アオイちゃんを常時無表情にして五割増しに口下手にした結果wwwww   作:花極四季

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プリコネアニメが勝手に終わったので初投稿です。


一話

 ――それは、あまりにも唐突な蹂躙劇だった。

 アストライア大陸に存在するエルフ族が住まう森に、今招かれざる客が攻め込んできていたのである。

 

「負傷者を後退させて、時間を稼いでください!」

 

 奇襲によって混乱が止まない戦場にて、声を張り上げて指示をするのはギルド【フォレスティエ】ギルドマスターの「ミサト」。

 普段は朗らかな印象が前面に出ている彼女だが、この状況はそれを許してくれない。

 【フォレスティエ】の構成員はギルド側の指名によって選出され、正式な訓練を経て実力を厳選される。

 自警団としての意義で設立されたが故に、その実力は折り紙つき。並大抵の敵ならば、徒党を組もうとも対処が可能だった。

 

『■■■■■■――!!』

 

 ――しかし、目の前にいるのは例外。

 弓で射ようとも届かない遥か上空からエルフ達を俯瞰するその姿は、彼我の距離差を考慮してなお視界の半分を埋めるほどに巨大なグリフォン。

 太陽を背に飛ぶことで視界を遮り、弓矢が届かない距離を保ち、不規則的に強襲を掛けては離脱を繰り返すため、明確なダメージを与えることが出来ずにいた。

 まるで、此方の戦法が読まれているかのように周到な立ち回り、それを実行できる知能。どれを取っても一介の魔物とは一線を画す存在である。

 

 そのような存在が今まで認知されていないとは考えられないが、少なくともこのような個体を知る者はこの場にはいない。

 それも無理からぬことで、このグリフォンはここから遥か辺境の山に住む、ありとあらゆる強力な魔物が跳梁跋扈する中で生存を許された絶対強者。本来ならばこのような場所に訪れることもない、空の王者と呼ぶに相応しい存在。

 ギルドメンバーの中には、優秀な超能力者である「ハツネ」という少女がいるのだが、幸か不幸か妹に会いに行って不在だった。

 飛行も出来る彼女が居れば、必然的に主戦力として駆り出され囮を買って出ていたに違いない。それが例え、敵わないと分かるぐらいの戦力差があると理解しても。

 ミサトは、ハツネが負担を一身に受ける必要がない状況を幸とし、それ故に他のエルフ達に被害が広がっている現実を不幸とした葛藤に、心臓が締め付けられる。

 

 そんな絶対強者を前に、ミサトは畏れでも敵意でもなくもっと別の感情が湧きたっていた。 

 

『あの子は……何をそんなに怖がっているの?』

 

 グリフォンの冷静で狡猾な立ち回りの中に見出したのは、明確な殺意と徹底した慎重さ。

 あのグリフォンほどの強者ならばあのようなことをせずとも一方的な蹂躙が出来る。大自然で生き延び続けてきたグリフォンが、それを本能で理解していない筈がない。

 それに、強襲してきた時点でグリフォンが既に怪我を負っていたことに、ミサトは気付いていた。

 はっきりとは分からなかったが、複数の穿たれた形跡が見えた気がした。そして、その傷跡が毒々しく変色していたようにも。

 それが意味する答えを導き出す余裕はない。何がどうあれ、目の前のグリフォンが此方に対して向ける殺意は本物で。これを打倒しないことにはこの疑問にも意味がなくなる。

 

 ただでさえ少ないエルフという種族が根絶やしにされるかもしれない分水嶺。

 ミサトの魔物さえも心を解す能力も、彼の者の前ではまるで無意味。ただただ治療師として、同族が蹂躙される姿を眺めているしか出来ない。

 故に、祈らずにはいられなかった。

 現状を打破してくれる、そのような在り来たりな奇跡を。

 

「ミサト先生!」

 

 一人のエルフが叫ぶ。

 反射的に顔を上げた先、グリフォンと目が合った。

 それは即ち、此方に狙いが定められたからに他ならない。

 回避は不可能。元より非戦闘要員である彼女だが、そうでなくとも現実は変わらない。

 

 グリフォンにとって、この場にいるエルフはただの餌。否、餌にさえなり得ない小粒。

 次に瞬きした後が、この命尽き果てる瞬間だと、刹那の空白で悟る。

 故に、強く目を開く。抗えぬ最期なれば、その一瞬に目を逸らすのはただの逃避でしかない。

 せめて、僅かにでもエルフと言う種が存続するための糸口を探る為、目の前の死に立ち向かう。

 

 意識の間をすり抜けた錯覚を覚えるほどに速い滑空。

 グリフォンの爪がミサトの身体を貫かんと目と鼻の先にまで迫った瞬間――奇跡は起こった。

 

「――え?」

 

 まるで巨人に殴られたかのように、爆音と共にグリフォンの巨躯が横に弾き飛ばされ木々を薙ぎ倒していく。

 死に際の超感覚と言うべきか、世界がスローモーションに見えていたが故に、その弾き飛ばした力が何なのかをしっかりと目に焼き付けていた。

 あれは――矢だった。黒々と変色したマナによって構成されたそれは、着弾の瞬間に体内で爆ぜて内側から毒の華を咲かせた。

 

 まるで獲物を狙う毒蛇が牙を突き立てるが如き一撃。獰猛ながらも牙を剥く直前まで攻撃を悟らせない隠蔽能力。加えてあれほどの膨大なマナが込められた一矢を放つ存在は、知る限りではエルフの森にはいない。

 矢の放たれた方向を見るが、いつもと変わらず木々が緑々と生い茂っているだけ。

 近くに気配の一切を感じないということは、あの矢は途方もなく遠くから射られたか、この場の誰にも一切勘付かれないほどに気配を遮断しているのか。

 その答えは、再び放たれた矢によって示した。

 

 一息の間に放たれた数は、おおよそ百。

 驟雨が如く放たれたそのどれもが必殺の鋭さを宿し、グリフォンは絶叫と共に蜂の巣へと変貌していく。

 その苛烈さの反面、グリフォンへの容赦ない攻撃は木々を一切傷付けないように軌道が徹底されている。

 それでいてなお、射撃の起点こそ理解すれどその姿は未だに見えず。

 徹底した隠遁、相手を寄せ付けない一方的な射撃。

 森の狩人の理想が、そこにあった。

 

 エルフの森で生きるエルフは、自然の中で生きるが故に社会で生きる種族よりも五感に優れている。

 自然の中で生きるということは、常日頃から弱肉強食の世界に身を置くということであり、如何に独自の文化を形成して身を寄せ合っているとしても、それは獣にも通ずる部分であり、特別な要素は技術力ぐらいのもの。

 その技術力だけでは生き残れない世界で、感覚が鋭敏になるのは生きる上で必然の進化であり、何よりも誇れる強さの証でもあった。

 そんな彼らが、これだけの猛攻を行う相手の正体を未だに掴めずにいる。

 絶対的な実力差。エルフ達が蹂躙されるしかなかったグリフォンを、まるで子供扱いしている存在。

 頼もしいと思う反面、恐ろしいとさえ感じてしまう。

 命のやり取りが身近であるからこその恐怖心。味方である筈なのに、恐れを抱かずにはいられない。

 

『■■■■■■――ッ!!』

 

 しかし、これで終わるほど甘い相手ではない。

 驚異の生命力を誇るグリフォンは、吹き飛ばされながらも体勢を立て直し、低空飛行からの羽ばたきで矢を逸らす。

 そう、逸らすだけ。暴風にも近い羽ばたきを持ってしても、静止させることが出来ないのだ。

 故に、その巨躯が災いして半分近くが命中する。それでも、致命傷は避けられた。

 それは、僅かではあれど反撃の隙を与える結果に他ならない。

 

 グリフォンの眼前に乱回転した風の球体が出現し、羽ばたきと共にそれを矢が放たれた方向へと撃ちだした。

 球体は徐々に分解され、次第に竜巻へと形を変えていく。

 圧縮されていた力の奔流が解放されたことで、その竜巻の規模もまた相応のものとなり、その威力は木々を容易く上空へと吹き飛ばすほど。

 歴史あるエルフの森が更地へと変貌する絶望、それを行使するグリフォンへの恐怖。しかしそれ以上に――

 

「――森の恵みよ」

 

 凛とした声が竜巻がもたらす破壊音の中でもはっきりと聞こえた。

 その言葉と共に、竜巻の前に地面から植物の蔓が生える。

 それはただの蔓ではなく、エルフの森の木々に相当するほどに太く、それらが複数本螺旋状に束ねられていき、竜巻と同等の大きさにまで成長した。

 そして遂に自然の神秘が互いに激突し、エルフの森全体を震撼させる。

 最早外野となってしまったエルフ達は、余波で吹き飛ばされないように必死にしがみつくことしか出来ず、結末を見守るだけの傍観者と化していた。

 それ故に、螺旋状の蔓に沿う形で竜巻の力が天へと昇っていく流れを、今度は殆どのエルフが見ていた。

 ただの壁としてではなく、受け流す道として極力衝撃を上へと逃がすことで、周囲への被害を抑えようとしているのが分かる。

 竜巻に対して明確な意図を持った対策を施していたことに、担い手の知恵と判断力が垣間見えた。

 かくして数秒にも満たない激突は終わりを告げ、見事に被害を最小限に竜巻を防ぎ切った。

 そして役目を終えたと言わんばかりに、蔓は大地へと還っていく姿は、お願いする立場というよりも一種の主従関係にさえ映った。

 

 あれほどのものを一瞬で創造したのかと、誰もが目の前の現実を疑わずにはいられない。

 そして加速する、この力を行使した存在の正体への関心と畏れ。

 しかしミサトだけは、その必然の流れに反して先程の蔓から担い手の本質を垣間見た。

 

 森に住むエルフ族は、大なり小なり動植物へと心を通わせる力が備わっている。

 単純な才能の差もあるが、肝要なのはどれだけ自然に寄り添うことが出来るか否か。

 自然に対する愛情こそ、その力を高める最も重要な要素。

 ミサト自身、その才能は動物や魔物と心を強く通わせられるが故に、その意味を正しく理解している。

 

 でも、彼女は自分以上の存在を知っている。

 数年前に「旅に出ます」という書置きと共に姿を消したエルフの少女。

 自然と心を通わせられる稀有な才能と愛情を持ちながら、反面ヒトとの交流を断ち、同じエルフの森に住まいながらも孤独な生き方を貫いていた、ミサトが唯一心を通わせられなかった少女。

 

「貴女なの?アオイちゃん――」

 

 ミサトが先程まで蔓があった場所を見つめ呟く名は、彼女の中に根付く後悔の源泉。

 常日頃から絶望に染まっていた瞳を見るたびに、それを取り除きたいと邁進し、そして終ぞ叶わなかった。

 何を想って去ったのか、彼女だとするなら何故このタイミングで駆け付けて来てくれたのか。

 もし、少しでも彼女に望郷の念があり、それが運命的に惹き合わせてくれたのだとしたら、こんなに喜ばしいことはない。

 

 感傷に浸っている間にも、状況は目まぐるしく動き続ける。

 蔓によって視界を遮られて敵の方向を完全に見失い、視界を回して居場所を探るグリフォン。

 一瞬の膠着。一呼吸の間。それが勝敗を分かつ死の余白となる。

 

『■■■■■■■―――!!』

 

 グリフォンの悲痛な絶叫が木霊する。

 天空から降り注ぐ槍のように太いマナの矢が、グリフォンを大地へ磔にしたのだ。

 如何にグリフォンが傷を負っているとはいえ、遥か上空から落下する飽和攻撃。

 本来ならば容易く回避されるようなそれが命中したのは、果たして偶然か。

 

 否。布石は先程の攻防の間にあった。

 視界を覆い隠すほどに巨大な蔓は、竜巻を防ぐと同時にグリフォンの視界を封じ、矢を上空に撃ち出したことを悟らせないための目くらましの役割もあったのだ。

 加えて、矢に込められていた毒がグリフォンの体力を著しく消耗させ、安易な移動を制限した。

 そして消耗した体力は、反射をも鈍らせる。上空から降り注ぐ存在に気付いても、咄嗟の回避に移行は不可能。

 かくして磔刑に処されたグリフォンは、最早その身を蝕む毒でこのまま朽ちるだけの標本でしかなかった。

 

「――待って!」

 

「ミサト先生!?」

 

 膨大なマナの奔流が森の奥から沸き立つ。

 それがグリフォンに止めを刺さんとするものであると本能的に理解したミサトは、咄嗟にグリフォンを護るように矢面に立つ。 

 あれほどのマナによる一撃が放たれてしまえば、彼女ごとグリフォンを消し飛ばすぐらい訳ないだろう。

 しかし、そのようなものを向けられてなお両腕を大きく広げて不動を貫くその姿に、不退転の意思は明白だった。

 

 その勇ましくも儚い姿を見て、動ける者はその後に我先にと追従した。

 我らは蹂躙される側であり、先程まで襲われていた以上身を挺して庇うべき存在ではないというのに。

 そんな彼らを炊き付けるものは、ひとえにミサトへの恩と信頼に報いる為。

 彼女を――そして、彼女が護ろうとした存在を護りたい。そうこの場に居る誰しもに思わせるほど、ミサトは彼らに慕われていた。

 幾ら矢をひとつに束ねようとも、嵐の前には千切れ飛ぶしかないように、彼らの行動は無意味に等しい。

 しかし、それでも――束ねた意思は他の誰かの心をも動かすことが出来る。

 

 組織的通念が色濃い【フォレスティエ】で、成人して間もないミサトがギルドマスターに選出されたのは、慈愛という名のカリスマがあってこそ。

 たったそれだけ、されどそれこそがギルドのトップとしての資質のひとつであり、誰しもが出来ることではない。

 彼女の場合、それを意図して行使しているのではなく自然体だからこそ成り立っている部分もある。

 故に、言語を介せない動物や魔物にさえも愛情が伝わる。無償で無垢な感情は、種族の違いをも超える。

 そして、今。それが明確な形となって証明される。

 

「そんな――動いちゃダメ!!」

 

 護られる側であったグリフォンがおもむろに千鳥足で立ち上がり、ミサト達を羽根で包み込んだ。

 グリフォンを突き動かしたのは、贖罪か愛情の返済か、或いはそれ以外の何かか。

 何にしても、瀕死の肉体に鞭を打ちながらも彼女達を護ろうとするその姿は、愛情の相互作用そのもの。

 まるで絵画のような光景に、動けずに傍観するしかなかった者達は静かに魅入られていた。

 

 そして、変化は森の奥からも起こる。

 緊張状態にあったマナが静かに霧散していく。

 代わりに森の奥からは、優しい弦の音色が奏でられる。

 すると、グリフォンを蝕んでいた毒がたちまち消え去っていく。

 グリフォンの血色も良くなり、緊張が解けたのか再びその場にへたり込んだ。

 

「皆さん、グリフォンの回復をお願いできますか?私は、行かなくてはいけません」

 

「先生!一人では――」

 

「一人じゃなきゃ駄目なんです。この音色が聞き間違いでなければ、彼女は私達の味方です。間違いなく」

 

 それだけ言い残し、ミサトは普段では到底考えられないぐらいの速度で走り出す。

 ギルドマスターとして奔走することはあれど、基本は内職が主体である彼女に体力はない。

 息も絶え絶えで、視界もぼやけるぐらい不相応な速度で走りながらも、決してそれを緩めることはない。

 ここで妥協してしまえば、二度と出逢えないかもしれない。その可能性が脳裏にちらつく度、それを否定するべく必死に肉体を前に進ませる。

 

 徐々に音色が近くなり、視界も開けていく。

 そうして辿り着いた先には、切り株に座り弦と一体となった弓を奏でるボロボロの外套を深く被った人物が居た。

 日光を一身に浴びながら旋律を奏でるその姿は、まるで精霊のように美しく、同じ大地に立つはずなのに、まるで一歩先は異世界であるかのような認識さえ植え付けられる。

 だけど、二人は確かに同じ世界の住人で。その錯覚は、ただの現実逃避でしかない。

 気後れするなんて許されない。その遠慮が、何よりも少女を――アオイを孤独へと苛む毒になると学んだから。

 

「……アオイちゃん、よね?」

 

 半ば確信を持った問い掛けに、音色が止む。

 外套の人物は緩慢な動作で立ち上がり、ミサトと対峙する。

 一瞬の間を縫うように、強風が吹き外套のフードがめくれる。

 

 見間違えるはずもなかった。

 まだ十三になるであろう年齢の筈なのに、自分よりも背が高くなっている事実に、その成熟ぶりに文字通り見違えた部分はあったが、それでも決して見間違える筈もない。

 

「――お久しぶりです、ミサトさん」

 

「……!!やっぱり、貴方なのね」

 

 理解した途端、感情の濁流が涙となって溢れていく。

 離れていた分の時間を取り戻したい、話したいことなんて幾らでもある。 

 

「本当に心配したのよ?いつの間にか居なくなって……。積もる話もあるし、私の家に――」

 

 空いた年数を埋める一歩を踏み出すべく、アオイへと近づこうとして、

 

「来ないでください」

 

 明確な拒絶の言葉がミサトを貫いた。

 

「……なん、で」

 

「……私は、まだ目的を果たしていません。それを果たすまで、私はあそこには帰らないと決めているから」

 

 昔と変わらない、鋭い螺旋模様の碧瞳を前に、ミサトの身体が強張る。

 まるで責められているかのような錯覚を受けるほどに、少女の瞳から滲み出る闇は深かった。

 その深淵は、時を経てより一層の深みを増していたのが見て取れた。

 

 昔からそうだった。

 何かに絶望しているような、諦観しているような、そんな哀しい瞳。

 望んで孤独を選んで、常に輪の外で動物達に音楽を聞かせたり、私達に悟られないように森に侵入した魔物を狩るぐらいしか彼女のやっていたことを知らない。

 動物達が懐いていたり、密かに私達を護ろうとしていたその行動から、彼女の優しさは理解できていたつもりだった。

 

 だからこそ、彼女には正しくエルフの森の住人として生きて欲しいと思っていた。

 それでも、彼女が進んで孤独で在ろうとしていたのには何か理由があることは分かっていたから、無理に気持ちを押し付けることはできなかった。

 少しずつゆっくりと時間を掛ければ問題が解決する――そう悠長に構えていた結果が、アオイが書置きひとつで旅に出たという確かな事実。

 自分達には想像がつかないような地獄を経て、今アオイはここにいる。

 それでも、本質はきっと変わっていない。あの優しい旋律が何よりも証明している。

 

 だからこそ、アオイが抱え込んでいる何かを理解できず、蚊帳の外に置かれている事実が我慢ならない。

 優しさから来る傲慢。それが表層化するのは、彼女が自然体で居られないぐらい特別な存在だからに他ならない。

 

「貴方の目的って何?旅に出るなんて書置きして、いつの間にかいなくなって……そこまでしなくちゃいけないぐらいの目的って何なの!?」

 

 らしくないほどに声を荒らげるミサト。

 色々な感情がない交ぜとなり、彼女自身も感情が制御できないでいる。

 ただ、感情の主体となっているのは間違いなく後悔であり、だからこそ問いかけずにはいられなかった。

 

「私には、教えられないことなの?」

 

「……はい」

 

「私だから?だったら他の誰かでも――」

 

「これは、私の問題です」

 

 どこまでも無慈悲に紡がれる拒絶の意思。

 目と鼻の先にいる筈なのに、二人の間には分厚い壁が立ちはだかっている。

 

「……あのグリフォンがここに来てしまったのは、私の未熟が招いた結果です。そのせいで、無意味な被害を貴方達に遭わせてしまいました。申し訳ありません」

 

 深くお辞儀をし、謝罪の言葉を述べる。

 しかし、と続く。

 

あの程度(・・・・)の相手にこの体たらくでは、目的に達するまではまだ遠い。だから、まだ戻ることは出来ません」

 

 災害と呼ぶに相応しい力を持つグリフォンを相手に、臆面もなくそう言い放つその姿に傲慢さなどなく、むしろその逆で本気で自らが招いた所業に後悔している。

 

 しかし、彼女の発言から目指しているものの輪郭は掴めた。

 彼女は強くなろうとしている。ただひたすらに、強欲なまでに。

 その果てに何を見出そうとしているのかは不明だが、そうでなければこの数年であんな領域外な力を得られる訳がない。

 一体、どれ程の地獄が彼女にとっての日常だったのか。

 そこまでして強くなりたい理由は一体何なのか。

 

 そして今も彼女の地獄は続く。彼女がそれを望むが故に。

 例え彼女の意思を無視して地獄から引き揚げられたとして、それは根本的解決足り得ない。

 自己満足の押し付けは、潜在していた亀裂を決定的なものとするには充分な一刺しとなり得る。

 ならば、彼女に出来ることはひとつしかない。

 

「……戻ってくる気はあるのね?」

 

「はい」

 

「そっか」

 

 ミサトは自分では彼女を止められないことを察してしまった。

 自分とアオイでは、決して同じ目線では立てない。少なくとも、彼女が目的を果たすまでは確実に。

 

「……たまにでいいの。また、ここで会ってお話したいわ」

 

 止められないのならば、せめて今度はきちんと見送る側でありたい。

 そしてほんの少しの間だけでもいいから、彼女にとっての止まり木になれるように在りたい。

 それが今の自分が出来る、精一杯のアオイへ与えられる優しさだから。

 

「……はい、私も――もっとミサトさんとお話したいです」

 

 そう、ぎこちない微笑みと共に返すアオイ。

 例えお世辞だったとして、その言葉だけで充分に救われた気になれる。

 

 本当ならこのまま気が済むまで語り合いたい。

 しかし、ミサトはグリフォンの治療を他のエルフに頼み飛び出してきた身。長時間離れていれば、彼らが捜しに来てしまう。

 僅かばかり与えられた猶予。何から話すべきか非常に悩む。

 だけど、その苦悩に焦燥を誘う要素はない。

 

 だって、彼女は帰ってくると約束してくれた。

 彼女は約束を破るような子ではない。誠実すぎるが故に何でも抱え込んでしまうぐらいに、一途でまっすぐな少女が、約束を違える筈がない。

 遅いか早いかの違いでしかないなら、悩む必要なんてどこにもない。 

 

「そうね、じゃあ――」

 

 それからの内容は、本当にとりとめのないものだった。

 日常の会話ですらない、質疑応答に近い形ながらその内容は平凡そのもの。

 しかし、そんな平凡こそミサトが望んだものであり、願わくばそれはアオイにとっても同じでありますようにと祈りを込めて語り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 アオイの脱ボッチ日記

 

・バカバカ!私のバカぼっち!

 

 やってしまった。日課の魔物百討伐の為に山脈に籠っている途中で、だいじょぶマイフレンドくん2ダッシュプラスが壊されてしまった動揺から、瀕死のワイルドグリフォンを逃がしてしまった。

 手負いの魔物は確実に仕留めないと確実に倍返し以上のしっぺ返しが来るって何度も経験しているから、最近はしっかり息の根を止めていたのに、よりにもよって空を飛べるグリフォンにそれをやってしまった!

 案の定グリフォンは空を飛んで山脈から地上へと落ち延びてしまった。

 距離的に狙撃は出来たけど、飛距離を伸ばす分威力も上がっちゃって着弾と同時に周囲一帯を消し飛ばしちゃうから、そうならないよう必死に走って距離を詰めたはいいけど、あろうことかグリフォンが降り立ったのはエルフの森だった!

 

 表情筋も死んでて口下手な私がぼっちを脱却するにはどうしたらよいか必死に考えた結果、とにかく強くなって周りから話しかけられるようなエルフになろうと努力してきたけど、こんなんじゃまだまだぼっち脱却には程遠いなぁ。

 実際、あわやミサトさん達が狂乱状態のグリフォンに襲われてたのに気付いたときは、もうとにかく助けることで頭がいっぱいだった。

 『サイドワインダー』がギリギリ間に合ったから、そこからは『クイックノック』の乱れ撃ちで空に逃げられないように牽制して、反撃に対しては植物操作で壁を作って死角から『レイン・オブ・デス』で封殺して、トドメに『リフルジェントアロー』を撃ち込もうとしたけど、ミサトさんがグリフォンを庇って、それを他のエルフさん達も庇って、最後にはグリフォンがミサトさん達を庇うという構図が出来上がってしまってしまい、トドメを刺せなかった。

 でも、グリフォンの様子から察するにこれ以上暴れることはなさそうだし、そもそも暴れる原因を作ったのは他ならぬ私なわけで、そんな状況でトドメを刺そうものなら、その悪名はアストライア大陸全土に響き渡り、一生ぼっち脱却が出来ない未来が確定しちゃう。そんなの嫌だー!

 

 私は『時神のピーアン』を奏でてグリフォンの毒を取り除いて点数稼ぎをしつつ、そういえば最近は下手に音を立てようものなら即座に襲われるような環境に居たせいでまともに音楽なんてやれていなかったと気付いたら、つい興が乗って解毒が終わったのにも気付かずにずっと奏でっぱなしだった。

 そんなことをしている内に、ミサト先生が私の前に!

 普段なら1キロ先の茂みを掻き分ける音ぐらい聞き取れるのに、数年ぶりにエルフの森に帰ってきたせいか妙にウキウキでハイテンションになっていたせいで油断していた。やっぱりまだまだ未熟だぁ。

 

 本当は立派になってから帰ってくる予定だったから、ミサトさんに会うつもりもなかったんだけど、話しかけられたのに返事を返せないようではぼっち脱却には程遠い。

 やっぱりミサトさんは優しい。勝手に出ていった私をあんなにも心配してくれて。

 でも、ミサトさんの希望には添えない。多分、今立ち止まってしまえば昔の私に逆戻りしてしまう。

 

 友達ひとりまともに作れない私が、なけなしの覚悟で臨んだ武者修行の旅。

 何度もつらい目に遭った。何度も死ぬような目に遭った。

 だからこそ、今までの努力を無駄にはしたくない。

 ここまでやれたんだから、最後までやり切れる。そう信じて何度も立ち上がってきた。

 昔のぼっちメンタルのままじゃない。ちゃんと成長しているんだって実感も得られたし、まだまだ頑張れそう。

 次にミサトさんと再会できる時には、もっと強くなって胸を張って帰りたいなぁ。

 




反響があれば連載するかも。
アオイちゃん可愛いからもっと流行らせコラ!
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