「もっとだ。もっと。もっと寄越せバルバトス!!」
悪魔にメンチを切る悪魔
「ちょっと。何してるのよ、士道」
「ん?」
自宅のリビングで。五河士道は、不意にそんな声をかけられ、振り向く。そこには長い髪を黒いリボンで二つ結びにした制服姿の女の子が、腰に手を当てて仁王立ちしていた。
士道の妹・五河琴里────の、“司令官”状態である。
双眸は不機嫌そうに歪められ、口にくわえられたチュッパチャップスの棒は、傍から見れば威嚇する動物の尻尾のようにピンと立てられている。
「何って、学校に行くんだけど?」
士道はそう言って琴里を見るが、しかし琴里は肩をすくめながら首を横に振った。
「オーケイ、話を整理しましょう。士道が左手に持っているものは何?」
「・・・?弁当だけど?」
「自分が食べるもの?」
「十香のだよ」
自分の分は鞄の中に入っている。これは家の隣のマンションに住む十香の為に、士道が別で作ったものだ。
「それをどうやって十香に渡すの?」
「郵便受けに入れるけど・・・それが何?」
別に手渡しでも良いが、そうなった場合、士道が十香の家に直接行く事になるので、いつも朝が早い士道に関してはまだ寝ているであろう十香を、起こしたらいけないという配慮もあっての事だった。
「へぇ・・・じゃあなんで郵便受けに入れるのよ」
「登校時間違うのに、渡せるわけ無いじゃん」
「そこよ」
琴里が口にくわえていたチュッパチャップスを指で摘み、ビシッと士道に向けてくる。
「は?」
「十香が隣に越してきてから、約二週間。───士道、十香と何回一緒に登校した?」
「え?ええっと・・・」
視線を上に上げ、頭の中で数えてみる。
「多分ないと思うけど・・・」
士道はそう言って視線を上に上げた。
わけあって士道と十香は、この家で少しの間同居していたことがあったのだが、その際、士道が朝一番速いので問題なかった。
だが、十香の弁当を作って十香を待つと、学校で栽培している野菜に手がつけられなくなってしまう。
なので、行きは別々だが帰りは一緒に帰るというのが、日課になっていた。
琴里はやれやれといった調子で額に手を当てた。
「せっかくお隣に住んでて、クラスも同じだってのに、わざわざ登校イベントを潰す理由がわからないわ。────今後また別の”精霊“が出現したら、十香にかかりきりになってるわけにもいかなくなるんだから、一緒にいられるときはいてあげなさい」
「・・・分かった」
士道は短くそう言って立ち上がる。
「分かってる?士道。次の精霊が現れたら、またデレさせなきゃいけないんだからね」
「分かってるって。“仕事“なんだから覚えてる」
士道は鬱陶しいと吐息を漏らしながらそう答える。
「よろしい。それじゃあ、今日は十香と一緒に登校すること。オーケイ?」
「はいはい」
別に嫌と言う訳ではないが、ただ単純に面倒くさいなと思った士道は、鞄を手に持つと、玄関の扉に手をかける。
「ちょっと士道。忘れ物よ」
と、その途中、琴里に声をかけられ、士道は自分の手元を見直した。
「?他に何かあった?」
「これよ、これ」
琴里が小さなインカムを左手の平に載せ、腕を伸ばしてくる。
そして右手の人差し指を立てると、ちょいちょい、と自分の耳を指さす。
────まるで士道に、そのインカムを今装着しろとでも言うように。
「・・・・なに?」
「ちょうどいいから、訓練も兼ねちゃいましょ。ほら、装着装着」
すると琴里はにい、と唇の端を上げ、半ば無理矢理士道の右耳にそれを装着させた。
「訓練って言っても、次はなにするの?」
「そうね────今日の課題は、十香に嫉妬させないように振る舞うこと、よ」
「嫉妬をさせない?どういうこと?」
十香が嫉妬?誰に嫉妬したのだろうか?士道は頭を傾けながらそう思ったが、琴里が言葉を続ける。
「先月、四糸乃が現れたときの十香のことを覚えてる?」
「ああ、あの時か」
四糸乃と一緒にいた時、十香が妙に拗ねたあの時のことを思い出し、士道は納得する。
「そ。要はあれ、士道が他の女の子と仲良くしてるのが、十香は面白くないわけよ」
「へぇ、そういうことか」
士道がそう言うと、琴里は息を吐く。
「まあ、とにかく。士道が他の子と仲良くしてると、十香は段々と精神状態が安定しなくなって────結果、精霊の力が逆流してしまうのよ。新しい精霊が現れるたびにそれじゃあ、やっぱり困るのよね。────そこで、よ」
琴里が、立てていた指を士道に向ける。
「今日の登校中、〈ラタトスク〉の機関員が十香の嫉妬を煽るようにいろいろと工夫するわ。士道はそれを受けつつ、上手く対応してちょうだい」
「・・・・分かった」
士道は頭をガリガリとかきながら、ボソッとそう呟いた。
おまけ
夏祭り
「四糸乃、どうしたの?」
士道はそう言って四糸乃を見る。
「・・・あっ、あの子・・・かわいいな・・・って」
『四糸乃はねー、あの台に乗ってるあの緑の丸いぬいぐるみが気になるんだってー』
四糸乃の視線の先に目を向けると、ハロとか言う、ぬいぐるみが台の一番上にのっていた。
そして、そのぬいぐるみを扱う店が────。
「射的か」
士道はそう呟くと、四糸乃に聞く。
「アレが欲しいの?」
「・・・えっと・・・はい」
小さな声でそう言った四糸乃に、士道は射的屋に足を進める。
「いらっしゃい!やってくかい?」
「うん。これでやれるだけお願い」
店主の言葉に士道は千円を渡して、おもちゃの空気銃を手に取る。
「ああ、ありが・・・」
パン!パン!パン!
店主が言い終わる前に、空気の乾いた音が屋台に鳴り響いた。
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