アオイちゃんを常時無表情にして五割増しに口下手にした結果wwwww   作:花極四季

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前回の投稿から八ヶ月弱、プリコネ原作では現在進行形で三度目の滅びを迎えつつある昨今、まだ原作開始には至っていないという事実。

本当なら今話で大きく区切りをつける予定だったけれど、投稿間隔が開き過ぎたので前後編に分けています。流石に前中後編にはならないだろう。

最近ギルティギアストライヴが再燃しつつあるけど、ぼっちプレイヤー+多趣味なせいでトレモばかりやってる。年末から来年にかけてゲームラッシュがやばすぎて、後編も今のうちに書かないとヤバいってわかってるのに、うぅ……。


十二話

 

 《痛みの森》へ至る道中は、これから待ち受けるであろう艱難辛苦を微塵も感じさえないほどに穏やかなものであった。

 街道は馬車を利用し、いざ馬車を降りてからも魔物一匹見かけない。牧歌的な風景に癒されながら、他愛もない会話を繰り広げる様は、これから死地に赴く戦士とは思えないほどに安穏としているように見える。

 しかし、表面上はまるで散歩をしているかのような気楽さでありながら、その胸中には欲望が絶え間なく渦巻いている。

 前人未到の死地に駆り立てられるほどに膨大な欲望は、他人から見れば狂人のそれでしかない。

 事実、彼女達は周囲を顧みることなく問題を起こすことも少なくはなく、【トワイライトキャラバン】は悪名によって知名度を上げているのが大半である。

 悪意を持って他者を害する意図がない以上、一線を踏み越えることだけは決してしない理性はちゃんと持ち合わせており、賞金稼ぎや医療行為による実績に加えてリーダーであるルカは唯一の良識人で安全弁の役割を果たしているということもあり、【ギルド管理協会】からも相殺という形でお咎めなしな状態を保つことが出来ているのである。

 

 そんな犯罪ギルド一歩手前な無法者が集まる【トワイライトキャラバン】が、一体《痛みの森》に何を求めているのか。

 元よりギルドそのものに共通した理念などなく、ただひとつの目的が一致したからに過ぎない。

 ――それこそが《黄昏の都》。曰く、存在しない幻の都市。そこには大いなる遺産が眠っており、それを手にした者には巨万の富と名誉が約束されているとか。

 聞くものが聞けば、ありきたりな御伽の一説でしかないと、真面目に取り合う方が馬鹿を見るの典型であると口を揃えるだろう。

 しかし、彼女達は知っている。その上辺の物語に隠された真実を。

 故に、彼女達は命を懸けてまでそれを求める。その価値を知るが故に、命をチップにこの場に臨んでいるのだ。

 

「……静かね」

 

「ええ。それに、ここに入ってから明らかに空気が変わりましたわ。まるで仕切りで区切ったかのように明確に何かが違う」 

 

 【トワイライトキャラバン】の医療担当であるミツキと薬剤調合担当のエリコが、《痛みの森》への正直な感想を口にする。

 立場こそ後方支援に聞こえるが、片や「隻眼の悪魔」、片や「壊し屋」という物騒な二つ名に偽りない実力を有しており、そんな彼女達が肌で感じた違和感は漏れなく他のメンバーにとっての共通項となる。

 

「異世界――否、魔界と呼ぶに相応しいほどの異空間。弱者の生存をこの森そのものが許容していないかのような、これはまるで――」

 

「――《痛みの森》のお腹の中にいるみたい、かなー?」

 

「……ああ、そうだ。我々が被食者側だと言わんばかりの雰囲気。忌まわしいことこの上ない」

 

 アンナの独特な言い回しに追従するように代弁するのは、「蒐集家」のナナカ。

 その二つ名に恥じない収集癖の持ち主で、その欲求に明確な指向性はない。

 あるとすれば、当人が魔法使いであるということから魔導書がそれに該当するが、アンナも同様に魔導書を集めていることもあり、ライバルであると同時に貸し借りもできる間柄なので、やはりその雑食さこそが彼女が「蒐集家」と呼ばれる所以なのだろう。

 

「――という意見がみんなから出てきた訳だが、専門家の意見を聞きたいところだね」

 

 そう促すのは【トワイライトキャラバン】のリーダーであるルカ。

 先のメンバー四人を纏めるに相応しい実力と人格を持ち合わせており、その名を轟かせる四人が合わさって互角という卓越した侍である。

 そんな彼女が向けた視線の先に居るのは、そんな五人を歯牙にも掛けない実力を持つ、今回の遠征へ至る決定打となった虎の子。

 

 その名はアオイ。狩人としての知識と実力以外のパーソナルはあまりにも謎に包まれており、その存在に影さえ踏ませない隠匿を徹底していた彼女が、今こうして行動を共にしているのはまさに天啓だった。

 

「……皆さんの感覚は正しいですよ。ここは異世界です。比喩でも何でもなく、純然たる事実としてそうです」

 

「――どういうことだい?」

 

「まず、空気が変わったという発言。文字通りここと外では空気の質が違います。ほんの僅かですが、ここに入った直前で空気の流れが不自然に変化しました。流動的でなければならない空気が、まるで物質的な屈折をしました。そんなことが現実に起これば、周囲の環境にもっと変化が起きて然るべきなのに、それがない。それは、この空間にとってその流れが正常であるという証拠となる」

 

 淡々と語りながらもその場にしゃがみ込んだかと思うと、おもむろに地面の土を少し手に取り、軽く匂いを嗅いだかと思うと――それを躊躇いなく口に含んだ。

 まさか土を食べるとは思っておらず、しかも未だ謎の多い土地でやったものだから、一同は流石に驚きを禁じ得なかった。

 

「土の性質も明らかに違いますね。入口付近の土とは水の質、含有量、それに味も」

 

「あ、味?」

 

「はい。土壌の性質は自然の成り立ちひとつで大きくその色を変えます。大地は万物が根差す故に、そこにはあらゆる情報が集約する。どんな生物が、植物が。近くに水源があるかどうか、突き詰めていけば降水量や頻度、果ては水質だって土から調べることは出来る。その辺りは、ミツキさんやエリコさんの方が詳しいと思いますが」

 

「まぁ確かに、実験の過程でそういったことを調べたりする方法を会得したりしたけれど、流石に器具なしで調べるなんてのはねぇ」

 

「それよりも、このような場所の土を口にして大丈夫なのですか?」

 

「ご心配なく。毒の扱いには心得がありますので。まぁ、もし万が一私が倒れたとして、土地が汚染されていたと気付ければ撤退の一手も取れるでしょうし問題はありませんよ」

 

 そうさらりと言ってのけるアオイに、相変わらず(・・・・・)の危うさを覚えながらも冷静に反論していく。

 

「君の知識と技術を期待しての此度の遠征なんだから、支柱が進んで折れに行こうとするのは本末転倒もいいところじゃないか?それに、撤退するにしても荷物がひとつ増えるのはこちらとしても不本意なところだから、やるならせめて一言言ってくれ」

 

「……申し訳ありません」

 

 冷たい言い方ではあるが、このように突き放す物言いでないとアオイは受け入れないと知っているからこその対応だ。

 彼女は行き過ぎた自己犠牲の精神を内に秘めている。それとも、自分の命を何とも思っていないか。或いはその両方か。

 とにかく、生半可な善意での提案は暖簾に腕押しでしかなく、ならば合理性を盾にすればと試した結果、意外と効果ありだった為、今回もそれに倣ったのである。

 

 傍から見れば軽挙妄動の極みと言える行動だが、彼女にとってはそれがごく自然な選択であったことは想像に難くない。

 知る限り、彼女は魔物蔓延る広大な自然で一人生き延びてきた。まったく他者との交流がなかった訳ではないだろうが、常に孤立した状況で常に命を晒される環境にいたであろうことは、それを実現させ得る実力が証明している。

 想像を絶するほどの窮地をその身ひとつで乗り越えてきたからこそ、今の彼女がある。それは称賛されるべき実績である、が――その代償に協調性というものが著しく欠如している節がある。

 本人は協調に積極的で決して進んで和を乱すような人物ではないのだが、どうにも噛み合わない。

 彼女がどのような選択をし、どのような結果を辿ってきたにせよ、そこに他者の意見が介在することは稀だった筈。 

 すべてが因果応報。利益も損失も総取りが約束された生き方をしていれば、他人の評価なんてものは気にならなくなる。

 社会で生きていれば自然と周囲の評価に依存するようになるものだが、彼女にはそれがない。故に、自分の行動が周囲にどのような影響をもたらすかどうかなんて考えもしない。

 

 自分にとっての論理が絶対の価値観であり、それに従って生きてこられたからこそ、その常識(へんけん)は簡単には変えられない。

 他者にとっては割に合わない選択肢であろうとも、彼女の中で合理的であるならば躊躇いなく実行するだろう。

 自然界において一瞬の油断が生死を分ける状況なんて腐るほどあっただろうし、ましてや頼る相手も居ないとなれば自分の選択以外に頼れるものもない。それが彼女にとって当たり前なのだから、自己判断で行動することは反射レベルにまで染み付いているのだろう。

 たとえどのような選択を取ってあっさりと死んでしまったとしても、彼女は淡々とその事実を受け入れて死ぬのだろう。周囲がどのように考えるかなんて考えることもなく。

 獣であろうとも徒党を組むことで生きるのは当たり前なのに、彼女にはそれすらない。

 何故こんな風になるまで、誰も彼女に救いの手を差し伸べることが出来なかったのか。

 こんなの、あまりにも悲しすぎる。おおよそ有り触れた人間の生どころか、生物の生き方とは言い難い。

 

 それでは良くないと思いつつも、他人の人生である以上それを押し付けることも出来なければ、そもそも出会ったのがこれで二度目の間柄であるという事実。

 たとえ正論であろうとも、関係性も希薄でそんな軽い知り合い程度の人間に、自分の人生観を否定されるのは誰だって気分が良いものではないに決まっている。

 故に、あくまでもビジネスライクに不合理であると訴えることで彼女を制御する。お前の常識はこの状況では通用しないと暗に示すことで彼女を保護する。

 立場上彼女には負担を強いることが確定してしまっている以上、その負担を出来る限り抑えてやりたいという人情と、目的達成のために酷使することが肝要であるというジレンマ。

 身勝手極まりない悩みではあるのだが、合理性だけで語るならば初めからこんな場所に訪れてなどいない。

 

「まぁまぁルカ姉、そんなカッカしなさんな!まだ入り口なんだから気楽に行きましょうぜ?アオイっちのことも頼りにしてるけど、なんでも自分でやる必要なんてないんだからね?ウチらチームなんだから」

 

 重くなりかけた雰囲気に待ったを掛けたのはナナカだった。

 アンナにも負けない独特な言葉遣いとその天性の明るさもあって、ムードメーカーとしての立場を遺憾なく発揮していた。

 天然なのか計算なのか未だに判断がつかない部分もあるが、今回のように彼女のそういう気遣いに助けられてきた部分は大いにある。

 ルカの【トワイライトキャラバン】のリーダーとしての立場上、他のギルド以上にリーダーには規範としてあるべき姿勢を求められる。

 彼女が舵取りをしているからこそのバランスで成り立っているギルド。そうなれば必然的にルカのスタンスも否応なく確立してしまう。

 ただでさえメンバーの個性が強く、ギルド内での意見の対立なんてことも少なくない。そんな時、リーダーが甘えた姿勢を見せてしまえば、たちまち総崩れになりかねない。

 だからこそ、ナナカのような緩衝材的立ち回りができる存在は円滑なギルド運営において重要であり、この継ぎ接ぎギルドを纏める重要なポジションとして唯一無二の地位を確立できている。

 果たして、ナナカがそれを狙って立ち回ったかは定かではないが、出来るか出来ないかで言えば間違いなく出来るタイプというのがルカの評価だ。

 有体に言えば、道化の仮面の裏で強かに盤面を形成し、自分の理想通りに事を運ぶことが得意な悪の幹部タイプ。

 ……なのだが、本人にその気が一切なく善性寄りということもあり、やり過ぎない程度に割とノリと勢いで人生を謳歌しているため、良くも悪くも現状で収まっていると言える。

 頼りになると同時に、頼りすぎると足を掬われかねない。そんな魔性を秘めているのが、ナナカという魔法使いだ。

 

「気楽になれとまでは言わないけれど、ナナカちゃんの意見には賛成よ。気を張り詰め過ぎていざという時に力を発揮できませんでした、なんて馬鹿らしいわ。今回は早期発見で予防できたんだし、ね?」

 

「我らは故あって同じ御旗に集った同志ではあるが、なればこそ悲願達成までの間だけであろうともその関係は健全であるべきだ。……という訳だから、あんまり無茶なことはするな!私達を頼れ!」

 

 各々がアオイに掛ける優しい言葉に打算がないとは言わない。

 しかし、根底にあるのは確かに善性に依る感情であり、そこに疑う余地はない。

 言い方は悪いが、彼女達は独善的で自己の利益を重視する傾向にあり、それ故に周囲から疎まれている部分がある。

 自業自得とはいえ、敵の多い立場である彼女達がただの数度、しかもパーソナルがほとんど明かされていない謎多き少女に心を砕いているのは、知る人が知れば異様な光景に映るだろう。

 

 人は誰しも未知を恐れる生き物である。未知に対しての感情が好奇心に傾くか排斥に傾くかは人それぞれではあるが、人が人である限り未知に対して無関心ではいられない。

 未知という刺激に無関心になった者は、ただ息をしているだけの木偶と同じ。肉体的に健全でも、哲学的な意味で生きているとは言えない。

 アオイは彼女達にとって未知の塊。幾重の封印が施された宝箱、歩めど歩めど辿り着けない広大極まるダンジョンと同じで、興味を惹くには十分すぎる要素が濃縮されている。

 しかし同時に、その底知れぬ全容に対する恐れもあった。――最初だけは。

 彼女は自身の事を語らない。しかし、彼女の行動の一端からその人生観を読み取ることはそこまで難しくはなかった。

 周囲に影響されない自己完結した感性。それは彼女の孤独の証明でもあり、その仙人めいた俯瞰した人生観はあまりにも非人間的であり、致命的にズレ(・・)ている。

 先の土を口内で反芻する行為も、彼女なりの経験に基づく合理性から来る最適解ではあったのかもしれないが、その一手が致命傷になりかねなかったこともまた事実。

 リスクリターンが釣り合っているとは思えない、原始的な手段による情報の取得。それ自体を否定する訳ではないが、周囲に問いかけることなく躊躇いなく実行してしまえる様は、あまりにも盲目が過ぎる。

 無自覚かもしれないが、彼女は周囲を一切信用していないように見える。

 それは、自分ですべて成し遂げてきたからこその、いっそ傲慢とも呼べる自信。

 ――或いは、他者を頼るという発想に至れないほどに孤独が日常となっていたか、それともその両方か。

 

 だからだろう。彼女に対する評価は強者への畏敬でもなんでもなくて――言うなれば、母親と逸れた幼子を見ているような感情。

 どこまでも自由に羽ばたける能力を持っていると知っているのに、何故か危うさを感じずにはいられない。

 目の前にいる女傑の如し幼子を護らなくてはならないと、ある種の母性とも呼べる感情で接しているのかもしれない。

 ――それに、ルカにとってアオイはそれを抜きにしても気にかかってしまう何か(・・)を秘めているのか、人一倍気になって仕方がない。

 しかし、決して不快ではない。むしろ懐かしささえ感じている。彼女のことなど数度と関わっただけの他人である筈なのに。

 

「――わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」

 

 どう対応するべきか、と不安が滲み出た雰囲気を振り払うようにアオイはゆっくりと頷いた。

 

「よし、じゃあ気を取り直して――いや、梯子を外すようで申し訳ないんだけど、ちょいと上から状況を見てきて欲しいんだ」

 

「上ってルカ姉、こんな隙間なく緑一色なところを上から見てもなんもわかんないと思うけど」

 

「私が知りたいのは全体の広さと、現在地の特定だよ。結構歩いた筈なのに状況に変化はないし、私が事前に地図で確認した広さを考えるとどうにも腑に落ちない。とにかく色々と違和感だらけで、状況を打開する一手が欲しいんだ」

 

 時間にして一時間程度、黙々と歩き続けていたが一切の変化が見受けられない状況。

 曲がりなりにも地獄を形成した逸話のある環境とは思えないほどに穏やかで、何もない。

 平和ならそれで良い、なんて楽観した考えは冒険者にとって唾棄すべきもので、常に危機感を抱いて事に当たることを意識しなければ一瞬であの世行き、なんてことになりかねない。

 頼れと言った手前申し訳ないが、彼女が最も適している以上任せない理由はない。

 

「では、失礼します」

 

 そう告げるが否や、予備動作なしの一足飛びで瞬く間に空へと昇って行った。

 

「うわ、すっごいジャンプ力」

 

「本当規格外よね。あれが天然由来だとしたら、非常に興味深い研究対象なんだけど」

 

「やめておけ。眠る虎口に腕を差し出す理由もあるまい」

 

「しないわよ、言ってみただけ。魅力的な被検体であることは否定しないけれど、あんな純粋な子をどうこうしようと思うほど腐ってはいないわ」

 

「その代わりに犠牲になるはチンピラ冒険者、か。然もありなんだが、同情もするよ」

 

 そんな他愛のない会話を続けてはいるものの、一向にアオイが帰って来ないことに気付く。

 

「遅いね。そんなに遠くに行ってない筈だし、何なら一瞬で戻って来れるスペックはあるのに」

 

「従来の森と比較して木々が巨大とはいえ、所詮倍にも満たない差でしかないですし、あの速さなら誤差の範囲だと思うのですが‥‥」

 

「まさか不意打ちにでも遭った?それにしては静かすぎるというか、彼女が音もなくやられる姿なんて想像出来ないわね」

 

「ロビンフッドに比肩する魔物が存在するなど、それこそ悪夢以外の何物でもないな。別の可能性を挙げた方が余程現実味があるだろう」

 

 益体のない推測ばかり重ねている間にも状況が変化する様子は一切無く、相も変わらず不自然なまでに穏やかな空気で満たされている。

 まるで絵画の中に入り込んだかのように画一的な美しさが、現実に落とし込まれている。

 これが天然の産物であるとはどうしても思えない。

 先のアオイの発言にもあったこの森が異世界だと形容した事実も併せて、現状が異常であるのだと改めて気付かされる。

 

「アンナ、ナナカ。どちらでも構わないから上空に魔法で信号弾を撃ってみてくれないか?」

 

「……いいのか?それは隠密による利を放棄するに他ならない選択だぞ」

 

「わかってる。だけど、少しでも現状を打破するきっかけが欲しいんだ。常識の通用しない未知な環境だと知りながら、安易にあの子を頼った私の落ち度なのも承知している。その上で伏して願いたい。一緒にあの子を捜して欲しい。そのために皆を危険に晒す許可が欲しい」

 

 そう言うが否や、ルカは躊躇いなく汚れることを厭わず土下座をした。

 リーダーの取る選択肢として、これは愚策以外の何物でもない。

 斥候の派遣は探索における常套手段であり、それが不測の事態で戻ってこなかったとして、それを即時救助しようとするのは二次被害を高確率で出しかねない、最も行ってはならない選択だ。

 定石としては、撤退からの様子見。まずは自分達の態勢を盤石にしてから冷静に事を運ぶことが肝要である。

 動揺により浮足立った状態では正常な判断を下すのは難しい。それが瞬時に選択を求められるような状況となれば、なおさらである。

 それを理解してなおそのような愚行を冒さんとするのは、そんな愚かさの犠牲となったひとりの少女のため。

 しかし、たったひとりのために残りの五人が犠牲になる可能性を考えれば、やはり愚行という他はない。

 故に、土下座。リーダーにあるまじき姿を晒すことで誠意と覚悟の意思表示とする。

 

 突然のルカの行動に面食らったのか、誰もが言葉を発せずにいる。

 そんな中口火を切ったのは、ミツキだった。

 

「やめなさい、みっともない。貴方が責任を感じているのはよくわかったけれど、そもそも私達の立場は対等ではなかったかしら?」

 

「それは……」

 

「言葉を重ねるが、我らは故あって同じ御旗に集った同志でありそこに優劣が介在する余地などない。名目上リーダーとして台頭してもらってはいるが、それは書類上の体裁のためであり本質を表す記号ではない。発足にあたり明言していたと記憶しているが?」

 

 アンナの言う通り【トワイライトキャラバン】は《黄昏の都》という伝説を追い求める同志であり、言ってしまえば利害関係により集った間柄に過ぎない。

 今でこそ良好な人間関係を築いてはいるが、我の強いメンバーの集いということもあり当初は籍を置くだけで単独行動を行うなんてのはザラだった。

 それでは良くないと奔走した結果、名実ともにリーダーとしての立場を得たのがルカである。

 しかし、あくまでそれは纏め役としての役割であり、彼女が絶対の強権を振るう権利がある訳でもなければ、それに従う理由も他のメンバーにはない。

 適材適所。アオイに斥候としての立場を求めたのと同じで、適した人材に役割を与えただけであり、互いが互いを補い合うことでより最善の結果を導き出そうとしているに過ぎない。

 確かにリーダーという立場は多少なりそういった枠組みよりも上位に位置することは否定できないが、ルカ自身その権利を必要以上に活用する場面はなければ、メンバーがそれを求めたこともなく、形骸化していると言っても過言ではない。

 だからこそ、ここぞという時に責任だけ被る必要はない、と彼女達は言いたいのだろう。

 

「ルカさん。貴方には尊敬の念を抱いていることは事実ですが、あくまでそれは個人の感情から来るものであり、貴方がリーダーだからではありません。私達がいつ貴方に責任の所在を追求しましたか?勝手な被害妄想をしないで下さい」

 

「エリコ様の言い方はキツいけど、概ね言いたいことは言われちゃったかな~。結局のところ、私達が何も言わなかったイコールそれが最適解だって納得したってことだから、責任があるとすれば私達全員なわけ。だから、気に病む必要などナッシングってこと!――というわけで、ナナカちゃん砲お空へと発射!!」

 

 まるでルカに言葉を紡がせまいと、ナナカが間髪入れずに魔法を上空に撃ち出す。

 湿っぽい雰囲気を吹き飛ばそうという気遣いもそうだが、これが自分の役割だと言わんばかりの行動もルカの過剰な自責の念への反証としているのかもしれない。

 

 森を裂くように飛来した魔法は徐々にその姿を小さくさせていき――瞬間、音もなくその姿を消した。

 目の前の異常事態に思考が鈍化している中、まったく別方向から爆発音が聞こえた。

 木々に阻まれてよく見えないが、隙間を縫うように広がる閃光がナナカの発した魔法であることを告げていた。

 

「……今の魔法は一定の距離に達すると自動的に爆発する仕様だから、想定なら撃った方向から爆発が発生する筈なんだけどな~」

 

「ならば、我が今一度倣おう。憶測は出来るが、未だ判断材料に乏しい。だが――」

 

 ナナカが広げた魔法痕めがけてアンナも魔法を放つ。

 飛来した魔法は、先程魔法が消失した位置と同じ距離で消失。そして、一度目とはまったく別方向から爆発音が聞こえた。

 

「……アンナたそ、これって――」

 

「可能性は高い。しかし、そうなると厄介極まりないと言える」

 

 二人して示し合わせたかのように頷き合う。

 他三人は彼女達よりも魔法に疎いが、踏んだ場数からもおおよその可能性は導いていた。

 

「もしかして、転移魔法かい?」

 

「ただの転移魔法ではない。恐らく、この森全体を結界のように転移魔法が敷かれている。無作為な転移結界にロビンフッドは巻き込まれたと見ていい」

 

「……それは、マズいわね」

 

「ええ。未だ全容の見えない森の中、幾らあの方に地の利があるとはいえ、不測の事態ともなれば話は別でしょう」 

 

「――それに、さっきの穴を見てよ」

 

 ナナカに言われるままに天を仰ぐ。

 そこには、まるで時を巻き戻すかのように形を元通りにしていく木々があった。

 驚愕の光景を目の当たりにしている間にも修復は続き、そうあれかしと望まれたかのようにあっという間に森は再び静寂を取り戻した。

 

「もう、言葉もないね」

 

「ええ。最初からこの森が異常であると踏んでこの場に臨んでいたつもりだったけれど、流石に予想外の連続過ぎて、ね」

 

 流石に一同が閉口せずにはいられないほどに、この森は異質異常の坩堝だった。

 同時に、早急にアオイを見つけ出さないと何が起こるかわかったものではないと嫌でも理解させられた。

 

「早く捜しに行こう。流石になり振りかまってはいられない」

 

「そうですわね。それに、二度もあの爆発があったにも関わらず魔物どころか動物さえ動きがないところを見ると、私達以外には誰もいないと考えてもいいかと」

 

「大規模な転移結界が張られている事実、魔物を始めとした生命の一切が存在しない可能性、にも関わらず過去の文献では大量の犠牲者を輩出しているという記載があるとすれば、次にどんな想定外が起こっても不思議じゃないもの」

 

「皆、最大限の警戒と共に迅速な探索を行う。ナナカは探知魔法でアオイの捜索、アンナはその補助、私含めた三人は二人を囲むように三方向を常に警戒しながら進むぞ」

 

 一同は頷き合うと、各々が指定されたポジションに付き、徐々にではあるが森の奥へと足を踏み入れていく。

 魔法を常に発動し続ける関係から一番負担が大きいのはナナカだが、額から汗が伝おうともそれをおくびに出さないように笑顔を崩さない。

 この作戦の要はナナカであり、だからこそ彼女に乱れが出てしまえばその影響は必然と伝播する。

 故に、彼女は苦悶を笑顔で塗り潰す。それが出来ると知っているから、ルカ達も各々の役割を十全に果たすことが出来るのだ。

 

「――見て、みんな」

 

 一時間、あるいは数十分程度。永劫とさえ思えるほどに濃縮された時間は、彼女達を嘲笑うかのように一切の変化をもたらすことなく、悪戯に消耗させるだけだった。

 しかし、限界の近い様子だったナナカからの言葉で、永劫は終わりを告げることとなる。

 ナナカが指し示す先には、森の出口と思わしき視界が開けていく光景がそこにはあった。

 しかし、その先にあった光景はこの場に居る誰にも想像していないものだった。

 

「な、あ――」

 

 否、想像していなかった訳ではない。

 あくまでも憶測、なんの根拠もない妄想。そうであったら良いなという、子供染みた願望に等しい思考の端を掠める程度のそれ。

 彼女達自身何よりも望んでいた筈なのに、その彼女達自身もまた信じ切れていなかったもの。

 

「《黄昏の都》――」

 

 誰が呟いたかもわからないそれは、しかし同時に誰もが口にしてもおかしくはない呟きだった。

 水平線が見えるほどに水で満たされた視界の中、その中央に浮かぶ大都市。

 本来地図通りならば、海どころか湖とも一切面していなければ、その都市が見下ろす形で見える様子から地形さえも歪んでいるということになる。

 そして、未だ日没には遠いであろう時間でありながら、空は黄昏時を示すかのように夕焼けの赤で水の都を染め上げている。

 矛盾に矛盾を抱えてなお、確かに存在している光景。幻覚と切って捨てるにはあまりにも現実味のある幻想的かつ退廃的な光景は、彼女達を魅了するには十分過ぎるものであった。

 

 

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