こんな俺を人間扱いしてくれる奴らが家族って言ってくれるやつが出来たんだ。
昭弘・アルトランド
令音に案内され、資料館奥の事務室に入った士道は、十香をソファに寝かせてから令音に言った。
「さっきはありがとう。助かった」
「・・・いや、構わないよ。それより────」
言って、令音は士道────正確には、その両腕に絡みついた二人の少女に目を向けてきた。
士道が十香を下ろす際に一度離れ、再び引っ付いてきたのである。
「・・・厄介なことになったようだね」
「ここまでくると結構うざい」
令音の言葉に士道はそう返事を返す。
だが、二人はそんな会話を気にすることなく、士道に言葉を囁やき始めた。
「くく・・・むしろそこまで寵愛を受けられるのだ。幸運に噎び泣きこそすれ、嫌がる必要などあるまい」
「懐疑。夕弦ならまだしも、耶俱矢に言い寄られて喜ぶ男性がいるのでしょうか」
「ふ、ふん・・・いくら斯様な挑発をしようと無駄だぞ。全ては決闘の決着を見れば明らかになる。さあ士道よ、言うがよい。私と夕弦、どちらが女として魅力的だ?」
「質問。夕弦とへちょ耶俱矢。どちらが可愛いですか」
「待て、なんだその微妙に貶した感じは!」
「無視。べちょ耶俱矢より夕弦の方が」
「何悪化させてんの!?」
言い合いながら、耶俱矢と夕弦が士道に迫ってくる。その間に挟まられている士道は、嫌がるようにしていると令音が二人に言った。
「少し気になる事があるのだが、その決闘というのはどう言うことかな?シンから聞いた時も二人は戦っていたとの話だったが」
「・・・ん?ああ────」
令音が問うと、耶俱矢が大仰にあごを上にやった。
「そういえば言っていなかったか。────我らは、もともと八舞という一人の精霊だったのだ」
「首肯。ですが、幾度目の現界のときか、八舞は二つに分かれてしまったのです」
「二つに?そんなことが・・・」
「?」
三人の会話にあまり付いていけない士道は、途中で聞き流しながらデーツを口に入れた。
簡単に言えば、この二人は最初は一人だったけれどいつの間にか二人になってしまったという認識で間違いないだろう。
「なんでそんなことになったのさ」
「それを知るのは天に座する女神のみよ。ふん、性悪な彼の女神は随分の退屈と倦怠に苛まれているようだ。時折、道理も条理も通らぬ出鱈目な賽の目を好むことがある」
「?」
耶俱矢の言葉に士道は首を傾げる。
「要約。よくわからない、と耶俱矢は言っています」
「そういうことか」
「情緒がないぞ」
夕弦の説明でようやく理解に至った士道がうなずくと、耶俱矢が不満げに声を上げた。
調子を戻すようにコホンと咳払いをし、あとを続けてくる。
「そして二つに分かれた我らは、互いの顔を見るなり、その身に、血に刻まれた運命と使命に気付いたのだ。そう────真なる精霊・八舞は、この世に一人のみであると!」
「説明。二つに分かたれた夕弦たちですが、やがて一つに戻ることがわかったのです」
「わかったんだ」
「補足。『知っていた』という方が正しいでしょうか」
夕弦が頭を指してから、続ける。
「解説。しかしもう、本来の八舞の人格は失われてしまっています。つまりその際、八舞の主人格となれるのはどちらか片方のみなのです」
「それで決闘をしていたということか」
二人は同時に首肯する。
理由を聞いた士道は令音の方へ視線を向けると、令音は椅子に腰掛け小型端末を弄りながら、難しげにふうむとうなっているのみだった。
「・・・やはり、駄目か」
「何が駄目なのさ」
士道がそう尋ねると、令音が小さくうなずいてから顔を向けてきた。
「・・・ああ、〈フラクシナス〉との通信が途絶えているんだ」
「また急だね」
「・・・現状では不明だ。少し調べてみるよ」
言ってから令音が端末を閉じ、椅子から立ち上がる。
そして士道の隣に迫る耶俱矢と夕弦に、静かに唇を動かした。
「・・・耶俱矢と夕弦、と言ったね。君たちは、己が真の精霊・八舞となるため、シンを取りあって勝負をしている。・・・間違いないね?」
「もちろんだとも」
そう言った耶俱矢に令音は、少し考えるようにしたあと、士道達に言った。
「・・・シン、君は十香を。────耶俱矢、夕弦。君たちには少し話がある。ついてきてくれ」
「くく・・・何を言うかと思えば。なぜこの我が、人間風情の言葉に従わねばならぬのだ」
「拒否。夕弦は士道と一緒にいます」
だが、二人は頑として動こうとしない。しかし令音はそれも予想の内というように肩をすくめると、思わせぶりに言った。
「・・・シンは見かけよりも難物だ。話を聞いておいて損はないと思うけれどね」
「何・・・?」
「・・・彼の反応を見れば一目瞭然だろう?私の目から見ても、君たちは非常に可愛らしく、魅力的な少女だ。だというのに彼は、未だにどちらも選ぼうとしない」
『・・・・・』
耶俱矢と夕弦が、目を丸くして顔を見合わせる。
「・・・どうするかね?私としては、どちらか片方でも構わないのだが」
言って、事務室の扉を開ける。
二人は再び顔を見合わせると、名残惜しそうに士道から手を離し、令音のあとをついていった。
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