アオイちゃんを常時無表情にして五割増しに口下手にした結果wwwww   作:花極四季

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アオイ(サマー)とかいう、ヘソ出しチアコスアオイがガチャに出て爆死する夢を見たので初投稿です。


二話の投稿にあたって、誤字報告をしてくれた皆さまにはこの場で感謝を申し上げます。

報告者一覧(敬称略、順不同)
烏瑠 244 夢霧ノエル haruto0


三話

 ランドソルの郊外にある国営で管理されていたが、長い間使われていなかった土地がある。

 今ではそこは【サレンディア救護院】という孤児院ギルドとなり、子供たちの陽気な喧騒が絶えず聞こえる穏やかな場所となっている。

 そんな孤児院のとある一室で、金髪エルフの少女が一人ペンを走らせている。

 

 少女の名はサレン。

 弱冠17歳にして【サレンディア救護院】のギルドマスターとなり、父の後継ではあるが【王宮騎士団(NIGHTMARE)】の元副団長という経歴を持つ。

 【サレンディア救護院】は保護者のいない子供を孤児として引き取り、保護することを理念に発足されたギルドで、元々は戦災孤児などを保護するために発足された前身のギルドを引き継ぐ形で収まっている。

 【王宮騎士団(NIGHTMARE)】と同様に王宮直轄ギルド【プリンセスナイト】の傘下ではあるが、その実態は一般ギルドと大差はなく、土地代を保証する以外の関与はなく、それ以外の部分での資金援助などは一切無い零細ギルドである。

 永らく他国との戦争もなく平和が続いた結果、形骸化して土地と名前だけが残ったものを再利用しているに過ぎない。

 そうした理由から、増え続ける子供達に対して人員も経費も不足してるのが現状であり、その両方の対処を一身に担っているのがサレンなのである。

 

「明らかに不自然な親無しの子供の頻出する現象。一貫性も規則性もなく、事件性があるにも関わらず足取りは一切掴めず。そんな不自然な現象に対して、王国は何の対策を取ることもなく静観を貫いている。……本当、何なのかしらね」

 

 ペンを止め、机に向かって深い溜息を吐く。

 サレンに【サレンディア救護院】を立ち上げようと決心させた不可解な現象は、発生から結構な時が経つにも関わらず王国は解決の一歩さえ踏み出そうとしない。

 【王宮騎士団(NIGHTMARE)】時代から何度も上告してきたが、途中で書類が止まっているのかまるで話題にも上がらず。

 日は経てども異常事態が収まることはなく、解決の為に事態が動くこともない。

 その不条理極まりない状況に、怒りにも近い感情を抱いていたことは記憶に新しい。

 

 脱退を決意したのはそれが大きな理由だったが、以前から王国に不信感を抱いていたことも起因している。

 昔の王国はこのような体たらくを許す組織ではなかった。

 孤児の件に限らず、最近のランドソルにて起こる事件に対してどうにも腰が重い案件が多い。

 本来ならば王国で解決するような事の大きい案件が、一般ギルドによって解決され、事後処理ぐらいしかやれることがなかったなんてよくある話。

 ランドソルの治安と秩序を保つためにある組織の筈なのに、重要な場面では給料泥棒以外の何物でもなくなる。それが納得できず、【王宮騎士団(NIGHTMARE)】を脱退した。

 

 今でこそこれほど強烈に違和感を感じているが、当時は実際にその事態に直面するまでは異常を察知できなかった。

 内と外からの視点の差とか、そういうレベルを超えている。

 ランドソルという都市そのものが、何か大きな力の干渉を受けている。今ではそう確信を持って言えた。

 

「【王宮騎士団(NIGHTMARE)】は頼れない。干渉は間違いなくあそこにも及んでいる。下手を打てば如何に私でも国家反逆者の誹りは免れない。そうなれば子供達が路頭に迷ってしまう。それは駄目」

 

 しかし、この事態を解明するにもサレンは大事なものを多く背負い過ぎた。

 身軽な立場ならばできたことも、子供達の安全には代えられない。

 子供達に手を差し伸べたことに後悔は欠片もないが、ランドソルの危機にさえ匹敵する事態に対し、手をこまねくことしか出来ないことが歯痒い気持ちに嘘はない。

 

「お嬢様、お茶をお持ちしました」

 

 ノック音と共に、専属メイドであるスズメの声がドア越しに聞こえる。

 

「ええ、ありがとう。入っていいわ」

 

 一呼吸置いてドアが開かれる。

 トレイの上には紅茶と焼き菓子が備えられており、閉鎖的な空間に甘い匂いが漂ってくる。

 

「事業計画書がこんなにたくさん……また増やすつもりですか?」

 

「半年ほど前から魔物の狂暴化で、街道にまで進出する頻度が増えているせいで物流が滞っているから、その対応だけでも手一杯よ」

 

「もしかして、全部ですか?」

 

「魔物に荒らされた街道の整備計画、物流安定化に伴うギルドとの連携案の提出、そもそもの原因の調査……挙げていけばキリがないわ」

 

 サレンは立場としては貴族だが、所謂商家からの成り上がりで今でも【サレンディア救護院】の存続の為に複数の事業をその辣腕で経営している。

 商品の発注から販売を主としているが、最近は資金繰りのために多方面に手を広げつつあり、ランドソルの市場においてサレンの名を知らない者はモグリと言わしめるほどの知名度を得ていた。

 事実、同じ王宮に属するギルドである【王宮騎士団(NIGHTMARE)】と比較しても、現状市民の視点においてランドソルに貢献しているのは【サレンディア救護院】――というよりもそのギルドマスターであるサレンであることは明白である。

 慈母のようであり気風の良い性格という点が貴族らしからぬということもあり、市民からの忌避感もないどころか、【サレンディア救護院】の助けになろうとボランティアを買って出てくれる人が多発するぐらいに、彼女には人望があった。

 そんな彼らの優しさに助けられてなお【サレンディア救護院】の財政が逼迫しているのは、親無しの子供が増えることに歯止めが掛からないことにある。

 それでも明確な対処法が思いつかない以上、子供たちを不自由なく暮らせるように資金調達に勤しむことが今できる最善であり、同時にそれが対症療法であることも嫌というほど理解していた。

 

「根を詰め過ぎてはいけませんよ。お嬢様が倒れられては、私も子供たちも心配しちゃいます」

 

「わかってるわ。でも、ここが頑張りどころなのよ。今の事業が安定に入れば、子供たちにもっと楽をさせてあげられる。あの子達のためなら、辛くても頑張れるわ」

 

「子供たちがお嬢様の苦労を知っていると理解した上で、ですか?」

 

「……あの子達に手を差し伸べたのは私のエゴよ。最後まで面倒を見る義務があるわ」

 

「義務だなんて、そんな」

 

「義務と言っても、嫌々やってるわけじゃないわよ?むしろ【王宮騎士団(NIGHTMARE)】に居た時の何倍も充実してる。今の【王宮騎士団(NIGHTMARE)】に居ても、腐っていくだけだってわかったから離れた訳だしね」

 

 紅茶を手に取り、優しい温かみを体内に受け入れる。

 慣れ親しんだ日常の象徴。この温かさひとつで、疲れが比喩抜きで吹っ飛んでいく。

 

「私がこんな無茶をできるのは、アンタの献身があってこそよスズメ。いつもありがとうね」

 

「そ、そんな!私はいつもドジばかりで、役に立ててるとはとても」

 

「そのドジありきよ。……子供の頃にあったスピーチ、アンタのドジで緊張がほぐれたって話してたじゃない」

 

「ええ、お嬢様が十二歳になった誕生日。私達が出会ったのもその時でした」

 

「あれが切っ掛けで私付きのメイドになって今に至るわけだから、数奇なものよね」

 

 思い出を語り合い、互いに笑い合う。

 この何気ない日常こそが護るべきものであり、それを再度実感したことで改めて仕事に向けて奮起する気概が湧いてくる。

 

「それに、大変とは言ってもあの時の危機に比べれば全然余裕だし」

 

「それって、もしかして子供たちが熱を出した時の?」

 

「ええ。子供たちには申し訳ないけど、魔物の狂暴化に端を発する一連の出来事がなければ、こんなに早い段階で事業拡大路線を歩めなかったわ」

 

 今から半年ほど前。ちょうど魔物の狂暴化が活発になってきた頃、今以上に不安定な流通により市場に入る物資の減少、それに伴う物価の高騰といったインフレーションが突発的に巻き起こり出した。

 お金に関して言えばこのような可能性を考慮して余裕を持たせているが、物自体が入らないことにはどうしようもない。

 最たる要素としては、やはり食糧の減少が顕著であった。

 魔物は積極的に食料を運ぶ馬車を襲い、それらを奪っていたせいで、普段食料を運ぶような馬車がそもそも襲撃を恐れて動かないという事態に発展していた。

 馬車の護衛等は一般ギルドの管轄だが、魔物の狂暴化による被害を考慮して通常時の価格では受けるギルドが減少したため、緊急措置として【ギルド管理協会】からの追加報酬が支払われる約定が結ばれるまでは、物流の停滞は著しかった。

 その皺寄せを一身に受けることになったのは、他ならぬ子供たちだった。

 

 不幸は重なるもので、この時期はランドソルの風土病とも呼べる子供が掛かりやすい風邪のような病気が蔓延する傾向にあり、今年はその症状が重く発生してしまう年でもあった。

 加えて子供たちに与える分の食糧が減ってしまったことで、体力不足から孤児院の子供たちはほぼ例外なく発症してしまう事態となる。

 治療薬の在庫はあったが、度重なる孤児の受け入れとそこから発生する資金繰りによって、万全の数を揃える余裕がなかったため、比較的症状の軽い子供たちは後回しになってしまう。

 

 薬自体は普段なら市販でお手頃価格で買えるものだが、ここで物流の停滞が効いてくる。

 この病気は孤児院に限定された問題ではなく、ランドソル全域に渡る問題だ。

 孤児院の子供の数など分母の少数で、それ以外の子供たちにも発症していると考えれば在庫不足に陥ることなど火を見るよりも明らか。

 時間を掛ければ自然治癒も不可能ではないが、体力不足が祟り症状がこれ以上の悪化を辿る可能性は否めない。

 

「でもまさか、お嬢様が手ずから治療薬の素材を採りに行くと仰った時はどうなるかと思いましたよ」

 

「ギルドに護衛の依頼を頼むにも、受諾までどれだけ待たされるかわかったものじゃないし、速度重視で適当なギルドを選んだ結果ハズレ引かされるぐらいなら、一人で行った方がマシと思ったのよ。依頼金だってバカにならないし、足元見られる可能性だって十分あったんだから」

 

 実際、この時期のギルド周りの秩序は混沌としており、所謂ゴロツキのようなギルドが暴利で依頼を受けるケースも多発していた。

 事情が事情なだけに、依頼金の適正価格も通常時とは異なることを突いた詐欺行為。

 そういったランドソルの秩序を乱す存在を取り締まるために、真っ当なギルドが対応に追われるという始末で、護衛依頼を切り捨てたのにはそういった背景もあった。

 

「――まぁ、そのおかげで彼女に出逢えたんだから、間違った選択じゃなかったわ」

 

「お嬢様の命の恩人でしたっけ?」

 

「ええ、あの時は冗談抜きで死ぬかと思ったわ」

 

「呑気に言わないでください!本当に心配したんですから~」

 

 スズメの可愛らしいお叱りを尻目に、あの時のことを思い出す。

 私と孤児院にとっての命の恩人である翡翠色の少女のことを。

 

 

 

     *

 

 

 

「――本当、不幸は重なるものね」

 

 矢継ぎ早に襲い掛かる猛攻を捌きながら、悪態を吐く。

 病に掛かった子供たちの為に薬の原材料を単身採集すべく、目的地に足を運んだまでは良かった。

 しかし、そこに居た魔物が予想を遥かに超える厄介さを誇っていた。

 

 元【王宮騎士団(NIGHTMARE)】であり副団長を務めていたサレンの実力は上位に匹敵する。 

 袂を分かってからは資金繰りに奔走してばかりで前線に赴くことはなかったが、伊達に王宮の警護が主任務であるギルドで副団長を務めていた訳ではない。

 父親の跡を継ぐという、コネと呼ばれても仕方ない経歴でのスタートだったとしても、それを維持する実力があったこともまた事実。

 そんな彼女を以てしても、目の前の魔物――否、化け物には防戦一方を強いられるほかなかった。

 

「こんな化け物がランドソル近辺にいるなんて、冗談じゃないわ!」

 

 眼前にてサレンに襲い掛かるは、巨大な口を中心に大量の触手を生やした魔物。

 口内に生えた夥しい数の牙に、魔物の主食が何であるかを理解させられる。

 その上、その口内からは絶えず瘴気のようなものが溢れており、それに触れた植物が腐食していく様は、捕食された存在の末路が嫌でも思い浮かんでしまう。

 サレンは元【王宮騎士団(NIGHTMARE)】という立場から、過去の魔物のデータなどは資料として纏められていたものを熟読し、頭に叩き込んでいる。

 国が管理している書庫に収められた知識は膨大で、だからこそ目の前の魔物と呼ぶにはあまりにも悍ましい存在が異質に見えてならない。

 ましてやこんなランドソルに近い森林で、誰にも気付かれることなく成長していたなど、どのような天文学的確率で起こり得ることか。

 

 サレンが今居る場所はヘーベ丘陵にある森林で、平時においては田畑が密集している地帯と隣接しているということもあり、ギルドの依頼で定期的な間引きが行われており、絶対とは言えなくとも安全と言っても過言ではない場所だった。

 ランドソルの姫が無類の米好きということもあり、ここで栽培されている『プリ米』は姫が直々にプロデュースして品種から何まで徹底されており、今やランドソルの名産品にまで昇り詰め、経済の要にまでなっていた。

 

 しかし、サレンが違和感を感じるようになった辺りから、以前よりもこの田畑に対する重要性が薄まっているように感じていた。

 変化は微々たるもので、普通に生活している人達にとっては違和感さえ感じられないであろう差。

 【王宮騎士団(NIGHTMARE)】に居た頃は、ギルドによる派遣頻度が周期的ではなく散発的になっていたのを確認しており、資金繰りをするようになってからは『プリ米』に限らずランドソルの食糧自給率が右肩下がりになっていることが確認できた。

 食に関心がある王族ということもあり、国政の一環として食糧関係に関しては一層の力を入れていたことは疑いようもなかった。

 にも関わらず、違和感を感じるようになってからは下がり続ける一方。

 まるで、お姫様に食の関心がなくなったかのように。

 

 そんな経緯もあって、ギルドの依頼にもその皺寄せは多少なり現れていた。

 ランドソル王家から下知される形で【ギルド管理協会】が依頼を出していたため、依頼を出すかの裁量は【ギルド管理協会】には一任されていない。

 つまり、必要ないと言われてしまえば【ギルド管理協会】からは何も言えないわけである。

 魔物の活性化でどこかしこも治安が悪化している現状で優先されるのは、『プリ米』よりも民の安全であると言われれば聞こえはいいが、これが王族の道楽レベルであったならばともかく『プリ米』は今や経済の要。こうも容易く蔑ろにするにはあまりにも市場を席巻し過ぎた。

 米は一年掛けて栽培されるもので、もし魔物によって荒らされようものならば、そこから最低一年は減った分を取り戻すことはできない。経済が落ち込むのは明白だ。

 だからこその違和感。この状況でその判断は、あまりにも浅慮と言わざるを得ない。

 

 平時ならば魔物もそこまで強力ではなく、少しでも戦闘経験のあるギルドならば誰でも討伐できる程度だが、今はそうではない。

 全体的に戦闘力の水準が高く求められるようになったことで、間引きに割けるギルド数が減ると同時に、対応な可能なギルドは別の場所に駆り出されるという負の連鎖によって現状が出来上がってしまっている。

 とはいえ、完全に防備が崩れているわけではなく、田畑を一括管理している専門のギルドが資金を出して防衛を依頼してはいるが、彼らの収入源は主に『プリ米』であり、その大半は王国へと献上されることで生活が保障されるシステムであるが故に、ルピの貯蓄は決して多い方ではないらしく、せいぜいが以前より長期契約を結んでいたギルドに頼るしかないという状況。

 彼らとしても出費はできるだけ避けたいだろうし、契約内容は限定的に留めたい筈。

 故にこのような触手の化け物が生息していたことに気付けなかった、と考えると一応の理由付けにはなる。

 

 それを考慮した上で、あまりにも謎が残されていることはこの際どうでもいい。

 ただ言えることは、植物を侵す瘴気を放つ化け物の存在は、決して許されないということ。

 あれが森林の外に出て、田畑にまで辿り着いたらどうなるかなど、考えたくもない。

 

「ああ、もう!一人で来るんじゃなかった!」

 

 触手の化け物の周囲を動き回りながら、テレフォンパンチのように伸ばしてくる触手を切り飛ばしていく。

 どうやら視野の概念があるらしく、正面と側面では触手攻撃の精度が違うことに気付き、そこからはとにかく真正面に立たないことを意識して立ち回っている。

 当然化け物もこちらを正面に捉えようと回転するため、常に走り回ることを強制されてしまい、スタミナがみるみる内に削られていく。

 触手から多少なりダメージを与えてはいる筈だが、このままではジリ貧なのは明白。

 しかし、攻勢に出られない理由があった。

 

 そもそもここを訪れたのは、ここで自生している薬の原材料を確保するためであり、化け物との遭遇は不幸な偶然でしかない。

 サレンのユニオンバースト『ソードオブフェニックス』は、名の通り不死鳥をモチーフとした炎の斬撃を飛ばす必殺技で、植物である目の前の化け物には特攻であると同時に、森林という環境下においては周囲に甚大な被害をもたらすという代償が付き纏う、諸刃の剣でもあった。

 サレンにとって平時でここに生息する魔物は、たとえ狂暴化していようとも剣の技量のみで対処可能なレベルの手合いでしかない。

 彼女の失態は、状況が逼迫するあまりイレギュラーを考慮せずに突撃してしまったこと。つまり、慢心していたのだ。

 

「一か八か……いける?」

 

 サレンはひとつの策を実行に移すべきか悩んでいた。

 あの化け物の口内に直接『ソードオブフェニックス』を叩き込んで、内部から燃焼させることで被害を最小限に留めて倒す。

 成功すれば万々歳、失敗すればリカバリーは利かない。

 やるなら一撃必殺。周囲の被害を考慮して手心を加えてしまえば、化け物が苦しみ悶える過程で火の粉を拡散させてしまいかねない。

 その一発を決める為の前準備として、つかず離れずの距離を維持して少しでも開けた位置に行くように誘導しつつ、触手の表面を焼く程度の炎を剣に纏わせて切断することで、再生までの時間を計算して突撃のタイミングを意図的に作り出そうとしていた。

 

 植物にとって、焼け野原になる以上に瘴気に触れる方が深い爪痕となる。

 しかし、子供たちの生死に関わる分水嶺で万が一薬の原材料が焼けてしまえば、たとえ討伐できたとしても意味がない。

 慎重に必殺のタイミングを虎視眈々と狙い――機は訪れた。

 

「今――!!」

 

 姿勢を低くした状態で化け物に向けて全力疾走。

 散発的に伸びる触手を速度を落とさずに回避、時には足場にした三次元軌道で狙いを定まらせないように距離を詰める。

 手数の差からすべてを捌くことは不可能で、進む度に身体は徐々に傷付いていく。

 それでも決して速度を緩めることだけはしない。一度足を止めれば、恰好の的でしかなくなる。

 

 数秒の攻防の果てに必殺の間合いに辿り着いた瞬間、大口に一撃を叩き込むべく飛び上がる。

 本来『ソードオブフェニックス』は大地を這う炎刃だが、起点は剣である以上明確な型は存在しない。

 森林に炎が移らないように、ピンポイントに口内を狙うには上空から振り下ろす形で当てるしかなかった。

 普段なら、このような無防備になる手段を選ぶことはない。それだけ気が急いていたということであり――第二の慢心へと繋がる。

 

『――笑った?いや、まさかっ』

 

 化け物の口角が醜悪に吊り上がったかに見えた瞬間、サレンの真下の地面が隆起したかと思えば、そこから巨大な根が大地を掬い上げるように姿を現した。

 根は勢いをそのままにサレンへと迫る。

 気付いた時には既に回避不可能な体勢となっており、根の一撃を為すすべもなく喰らってしまう。

 

「あ――――がっ!!」

 

 更なる上空へと弾き飛ばされ、受け身を取ることさえままならず地面へと叩き付けられる。

 肺に残っていた酸素が引き絞られ、激痛で呼吸もままならず、視界は朧気。

 たった一撃で、大勢は決した。

 

 朦朧とした思考の中、先の攻防の流れを思い返す。

 互いに消極的な立ち回りでの攻防を繰り広げ、隙だと判断したタイミングで奥の手であろう一撃を絶妙なタイミングでお見舞いされた。

 まるですべてを計算していたかのような、知性ある動き。

 魔物の思考能力は、動物と大きな違いはないというのが常識である。

 ゴブリンのような人型に近い魔物でも幼児レベルの知能がせいぜいで、殆どが本能で行動している。

 あの瞬間まで根による攻撃を秘匿する知性が魔物にあるなど聞いたことがない。

 

 それに、あの時に見た嘲笑のような口の動き。

 果たしてあれが、してやったりという感情によって作り出されたものだというのなら、一連の行動が計算ずくであったという裏付けになる。

 

 謎多き化け物について思考を巡らせている間にも、経過は最悪の方向へと進む。

 触手を使って両手首を縛り上げ、高く掲げて宙吊りにする。

 見上げる形で満身創痍のサレンの肉体を玩弄する様は、悪辣以外の何物でもない。

 最初から捕食が目的ならば、このような行動は無駄でしかない。それなのにこうして吊り上げられているということの意味。

 そんなのは考えるだけ無駄。それならば少しでもこの状況を脱することを考えた方が余程建設的であろう。

 

 それをやらない理由――いや、やれない理由。

 理解してしまったからだ。この状況、最早どう足掻いても一人でどうにかなりはしないという事を。

 背中から叩き付けられた衝撃で、大きな声を出したくとも激痛が襲い掛かり二の句が告げられない。

 剣は地上の遥か遠くに投げ出され、回収は不可能。仮に窮地を脱して剣を取り戻せたとして、一振りでも出来るかどうか。

 

 気付けば、涙を流していた。

 自らの浅慮が招いたこの事態が、子供たちの明日を奪う結果になってしまったことに対する後悔。

 一人でどうにか出来るなどと慢心し、敢え無く敗北を喫することとなった元騎士という肩書が生んだ悔しさ。

 この化け物の情報ひとつ残すことなく無駄死にしてしまう、その結果訪れるランドソルの未来を憂いての涙。

 自身が傷つくことに忌避感はないが、大切な人が傷つくことには我慢ならないサレンにとって、後に何も続かない死こそ最も恐れるべき結末であり、それが今為されようとしている。それが、何よりも恐ろしい。

 

 抵抗しない玩具に飽きたのか、用済みとばかりに大口を開けてゆっくりと近付けていく。

 俯瞰して見えた口内の醜悪な構造と、吐き気を催す腐臭。嫌悪するそれらと一体になる未来を見せつけられても、胸中にあるのはただひとつ。

  

「――助けて」

 

 辛うじて吐き出せた想い。

 果たして本当に声として出せていたかも自覚できないぐらいのか細い声。

 言葉足らずになってしまったが、その言葉は自身ではなく今もなお苦しんでいる子供たちへと向けられたもの。

 私はどうなってもいいから子供たちは助けて欲しいという、献身の一声。

 それを聞き届ける者など、目の前の化け物しかいない――そう信じて疑わなかった。

 

 ――献身の一声は、一条の光となり化け物の横っ面を殴り飛ばした。

 

「な――」

 

 化け物共々吹き飛ぶかという刹那、先の白光に追従するようにして木々の隙間から無数の朱色の光弾が飛来し、触手を切り裂いていく。

 それはサレンを縛っていたものも例外ではなく、自由を得ると共に重力によって身体が落下していく。

 受け身も取れず、叩き付けられる未来を想像して反射的に目を閉じる。

 しかし、待っていたのは激痛でも何でもなく、包み込まれるような感触だった。

 風を切る感覚が止み、恐る恐る目を開く。

 

「――間に合った」

 

 一対の翡翠と目が合った。

 深い、深い、どこまでも吸い込まれてしまいそうな深い緑。

 美しい。しかし同時に、その深緑に身震いする。

 初めて海を見た時と同じだ。太陽の光で美しく光る水面、しかし潜った後に見える世界は幻想的であると同時に、下を見ればどこまでも深く先が見えない。

 果てを知りたい、という欲求と同時に果てを目指そうという意思を削ぎ落す、そんな色。

 

「そこにいて」

 

 横抱きの姿勢から優しく近くの木に寄りかからせ、羽織っていた外套をサレンに被せる。

 外套に隠されていた肢体が露わになり、その起伏からようやく彼女が女性であることに気付く。

 

『■■■■■■――!!』

 

 化け物が怒号と共に此方へと迫ってくる。

 その勢いたるや、轢き殺さんとする意思が見て取れるほど。

 翡翠の少女はサレンを護るように背中を向け、化け物と対峙する。

 両手を腰に回し、取り出したのは一対の短剣。

 逆手持ちで右手を胸元に、左手は腰より少し後ろに引くという特徴的な構えで化け物を迎え撃たんとする。

 

 化け物は猛進と共に触手を大量に伸ばし、翡翠の少女を襲う。

 少女は触手が届くよりも早く刃を振るうと、その一閃が触手を断ちながら化け物の本体をも切り裂いた。

 踊るように刃を振り続け、刃の弾幕を張り続ける。それだけで化け物の動きは止まる。

 剣の軌跡を刃として飛ばすなんて前代未聞の攻撃に驚きを隠せない。

 魔法的な要素も一切感じ取れない、純粋な技術によるもの。剣を、そして炎を媒介としてようやく同じような攻撃ができるからこそ、その絶技に目を見開くほかない。

 

 しかし、化け物もこのまま終わるような存在ではなかった。

 太い根を複数地面に突き刺すと、斬られた触手があっという間に復元していく。

 そして、気付く。突き刺さった根を起点として、自然が枯れ果てていっているのを。

 

「――あの化け物、自然から栄養を吸収してる!」

 

 咄嗟に状況を翡翠の少女に伝える。

 少女の攻撃は確かに効いてはいるが、手数と回復速度が同等ということは、傷つけるだけ大地を疲弊させてしまう。

 そうなれば大地は枯れ果て、いつしか薬の原材料にまで魔の手が伸びてしまう。

 そうさせないためには一撃で葬るぐらいでなければならない。半端なダメージでは再生は続いてしまうのは先の経験と客観的視点からも予想がつく。

 

 その現実に翡翠の少女も気付いたのだろう。

 深く腰を落とし、大地を蹴り化け物へと肉薄していく。

 先程を遥かに上回る触手の隙間を最低限の動きで掻い潜る姿は、まるで風そのものであるかのように優雅。

 

 そんな光景を余所に、去来するのは過去の焼き増し。

 この一連の流れは、先程体験したばかりの流れと相違ない。

 なら、この次の化け物の行動は――

 

「――ッ、避けて!!」

 

 あらん限りの声で叫ぶ。

 翡翠の少女が化け物の懐に飛び込んだタイミングで、足元が隆起する。

 地面を隠れ蓑にした根によるかち上げが、足元に忍び寄っていた。

 しかし、此方の声に気付いていないのか、視線は化け物を見据えたまま。

 そして、また化け物が嗤ったのが見えた。

 勝利を確信した笑み。捕食者としての絶対優位を疑わないが故の笑み。

 

 ――それが、ほどなく真逆の色に染まることになるなど、翡翠の少女以外は露ほどにも思っていなかっただろう。

 

 大地が裂け、足元から根が翡翠の少女を襲う――ことはなかった。

 当たる直前に少女の身体がブレたかと思うと、そこには誰もいなかった。

 思わず見上げるが、そこにもいない。

 土煙の舞う中、視界を回し探す。

 その姿は、すぐに見つかった。それも、複数。

 

「嘘……」

 

 翡翠の少女と全く同一の存在が、見えるだけで三人は存在している。

 魔法か何かで三人に分身したのかと思ったが、もっと単純な理屈だとすぐに気付く。

 

 速過ぎる(・・・・)のだ。

 翡翠の少女はただ常軌を逸する速度で動くことで、あたかも三人に分身したかのように映っているだけなのだ。

 荒唐無稽な理屈だが、現にそれは目の前で実現されている以上、信じるしかない。

 こうして安全な場所から眺めてようやく理解できたのだから、果たして化け物に翡翠の少女の姿はどのように映っているのか。

 化け物が触手を躍らせている間に、根には幾重にも刃の痕が刻まれていく。

 そして、数秒の間にすべての根が同時に輪切りとなり、供給源を断つことに成功する。

 

『■■■■■■■■ッッ――!!』

 

 耳をつんざく絶叫が木霊する。

 触手を切り落とした時とはまるで反応が違う。

 化け物にとって触手が毛髪ならば、根は神経そのもの。苦しみ悶えるのは当然であり、同時にそれが明確なまでの隙となる。

 

 翡翠の少女は双剣に蒼い炎を纏わせ、大きく踏み込んだ瞬間――少女は化け物の背後に立っていた。

 化け物の身体には三角を獣の爪で模ったような痕が刻まれており、そこから蒼炎が噴出し化け物を包み込んだ。

 世界を置き去りにした疾駆。瞬きさえ許さないその速度は、限界まで引き絞った矢よりも間違いなく速い。

 

「――強い」

 

 分かり切った事実。しかしそれでも言わずにはいられなかった。

 サレンは自身の実力に多少の自負はあった。精鋭揃いの【王宮騎士団(NIGHTMARE)】で自身よりも強い者達を見てきたからこそ、それに追いつけるようにと切磋琢磨した経験は、確かな自信と結果に結びついている。

 しかし、目の前の少女はそのような安い自負を容易くへし折った。

 実力を過信し、単独行動の果てに無様な敗北を喫した自分とは立っているステージが違う。

 

 だからこそ、理解できなかった。

 少女の瞳を覗いた時、既視感を覚えた。

 それが最初はわからなかったが、思考がクリアになった今ははっきりとわかる。

 あれは、私が手を差し伸べてきた孤児達が例外なく宿していた眼だ。

 理不尽に苛まれ、世界に絶望し、そんな現実に抗うことも出来ず心に蓋をすることでしか自分を護る術を持てなかった――そんな未来ある子供が絶対にしてはいけない眼。

 あれほどの強さを持ちながら、理不尽に抗う術を持たない子供と同じ眼をしている理由など、皆目見当がつかない。

 理解はできない、が――その瞳の色を知り見て見ぬ振りをできるほど、薄情な性格はしていなかった。

 

 化け物を塵ひとつ残さず焼き尽くした蒼炎は、自然に一切の被害をもたらすことなく消えていく。

 それを見届けた翡翠の少女は踵を返し、サレンの傍に寄る。

 

「立てる?」

 

「え、ええ……」

 

 手を差し伸べられ、反射的にそれを掴む。

 絶望を抱えた少女に手を差し伸べられるという、今までの構図とは真逆の立場に複雑な感情が沸き立つも、状況が状況だけに仕方ないと受け入れる。

 

「助けてくれてありがとう。私はサレン、貴方の名前を聞いても?」

 

「アオイよ」

 

「アオイ、改めてありがとう。助けてもらった手前、恩返しがしたいのだけれど……ごめんなさい、今はやらなくちゃいけないことがあるの」

 

 アオイの外套を手渡し、同時に謝罪する。

 感謝の念に堪えないことに嘘偽りはないが、子供たちの安否が気になることも然り。

 緊急性の強い後者を選択するのは必然とはいえ、心苦しいことに変わりはない。

 

「気にする必要ない。褒美を求めて助けたわけではない」

 

「いえ、蔑ろにするつもりは決してないわ。ただ、子供たちのために薬の材料を探さなくちゃいけないの」

 

「……子供たち?」

 

「ええ。目に入れても痛くない私の大事な家族よ」

 

 アオイは目を伏せて沈黙する。

 表情から何を考えているのかはまったくわからない。

 

「探すの、手伝いましょうか?」

 

「それは……申し出はありがたいけれど、これ以上貴方に負担を掛けるわけには――」

 

 言葉を言い切る前に、アオイの人差し指が唇を塞いだ。

 

「大事な子供のことを思えば、その遠慮を言葉にするべきではないですよ」

 

「……そうね、その通りだわ」

 

 何が大事で、何を優先すべきか。それを履き違えてはいけない。

 

「じゃあ、お願いするわ」

 

 そこからは、とんとん拍子に話が進む。

 アオイが一帯の地理を完全把握していたこともあり、迷うことなく目的地に到達。

 化け物からの被害が出ていることを予想してはいたが、それは杞憂に終わる。

 万全じゃないサレンに代わって精力的に材料集めに勤しむアオイ。

 しかも、サレンの知識にない野草や花といったものに優れた薬効があるということで、それらも探してくれるともあれば、どこか近寄りがたい雰囲気とは対極の善性が透けて見えてくるのも当然の話。

 

 そんな不器用な優しさを感じ取ってしまえば、世話焼きのサレンが影響されない筈もなく。

 材料を集め終え、森の入り口まで戻ったタイミングで歓待の意を示したのだが――

 

「子供たちを優先してください。それに、私はまだやらなくてはいけないことがあるので、お気持ちだけ受け取っておきます」

 

 最後までアオイは謙虚な姿勢を崩すことなく別れることなってしまった。

 押し付けがましいのは逆に無礼であるのと、彼女の言う通り子供たちを思えば彼女にかまけている暇などないのも事実。

 別れ際に【サレンディア救護院】のことを説明し、いつでも歓迎するとだけ告げて別れた。

 サレンの心は、最後まで色を変えることのなかったアオイの瞳に後ろ髪が引きずられていた。

 

 

 

     *

 

 

 

「もう、半年にもなるのね」

 

「時間の流れは速いですよね~」

 

 【サレンディア救護院】に戻ってからも、色々と大変だった。

 化け物との戦闘でボロボロになった肉体をそのままに帰還したものだから、誰もがサレンの帰還に涙し、その惨状を見て悲鳴が上がった。

 その代表こそスズメであり、温厚で柔和な彼女に本気で叱られたのはあの時が初めてだった。

 絶対安静、としばらく勝手に無茶をしないかと常に監視されていたことも記憶に新しい。

 

 薬に関しては、当初の予定の数倍の量を確保することができたため、孤児院の子供たちの分を考慮してもランドソルの薬不足の解消に大きく貢献することとなる。

 状況が状況だけに、信頼できる薬専門のギルドに無償で提供したら、後日【ギルド管理協会】からランドソル市民を代表して感謝状を贈呈され、報奨金まで支払われることとなった。

 薬の件だけでは考えられないほどの金額に目を見開いたが、どうやら例の化け物の存在を【ギルド管理協会】に報告していた件から、討伐してすぐにヘーベ丘陵の周辺の魔物の活発化が止んだことから、その化け物が活性化の原因の一端を担っていたのだと判断し、最悪の事態を未然に防いでくれたという経緯から、多額の報奨金が支払われた、ということとなっている。

 

 喜ばしいことは確かだが、その報奨金の大半の出所が不審を抱いていたランドソル王宮からと聞かされた時は、随分と警戒したものだった。

 当初は何があってもいいように報奨金に手を付けずにいたが、こんなことをしたところで何の意味もないと気付く。

 意図が一切ないならそれはそれでいい。そうでないならば、ランドソル王宮の――というよりもその傘下ギルドに対する不審が徐々に市民に伝播しつつあった中で、王宮側の懐の深さを見せる為のプロパガンダに利用されただけ、と考えた方がしっくり来る。

 事実、この資金提供に端を発して王宮側からもギルドを通して補填が出るようになり、少しずつ流通の回復の目途が立っていくに連れて停滞しつつあった経済が回り始めていた。

 その流れを読み、この報奨金を試金石として事業の拡大を迫ったおかげで、今の豊かさを確立できているのだから、文句を言う筋合いはないだろう。

 

「それにしても……アオイさん、でしたっけ?一度も顔を出してくれませんね」

 

「お礼をしたいのは山々だけど、まるで足取りが掴めないんじゃあね……」

 

 事業拡大の傍らでアオイを探してはいたが、結果はなしのつぶて。

 忙しさにかまけて片手間な捜索であったことも要因のひとつだが、それを考慮しても痕跡らしきものがない。

 街エルフならばギルドに所属している筈なので、名前を出した上でそれでも見つからないならば、彼女は純粋な森エルフということになる。

 もう少し落ち着いたら、直接エルフの森を訪ねよう。

 彼女のおかげで今の【サレンディア救護院】がある。彼女との出逢いを切っ掛けに、何もかもが上向きになっていった。

 化け物を本当に討伐したのは彼女なのに、その恩恵はすべて自分達に還元されている。

 そんな功を掠め取るような真似をしてのうのうと生きていられるほど、【サレンディア救護院】の住人は薄情ではない。

 だが、見つからないのではどうしようもない。

 

「あの……ママ・サレンいますか?」

 

 突然、ノックの音と共に【サレンディア救護院】の孤児の一人であるクルミの震える声がドア越しに聞こえる。

 

「いるわよ、どうしたの?」

 

 扉を開いた先に居たのは、声色の通りに涙目なクルミが不安げに視線を向けて立っていた。

 

「あの、お客様が来ているんですけど……」

 

「あら、気付かなかったわ。ありがとうねクルミ」

 

「いえ、ただ……何だかその人変な恰好していて、みんな怖がっているんですぅ……」

 

「変……?まぁ、いいわ。私が対応するから、みんなは一応隠れていて」

 

 スズメは無言で頷き、部屋内の子供たちを纏め始める。

 相手が不審者ならば、この場で最も実力のあるサレンが対応するのが自然。

 玄関前の死角に剣を立て掛け、何があってもすぐに対応できるようにする。

 

 玄関のドアを開いた瞬間――一対の翡翠と目が合った。

 

「……お久しぶりです、サレンさん」

 

 その色を忘れるはずもない。

 外套を被り、全容を伺えない状態であるにも関わらず、その瞳の色が雄弁に正体を告げている。

 

「本当、久しぶりね――アオイ」

 

「はい。機会があったため、寄らせていただきました」

 

「そう。積もる話は幾らでもあるから、まずは上がって頂戴。精一杯のおもてなしをさせてもらうわ」

 

「いえ、そんな押し付けがましいことをするために寄ったわけでは――」

 

「私がやりたいって言ってるんだから、素直に受け取っておきなさい。ほら」

 

 変わらない謙虚さを示すアオイの手を強引に取り、【サレンディア救護院】に上がらせる。

 サレンの頭の中は、彼女をどのように持て成すかでいっぱいになっていた。

 

「ようこそ、【サレンディア救護院】へ」




作者の各話の感想

一話→10000文字とか長くね?

二話→11000文字……もうちょっとコンパクトにできねぇかなぁ

三話→15000文字?うせやろ。AOIちゃんの日記ないのにこれとか、話纏めるの下手くそすぎるでしょ……。
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