デート・ア・オルフェンズ   作:鉄血

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つい、調子に乗って書き上げました。
三日月ぽくなかったらごめんなさい。
今回はオルガが特殊な感じで登場します。ではどうぞ!


オルガが止まらない限り、俺も止まらない。
これまでも、これからも。

三日月・オーガス





第十一話 鉄と血と

「あ────」

 

折紙はテリトリーで強化された視力で吹き飛ばされた士道の影を見ながら、自分ののどからそんな声が漏れるのを聞いた。

宅地開発のために平らに整備された地面に腹ばいになり、対精霊ライフル〈C・C・C〉を構えた状態のまま、数瞬の間身体を硬直させる。

数秒前。

折紙は〈C・C・C〉の顕現装置を起動させると、装填された特殊弾頭に攻性結界を付与させ、完璧に狙いを定めてから引き金を引いた。

外れる要素は微塵もなかった。

───士道が、精霊を突き飛ばさなければ。

折紙の放った弾は────精霊の代わりに士道の身体を、綺麗に削り取った。

 

「────」

 

今度は、声すら出なかった。

指が、引き金を引いた指が、微細に震えているのがわかる。

だって、今、自分は、士道を───

 

「───折紙ッ!」

 

「────っ」

 

燎子の声で我に返る。

 

「悔いるのはあとにしなさい!あとで死ぬほど責めるから!今は────」

 

言って燎子が、戦慄した様子で公園を睨んだ。

 

「生き延びることだけ、考えなさい・・・ッ!」

 

 

 

「シドー・・・・・?」

 

名を呼ぶが、返事はない。

それはそうだ。士道の胸には、十香の手のひらを広げたよりも大きな穴が空いている。

頭が混乱して、意味がわからない。

 

「シ───、ドー」

 

十香は士道の頭の隣に膝を折ると、その頬をつつく。

反応は、ない。

つい先程まで、十香に差し伸べられていた手は、一部の隙間もなく血に濡れていた。

 

「う、ぁ、あ、あ────」

 

数秒のあと、頭が状況を理解し始める。

・・・・あたりに立ち込める焦げ臭さには覚えがあった。

いつも十香を殺そうと襲ってくるあの一団───ASTのものだ。

研ぎ澄まされた一撃。おそらく───あの女。

如何に十香とはいえ、霊装を纏っていない状態であれを受けたなら、無事では済まなかっただろう。

ましてなんの防護も持たない士道がそんな攻撃を受けてしまったなら。

 

「────」

 

十香は途方もない目眩を感じながらも、未だ空を眺める士道の目に手を置き、ゆっくりと瞼を閉じさせてやった。

そして着ていた制服の上着を脱ぐと、優しく士道の亡骸にかける。

 

───ああ、ああ。

 

駄目だった。やはり、駄目だった。

一瞬───十香は、この世界で生きられるかもしれないと思った。

士道がいてくれたなら、なんとかなるのかもしれないと思った。

すごく大変で難しいだろうけど、できるかもしれないと思った。

だけれど。

ああ、だけれども。

やはり、"駄目"だった。

この世界は────やはり十香を否定した。

それも、考える限り、最低最悪の手段を以て───ッ!

 

「──〈神威霊装・十番〉・・・ッ」

 

喉の奥から、その名を絞り出す、霊装。絶対にして最強の、十香の"領地"。

瞬間、世界が悲鳴を上げた。

周囲の景色がぐにゃりと歪み、十香の身体に絡みついて、荘厳なる霊装の形を取る。

そして光り輝く膜がその内部やスカートを彩り───災厄は、降臨した。

ぎしぎし、ぎしぎしと。

空が、軋む。

突然霊装を顕現させた十香に、不満をさえずるように。

十香は、視線を少し下げた。

山が削り取られたかのように平らになった高台に、今士道を撃った人間がいる。

"殺すに足りてしまった"人間が、いる。

十香は地面に踵を突き立てた。

瞬間、そこから巨大な剣が収められた玉座が現出する。

十香はトン、と地を蹴ると、玉座の肘掛けに足をかけ、背もたれから剣を引き抜いた。

そして。

 

「ああ」

 

 

のどを震わせる。

 

 

「ああああああああああああ」

 

 

天に響くように。

 

 

「ああああああああああああああああ────ッ!!」

 

 

地に轟くように。

自分の頭を麻痺させ、自我を摩滅させるような感覚。

 

「よくも」

 

目が、湿る。

 

「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも」

 

十香は剣を握る手に力を込めると、視線の先まで"距離を殺した"。

 

「な───ッ!?」

 

「─────」

 

瞬きほどの間も置かず、十香今し方見ていた高台に移動していた。

目前には、驚愕に目を見開く女と、無味な表情の少女がいる。

憎い、憎いその顔を見ると同時、十香は吠えた。

 

「〈鏖殺公〉───【最後の剣】!!」

 

刹那、十香が足を置いていた玉座に亀裂が走り、バラバラに砕け散った。

そして玉座の破片が十香の握った剣にまとわりつき、そのシルエットをさらに大きなものに変えていく。

全長十メートル以上はあろうかという、長大過ぎる剣。

しかし十香はそれを軽々と振りかぶると、二人の女に向かって振り下ろした。

刀身の光が一層強いものになり、一瞬にして太刀筋の延長線上である地面を這っていく。

次の瞬間、凄まじい爆発があたりを襲った。

 

「な・・・・ッ!」

 

「─────く」

 

すんでのところで左右に逃れた二人が、戦慄に染まった声を上げる。

それはそうだろう。十香はただの一撃で、大地を縦に両断していたのだから。

 

「この・・・ッ、化け物め───!」

 

長身の女が叫び、無骨な剣のようなものを振るって十香に攻撃を仕掛けてくるが、そんなもの、霊装を纏った十香に通じるはずもない。

視線をそちらに向けるだけで、その攻撃を霧散させる。

 

「───嘘」

 

女の顔が、絶望に染まる。

だが十香はそんなものには興味を示さず、もう一人の少女に目を向けた。

 

「ああ、ああ、貴様だな、貴様だな」

 

静かに、唇を開く。

 

「我が友を、我が親友を、シドーを殺したのは、貴様だな」

 

十香がそう言うと、ほんの少しだが、少女が始めて表情を歪めた。

しかし、そんなことはどうでもいい。

 

【最後の剣】を顕現させた十香を止められるものなんて、この世界に存在しない。

真っ黒に淀んだ瞳で少女を見下ろしながら、"冷静に、狂う"。

 

「───殺して壊して消し尽くす。死んで絶んで滅に尽くせ」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「司令・・・ッ!」

 

「わかってるわよ。騒がないでちょうだい。私にも士道に聞きたいことができたから」

 

琴里は口の中で飴を転がしながら、狼狽した様子の部下に言葉を返した。

 

〈フラクシナス〉艦橋。正面のモニターには身体をごっそりと削り取られて倒れ付した士道と、精霊・十香の戦闘映像が表示されている。

部下の動揺も分からなくはなかった。

状況は、圧倒的に、絶対的に、破滅的に、絶望的だった。

ようやく空間震警報がなり始めたようだが、住民の避難はほとんど終わっていない状態で、十香とASTの戦闘が始まってしまったのである。

そして───〈ラタトスク〉の最終兵器であった筈の五河士道の突然の死。

琴里たちは、考える限り最悪の状況に立たされた格好になっていた。

だが、琴里は士道の口にした言葉に気になっていることがあった。

"始めて人を殺した"。

士道は私の知る限り、人を殺したことはないはずだ。

だが、士道は人を殺した事がある言いぐさだった。

琴里がその事についていると、艦橋下段の部下が、画面左側────公園が映っているものを見ながら、驚愕に満ちた声を発してきた。

 

「──来たわね」

 

キャンディの位置を変え、にやりと口を歪ませた。

 

「すぐに回収の準備をしなさい。───彼女を止められるのは士道だけよ」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「─────」

 

声が聞こえる。

 

「────カ」

 

聞き覚えのある声

 

「───ミカ」

 

ああ、この声は・・・

 

「起きろ、ミカ」

 

オルガの声で目を覚ます。

 

「・・・あれ?オルガ?」

 

三日月はそう言ってオルガを見ると、オルガはなんとも言えない顔で三日月に言った。

 

「なに、こんなとこで寝てんだ?風邪ひくぞ?」

 

「あれ、俺寝てたんだっけ?」

 

「まあな。で、なんかいい夢でも見ていたのか?顔に出てたぞ?」

 

「うん、オルガが言ってた本当の居場所で新しい家族と一緒に暮らしてた夢」

 

「へぇ、どうだった?その場所は?」

 

「いいとこだったよ。飯がいっぱいあって寝床もちゃんとあって、俺達みたいな奴が戦わなくてもいい場所だった。」

 

「そうか・・・・」

 

「でも、やっぱり俺には皆が居ないと楽しくないや」

 

「ミカ・・・」

 

三日月の言葉にオルガは何も言えなかった。

だが・・・・・

 

「でも、守りたい奴はできたんだ」

 

三日月は自分の左手を見ながら言った。

 

「新しい家族もできたし、それにオルガに会う前の俺に似たような精霊って奴もあったから、そいつらを守りたいと思ったんだ。ねぇ、オルガ。これってオルガなら何か分かる?」

 

「・・・さあな」

 

「そっか・・・オルガにも分かんないのか・・・」

 

三日月の問いにオルガはそう答えるしかなかった。

しかし──────

 

「でも他にも守りたい奴がミカにも出来たんだろ?だったらそいつらも守ってやんねぇとな。ミカの家族も俺達鉄華団の家族だ」

 

「でも、皆を守れる力は今の俺にはないし、それに死んじゃったしね」

 

「でも、お前は止まるつもりはねぇだろ?ミカ」

 

「うん。オルガが止まらない限り俺は止まらないよ。これまでも、これからも」

 

「だったらすぐに行かねぇとな、そいつらの所に」

 

「うん」

 

オルガはそう言って歩き始める。

そして振り返り言った。

 

「ああそうだミカ、戻るんだったら守れる力がいるんだろ?だったら、コイツが必要だろ?」

 

オルガはそう言って横をに顔を向ける。

三日月はオルガが向いた方向へ首を向けると、そこには

見慣れたそれがあった。

 

「バルバトス・・・直してくれたんだ」

 

「これがあればまた、皆を守ってやれるだろ?」

 

オルガは三日月にそう言って、笑う。

 

「うん、バルバトスがあればまた皆を守れるし、また走れる」

 

三日月はそう言ってバルバトスに向かって歩いていく。

そして一度立ち止まり、振り向いてオルガに言った。

 

「ねぇ、オルガ」

 

「なんだ?」

 

「次はどうすればいい?」

 

それはいつかに言った問い。

それに対してオルガは笑って言った。

 

「そんなもん、決まってんだろ。“家族を守ってやれ“」

 

「うん、分かってるよ。ただ聞きたかっただけ」

 

そう言って三日月は歩き始める。

まだ、こんな所で止まる訳にはいかない。

さあ、もう一度いこう。オルガやクーデリアが目指したその場所を。

 

俺達の本当の居場所に。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

士道が目を覚ますとそこは先程の公園だった。

自分の身体をペタペタと触りながら、眉を少し寄せて呟く。

 

「なんで、傷がないんだろ?」

 

着ていたジャケットやタンクトップには綺麗な穴が空き、血で汚れている。

そんな格好でも、士道は恥ずかしがることもなく立ち上がると、周りを見渡す。

と、士道がいる公園よりもさらに高台から、黒い光が発せられ───続いて、凄まじい爆音と衝撃波が撒き散らされた。

 

「・・・なんだ?」

 

そう呟いて士道がそちらに視線を向けると、そこは巨大な剣で切り裂かれたかのように鋭利な断面を覗かせていた。

 

「あれか・・・?」

 

と呟いた瞬間。

 

「・・・・ん?」

 

士道は、自分の身体から重さがなくなるのを感じ、認識した時はもう、士道の視界は、高台の公園ではなく〈フラクシナス〉の内部に変貌していた。

 

「こちらへ!」

 

と控えていた〈フラクシナス〉のクルーが大声を上げてくる。

 

「何?」

 

士道はそう言いながら、艦橋に引っ張られていく。

そして艦橋に到着するなり、

 

「───お目覚めの気分はいかが、士道」

 

艦橋上段の艦長席に腰掛け、チュッパチャプスの棒をピコピコさせながら、琴里は言ってくる。

「・・・琴里、状況はどうなってるの?」

 

「ん、士道がASTの攻撃でやられて、キレたお姫様がASTを殺しにかかってるわ」

 

言ってちょいちょい、と斜め上のスクリーンを指さす。

 

「すごいな・・・」

 

スクリーンに写っていたのは巨大な剣を振るって山を切り刻む十香と、応戦するASTの姿があった。

いや、応戦と呼べたものではないだろう。

ASTは猛烈な勢いで攻撃を仕掛けているものの、十香には微塵も届いていない。

逆に十香の斬撃は、直撃せずともその余波だけで、テリトリーなど存在していないかのように吹き飛ばしていた。

ただただ、一方的で圧倒的な───王者の行進。

 

「完全にキレてるわ。よっぽど士道を殺されたのが許せないのね」

 

言って、琴里は肩をすくめる。

 

「で、アレを止める方法はあるの?」

 

「ええ、もちろん。士道がやるのよ」

 

「どうやってするの」

 

士道がそう言うと、琴里は口からチュッパチャプスを引き抜き怪しい笑みを浮かべながら、

 

「知らない?呪いのかかったお姫様を助ける方法なんて、一つしかないじゃない」

 

言って、すぼめた唇でキャンディにチュッ、と口づけた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

状況は最悪だった。

待機していたAST要員はすでに十名全員が参戦していたが、精霊に傷を負わせることはおろか、接近することすら叶わない。

否──それ以前に、精霊は、折紙以外の人間など意識の端にも入れてはいなかった。

あたかも───蟻を気にかけて歩く獅子がいないように。

 

「おああああああああああああああああ────ッ!!」

 

まるで涙に濡れた泣き声のような咆哮を上げ、精霊が巨大に過ぎる剣を振り下ろす。

 

「・・・・・・っ」

 

折紙はスラスターを駆動させると、身をひねって空に逃れ、その一撃を避けた。

が─────剣圧の巻き起こした衝撃をがテリトリーを侵して折紙の身体を打つ。

 

「く────」

 

油断は、一瞬だった。

 

「────ああああああああああああッ!」

 

精霊が吠える。

そして思い切り肩を回し、風を切り空気を割りながら、再度剣を折紙めがけて振るってきた。

 

『───折紙!!』

 

燎子が声を荒らげてくる。だが、もう遅い。

折紙のテリトリーに精霊の剣が触れる。

───瞬間。

 

「─────」

 

折紙は、自分の判断が甘かったことを知った。

時間にすれば、僅か一・五秒。

テリトリーが。

絶対の力を誇るはずの折紙の城が。

 

「────────────」

 

音もなく、声もなく、打ち砕かれた。

折紙の身体が空から地面へと叩きつけられる。

 

「ぁ─────」

 

『折紙ッ!』

 

燎子の声が、どこか遠く感じる。

テリトリーが解除されたためか、脳の負担は幾分か和らいだが、その代わり全身がひどく痛んだ。

骨折は一ヶ所では済むまい。傷口がどこかわからない血がワイヤリングスーツの中に溢れ、気持ち悪い感触を作っていた。重力を思い出したかのように急激に重くなった首を、ほんの少しだけ動かす。

霞む視界の中、空に立った精霊の姿だけがはっきりと見えた。ひどく悲しそうな顔をして剣を握る、ひどく小さな少女の姿が。

 

「─────終われ」

 

精霊が、剣を振り上げ、そこで止めた。

精霊の周囲に黒い輝きを放つ光の粒のようなものがいくつも生まれ、剣の刃に吸い寄せられるように収束していく。

逃げ出さないといけないのに、身体が重くて痛くて、まるで動こうとしてくれなかった。

燎子をはじめ他の隊員もすでに戦闘不能に陥っている。精霊を止めることができるものは、もう存在しなかった。

精霊が、剣を握る手に力を込める。

と───その時。

空から。

精霊よりもはるかに上から。

飛行機のような空気を切り裂くような音と共に。

狼の王の名を持つ巨大な悪魔が墜ちてきた。

 




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