ガエリオの伝言ゲーム
「ガエリオ・ボードウィン」
「ガエリオ・ボードウィン特務三佐」
「ガエリオ・ボードウィン」
「ガエリオ・ボールドマン?」
「ガエリオ・ボールドさん」
「ガリガリ・ボンドマン」
「貴様わざとか!?」
アイン・ダルトン
バエルマン
オルガ・イツカ
アトラ・ミクスタ
全てを無に返す三日月
ガリガリ・ボンドマン
「なにこれ?」
四糸乃の力を封印した日から、二日。
検査を終えた士道と十香は、ようやく家に帰ってくる事ができたのだが・・・その日、朝起きてみると、五河家の隣に、マンションのような建物が聳えていたのである。
二日前までは空き地だったスペースに、突如として。
まるで、化かされているような気分だった。
「何って・・・言ってなかったっけ?精霊用の特設住宅を造るって」
と、後方から琴里が、眠たげに目を擦りながら言ってくる。
「ああ、じゃあこれがそうなんだ」
「ええ。見た目は普通のマンションだけれど、物理的強度は通常の数百倍、顕現装置も働いているから、霊力耐性もバッチリよ。多少暴れても、外には異常がもれないわ」
「へぇ・・・でもこんなのいつの間に造ったの?一日二日で出来るもんじゃないよね?」
「やあねえ。陸自の災害復興部隊だって、破壊されたビルを一晩で直しちゃうじゃない」
「そういうことか」
言われてみればそうである。きっとこれも、顕現装置とやらを使った結果なのだろう。
「・・・・ってことはさ、住居ができるまで、ってのは結構な詭弁だったわけか」
「人聞きの悪い。十香が外部で暮らすための試用期間でもあるって言ったでしょ」
「・・・ん?」
いろいろと腑に落ちなかったが、きっと言い返しても無駄だろう。
琴里は身を翻すと、家の方へ足を向けた。
「───というわけで。明日から十香は隣の家で暮らしてもらうことになるわね。もう十香には言ってあるわ。今頃荷造りしてるんじゃないかしら?」
「そっか。じゃあ荷物を運ぶの手伝うか」
士道はそういうと、琴里は「はいはい」と言いながら家の中に入っていった。
士道も一度、マンションを見たあと家に足を向けた。
と─────
「ん・・・・・?」
士道は不意に視線を歩道へ向ける。
可愛らしいワンピースを纏い、頭に顔を覆い隠すようなキャスケットを被った少女が、飛び跳ねるように走ってきたからだ。
「・・・四糸乃?」
士道は少女の名を呼ぶ。身に纏っているのは霊装ではなかったが───間違いない。
何しろ、少女は左手に、ウサギのパペットを着けていたのだから。
『やっはー、士道くん』
パペットがパクパクと口を動かしながら、甲高い声を響かせてくる。
『やー、やっと会えたねえ。助けてもらったのにお礼言えなくてごめんねー』
「別に仕事だよ。でもなんでこんなとこにいんの?もう検査は終わり?」
『んー、第一検査だけはね。まだあるらしいんだけど、士道くんにお礼が言いたくてさ。特別に少しだけ外に出してもらったんだー』
言って、〈フラクシナス〉を見るように、パペットが空を仰ぐ。
『ま、そういうわけで、検査終わったらまたデートしよーねー』
「アンタ相手だと、俺結構疲れるんだけど・・・まあうん。言ってくれれば付き合うよ」
『ふふ、うんじゃ、まーたね』
パペットが小さな手を振る。
と、四糸乃がぴくりと肩を揺らすと、躊躇いがちに顔を士道の方に向けてきた。
「・・・どうかした?」
「───あ、の・・・・」
と、士道はその声を聞き、少しだけ眉を上げる。
「また・・・おうちに、遊びに、行っても・・・いい、ですか・・・?」
そう言って、恐る恐るといった様子で士道の方へ視線を送ってくる。
「いいよ。いつ来ても。好きな時に来れば?」
士道が答えると、四糸乃は顔を明るくしてから頭を下げ、パタパタと走っていった。
『ふふっ、偉い偉い。頑張ったねー』
「・・・・・うんっ」
なんて会話を、パペットと交わしながら。
「・・・・・戻るか」
士道はそんな彼女を見ながらそう呟き、家の中に入っていく。
階段を上り、自分の部屋で寝ようかと思い、入ろうとしたところで、士道は視線に気づいた。
廊下の奥に位置する客間の扉が微妙に開き、そこから、十香が顔を半分ほど覗かせて士道の方を見ていたのである。
「・・・何やってんの?十香」
「・・・・・・・・」
士道は不思議そうに言うと、十香は無言のまま、扉の隙間から手を出し、ちょいちょい、と手招きをする。
「・・・・んー?」
十香の行動に士道は足を進めると、十香はそのまま部屋の中に引っ込んでしまった。
「・・・・なんだろ?」
十香の訳のわからない行動に士道は困惑しながらも、十香がいる部屋に向けて歩いていった。そして扉を開ける。
十香は、部屋の左手側───壁際に置かれた棚の前あたりに立っていた。それと向き合う形になるように、部屋の中程まで歩みを進める。
「なんか用?十香」
士道が問うと、十香は小さく唇を噛むようにしてから顔を上げてきた。
「・・・・ん。琴里から聞いているかもしれないが、明日から、隣の家に住むことになった」
「うん。琴里から聞いた」
「それで・・・ん、今のうちに、シドーと話しておきたいことかあるのだ」
「話?」
「・・・・・うむ」
十香が、何か言い出しづらそうに、目線を微妙に逸らす。
「昨日、検査のとき、琴里や令音にいろいろと、聞いた」
「───?色々って?」
「ん・・・琴里たちは、私たち精霊を助けようとしてくれていて・・・シドーもそれに協力しているのだと」
十香は、心拍を落ち着けるように深呼吸をしてから、士道に向き直ってきた。
「話というのは、それに関連してだ。───シドー。お願いだ。もし今夜、私や四糸乃のような精霊が現れたなら、きっと救ってやって欲しい」
「・・・・・」
士道は、表情は変えずにじっと十香を見つめる。
「琴里が言うには、まだ精霊は数体確認されているらしい。きっとその中には、私たちのように、望まぬままに戦いに巻き込まれている者もいるはずなのだ。───そんなのは、可哀想ではないか」
十香が、どことなく寂しそうな笑顔を作りながら、言う。
「だから頼む。シドーの力で、そういう精霊達を救ってくれ。・・・あのとき、私を、助けてくれたように」
「分かってる。だから心配しなくていいよ」
十香は、望み通りの答えが得られた筈なのに、何故か複雑そうな顔をして笑った。
「ん・・・恩に着る。あと・・・もう一つ、いいだろうか?」
「なに?」
「ん・・・・・」
と、十香が、何かモゴモゴと口を動かしながら、ふっと顔をうつむけてしまう。
「・・・・・?なに?」
士道は十香が何を言っているのか分からず、耳を傾けながら十香の方に足を踏み出し───
「・・・・・・!」
急に顔を上げた十香に身体を寄せられ、十香は士道の首に腕を回すと、そのまま士道はを近くにあったベッドに押し倒す。
そして───
「ん・・・・・?」
一瞬、逡巡のようなものを見せてから、十香は、おもむろに自分の唇を士道の唇に合わせてきた。
「ん?(は?)」
突然の事に士道はそう呟くが、十香はギューと士道を抱きしめながら数十秒間、キスを続ける。
そしてようやく───十香が唇を離して顔を上げた。
「ぷは・・・・・っ」
どうやらキスの間中、息を止めていたらしい。息継ぎでもするように、十香が息を吐く。
そしてマウントポジションを取ったまま、士道の目をジッと見つめてくる。
「十香?さっきのといい、どうしたの?」
士道はそう声を発すると、十香は視線を変えぬまま続けてきた。
「・・・・・今回は、これで手打ちにしてやる」
「は?」
士道は眉を上げながら声を返すと、十香は恥ずかしそうに目を逸らす。
「・・・・なぜだろうな。ただ唇を触れさせるだけの行為なのに・・・悪くない感じがする。不思議と───シドー以外の人間とは、したいと思わないのだ。・・・それと同じ・・・なのかどうかはわからないが、シドーが・・・その、ビルとやらの中で四糸乃とキスをしていたときは、なんというか・・・イヤな感じがした」
そんな事を言う十香は恥ずかしそうに言葉を続ける。
「・・・だから。その、なんだ。・・・もう、私以外とは、するな」
「・・・・・・え?あー、うん?」
曖昧な返事をしてしまったが、どうやら十香は精霊の力を封印する為の方法を聞かされていないらしい。なんというか、無茶な要求をしてくれる。
「返事っ!」
「えっ?うん」
十香の言葉に、士道はそう言った。
◇◇◇◇◇
「───兄様・・・・・?」
彼女は画面に写る士道の画像を見てそう呟いた。
その彼女の雰囲気は、どこか士道に似ていた。
感想、評価、誤字報告よろしくです!
ちなみに、ちょっと〈フラクシナス〉と鉄血の〈スキップジャック級戦艦〉ってどれだけサイズが違うのかなーと、調べてみたら
・・・
フラクシナス
約275m
アリアンロッド艦隊 スキップジャック級戦艦
約800m
・・・・・ラスタル様、貴方の戦艦デカすぎません?