デート・ア・オルフェンズ   作:鉄血

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あれはどうする?

ああ、敵からは離れていってるし、回収は後でいいでしょ

鬼かよ・・・・

三日月・オーガス

昭弘・アルトランド


第十九話 エピローグ

夕日がビル群の谷間に落ちた頃。

ビルの屋上の縁に腰掛けるようにしながら、時崎狂三は気怠げに首を回した。

背後には、数名の人間が倒れている。否───正確に言うのなら、このビルの中にいる人間全てが、意識を失っている状態であるはずだった。

〈時喰みの城〉。狂三の影を踏んでいる人間から時間を吸い上げる、狂三の持つ広域結界である。

狂三の左目の時計が、逆方向にくるくると回る。

先日予想以上に消費させられてしまった『時間』を埋めるように。

狂三は小さく息を吐くと、ビルを覆った影を、ゆっくりと自分の足元に収めていった。

本来ならば死の直前まで時間を吸い尽くした方が効率はよいのだが、これだけの人数が大量死したとなれば間違いなく騒ぎになる。まだ十分に『時間』を補充できていない狂三としては、ASTやあの赤い精霊に嗅ぎつけられるのは避けたいところだった。

“彼“に関しては関係のある人間に手を出さない限りは自分から出ることはしないだろう。

 

「・・・ふぅ。まだまだ、足りませんわね・・・」

 

軽く伸びをすると、左手を伸ばして唇を開く。

 

「〈刻々帝〉」

 

すると狂三の影から、巨大な時計が姿を現す。

狂三が片手を掲げると、時計の短針────古式の短銃が、手の中に収まった。

続けるように、妖しく唇を動かす。

 

「───【八の弾】」

 

狂三の声と同時に、左目の時計が凄まじい速さで順方向に回転し、『Ⅷ』の数字から滲み出た影が短銃の銃口に吸い込まれていく。

そして狂三は、影の装填された短銃ノ銃口をゆったりとした動作で自分のこめかみに持っていくと、何の躊躇いも無く引き金を引いた。

瞬間、頭をぐわんと揺らすような衝撃が通り抜けていき、“狂三の身体が二つに分かれる“。

いや、正確に表現するのであれば、狂三から、もう一人の狂三が生まれた・・・と言った方が適切だろう。

 

「まったく、本当に燃費の悪い子ですわ」

 

愚痴るようにこぼしながら、もう一発勝負、【八の弾】をこめかみに撃ち込む。すると再び狂三の身体からもう一人の狂三が生まれ、屋上に蟠った影に吸い込まれていった。

数日前、来禅高校の屋上で五河士道に消された分身体の数はおよそ百体前後。

未だ狂三の影の中に、幾体もの分身体を保有しているが───彼を捕まえるのにはまだまだ数が必要になってくるだろう。

 

「次は・・・絶対に、いただきますわよ、士道さん」

 

唇を歪んだ上弦の月にし、くすくすと笑みを漏らす。と───

 

「・・・・?」

 

狂三は不意に後ろを振り向いた。誰も────少なくとも意識のある人間はいないはずの屋上に、何者かの気配を感じとったのである。

だが、すぐにその正体は知れた。鼻から息を吐き出し、肩をすくめるようにする。

 

「ああ、ああ、あなたですの」

 

狂三は眉を撥ね上げ、軽く目を細めた。そこには、見覚えのあるシルエットが立っていたのである。

しかし、『正体は知れた』・・・というのは少し語弊である。何しろ『それ』は、実像を見取るのも困難なほどに、存在の解像度が粗かったのだから。

 

【────どうだった?彼は】

 

男なのか女なのか、低いのか高いのか、それすらわからない奇妙な声音を響かせてくる。

だが、別に始めての事ではない。狂三は驚くでも悠然と首を前に倒した。

 

「ええ、素晴らしかったですわ。あんな方が実在するだなんて、この目で見るまで信じられませんでしたけれど」

 

そう言う彼女に対して、『何か』は言う。

 

【しかし・・・彼のことは諦めたのかな?】

 

「ふふ、まさか」

 

『何か』の言葉に鼻を鳴らす。

 

「────でも今は、『時間』を蓄えるのが先ですわ。今の状態では、彼を抑えるのもいっぱいいっぱいですし。・・・でも、諦めませんわよ?」

 

【八の弾】で頭部を撃ち抜きながら、続ける。

 

「〈刻々帝〉最後の弾────【一ニの弾】を使うためには、士道さんの力が必要なんですもの。絶対、絶対いただきますわ。絶対、絶対諦めませんわ」

 

そう。永劫に叶わぬと思っていた願い。

この世に生まれ落ちてからずっと心に燻り続けた悲願。

それを達成しうる道を、ようやく見つけたのである。

 

【───時間遡行の弾。そんなものを使って、一体何をするつもり?】

 

「・・・・・・」

 

その言葉に狂三は眉をひそめて視線を鋭くした。

 

「なぜそこまで知っておられますのかしら?人に見せたことはおろか、話したこともないですけれど」

 

【さて・・・なぜでしょう】

 

おどけるように言ってくる『何か』に狂三はふんと鼻を鳴らした。

 

「────【一ニの弾】。わたくしはそれで、三十年前に飛びますの」

 

【三十年前・・・?なぜそんな時代に】

 

『何か』が問うてくる。狂三は短銃の引き金に指をかけながら続けた。

 

「三十年前、この世界に初めて現れたという精霊。全ての精霊の根源となった『最初の精霊』。────それを、この手で殺すためですわ」

 

【・・・・・】

 

『何か』が、無言になる。狂三は構わず言葉を継いだ。

 

「この世に、精霊が現れたという事実を消し去る。今この世界にいる全ての精霊を、“なかったことにする“。────それがわたくしの悲願ですわ」

 

しばしの沈黙のあと、『何か』が声を発した。

 

【そう────君は、意外と優しいんだね】

 

「・・・・・っ!」

 

狂三は不快そうに眉根を寄せると、握っていた短銃を『何か』に向けて引き金を引いた。

だが銃口から放たれた弾がその身に届く前に、『何か』の身体は闇に溶けて消えていった。

 

──────と。

 

ゾクッと狂三は寒気を覚え、肩を震わせる。

 

「──────ッ!!」

 

狂三は再び銃口を向けると、そこには巨大な赤い一つ目がじっと見つめていた。そしてその一つ目は何もせず、スッと影の中に消えていった。




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