あっちのオルガはウチの団長とはまるっきし違うんだな
クロト・シャニが相方の時の昭弘
午後十二時二十分。四限目の授業の終了を告げるチャイムが鳴る。
生徒たちは礼が済むと、先生が教室を去るよりも早く、昼食の準備を始めていった。
無論、十香も例外ではない。待ってましたと言わんばかりに目をキラキラと輝かせ、机を士道の机に繋げてくる。
「シドー!昼餉にしよう!」
言って、ランチバックから弁当箱を取り出す。だが、士道は琴里に昼休み、物理準備室に行くように言われているので、十香に言った。
「あー・・・ごめん、十香。俺今から行くところがあるから先に飯食べてて」
士道は十香にそう言って廊下へと向かう。
「あ!シドー・・・」
背後から寂しげな十香の声が聞こえてくるが、士道はそのまま廊下へと出る。
そのまま校舎を移動し、階段を上って物理準備室へとたどり着くと扉を開けた。
「────遅い」
中学校の制服を着た琴里が、不満をさえずるように唇を突き出しながら顔を出す。
「ごめん。さっきまで十香に捕まってた」
「そう。十香に不安させてないでしょうね?」
「してないよ」
士道の言葉に琴里は「はあ」とため息をつくと、唇を再び開く。
「まあ、いいわ。早く入りなさい。時間が惜しいわ」
琴里はそう言うと、あごをしゃくり、士道を部屋の中へ誘い入れた。
と、そこで琴里の胸にいつもの来賓許可証がないことに気づき、士道は言った。
「今日は黙ってきたの?琴里」
「そりゃあね。放課後ならまだしも、こんな時間に中学生が高校にいちゃいけないでしょ」
「それもそうか」
士道は理由を聞いて興味を無くすと、物理準備室の奥へと顔を向けた。
部屋の最奥にある回転椅子には、既に令音が座っていた。
「・・・ん、来たね、シン」
「眠そうな人も来てたのか」
いつものように名前と何ら関わりないあだ名で士道と呼ぶ令音に士道はそう言って近くの椅子に座る。
ギシリとパイプ椅子の軋む音を聞きながら士道は二人に聞いた。
「で、俺に見せたいものがあるって聞いてるけど、何?」
士道がそう言うと、琴里が机の上に置かれたディスプレイを示した。
士道は画面に目を向けると、映し出された映像を見る。
────狭い路地裏に、なぜか狂三と、ポニーテールの女の子が向かい立っている。
「ん?コイツ・・・確か・・・」
士道は映像に映っている真那を見てそうつぶやく。
そう、その映像に映っている少女は、狂三と真那だった。
「ええ、昨日の映像よ。───周りをよく見て」
士道は琴里に言われた通り周りを見ると、変哲もない住宅街の一角に、機械の鎧を纏ったASTの隊員の姿があるのを見て、士道は最短で真那の正体を察した。
「?ああ、メカメカ団か。てことは真那はコイツ等の仲間か」
昨日、真那は自分の事を殆ど言わなかった事や折紙の事を知っていたことが気になっていたが、真那がAST隊員のメンバーなら納得がいく。
そして、狂三が精霊だという事も。
「でも、これ見る限りだと周りの人も避難してない。てことは暴れる前に仕留められる実力がコイツにはあるってことか」
祟宮真那を見て士道はそう呟くと、映像の真那の全身に白い機械の鎧が出現する。
「・・・へぇ」
士道は目をそう呟き、映像を見続けると、それに応ずるように狂三が両手を広げた。
足下の影が狂三の身体を這い上がり、ドレスを形成していく。
そして本当の姿を現した狂三に士道は声を出す。
「やっぱりそうか」
今日の折紙の反応に対し、士道は確信した。狂三は精霊だったと。そしてそれから起こる戦闘は数秒で片が付いた。
狂三が反撃をしようと行動を起こすが、それに先んじて、真那の攻撃が狂三の身体に突き刺さる。
そして路地に、真っ赤な血が撒かれた。
そして地面の上に仰向けに横たわり、完全に動かなくなった狂三の首に、真那が光の刃を突き立てる。
それを見た士道は別に何ともないように言った。
「琴里達が驚いてた理由って狂三が死んだ筈なのに、普通に学校に登校していたからって事か」
「そう、我々もそこが分からないんだ」
士道の言葉に令音と琴里はまったく同じタイミングで腕組みをする。
「士道が狂三と話してるって聞いた時は、とうとう幻覚でも見え始めたのかと思ったわ」
琴里も、冗談めかすように言いながら肩をすくめる。
士道は少しだけ考えると、自身の口を開く。
「俺が十香の時に死んだ時と同じってこと?」
士道はそう言うが、琴里は肩をすくめる。
「どうでしょうね。────現段階では何とも言えないわね」
「あっそ」
琴里の言葉に士道はさらっと聞き流し、そして言う。
「どっちにしろ俺のやる事は変わらないんだ。なら、別に細かい事を気にしても仕方ない」
「・・・士道、貴方ねえ・・・」
兄の思考の放棄っぷりに琴里は眉を寄せる。
「別に生き返ったらならまだチャンスはあるって事でしょ。それに狂三が生き返ってるって事も、もうアイツにバレてる。ならどのみち早いとこケリを付けなきゃいけない」
士道の言葉に琴里と令音は頷く。
「そうね。士道がその気なら全力でサポートするわ」
「・・・別に俺、“仕事“だからアイツに死なれても困るって事なんだけど」
士道の余計な一言に、琴里は「はあ」とため息をつく。
「士道、最後のそれは一言余計よ。台無しじゃない」
琴里のその呟きが物理準備室に響いた。
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