デート・ア・オルフェンズ   作:鉄血

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投稿です。三日月ぽくなかったらごめんなさい。

さて、新章です。

「双子のお嬢さんは元気かな?」

マクギリス・ファリド


四糸乃パペット
第一話


「シドー・・・・!クッキィというのを作ったぞ!」

 

「ん?」

 

士道は自分の名前を呼ばれて、教室の入口に顔を向ける。

そこにいたのは水晶のような瞳と腰まであるであろう夜色の髪をなびかせた十香が興奮気味に言って、手にしていた容器を自分の中の目の前に突きだしてくる。

 

「十香、何か作ったの?」

 

「うむ、これを見てくれ!」

 

十香はそんな士道に応えるように、容器の蓋を開けた。

そこには、形が歪だったり、ところどころ焦げていたりするものの、辛うじてクッキーと言えるものが入っていた。

士道と十香は同じクラスだったのだが、なんでも、個々人の作業量が充実するように・・・とかいう理由で、実験的に、調理実習を少人数に分けて行っていたのだった。

つまり、今日は女子生徒だけが調理実習の日だったのだ。

 

「これ・・・クッキー?」

 

「うむ、皆に教えてもらいながら、私がこねたのだ!食べてみてくれ!」

 

言って、十香がまたも満面の笑みを作る。

 

「へぇ・・・じゃまあ」

 

士道はそう言って容器からクッキーを一つ取って口に入れる。

 

「うん・・・これくらい固いほうが食ってる感じがして旨い」

 

士道はそう言って、もう一つ手を伸ばす。

すると近くにいた殿町が苦笑いしながら、士道に「相変わらず気づかないなあ」と言っていた。

そしてもう一枚口に入れようとした時。

 

「・・・・?」

 

士道の持っていたクッキー目掛けて、銀色の弾丸のようなものが、一直線に通り過ぎて手に持っていたクッキーを粉々に砕くと、そのまま壁に突き刺さった。

 

「・・・なんだ?」

 

廊下の方から放たれたそれの先に目を向けると、フォークが壁に突き刺さって、音を立てながら、柄を揺らしていた。恐らくは、調理室のものだろう。

 

「ぬ、誰だ!危ないではないか!」

 

十香が叫び、廊下に顔を向ける。

士道もそれに釣られるように、そちらに顔を向けた。

 

「・・・・・・」

 

そこには、つい今し方何かを投擲したように、右手を真っ直ぐ伸ばした少女が無言で立っていた。

そんな見覚えのある彼女を見て、士道は目を細める。

肩口をくすぐるくらいの髪に、色素が薄い肌。顔立ちは端整だが、表情は一切見受けられなかった。

 

「また、アンタか」

 

「ぬ」

 

士道はそう言い、十香は不機嫌そうに眉根を寄せる。

少女───鳶一折紙は、そんな二人を見つめながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。

そして士道の前まで辿り着くと、左手に持っていた容器の蓋を開け、先ほどの十香と同じように士道に差し出してくる。

 

「夜刀神十香のそれを口にする必要はない。食べるならこれを」

 

そこには、工場のラインで製造されたかのごとく、完璧に規格の統一されたクッキーが綺麗に並んでいた。

 

「何?」

 

「邪魔をするな!シドーは私のクッキィを食べるのだ!」

 

士道がどう反応すればいいか分からず、十香がぷんすか!といった調子で声を上げた。

しかし折紙は微塵も怯まず、それどころか表情をぴくりとも動かさず、のどを震わせる。

 

「邪魔なのはあなた。すぐに立ち去るべき」

 

「何を言うか!あとから来ておいて偉そうに!」

 

「順番は関係ない。あなたのクッキーを彼に摂取させるわけにはいかない」

 

「な、なんだと!?」

 

「あなたは手洗いが不十分だった。加えて調理中、舞い上がった小麦粉にむせ、くしゃみを三度もしている。これは非常に不衛生」

 

「な・・・・っ」

 

虚を突かれたように、十香が目を丸くする。

士道は二人の争いを止める訳でもなく、周りを見渡すと、先程の折紙の言葉で周囲の男子生徒たちが、騒ぎ始める。

しかし十香はそんなことに気付く様子もなく、ぐぬぬ・・・と拳を握りしめる。

 

「し、シドーは強いからそれくらい大丈夫なのだ!」

 

「因果関係が不明瞭。───それに、あなたは材料の分量を間違えていた。レシピ通りの仕上がりになっているとは思えない」

 

「・・・・っ!?」

 

折紙が言うと、十香は眉をひそめ、自分と折紙のクッキーを交互に見た。

 

「う、うるさいっ!貴様のクッキィなぞ、美味いはずがあるかっ!」

 

十香はそう叫び、目にもとまらぬスピードで、折紙の容器からクッキーを一枚かすめ取ると、自分の口に放り込んだ。

そしてサクサクと咀嚼し───

 

「ふぁ・・・・・っ」

 

頬を桜色に染め、恍惚とした表情を作った。どうやら、旨かったらしい。

しかし十香はすぐにハッとした様子で首を横にブンブンと振った。

 

「ふ、ふん、大したことはないな!これなら私の方が美味いぞ!」

 

「そんなことはあり得ない。潔く負けを認めるべき」

 

「なんだと!?」

 

「なに」

 

放っておいたら殴りあいになってしまいかねない。

敵とはいえ、同級生である折紙と、仲間の十香が殴り合うのは自分としてもあまり気分は良くない。

なので、外から見ていた士道は十香の耳を引っ張り言った。

 

「喧嘩か?十香。俺は嫌だ」

 

「痛い痛い!シドー離してくれ!!」

 

「じゃあ、喧嘩はしないでよ」

 

「わかった!!わかったから!!離してくれ!!」

 

十香は涙目になりながら言うので士道は手を話す。

そして折紙に士道は言った。

 

「アンタも、変にかかわらないでくれ」

 

「・・・・・」

 

士道の言葉に折紙は何も言わなかったが、どうやらもう何もしないようなので、士道は自分の席に戻る。

すると後ろから十香が抗議するように、士道に言った。

 

「・・・うう、痛かったぞ・・・シドー・・・」

 

「でも、これくらいしないと喧嘩になりそうだったからね。今度はしないでよ」

 

「・・・わかった」

 

十香は少ししょんぼりしながら、自分の席に座った。

そして十香が座った時、士道は思い出したかのように十香に言った。

 

「ああそうだ・・・十香、あのクッキー結構旨かったから、また頂戴」

 

「う、うむ!ならいつでも食べてくれ!!」

 

十香はしょんぼりしていた顔を再び明るくする。

そして次の授業のチャイムがなると、他の生徒も自分の席に座り準備を始める。

士道と十香も、次の授業の為に準備をし始めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「流石に鬱陶しいな、アイツ」

 

士道は学校の帰り道、イラつきながらポツリと呟いて、十香からもらったクッキーを口に入れる。

だが、それも無理からぬことだろう。

十香と折紙はあの後も喧嘩をし、それを見つけた士道が止めに入るというのを何度もしていたのである。

一度、実力行使で止めた方が良いのかも知れないが、学校ではそういう事が出来ないのが、士道に取ってもかなりイライラする原因でもあった。

しかも、そんなバトルは今日に始まった話ではない。

先月十香が、士道の通う学校に転入してきてからというもの、毎日のように二人の小競り合いは続いていたのだ。

───だが、それがただの口喧嘩であれば、士道は止めやしないだろう。

 

「・・・・・」

 

士道は先月目にした十香と折紙の姿を思い起こす。

片や、世界を殺す災厄と呼ばれる『精霊』。

片や、陸上自衛隊・対精霊部隊の魔術師とかいうわからない集団。

そんな二人の間に、一々割って入る自分の気にもなって欲しい所だ。

 

「・・・まぁ、いいか。戦闘になれば潰せばいいし」

 

もし、彼方から仲間に攻撃するような事があれば、その時は全力で潰す。

士道はそう思いながら、もう一つクッキーを口に入れた。

 

「・・・・ん?」

 

クッキーを咀嚼しながら、士道は顔を上にやった。

突然、ぽつん、と首筋に冷たいものが当たった気がしたのである。

 

「・・・・・雨か」

 

士道はそう言って空を見上げた。

いつの間にか、空がどんよりと曇っていたからだ。

 

「天気予報じゃあ晴れって言ってたのにな。最近あまりあてになんないな」

 

士道の言葉に反応するかのようにポツ、ポツ、と大粒の雫が道に染みを作り始める。

 

「急いで帰らないと」

 

士道は手に持っていた鞄を頭の上にやり、小走りで家へと急ぐ。

しかし、雨はみるみるうちに激しさを増していった。

制服に染みていく冷たい感触を味わいながらも、士道は走っていく。

そして分かれ道を右に曲がった所で。

 

「ん・・・?」

 

雨の中、士道はふと足を止めた。

それは前方に気になるモノを見たからだ。

 

「なんだ、アイツ?あんな所で」

 

士道の視線の先にいたのは、少女だった。

可愛らしい意匠が施された外套に身を包んだ、小柄な影。

顔は見えない。というのも、ウサギの耳のような飾りが付いた大きなフードが、彼女の頭をすっぽりと覆い隠していたからだ。

そして気になるのはその左手。

イヤに、独特的なウサギ形の人形が、そこに着けられていたのである。

そんな少女が、ひとけのなくなった道路のど真ん中で、ぴょんぴょんと跳ね回っていた。

 

「アイツのこの感じ・・・知ってるやつだ」

 

士道はそう言ってその少女を見る。

この嫌な感じ。バルバトスを出したあの時から十香でも伝わっていた。

そう、"あの鳥みたいなMAと対面したような"あの感覚。

 

「・・・・・」

 

士道はその感覚を感じながらも少女を凝視する。

冷たい雨の降り続く中、軽やかに踊る少女に、目を釘付けにし───

─────ずるべったぁぁぁぁぁぁんッ!

 

「は?」

 

士道はそう呟く。

・・・・・女の子が、コケた。

顔面と腹を盛大に地面に打ち当て、あたりに水しぶきが散る。ついでに彼女の左手からパペットがすっぽ抜けて、前方に飛んでいった。

そして、うつぶせになったまま、動かなくなる。

 

「・・・・大丈夫か?アイツ?」

 

士道はそう言って彼女に近づくと、彼女の身体を仰向けにしてやる。

 

「生きてる?」

 

そこで初めて、少女の顔を見る事が出来た。

年頃は妹と同じくらいだろうか。髪は海のような青色で、昔みたフランス人形とかいうヤツに似ていた。

 

「・・・・・!」

 

と、そこで少女が目を開いた。長い睫毛に飾られた、宝玉のような瞳が露になる。

 

「アンタ、動ける?」

 

士道が言うと、少女は顔を真っ青に染めて目の焦点をぐらぐらと揺らし、士道の手から逃げるようにぴょんと跳び上がった。

彼女は士道から少し距離を取ってから、全身を小刻みにカタカタと震わせて、士道を怖がるような視線を送ってくる。

 

「・・・・・」

 

「・・・こ、ない、で・・・ください・・・っ」

 

そんな彼女を見て、士道はすぐに状況を察して足を前に踏み出す。

 

「・・・・は?」

 

士道が彼女の言葉を聞き、そう呟く。

 

「いたく、しないで・・・ください・・・っ」

 

続けて、少女はそんな言葉を言ってくる。

彼女にとって自分に危害を加えるように見えるのだろうか。その様子はまるで震える小動物のようだった。

 

「・・・・・」

 

士道は彼女のその様子にめんどくさそうにしながら息を吐く。

どうしようかと思っていた士道は、自分の足元に落ちていたパペットに気がついてそれを拾い上げ、少女に言う。

 

「これ、アンタのだろ」

 

「・・・!」

 

すると少女は目を大きく見開き、士道の方に駆け寄ってこよう───としたところで、足を止めた。

 

「・・・ん」

 

士道は手に持ったパペットを少女に向かって突き出すような格好で、彼女に渡す。

 

「・・・っ!」

 

少女がビクッと肩を揺らすが───士道の意図に気づいたのだろう、あちらもゆっくりと近づいてそして、士道の手からパペットを奪い取るなり、それを左手に装着する。

すると突然少女が、パペットの口をパクパクと動かし始めた。

 

『やっはー、悪いねおにーさん。たーすかったよー』

 

「ん?」

 

よく分からないが、ウサギが妙に甲高い声を発してくる。

首を傾げて、訝しげに少女の顔を見やるが・・・まるで士道と彼女の間を遮るように、ウサギのパペットが言葉を続けてくる。

 

『───ぅんでさー、起こしたときに、よしのんのいろんなトコ触ってくれちゃったみたいだけど、どーだったん?正直、どーだったん?』

 

「はあ?」

 

パペットの言っている意味が分からず士道はそう呟くが、そのパペットは笑いを表現するかのようにカラカラと身体を揺らした。

 

『またまたぁー、とぼけちゃってこのラッキースケベぇ。・・・まぁ、一応は助け起こしてくれたわけだし、特別にサービスしといてア・ゲ・ルんっ』

 

「・・・あっそ」

 

士道は興味無さげにそう言う。

 

『ぅんじゃね。ありがとさん』

 

と、パペットがそう言うと同時、少女が踵返して走っていった。

少女が走っていった方を士道が見ると、そこにはもう彼女の姿はなかった。

 

「なんだ、アイツ・・・変な奴だったな」

 

士道はそう呟き、帰り道に踵返した。

 

 




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