだ。街の人間全てが奴らの手の者で、私を欺こうとしていたと言われた方が真実味がある」

 

「じゃあさ、俺もアンタにとってはASTの仲間ってことになるの?」

 

士道がそう言うと、十香はぶんぶんと首を振った。

 

「いや、シドーはあれだ。きっと親兄弟を人質に取られて脅されているのだ」

 

「なにそれ?」

 

「・・・おまえが敵とか、そんなのは考えさせるな」

 

「ん・・・何?」

 

「なんでもない」

 

士道は上手く聞き取れず十香に言うと、はぐらかすように言って、顔を背けた。

表情を無理矢理変えるように、手で顔をごしごしとこすってから、視線を戻してくる。

 

「───でも本当に、今日はそれくらい、有意義な一日だった。世界がこんなに優しいだなんて、こんなに楽しいだなんて、こんなに綺麗だなんて・・・思いもしなかった」

 

「良かったね」

 

士道はそう言って十香を見た。

だがその十香は、そんな士道に反するように、眉を八の字に歪めて苦笑を浮かべた。

 

「あいつら───ASTとやらの考えも、少しだけわかったしな」

 

「わかったの?」

 

士道がそう言うと、十香が少し悲しそうな顔を作った。

 

「私は・・・いつも現界するたびに、こんなにも素晴らしいものを壊していたんだな」

 

その言葉を聞いて十香に士道は言った。

 

「でも、それはアンタの意思とは関係ないんだろ?」

 

「・・・ん。現界も、その際の現象も、私にはどうにもならない」

 

「ふーん」

 

「だがこの世界の住人たちにしてみれば、破壊という結果は変わらない。ASTが私を殺そうとする道理が、ようやく・・・知れた」

 

十香は悲痛な顔を作り、そして言った。

 

「シドー。やはり私は───いない方がいいな」

 

言って───十香が笑う。

 

「アンタはそれでいいの?」

 

士道はそう十香に言って目を合わせる。

 

「え・・・?」

 

「今日は、その空間震は起きてなかったじゃん。きっとなんか違いがあるんじゃないの?」

 

十香は首をゆっくりと振った。

 

「たとえその方法が確立したとしても、不定期に存在がこちらに固着するのは止められない。現界の数は減らないだろう」

 

「じゃあ、帰らなかったらいいじゃん」

 

士道はそう言うと、十香は顔を上げて目を見開いた。

まるでその考えをまったく持ってなかったというように。

 

「そんなことが───可能なはずは・・・」

 

「やったの?」

 

「・・・・・」

 

十香が唇を結んで黙りこむ。

 

「で、でも、あれだぞ。私は知らないことが多すぎるぞ?」

 

「最初は誰でも一緒でしょ」

 

「寝床や、食べるものだって必要になる」

 

「アテがあるから大丈夫だと思うよ」

 

「予想外の事態が起こるかもしれない」

 

「別に慣れてるからいいよ」

 

十香は少しの間黙りこんでから、小さく唇を開いてきた。

 

「・・・本当に、私は生きていもいいのか?」

 

十香の問いに士道はいつかクーデリアに言った言葉を言った。

 

「これは・・・アンタが決めることだよ」

 

「え・・・?」

 

「どっちにしろ、アンタが精霊ならそのASTに狙われるんだ。今までの事で分かってるだろ」

 

「それは・・・」

 

「これは、多分俺が最初に人を殺した時と同じ十香のこれからの全部を決めるような決断だ。だからこれは十香が自分で決めなくちゃいけないんだ」

 

「この世界にいてもいいのか?」

 

「それもアンタ自身が決める事だよ」

 

士道はそう言ってオルガと始めてあった時のように手を出す。

 

「俺と一緒に行ってみない?俺達の本当の居場所に」

 

十香は顔をうつむかせ、数瞬の間思案するように沈黙したあと、ゆっくりと顔を上げ、そろそろと手を伸ばしてきた。

 

「シドー───」

 

と、

 

士道と十香の手と手が触れ合おうとした瞬間。

 

「───────ッ!!」

 

途方もない嫌な予感がして、十香を突き飛ばした。

その瞬間。

自分の腹の間に凄まじい衝撃を感じた。

 

「な───なにをする!」

 

砂まみれに十香が、非難の声を上げるが、それに返すことも出来ない。

 

「──シドー?」

 

視界が暗転する。

自分はこれを知っている。

士道は三日月・オーガスはそう思いながら意識を失った。




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