デート・ア・オルフェンズ   作:鉄血

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「三日月、僕は降りないよ。降りるときは、帰るときは、皆で一緒に帰るんだ」

ビスケット・グリフォン



第九話

「・・・と、いうわけで、十香。買い物に行こうと思うのだが、ご同行願えるかな?」

 

翌日、五月十三日(土)。午前十時。

昨日言ったとおり、令音が五河家を訪れ、十香の部屋の扉の前でそう言った。

その装いは、平時のような白衣や軍服ではなく、胸元に傷だらけのクマのぬいぐるみが覗いたカットソーに、暗色のボトムス。そして鞄を肩がけにした出かける時の格好だった。

しかし肝心の十香は昨日と同じように、扉の奥から苛立たしげな声が響く。

 

『うるさいっ、私のことは放っておけ・・・!』

 

荒々しい語気に、令音の隣に立っていた士道は溜息を吐く。

 

「昨日からずっとこの状態で出てきてないよ」

 

「・・・ふむ」

 

令音は、思案するようにあごに手を当てた。

そして鞄から、小さなパソコンのような端末を取り出すと、片手でソレを弄り始めた。

 

「・・・・・?」

 

士道はソレを隣で眺めていると、令音は画面を眺めてから端末をしまい込み、扉に向かって一歩足を踏み出した。

 

「・・・十香」

 

『構うなと言っているだろう・・・!私は───』

 

「・・・・買い物のついでに外で食事でもと思っているのだが、どうかな?」

 

令音が言うと、不意に十香が黙り込む。

そして、数十秒後。

ギィ、と部屋の扉が開かれ、中から不機嫌そうな十香が顔を出した。

昨日から着替えてないのだろう、身に纏った高校の制服は、またしっとりと濡れていた。ついでに、あまり寝ていないのか目に隈が浮かんでいる。眠そうな人と並んで歩いたら姉妹と思われるだろう。

 

「へぇ、やるじゃん」

 

士道は令音が言葉だけで十香を外に出したことを素直に賞賛する。

 

「眠そうな人。どうやって十香を出したの?」

 

「・・・何も。十香の空腹値が上昇していたからね。そろそろ限界とは思っていたんだ」

 

「へぇ、でも昨日の夜飯の時に呼んだ時は出てこなかったけど?」

 

「・・・それはまあ、君と顔を合わせたくなかったんだろう」

 

「・・・・それもそうか」

 

三日月がそう呟くと、ようやく外に出てきた十香は、士道の姿を見るなりぷいっと顔を背け、そのまま歩いていってしまった。

 

「じゃあ後はお願い。俺は買い物しなくちゃいけないし」

 

「・・・・・ん、任せたまえ。今日も朝から雨が降っている。傘を忘れないようにしてくれ」

 

「分かってるよ」

 

士道はそう言って二人を玄関まで見送った。

扉が閉まり、気配が遠のいた後、三日月は身を翻す。

 

「さっさと買い物済ませて、トレーニングするか」

 

昨日下校時に商店街に寄るつもりだったが、色々面倒事があったせいで買い物が出来なかったのだ。

士道は手早く着替えを済ませると、傘を手に取り家を出た。

そして鍵をかけてから、士道は雨の道を歩いていった。

 

───どれくらい歩いた頃だろうか。

 

「・・・・・あれ?」 

 

商店街に向かう途中。見覚えのある後ろ姿を視界に納めて、士道は足を止めた。

その、ウサギのような耳がついた緑色のフードを見つけて。

 

「あれ?なんでアイツが・・・」

 

士道は若干目を開けて口にする。

昨日の空間震によって破壊され、立ち入り禁止になっていたエリアの向こうに、精霊『よしのん』の姿があったからだ。

士道は塀に身を隠すと、『よしのん』の様子を観察する?

 

「警報はなし。前と同じパターンか」

 

そういえば、初めて『よしのん』と遭遇したときも、警報は鳴っていなかった。もしかしたら、頻繁にこちらの世界と隣界を行き来しているヤツなのかもしれない。

 

「・・・電話するか?」

 

士道が呟いて携帯画面を開く。そして電話帳から琴里と書かれたログを見てかけるかどうか決めかねていた。

士道は琴里に対して不信感がある。いかんせん、信用できるかと言われれば今は出来ないと答えるだろう。だが、今の状況を下手に自分が駄目にしてしまっては元も子もない。ゆえに───

士道は電話の呼び出しボタンを押し、耳に付ける。

しばらく呼び出し音が続いた後、眠たげな声が電話から聞こえてくる。

 

『・・・もしもし・・・?おにいちゃん・・・?』

 

明らかに今起きたような感の声音に、士道は気にせず琴里に言った。

 

「おはよう琴里」

 

『んー、おはよ。どうしたの・・・?』

 

「よしのんを見つけたけど、どうする?」

 

『・・・・・・・』

 

士道がそう言った瞬間、電話口の向こうから、パチン!パチン!と頬を思い切りひっぱたくかのような音が聞こえてくる。

そしてすぐに切り替えたように、凛とした声が響いてきた。

 

『───詳しく状況を聞かせて』

 

「買い物に行ってたら、昨日あった所の近くで見つけた」

 

士道は今の状況を軽く説明すると、琴里が呟やく。

 

『・・・なるほど。また静粛現界か、厄介ね。───それで、まだ士道の存在は精霊に気づかれていないのね?』

 

「すぐに隠れてるから、大丈夫だと思う。それで聞くけど、“次はどうすればいい”?」

 

「・・・・・・っ!」

 

息を呑む声が聞こえる。

今後、琴里達がちゃんと指示をくれるのなら、士道はそれに従う。だが、しないのなら“叩き潰す”。

しばらく無言が続く中、琴里が言った。

 

『インカムは持ってる?』

 

「持ってるよ」

 

『なら、ソレをつけて精霊を見失わないように待機して』

 

「そっちはどうすんの?」

 

『・・・フラクシナスでまた指示をするわ』

 

「分かった。じゃあ監視続けるね」

 

そう言って士道が電話を切ろうとした時。

 

「・・・・・士道」

 

「なに?」

 

琴里に呼び止められる声が電話から聞こえ、返事を返す。

 

「昨日は・・・その、ごめんなさい。この後ちゃんとまた謝るわ。作戦も指示も次は・・・」

 

「別にいいよ。謝らなくても」

 

琴里の謝罪に対して三日月はそう言い返す。その言葉に対して琴里は黙り込んでしまった。

 

「でも、次はちゃんとやってよね。俺は琴里に“自分の命のチップ“を今、預けてるから」

 

士道はそう言って言葉に重しを乗せる。俺とオルガはそうやって前に進んで来た。たとえ誰かが死んだとしても、オルガに詰め寄ったとしても、俺達はそこを目指し続けた。

お互いに突き動かして、突き動かされて、ただひたすら前に進み続けた。

その先で十香や仲間が馬鹿笑い出来るのなら、俺は“自分の命“すらもかける。

だから、こんな所で“止まってなんて“いられない。

俺の言葉に琴里は、インカム越しで言葉を返す。

 

『・・・分かったわよ。そこまで言われたならこっちもしっかりしないといけないわよね』

 

琴里はそう言って・・・俺に言う。

 

『士道、貴方のそのチップ使わせて貰うわよ。この先、十香達がちゃんと生きられるような未来の為にね』

 

「ああ、その為ならなんだってやってやるよ」

 

「さあ、私達の・・・戦いを始めましょう」

 

俺は前に進み続ける。オルガの目指した先へ。そして、オルガの命令を果たす為に。




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