一度手にした力は手放し難いものなのさ。たとえそれが、自らを滅ぼす力だとあったとしても
マクギリス・ファリド
時刻は二時十分。士道たち一行は、オーシャンパークにあるフードコートで、遅めの昼食を摂っていた。
士道、十香、四糸乃、真那、そして琴里の五人が着いた白いプラスチック製のテーブルの上に、クラブハウスサンドの並べられた大皿と飲み物の入った紙コップが置かれている。
かなりの量があるのだが・・・まぁ、十香がいれば余ることはないだろう。
「うむ、美味いなシドー!」
十香がサンドイッチを頬張り、満面の笑みを浮かべる。そしてその正面に座った四糸乃は、小さな口で少しずつサンドイッチを齧り、こくんと頷いた。
「美味しい・・・です」
「へぇ、そっか」
士道も二人の様子を見ながら、大皿からサンドイッチを手に取ると、口を開けてそのままかぶりついた。
「うん。うまい」
咀嚼しながら喋る士道に、真那が言う。
「食べながら喋るのはあまり関心しねーですよ兄様」
「へー」
真那の言葉に適当に返事を返す士道。
そんな四人の中、琴里は足を組みながら真那に言った。
「士道にテーブルマナーを教えても無駄よ真那。士道はそんなの気にしないから」
琴里は真那にそう言って、大皿からサンドイッチを取るとそのまま口に入れて咀嚼する。
「あ、これおいしい」
そんな事を言いながら琴里はサンドイッチを食べていた。そして琴里は飲み物に口を付け、それに咽たかのように数度咳き込んだ。
「ッ、けほっ、けほっ・・・・」
「大丈夫?琴里」
「・・・・ええ、少し気管に入っただけよ」
言うと琴里は足を崩し、席を立つ。そしてそのまま、誰にも声をかけずに歩いていく。
「琴里?」
不自然な琴里の行動に士道は声をかける。
そんな士道に琴里は言った。
「手を洗いにいくのよ」
「そっか。いってらっしゃい」
琴里に士道はそう返事を返す。
そんな士道に琴里は若干不満そうな顔をするも、そのまま歩いていった。
そんな中、士道は真那に目を向けた。
真那は士道の視線に気付くと、十香達にバレないように頷いて席を立ち上がる。
「ん?どこかにいくのか?真那?」
「ええ。ちょっとお手洗いに行くだけですよ」
「そうか。なら、真那のサンドイッチも残しておくぞ!」
「ありがとうございます。十香さん」
真那はそう言って、琴里が歩いて行った方向へと足を運んだ。
そして、少し離れた所で真那は呟く。
「全く・・・兄様も人使いが荒いですよ・・・。けど、私も琴里さんが心配なのでちょっと様子を見てあげますね」
真那がそう呟きながら、琴里の後を付けていく。
そして琴里が入っていった場所に真那は首を傾げた。
「・・・自販機の裏?」
疑問を浮かべながらも、真那は身を隠しながら顔を覗かせる。
並んだ自販機の裏に出来た、ポケットのような空間。その場所には─────二人の人間がいた。
一人は、ビキニに白衣というまたプールには似合わない格好でその場に膝をつき、傍らに黒い鞄を携えた、令音。そしてもう一人は────壁にもたれかかるようにして地面にへたり込み、苦しげに頭を押さえる琴里だった。
真那はそんな二人を自販機の影に身を隠しながら様子を見る。
「・・・大丈夫かい、琴里」
「ええ・・・なんとかね。でも、危なかったわ。────お願い」
琴里が片腕を令音に差し出す。しかし令音は、躊躇うように唇を噛んだ。
「・・・今朝の時点でもう既に、通常の五十倍もの量を投与しているんだ。これ以上は命に関わる」
「ふふ・・・精霊化した今の私なら、薬物程度で死にはしないわよ」
令音が渋面を作る。しかし琴里は、荒い呼吸の合間を縫うように口を開く。
「・・・お願い。士道との・・・おにーちゃんとのデートなの」
「・・・・・」
琴里の言葉を聞いて真那は目を軽く閉じると、その場から身を引く。
そして一人、真那はため息を吐いて呟いた。
「・・・兄様になんて報告すればいいんですか・・・」
聞くんじゃなかったと後悔する真那だった。
◇◇◇◇◇
陸上自衛隊天宮駐屯地のCR-ユニット格納庫に作業服姿で足を踏み入れた燎子は、庫内の騒然とした様子に怪訝そうな声を発した。
「ちょっと、何かあったの?」
近くにいた整備士に話しかける。整備士は慌てた様子で鬱陶しげに眉根を寄せた。
「何だよ、あとにしてくれ!今それどころじゃ───て、隊長!」
整備士がビッと敬礼を示してくる。燎子は小さく首を振って言葉を続けた。
「敬礼はいいから。何があったのか教えてちょうだい」
「その・・・〈ホワイト・リコリス〉が、ありったけの弾薬と一緒に丸ごと無くなってるんです」
「なんですって!?」
燎子は目を見開くと、顔を右方へ向けた。
整備士の言ったとおり、大型の討滅兵装〈ホワイト・リコリス〉が安置されていた箇所に、ぽっかりと穴が空いており、その周りを何人もの隊員や整備士が慌ただしく走り回っている。
「誰かが持ち出したっていうの・・・?」
「さ、さぁ・・・詳しいことは私も」
燎子は庫内の様子を見回した。────詳しく調べてみなければ分からないが、他に変わった様子は見受けられない。扉を破ったあとも、搬入車を動かした形跡すらなかった。
燎子はしばしの間押し黙ってから、再度整備士に話しかけた。
「────今、緊急着装デバイスノ保管状況はどうなってる?」
「緊急着装デバイス・・・ですか?少々お待ち下さい」
言って、整備士が手に持っていた小型端末を弄り始める。
緊急着装デバイスは、一時的にテリトリーを展開させ、一瞬でワイヤリングスーツを装着するための装置である。
AST隊員がこれを使えば、正規の着装許可がなくとも魔術師の力を得ることができる。
ゆえにその管理はパーソナルコードによって行われ、誰がいつデバイスを持ち出し、いつ着装を行ったかが、自動的にデータベースに記録されるようになっているのである。
これは、一つの可能性であり、小さな疑念に過ぎなかった。
だが────〈ホワイト・リコリス〉クラスの巨大な装備を搬入車を使わずに一瞬のうちに移動させることができるのは、テリトリーを展開した魔術師くらいしか思い当たらなかったのだ。
心の中で、該当コードが出ないことを祈りながら、整備士の言葉を待つ。
────だが。端末からピー、という高い音が発せられると同時、整備士が声を詰まらせる。
「隊長、ひ、一人、デバイスを携行している隊員がいます」
「・・・・っ、誰?」
燎子が問うと、整備士が震える声で発してきた。
「と、鳶一折紙一曹です・・・・・」
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