「なあ、俺達・・・仲間なんだよな?」
チャド・チャダーン
「・・・疲れた」
士道はそう呟きながら十香と一緒に廊下を歩く。訓練、という目的で街中や学校で〈ラタトスク〉の機関員が配備されていたのだが、まあ慣れない事を言われて、面倒だった。
「シドー。大丈夫か?」
「・・・うん、大丈夫」
扉を開けて教室の中を入ると、入り口の近くで黒板に落書きをしていたクラスメートの殿町宏人が、士道の方に目を向けた。
「あー?なんだよいつもより遅いと思ったら十香ちゃんと一緒かよ。うーわ、うーわ」
と、渋い顔で言いながら、手にしたチョークで黒板に相合い傘を描く。もちろん名前は、士道達だった。
「・・・・・」
士道はそれを無視し、自分の席へと向かう。
「お、おい、ノリ悪いな士道?」
困惑する殿町に士道は言った。
「・・・悪いけど、今疲れたから少し寝る」
士道はそう殿町に言って、瞼を閉じた。
隣の折紙から凄まじいプレッシャーが放たれているが、士道はそれに気にすることなく、意識を落とした。
────と。そこで、スピーカーからチャイムが鳴り響いた。
周囲に散らばっていたクラスメートや十香も次々と着席しつつ、程なくして、教室の扉が開き、眼鏡をかけた癖毛の小柄な女性が入ってくる。
「はい、みなさんおはよぉございます」
と、ほわほわした挨拶を済ませると、タマちゃん教諭は出席簿を開こうとし────その手を止める。
「あ、いけない。今日はみんなにお知らせがあるんでした」
言って、ざわめく教室に思わせぶりな視線を向けてくる。
「ふふ、なんとですねえ、このクラスに、転校生が来るのです!」
ビシッ、とポーズをつけながらタマちゃんが叫ぶ。すると教室中から、『おおおおおお!?』と地鳴りのような声が響いた。
まあ、仕方あるまい。転校生といえば、学校生活の中でも大きなイベントだ。実際、十香がこのクラスに来たときも、皆一様に浮かれていた。
「さ、入ってきてー」
どことなくあいだ延びしたタマちゃん教諭の声に反応するように、ゆっくりと扉が開き、転校生が教室に入ってくる。
瞬間────教室は水を打ったように静まり返った。
姿を現したのは、少女だった。この暑い中、冬服のブレザーをきっちりと着込み、足には黒いタイツを穿いている。
影のような、なんて形容がよく似合う、漆黒の髪。長い前髪は顔の左半分を覆い隠しており、右目しか見取ることは出来なかった。
だが、それでも、そな少女が十香に────人外じみた美貌を備えた精霊に────勝るとも劣らない妖しい魅力を持っていることは容易に知れた。
ごくり、と皆が唾液を飲み込む中、士道はというと・・・。
「・・・・・・・・・」
寝息を立てながらぐっすりと眠っていた。
「さ、じゃあ自己紹介をお願いしますね」
「ええ」
士道が寝ているのに気づかないまま、タマちゃんがそう促すと、少女は優美な仕草でうなずき、チョークを手に取った。
そして黒板に、美しい字で『時崎狂三』の名を記す。
「時崎狂三と申しますわ」
そして、そのよく響く声で、少女────狂三はこう続けた。
「わたくし、精霊ですのよ」
だが、士道は────。
「すう・・・すう・・・」
なんの反応も示すことなく、寝息を立てながらぐっすりと眠っていた。
「え・・・ええと・・・はい!とっても個性的な自己紹介でしたね!」
狂三がもう言葉を継がないと察したのだろう、タマちゃんがパン!と手を叩いて終了を示す。
「えー、それじゃあ時崎さん、空いている席に座ってくれますか?」
「ええ、分かりました」
狂三はそう言ってニコリと微笑むと、軽やかな足取りで指定された席に歩いていった。
おまけ
「「「トリック・オア・トリート!お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!!」」」
十香、四糸乃、琴里が、士道にそう言って籠を差し出す。
「・・・・なに?」
士道はそう言って十香達を見るが、その疑問に琴里が答える。
「なに、じゃないわよ士道。今日はハロウィンなんだからお菓子を私達にくれないとイタズラするわよ?」
「・・・お菓子?なら、これでいい?」
士道はそう言ってポケットからゴソゴソとデーツを取り出し、籠へ入れた。
「これ・・・士道がいつも食べてるやつじゃない。他にないの?」
「他?チョコレートならあるけど?」
士道はそう呟いてズボンのポケットからチョコレートが入った袋を十香達に渡していく。
「ありがとうなのだ!シドー!」
「ありが、とう・・・ございます」
「ん」
十香達の礼に士道はそう返事を返す。と、思い出したかのように士道は顔を上げた。
「そういえば・・・あげたデーツ、どれか“ハズレ“だった筈だからハズレ引いたらごめん」
「えっ?」
「えっ?」
「はい?」
十香達は籠の中に入ったデーツに目を下げる。
「んじゃ、俺、畑いくから」
十香達に爆弾を渡した士道はそう言った後、畑の方へ歩いていった。
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