デート・ア・オルフェンズ   作:鉄血

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最新話投稿です。
これで、一端、十香編は終わりです。
三日月っぽくなかったらごめんなさい。
ではどうぞ!


生き物の肉はオレいいや。

うっす。

ちょっと、三日月みたいな事言って

オレはあそこまで酷くないよ。


ヤマギ・ギルマトン

デイン・ウハイ

アトラ・ミクスタ



第十二話

巨大な白い悪魔が墜ちてくる。

十香や折紙、他のASTの隊員達がその様子を呆然としながらその様子を見ていた。

そして、その機体が背中や腰、脚のスラスターを全開に吹かせながら着地姿勢を取り、そして────

 

ボゴォォォォォォォン!!

 

凄まじい爆音と共に、それは着地した。

着地した際に発生した砂煙が十香や折紙達を飲み込んで、その衝撃波が襲った。

 

「くっ・・・何だ!?」

 

「─────ッ」

 

十香と折紙は反射して眼を閉じ、その衝撃波を耐える。

そして、勢いが収まると恐る恐る眼を見開けた。

砂煙の中、巨大な影が見える。

巨大なその影が動き始め、手に持った"ナニカ"を振り払うと、砂煙が吹き飛ばされ、その全貌が見えた。

白を主軸とした色合いに、異様に大きな両腕、尻尾のような突起とブースターが見える背中、そして恐ろしいくも荒々しいツインアイが見える顔、手に持つあまりにも巨大過ぎるメイス。そしてなにより、十香達はその巨大な機体の胸部にあるマークに眼を奪われていた。

胸部の赤い装甲に描かれた白い華のような絵を見て、彼らは何を感じたのだろうか。

それは彼らにしかわからないが、それでも言えるのはただ一つ。

まるで、必死に居場所を探しているかのような子供達の姿が見えるようで────

彼らがそう思っていた時に、その悪魔から聞き覚えがありすぎる、そして同時にあり得ない声が聞こえてきたから。

 

 

『無事、十香?』

 

その声は、つい先程、折紙が撃ってしまった少年のものだったから。

 

 

 

 

 

数分前。

 

「お姫様は滞空中か・・・なら士道をここから突き落としましょ。低空まで降りてるし、精霊に接近したら、こっちから重力中和してあげ「いらない」・・・は?」

 

途中で割り込んだ士道の発言に琴里は固まった。

 

いかんせん、パラシュートともなしに、高度を下げているとはいえ、三千メートルは地上と離れているのだ。

 

士道は何を考えてるかわからないが、正気の沙汰ではないだろう。

そして士道は撃たれて穴が空いたジャケットを腰に巻いて着ていたタンクトップを脱ぎ捨てる。

 

そして琴里は鍛えられた上半身裸の士道の"背中にある突起"を見て絶句した。

 

「士道・・・あなたそれ・・・」

 

「ん?・・・ああ、また答えるからあとでね」

 

士道はそう言って近くにいた作業員に言った。

 

「ねぇ、外にでられる所はある?」

 

「・・・え、ええ、艦体の下部に・・・」

 

「そっか、じゃあ案内して」

 

「わ、わかりました・・・!」

 

士道はそう言ってその作業員の後に付いていく。

ハッチの前まで来た士道は、軽い返事で琴里達にインカム越しで言った。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

強風が吹き荒れる大空に士道はその身を投げた。

 

『ちょっと!?』

 

耳に着けてあるインカムから琴里の声が聞こえてくるが、士道はそれを無視して最初にバルバトスを起動させた言葉を独り言のように呟く。

 

「網膜投影スタート」

 

すると士道の周りの空間が歪み始め、巨大な人型を作り始める。耳に着けてあったインカムがまるで、充電が切れた携帯のようにブツリと音がきれた。

 

そして────

 

「いくぞ、バルバトス」

 

士道がそう言った瞬間、士道の声をに答えるようにして悪魔が顕現する。

背中の阿頼耶識を通じて、バルバトスの情報が流れてくる。懐かしい感覚に士道は少しだけ顔を緩めてバルバトスに言った。

 

「お前も機嫌がよさそうだな、じゃあ行くか」

 

士道はそう言って、グリップを握って十香達の場所に着地点を合わせて操縦する。

 

「慣性制御システム、スラスター全開」

 

阿頼耶識でバルバトスを着地姿勢を取りながら、スラスターを全開に吹かし、少しでもバルバトスの負担にならないように合わせる。

そして十香達のいる場所より少し離れた場所でバルバトスが着地した。

 

ボゴォォォォォォォン!!

 

凄まじい爆音が響き渡り、バルバトスのコックピットにもその衝撃が伝わるが、士道は何ともないようにバルバトスを動かし、巨大なメイスを振り払う。

振り払われた風圧で砂煙は吹き飛ばされ、十香達の姿を視認することが出来た。

そして、バルバトスについている音声スピーカーを点けて士道は十香に軽い返事をするように言った。

 

『無事、十香?』

 

スピーカー越しに聞こえてきた、士道の声に気づいてか、十香は長大な剣を持ったまま、顔を此方に向ける。

頬と鼻の頭は真っ赤で、目はぐしゃぐしゃ。みっともない有り様だったが、無事だったようだ。

十香と、バルバトスに乗った士道と目が合うと、まだ状況を理解できていないような様子で、十香が呟く。

 

「シ───ドー・・・・・?」

 

十香がそう呟くと、士道はバルバトスのコックピットハッチを開けて、外へと出る。

コックピットから出てきた士道を見て、十香は信じられないものを見るような声で言う。

 

「シドー・・・ほ、本物、か・・・・?」

 

「うん、俺は俺だよ」

 

士道はそう言うと、十香は肩を震わせて、士道の方へと向かってくる。

そして─────

 

「シドー、シドー、シドー・・・・っ!」

 

「大丈夫だよ」

 

と言った所で、士道の視界の端に凄まじい光が満ちた。

十香が先程まで、振りかぶったまま空中に静止させていた剣が、あたりを夜闇に変えんばかりに漆黒の輝きを放っている。

 

「なんだ?」

 

「ッ・・・! しまった・・・!力を───」

 

十香が眉をひそめると同時に刃から光が雷のように漏れでて地面を穿っていた。

 

「何これ?」

 

「【最後の剣】の制御を誤った・・・・!どこかに放出するしかない・・・!」

 

「どこにそれを撃つの?」

 

「─────」

 

十香は無言で、地面の方を見た。

士道はつられて目をやると、そこに今にも死にそうな折紙が横たわっているのが見える。

 

「────撃ってもいいけど、周りにも被害が出そうだな・・・」

 

「で、ではどうしろというのだ!もう臨界状態なのだぞ!」

 

そう言っている間にも、十香の握る剣は辺りに黒い雷を撒き散らしていく。

と、そこで、士道は今さっきまで忘れていた琴里の言葉を思い出した。

────十香を止め、その力を封ずる唯一の方法。

 

「十香、落ち着いて聞いて」

 

「なんだ!今はそれどころでは───」

 

「それを何とかできるかもしれない可能性があるんだけど?」

 

「なんだと!?一体どうするのだ!?」

 

十香が急かすように言ってくるが、士道はいつもの調子で十香に言った。

 

「んじゃ、顔を此方に近づけて」

 

「こうか!?」

 

十香はそう言って士道の真正面に顔を向ける。

そして─────

士道は躊躇いなどなく、クーデリアの時と同じように自分の唇を十香の口に押しつけた。

 

「──────────ッ!?」

 

十香が力一杯に目を見開き、声にならない声を上げる。

一拍おいて。

───天に聳えていた十香の剣にヒビが入り、バラバラ

に霧散して溶けて消える。

つづいて、十香がその身に纏っていたドレスのインナーやスカートを構成する光の膜が弾けるように消失した。

 

「な───」

 

十香が、狼狽に満ちた声を発する。

 

「・・・・・・あれ?本当に出来た」

 

士道は表情には出てないが多少は驚いていた。

半信半疑ではあったが琴里から聞かされていた。

だが、どちらかと言うと、本当にできるのか信じていなかったが、この一連を見て、琴里の言っていたことは本当だったようだ。

 

「ぷは・・・・っ!」

 

まるで息継ぎでもするかのように、十香は唇を離して、身体を起こす。

 

「ごめん、こうするしかないって言われて・・・・・嫌だった?」

 

士道は少しだけ、反省の顔を浮かべて十香に言ったが、十香は何も言ってこなかった。

 

「・・・・?」

 

怪訝そうに十香を見ると、十香はバルバトスのハッチに座ったまま、不思議そうな顔をして、自分の唇に指を触れさせていた。

士道はそんな十香に腰に巻いていた穴の空いたジャケットを十香に渡して言った。

 

「十香、服がボロボロだからこれでも着れば?」

 

「───ッ!」

 

士道の言葉に気づいたのだろう。

十香は顔を真っ赤にして、慌てて士道からジャケットを引ったくる。

 

「ごめん」

 

「み、見るな、馬鹿者・・・ッ!」

 

十香にも人並みの羞恥心はあったらしく、すぐに士道から引ったくった穴の空いたジャケットを着て言う。

そして、しばしの後。

 

「・・・シドー」

 

十香が、消え入りそうな声を発しながら士道に言った。

 

「なに?」

 

「また・・・・・、デェトに連れていってくれるか・・・?」

 

「いいよ。言ってくれれば、いつでも行くよ」

 

士道はそう言って頷いた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「───以上です」

 

司令たる琴里しか立ち入ることの許されない〈フラクシナス〉特別通信室。

その薄暗い部屋の中心に設けられた円卓につきながら、琴里はそう言って報告を締めくくった。

精霊の攻略・回収に関連する報告を。

円卓には、琴里を含めて五人分の息づかいが感じられた。

だが───実際に〈フラクシナス〉にいるのは琴里のみである。後のメンバーは、円卓の上に設けられたスピーカーを通してこの会議に参加していた。

 

『・・・彼の力は本物だったというわけか』

 

少しくぐもった声を発したのは、琴里の右手に座ったブサイクな猫のぬいぐるみだった。

正しくはぬいぐるみのすぐ前にあるスピーカーから声が発せられているのだが、琴里から見ればブサイクな猫が喋っているようにしか見えない。

先方にはこちらの映像が見えていないはずなので、琴里が勝手に置いたものである。

おかげで〈フラクシナス〉の最奥に位置するこの部屋は、妙にファンシーな空間になっていた。

琴里が得意気に腕組みすると、今度は左手に座った泣きネズミが静かに声を発する。

 

『───君の説明だけでは、信憑性が足りなかったのだよ。何しろ自己蘇生能力に精霊の力を吸収する能力、そして、おとぎ話で出てくる"厄祭戦にて出てきたガンダムの名を持つ七十二体の悪魔の内の一体"。にわかには信じられれん』

 

琴里は肩をすくめた。

まあ、仕方のないことだろう。様々な観測装置を使って、士道の特異性を確かめるに要した時間は───およそ五年。そしてさらにバルバトスと言う士道の操る霊装に近い"ナニカ"は予想外だった。

 

『それで、精霊の状態は?』

 

続いて声を発したのは、ブサ猫の隣に座った、間抜け極まるデザインのブルドッグだった。

 

「〈フラクシナス〉に収容後、経過を見ていますが───非常に安定しています。空間震や軋みも観測されてません。どの程度力が残っているかは調べてみないとわかりませんが、少なくとも、『いるだけで世界を殺す』とは言い難いレベルかと」

 

琴里はそう言うと、円卓の四体のぬいぐるみの内、三体が一斉に息を詰まらせる。

 

『では、少なくとも現段階では、精霊がこの世界に存在していても問題ないと?』

 

明らかに色めき立った様子で、ブサ猫が声を上げる。

琴里は視線に嫌悪感を滲ませながらも口調は穏やかに「ええ」と答えた。

 

「それどころか、自力では隣界にロストすることすら困難でしょう」

 

『───では、彼の様態はどうなんだね。それほどまでに精霊の力を吸収したのだ。何か異常は起こっていないのかな?』

 

今度はネズミが問うてくる。

 

「現段階では異常は見られません。士道にも、精霊にも」

 

『なんと。世界を殺す災厄だぞ?その力を身に封じて、なおかつあのバルバトスと言う"ナニカ"を操ってなお、何も異常が起こらないというのか』

 

犬のぬいぐるみはそう言ってくる。

 

「問題が起こらないと踏んだから、彼の使用を承認したのでしょう?」

 

『・・・彼は一体、何者なのかね。そんな能力・・・まるで精霊ではないか』

 

ぬいぐるみの顔だけでなく、本当に、馬鹿だ。琴里は内心で嘆息しながらも律儀に口を開いた。

 

「───蘇生能力については、以前に説明した通りです。吸収能力や、士道の霊装"バルバトス"と背中にある突起に関しては、現在も調査中としか」

 

琴里がそう言うと、しばしぬいぐるみたちは黙った。

そして数秒のあと、今まで一言も喋っていなかった、クルミを抱えたリスのぬいぐるみが、静かに声を発した。

 

『───とにかく、ご苦労だったね、五河司令。素晴らしい成果だ。"バルバトス"に関しては、此方でも厄祭戦について調べてみるよ。これからも期待しているよ』

 

「はっ」

 

琴里は初めて姿勢を正し、手を胸に置いた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

あの一件から土日を挟み、月曜日。

復興部隊の手によって完璧に復元された校舎には、もう相当の数の生徒が集まっている。

そんな中士道は、ぼうっと教室の天井を眺めていた。

──あの日。

あれからすぐにバルバトスと回収された士道は、施設で入念なメディカルチェックを受けさせられ、阿頼耶識についても調べさせられたのだが、あれ以降、十香の姿を見ていない。

別に琴里達のことだから大丈夫だとは思うが、それでも多少は気にはなっていた。

 

「まあ、気にしても仕方ないか」

 

そう呟いて、士道は制服のポケットからデーツを一つ取り出して口に含む。

すると後ろから、良く聞く声が聞こえてきた。

 

「何が、気にしても仕方ないんだ?五河」

 

「ん?ああ、殿町かどうしたの?」

 

士道は急に話し掛けてきた殿町に反応して、首を彼に向ける。

 

「もうすぐホームルームだぞ?自分の席にもどれよ」

 

「大丈夫でしょ。どうせいつもタマちゃん少し遅れるんだし」

 

「おまえ・・・一応担任だろ。そんな猫かアザラシみたいなあだ名やめとけよ」

 

「別に本人は気にしてなさそうだし、大丈夫でしょ」

 

「おまえなあ・・・」

 

下らないやり取りをしていると、教室のドアをガラガラと開ける音がし、士道達は顔を扉へ向けた。

そして一瞬、教室がざわつく。

それも仕方ないかもしれない。何しろあの鳶一折紙が、額やら手足やらを包帯だらけにして登校してきたのだから。

 

「・・・・・・」

 

士道は目を細め、彼女を見るが特にこれと言った感想はない。

なぜなら、自分を殺した張本人だし、何より俺達の敵に値する組織の人間だ。

さっさと殺した方が楽なのだが、精霊との戦闘以外で彼女を殺すと、警察とか言う治安維持の人間がくるので無闇に殺すことができない。

士道は彼女を一目して、興味をなくし窓の外の風景を見ながら、デーツをもう一つ口に入れる。

すると後ろから・・・・

 

「五河士道」

 

鳶一の声が聞こえてきて、士道は視線をそちらに向ける。

 

「なに?」

 

興味なさそうに士道は彼女に視線を向けると、彼女は自分に深々と頭を下げていることに気づいた。

 

「何のつもり?」

 

教室が騒然とするなか、士道と折紙に反応して視線が集中する。

しかし彼女なまるで意に介していない様子で、言葉を続けた。

 

「───ごめんなさい。謝って済む問題ではないけれど」

 

「・・・アンタがこれ以上俺の邪魔をするなら潰すよ」

 

士道はそう言って、自分の席に戻っていく。

すると後ろから制服の裾が引っ張られ、再び顔を向けると折紙は、そのひんやりとした表情をまったく変えないまま、顔を近づけて言った。

 

「浮気は、駄目」

 

「・・・・・は?」

 

士道は眉間にシワを寄せながら彼女の意味のわからない言葉を聞き、周りのクラスの面々の目は、点になる。

とそれにあわせるように、ホームルームの開始を告げるチャイムがなった。

クラスの面々は興味深そうに折紙と士道の方を眺めながらも、自分の席に着いていく。

だが、折紙だけはそのまま、士道の顔をジッと見つめてきていた。

その最悪の空気の中、救いの女神が現れる。

 

「はーい、皆さーん。ホームルーム始めますよぉー」

 

扉を開け、タマちゃんが教室に入ってきたのである。

 

「・・・?と、鳶一さん、五河くん、何してるんですかぁ?」

 

折紙は無言のまま珠恵を一瞥すると、士道の服の裾を離して自分の席に戻っていった。

とはいえ、彼女の席は士道のすぐ隣。士道は彼女の視線に若干イラつきながらも、席に座る。

 

「は、はい、皆さん席につきましたね?」

 

教室の不穏な空気を感じ取ってか、珠恵がやたら元気な声を上げる。

次いで、思い出したかのように手を打ち、うんうんと頷いた。

 

「そうそう、今日は出席を取る前にサプライズがあるの!───入ってきて!」

 

言って、今し方自分が入ってきた扉に向かって声をかける。

 

「ん」

 

と────それに応えるように聞き覚えがある声がした。

 

「・・・・あれ?」

 

「──────」

 

士道の困惑と、折紙の驚愕とともに。

 

「今日から厄介になる、夜刀神十香だ。皆よろしく頼む」

 

高校の制服を着た十香が、とてもいい笑顔をしながら入ってきた。

見ているだけで目が痛くなるほどの美しさに、クラス中が騒然とする。

十香はそんな視線になど意に介さず、チョークを手に取ると、下手くそな字で黒板に『十香』とだけ書いた。

そして満足げに「うむ」とうなずく。

 

「何で学校に十香がいるの?」

 

「ぬ?」

 

士道が言うと、十香が視線を向けてきた。

不思議な輝きを放つ、その光彩。

 

「おお、シドー!会いたかったぞ!」

 

そして大声で士道の名を呼び、ぴょんと跳び跳ねて士道の席の真横───ちょうど、ついさっきまで折紙が立っていた位置までやってくる。

再び、士道はクラス中から注目を浴びた。

ざわざわ、ざわざわ。あたりから、二人の関係を邪推する声や、先程の折紙との関連性を勘ぐるような声が聞こえてくる。

士道は周りにも聞こえないように小さく声を発した。

 

「十香、どうして学校にいるの?」

 

「ん、検査とやらが終わってな。──どうやら、私の身体から、力が九割以上消失してしまったらしい」

 

十香も士道を真似をしてか、小さな声で言ってくる。

 

「まあ───とはいえ怪我の功名だ。私が存在しているだけでは、世界が啼かなくなったのだ。それでまあ、おまえの妹がいろいろしてくれた」

 

「ふーん」

 

士道はそう言って頭をかく。

十香を自由にしてくれたのはいいが、他にもやりようがあっだろう。

しかし十香は何食わぬ顔で、

 

「なんだ、シドー。元気がないな。────ああ、もしや私がいなかったので寂しかったのか?」

 

なんて、冗談めかす調子もなく、そんなことを言ってきた。

しかも、周りの皆に聞こえるくらいの大きさで。

クラスのざわめきが、最高潮に達する。

士道は周りの声でこの上ない居心地の悪さを感じながらも、何でもないように言う。

 

「別に。でも何にもなくて良かった」

 

「なんだ、つれないな。あのときはあんなに荒々しく私を求めてくれたというのに」

 

言って両手で頬を覆い、恥ずかしそうな顔を作る。

 

『─────っ!?』

 

周囲の空気が変わった。

だが、士道はそんな事を気にせず、十香に言う。

 

「どっちかって言うと、ああするしかなかったって感じでしょ」

 

士道はそう言うが、周りの反応はやたら騒ぎだす。

と、瞬間────十香が士道に近づけていた顔を右に動かした。

 

「・・・?」

 

不思議がる士道の目の前を、ペンが凄まじい速さで横切った。

 

「なんだ?」

 

目の前に通ったペンの出所を見る。

そこには、たった今ペンを放った格好のまま、冷たい視線を向けてくる折紙の姿があった。

 

「・・・・・ぬ?」

 

「・・・・・・・」

 

十香と折紙。二人の視線が混じり合う。

 

「ぬ、なぜ貴様がこんなところにいる?」

 

「それは、私の台詞」

 

まさしく一触即発。

だが二人とも、ここで戦闘をやる気はないようだった。

それはそうだろうと言えるかもしれない。

片や力のほとんどを失った状態、片や装備もなく、怪我をした状態だ。

 

「は、はい!おしまい!おしまいにしましょう!ねー!仲良く!」

 

タマちゃんが慌てた様子で二人の間に割って入り、どうにかその場は水入りとなった。

だが。

 

「じゃあ、夜刀神さんの席は───」

 

先生が十香の席を探し始めると、

 

「無用だ。───退け」

 

十香は、士道の隣───折紙の反対側に座っていた生徒に、鋭い眼光を放った。

 

「ひ、ひぃぃぃっ!」

 

そのプレッシャーに圧され、座っていた女子生徒が椅子から転げ落ちる。

 

「ん、すまんな」

 

言うと十香は悠然とそこに腰掛け、士道の方に視線を送ってきた。

だがそうすると、視線が混じるのは士道ではなく折紙になるわけで。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

二人して、無言で睨み合う。

士道は睨み合う二人の間で目を閉じて言う。

 

「二人とも、その視線止めて。うざいから」

 

士道の言葉に彼女達は、

 

「わ、わかった」

 

「・・・・・」

 

そう言って前を見る。

ホームルームが始まると、今日も昨日とは違う一日が始まった。




感想、誤字報告よろしくです。
















バルバトス

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