アオイちゃんを常時無表情にして五割増しに口下手にした結果wwwww   作:花極四季

4 / 14

プリコネ2.5周年記念なので初投稿です。

これを投稿当日に見ている君!無料十連を回せるのは午前五時からだけど、星3排出率二倍のガチャ更新は午後三時からだから、間違えないようにしようね!
それと編入生アオイ専用追加でかなり強くなったからみんな使え。ガチャでジュンサマー引いて一緒に使ったら、DOTでゴリゴリ削れる未来が見える見える……。


三話の投稿にあたって、誤字報告をしてくれた皆さまにはこの場で感謝を申し上げます。

報告者一覧(敬称略、順不同)
クーマン 244  上梨 ツイナ 烏瑠 六四


四話

「ど、どうぞ。粗茶ですが……」

 

「ありがとう」

 

 少々及び腰で紅茶を二人分置くスズメにサレンは口頭で、アオイは無言のお辞儀で返礼する。

 普段なら客人に対する態度としては不適切と後々叱る要点ではあるが、今回は目を瞑る。

 というのも、突然の訪問者であるアオイが纏う雰囲気が関わっているからである。

 刺々しいわけでも、嫌々この場に居るわけでもない。

 ただ、絶対の線引き――壁を作っている、と言うべきか。

 絶対に一線を越えない、踏み込ませないという意思が錯覚で見えてしまいそうな空気を、意識的か無意識かは不明だが纏い続けている。

 まるで、住んでいる世界が違うのだと突き付けるかのような、明確な拒絶の意思が形となっているかのような――そんなどうにも形容できない雰囲気が、スズメの及び腰になっている理由。

 

 私は初対面の段階でアオイが心優しい少女であることを理解しているから気にならないが、彼女の纏う雰囲気はお世辞にも人柄が良いとは言えない。

 それに拍車をかけるのが、その能面のように変わらない表情。

 目つきは鷹を思わせる鋭さを持ち、翡翠色の瞳から覗けるのは深淵。鉄火場を知らない一般人に、これをすぐに受け入れろというのは酷だろう。

 

 しかし、半年前の話とはいえこちらから歓待の意を示した以上、彼女を非難するのはお門違いだ。

 スズメに関しても、社交の場であればいざ知らず、孤児院内では対応の質を強要するつもりはない。

 勿論、アオイが不快に感じるようであれば相応の対応はするが、下手に口に出して空気を悪くするのはむしろ悪手。

 だからこの状況を作り上げたと言っても過言ではない私が、できるだけ自然な会話からアオイの緊張をほぐし、空気を和らげることで皆が安らげるような場を作り上げなくてはならない。

 それが、あの時の化け物を倒すこと以上に難儀するであろうことは想像に難くなかった。

 

「紹介するわね。彼女は従者のスズメ。私の傍付きで、主に家事や子供たちの世話を任せているわ」

 

「す、スズメです」

 

「アオイよ」

 

 ぎこちないながらも挨拶を済ませ、取り敢えずは一歩前進と言ったところだろうか。

 

「それにしても、貴方と出会ってからもう半年にもなるのね。時間の流れは速いって、特に最近はそう思うわ」

 

「そうですね。その感覚には覚えがあります」

 

「貴方のおかげで子供たちは無事快復したわ。その上、あの時の化け物討伐で報奨金が出てギルドの財政も潤った。本当に、感謝してもし足りないぐらい」

 

「気にする必要はありませんよ。元より恩に着せるつもりで貴方を助けたつもりはありません」

 

「それでも、貴方が得るべき利益まで私達が得てしまったからには、相応の見返りを与えなければ気が済まないの。迷惑かもしれないけれど、こればかりは譲れない」

 

 そもそも商人の理屈として、一方的に利益を吸い上げる行為は経済を循環させる上では効率的とは言い難い。

 それは人間関係にも言えることで、一方的に与えられる立場に甘んじているだけでは、その与えられた利益を正しく還元することができない。

 ヒューマンを始め、エルフや獣人、魔族だって誰かと肩を寄せ合って生きている。それが当然であり、互いを尊重し合う関係が当然であったからこそ、個人では成し得ない偉業さえも成し得る。そうやって文明は発達して、今があるのだから。

 

 利益を吸い上げるだけ吸い上げ私腹を肥やすばかりの存在を、貴族と商人という二重の立場から嫌という程見てきたからこそ、一方的な搾取の果てが何をもたらすのかを正しく理解できる。

 流れない水がいずれ腐ってしまうのと同じ。だからといって吸い上げるだけではいずれ枯れてしまう。

 要はバランス。節度を保ち、いたわりを覚え、思いやりを示し合って初めて健全な人間関係を構築できたと言える。 

 

 しかし、その例えで行くと私とアオイの関係は健全とは言い難い。

 私がアオイに抱いている感謝や恩は一方通行なものでしかない。

 アオイ自身が感謝は不要と一歩引いている以上、それ以上踏み込むのは理屈を抜いたただの自己満足――感情の問題でしかなくなる。

 アオイが構わないと言っているのだから、過度な押し付けはむしろ悪印象しか残さなくなる。

 それでも敢えて踏み込もうとするのは、単純な理由。

 もっと、アオイのことが知りたい。そのために、繋がりを絶やしたくない。

 そんな究極的なまでに自分勝手な理由。

 

 互いを思い合えばこそ、意思が交わらないことだってある。

 誰かのために、という考えは他者を第一に考えた発想のように聞こえるが、その本質は自分勝手でしかない。

 その自分勝手が、結果的に他人のためになっているに過ぎない。

 私が過去に孤児を引き取る行為をエゴだと発言したのは、その哲学に起因している。

 

 何故、そこまでこだわるのか?

 それは、今も変わらず彼女が宿す瞳の色が、親を失った孤児達のそれと遜色ないものであるからだろう。

 孤児達は私が引き取り育てていく過程で光を取り戻していったが、アオイは半年前と何も変わった様子はない。

 今も彼女は、迷子のまま生きている。彼女がこうなってしまった原因は定かではないが、できることならば過去に孤児達にやってきたようにその手を取り導いてあげたい。

 同じ種族のよしみ?恩返しのため?ただの同情?――そんな前提、考えもしなかった。

 ハッキリとこう、という理由は見出せない。それでも、この気持ちに偽りは一切ないことだけは言える。

 

「……では、ランドソルについて教えてもらえますか?」

 

「ランドソルにって……随分と漠然としているわね」

 

「何分、生まれてこの方ランドソルを訪れたことがない身で。何をどう知りたい、などと語れるほどランドソルを知らないんです」

 

「やっぱり、貴方は森エルフだったのね」

 

 森エルフの生態には疎いが、街エルフよりも閉鎖的で一生を森で過ごす者も少なくないという話を聞く。

 森エルフは少数で身を寄せ合ってエルフの森に住んでいる。それ故に森エルフ独自の文化をとても大切にしており、文化侵略を望まない姿勢が顕著である。

 しかし最近は徐々に開放的になっており、森エルフの文化や動植物についての知識といった、ランドソルに住んでいるだけでは得られないような知識を説明し、森エルフに対する見地を広げるガイドツアーを行っていたりと、以前ほどの隔意はなくなりつつある。

 その影響か、森からは離れずとも観光目的で森エルフがランドソルに訪れるという流れも出来つつある。

 彼女もその流れに乗る一人だと言うならば、大歓迎である。

 何より私自身も、森エルフのことを詳しく知りたいと思っていたところだし、話題の取っ掛かりとしても申し分ない。

 

「そうね。じゃあ何から話すべきかしら――」

 

 そこからの内容は、まずランドソルという国がどういう形態かを皮切りとして、政治体制やギルドシステム、主だった商業の傾向のような国民向けの知識を説明していく。

 その際、私が感じていた違和感を加味した内容ではなく、あくまでランドソル市民の共通認識で語っている。単純に判断材料が不足しているのと、今回の件とは直接関係ない部分であるためだ。

 

 次に、観光客向けの説明としてレストランや宿屋といった設備に関する説明をする。

 ここは結構重要な部分で、ギルドに所属しているかしていないか――つまり、ランドソルの市民権を得ているかどうかで利用できる設備に大きな差がある。

 その差、実に五割。ギルド所属か否か、たったそれだけでランドソルの都市機能の半分が使えなくなるのだ。

 それだけ聞けば露骨な差別が横行している国家と勘違いされがちだが、その半分があれば数日滞在する分には一切不自由しない程度には設備は充実している。

 残りの五割のうち三割は【ギルド管理協会】に端を発した、ギルドを運営するにあたって必要となる施設で、残りの二割は鍛冶屋のような戦闘に使われる道具を扱う施設の開放である。

 

 ランドソルはアストライア大陸において最も文化が発展している国と言っても過言ではない。

 それは生活の基盤に限らず、軍需産業においても随一であることから、技術の流出を避けるという意味で制限が掛かるのは当然の対応策である。

 それでも全く扱えない訳ではなく、武具を専門に扱うギルドが数打ちのものを販売していたり、簡単な調整や打ち直しも行っていたりと、門戸が完全に閉じられている訳ではない。

 禁止されているのは、魔物の素材を利用した武具の改造や上位のマジックスクロールの販売。

 そも、それらは販売しているギルドによって厳重に管理されており、違法行為を行えば当然罰せられる。

 ギルド創設の申請を許可しているのは国であるため、早々そのような事態は起こり得ないが、創設時とは内部の人間が変化したりと理念が変化し、上辺だけはそのままに悪徳ギルドに変化する、ということもなくはなかったりする。

 王宮に不信を抱くようになった前後の段階で、そういったギルドの取り締まりへの動きが鈍化している気がした。

 悪印象によるバイアスが掛かっているのは否定できないが、治安が悪くなっていることは紛れもない事実。

 犯罪の温床と言うのは目に見えないところに蔓延るからこそ恐ろしいのであって、それを危惧した杞憂はかつて【王宮騎士団(NIGHTMARE)】で取り締まりに参加していた経験から来るもので、職業病みたいなものだ。

 この辺りの不安要素は口に出していないが、アオイなら既に気が付いていても不思議じゃないのがなんとも言えない。

 

 そして、ギルド所属か否かで最も大切な要素――それは、信用問題。

 ランドソルに居を構えるには、前提としてギルドに所属するという義務が発生する。

 つまり、ギルド所属=市民権の獲得である。

 色々語ったが、設備の制限が掛かっている理由はそこに集約される。

 当然、ランドソル市民になれば過去に所属していた団体との繋がりは契約上は断たれることとなる。

 それぐらい徹底して管理しないと、万が一技術が流出した際の被害は末恐ろしいことになりかねない。

 とはいえ、あくまで契約上の問題のため、悪徳ギルドの蔓延と同様にグレーゾーンな部分もあり、法整備が徹底していない歯痒さもある。

 いずれどうにかしたい、とは考えているが今の私ではどうすることもできない。

 

「アオイはギルドに所属しているのかしら?」

 

「……いえ、森エルフがギルドを発足したことは聞いていますが、それ以前に私は森を出ていたので、知ったのはつい最近のことです」

 

「森を出ていた?」

 

「ええ。修行のために、もう何年も前に」

 

「……もしかして、ずっと一人で?」

 

 その問い掛けに、アオイが僅かに身を震わせる。

 しまった、と思ったがもう遅い。

 今の問いは、アオイにとっての触れられたくない要素であると、嫌でも分かってしまう。

 だって、こんなにも弱々しい反応、そうじゃないとあの超然とした彼女がするとは思えない。

 

「ご、ごめんなさい。出過ぎたことを」

 

「いえ、当然の反応かと。そうさせた私が悪いのですから、気に病むことはありません」

 

 そんなことはない、と言いたかった。

 だけど、その先に待つのはきっと謝罪の応酬。頑なにアオイは私の非を認めないだろう。

 言葉にしてしまった時点で私の負け。自罰に耽り、反省するしか挽回の余地はない。

 許されないというのは、こんなにも辛いことなんだ。

 

「……あ、あの!紅茶のおかわりはいかがですか!?」

 

 冷えかかった空気を打破したかったのか、スズメが上ずった声色でそう提案してくる。

 

「そう、ね。お願いできるかしら。アオイもどう――」

 

 渡りに船の提案に乗るべく、アオイにも便乗を促そうとし、止まる。

 アオイの目の前にある紅茶には、一切触れられた様子はない。

 

「紅茶は嫌いだった?」

 

「いえ、そもそも飲んだこともないのでその辺りは。ただ――」

 

「ただ?」

 

「このように持て成されたのは初めてで、マナーに関しては無知どころか、ここ数年ぶりの文明的な食事に恥ずかしながら委縮していた次第で」

 

「……森エルフの文化には疎いのだけれど、そんなに様変わりするものなのかしら」

 

「いえ。私が単に森を出てから自然の恵み以外を口にする機会がなかっただけです。まぁ、住んでいた頃もそう違いはありませんでしたが」

 

 アオイのほんの少し吊り上がった口角は、笑顔ではなく自嘲が込められたものであると気付くのに、時間は掛からなかった。

 空気がさらに重くなる。良かれと思った行為がすべてマイナスとなる負のスパイラル。

 きっと、これからも同じような事態に直面するのだろう。

 その度に、私と彼女が明確に違うという事実を突き付けられるのだろう。

 

 ――私はとても愚かな行為をしている。

 善意というコンクリートで塗り固められた地獄への道に、彼女のことが知りたいという理由だけで引き摺り込もうとしている。

 その果てに待つのが私の欲望が満たされ、アオイの心の傷を抉る行為だと理解してなお、止まろうとしない。

 ああ、愚かだ。最低だ。おぞましく、救いようがない。

 自己嫌悪するだけでは足りない、自らへ向けた悪辣な感情で溺れそうになる。

 ……それでも、たとえ愚かな行為であろうとも。

 これはアオイを救うのに必要な過程であると、そう信じて疑わない。

 

 能面に宿る深淵の瞳は、彼女の闇そのものだ。

 真っ当に生きているならば、決してああはならない。

 未来は希望に溢れ、世界は明るく映り、何気ないことにも喜びを見出せる。

 目は口程に物を言う、という言葉は正鵠を射ている。

 孤児たちを通じて幾度と対面してきたからこその確信。

 そんな彼女たちと比較して、アオイのそれはまるで底が見えない。

 だからこそ、そんな深淵の奥底に彼女の心があるのではないか、と私は考えている。

 

 手を伸ばしたところで何も掴めず、下手な策は焼け石に水でしかない。

 ならば、自ら飛び込む覚悟があるかと言われれば、返答に窮する。

 その程度の中途半端な覚悟で彼女の奥底に触れようだなどと、八方美人も甚だしい。

 だけど、今更だ。最初から私は私自身のエゴに従って生きているに過ぎない。

 ならば、せいぜい後ろ指を指されようとも自らの理に従って行動するだけ。

 

 そんな中途半端な私が出した結論。

 それは、彼女の方から深淵から出てきてもらう、という逆転の発想。

 私が彼女の問題に踏み込むのではなく、彼女が私達の世界を知りたいと思うようになること。

 つまり、彼女の居場所を私達の中に作ればいい。

 それは仮に私でなくても、他の誰であろうとも。彼女の深淵を埋め、地の底から浮かび上がらせる存在ができれば、その時彼女は救われるに違いない。

 その先駆けとして、彼女の見識を広めることから始める。そして、少しずつ彼女のことを理解していけばいい。

 

 ――そんな浅はかな考えを見抜いたかのように、アオイは小さく溜息を吐く。

 一瞬交わった視線を通して、背筋に冷たいものが走る。

 染み出すように浮かび上がった感情を、唾と共に呑み込んだ。

 

「……僭越ながら、今度は私の方から話をさせていただいても構いませんか?」

 

「え?え、ええ。大歓迎よ」

 

「ありがとうございます。とはいえ、語れるのは身の上話ぐらいですが」

 

 反射的にアオイの提案に乗る。

 事実、この提案は渡りに船に他ならなかった。

 場の空気を切り替えるという意味でも、彼女のことを知るという意味でも、この提案に異を唱える理由はない。

 

 ――だからこそ、乗るべきではない提案に乗ってしまった。

 気付くべきだった。たとえ決して気付けないのだとしても、予兆を察して気付かなかければならなかった。

 

「先程私は修行の旅に出ていたと言いましたが、やはりその道程は過酷なものでした。旅に出て一週間ぐらいでしたか。その時に魔物に襲われたのですが、まぁ大変でしたよ」

 

「……大変って、何が?」

 

 聞き手として、聞かずにはいられなかった。

 私の勘が止めろと警鐘を鳴らしていても、この流れはもう止められない。

 早鐘を打つ心臓の苦しさに耐えながら、反応を待つ。

 そして、問い掛けに対しアオイは一呼吸置き――笑った。 

 身震いするほど美しい笑みに、私達は呼吸を奪われていた。

 その笑みの先に、何があるのかなど知る由もなく。

 

「右腕は魔物の牙で噛み砕かれ、左足は猛毒で機能不全、背中は魔物の爪で深々と切り裂かれて出血多量。文字通りの瀕死でした」

 

 それは、有り触れた敗北の一幕などではなく。

 心が壊れてもおかしくはないほどに、凄惨な結末だった。

 言葉が、出ない。何を言えばいいのか、分からない。

 二の句を告げない私達を尻目に、アオイは波濤の如く言葉の暴力を振るい続ける。

 

「そこから立て直すのは大変でした。火を使えば煙や焼けた匂いで動物や魔物を引き付けるため、野草等で飢えを凌ぐのが基本でした。とはいえ、血の臭いをそのままには出来ないので一度だけ火を焚いて腕や背中を焼いて無理矢理止血しましたが、これは賭けでしたね。血に汚れた服は捨てて裸一貫でしばらくは過ごしていたりと、一張羅を自分で作れるようになるまでは気温変化で体調不良を起こすなんてよくありました。武器も弓を主体としていますが、弓を破壊されてどうにか代わりのものを調達できるまでは、解体用のナイフで魔物を狩らざるを得なかったという経緯で身に着けた技術だったりします。野草に関しても、広大な自然の前に私の知識など無いも同然。食用もそうですが、解毒作用のものを探そうと手当たり次第に口にしては状態が悪化するなどままあることで、その度に動けなくなっては魔物に襲われないかと怯えて、実際に襲われたりなんてことも少なからずありました。今こうして生きているのは奇跡のようなものだと思います。そのおかげで自然の事柄に対する知識は深まった気はします。まぁ、そうでなければ死ぬ環境だったからというのもあるでしょうが。瀕死になり血が足りなくなれば必然的に肉を食する必要が出てきますが、焼けば魔物に襲われる可能性が高くなるため、生で喰らうことも普通でしたね。実際、中毒のデメリットもありますが生の方が血を得る効率としては段違いなんですよ。それに、そこまで追い詰められて初めて魔物を食べるという発想に行き着いたのは、ある意味では天啓だったと今では思います。魔物を食べるという行為は忌避されていることは承知していましたが、そんなの生死の境目では考えつかないものですよ。醜悪な見た目であろうと、おおよそ食べられそうな造形をしていなくとも、一皮剥けば他の動物と遜色ないものだと食を通じて気付かされてからは、魔物に対する恐怖も薄れてきましたし、何より魔物の栄養素は動物と比較して圧倒的に優れています。栄養云々を抜きにしても、美味な個体が殆どなので、見た目に惑わされず口にする機会があれば是非にと。その辺りの差異は苛烈な生存競争を生き抜いてきた個体ならではの必然と言いますか、強くなるには栄養を摂ることも大事なのはヒトも魔物も同じということなのでしょうね。元々強くなるために森を出た身としては、魔物を食すことがその近道であると気付いてからのモチベーションは段違いでした。とはいえ、魔物にも当たり外れがあって、毒持ちに当たれば野草の時以上の体験が待っていたわけですが、それもいい経験でした。魔物も獣や虫や海洋類など千差万別ですが、結構類似する部分も多くて、その経験がなければ雪原や砂漠で野垂れ死にしていたでしょうね。ああいう極端な気候での病気は文字通り死に直結するぐらい深刻なものですし、死に慣れていたこともあって耐えられたという部分も大きいですね。とはいえ、どちらかと言うと環境に適応するまでが一番大変でしたね。森林地帯では考えられない生態の魔物が跋扈する環境で生存するための知識を得るまで、また結構な数死に掛けましたし。森林地帯で得た常識に引っ張られた結果招いたミスなどもあって、そういったところから生命の神秘を感じられて、それを乗り越えたことで自分が強くなれたことを実感できて」

 

「――待って」

 

 私の知るアオイの認識とはかけ離れた饒舌に圧倒され、しばし言葉を失っていた。

 だが、その内容を噛み砕いていく内に、これ以上は語らせまいとどうにか制止の言葉を必死に絞り出す。

 突如として淡々とした口調から発せられる地獄。その内容からは考えられないほど、彼女らしからぬ嬉々とした思いが込められた声。

 本来ならば新たな一面を見られたことに喜ぶところだが……その内容があまりにも歪で、不可解で、不愉快で、聞くに堪えなかった。

 スズメも、口元に手を当てて閉口している。身を震わせ、嘔吐一歩手前と言わんばかりに表情は青ざめている。

 私が後押しした結果とはいえ彼女が切っ掛けで広がった話題ということもあり、その罪悪感はひとしおだろう。

 

 最初は冗談と言うか、場を和ませるために即興の創作話をしたのだと思った。

 けど、違った。彼女の語りは真に迫り、即興で語るにはあまりにも具体的な内容もあり、それが真実を語っているのだと嫌でも理解させられてしまう。

 だが、問題はそこではない。

 そんな凄惨極まりない体験を、彼女が嬉々として語っているという事実が何よりも問題なのだ。

 

 私達の関係は、時間にして一日にさえ満たない繋がりしか持たない、濃密であれど希薄な間柄だ。

 そんな彼女に対し、知った風な評価をするのは何様だと自分でも思う。

 だけど、その短い期間で知った彼女と目の前の彼女――その差が乖離すればするほど、そうとしか言えなくなる。

 表情に違いはないが、言葉の抑揚が明らかに違う。短い言葉で端的に会話を済ませようとする彼女の気質とは相反する、呼吸さえ置き去りにした一方的な言葉の矢は、的確に私達の精神を貫いてくる。

 その度に突き付けられるのだ。『半端な覚悟でこちらに踏み込むな』、と。

 

 旅立った一週間で死の淵から辛うじて生還したまではいい。決して有り得ない話ではないし、私達の与り知らぬところでそういうことが起こっていても不思議ではない。

 しかし、彼女はそこから立ち直った後も当然のようにその場に留まり続けて、魔物が蔓延る環境でサバイバルを行っている。

 心が弱いならばそこで心が折れ、そうでなくともその経験は一度身を引くことを考えるには充分すぎる衝撃を生んだであろう。

 誰だって死は恐ろしい。死の淵から蘇り、生命の尊さを知り、自らの無謀さを顧みる。

 死への恐怖を乗り越えるにしても、その呼吸の間は必ず生まれる。そこで一度考える機会を設け、経験を糧とする期間を作ることで、足りない部分を補うために歩みを進める。それが自然な流れだ。 

 

 だが、そうはならなかった。

 彼女は幾度と死の淵に身を沈め、それでも一度も止まることなく前に進み続けた。

 他者を頼ることなく、供を付けることもなく、その美しい相貌と肢体を傷だらけにしながら孤独に邁進するその姿は、まさしく蛮勇そのもの。

 易きに流れることなく、まるで自分を戒めるかのように苦難に踏み込んでいく様は、まるで殉教者。

 それを成し得るのが、会話の端で出てきた強くなりたいという単純明快な行動原理。

 果たして、それだけの理由でそこまで出来るのか。それ以外の理由があるのでは、と考えるのが普通だ。

 では、そこまでしなければならないないしその立場に甘んじなければならない、その理由が彼女の瞳を深淵たらしめているのだとしたら。

 

「――――」

 

 アオイとの視線が再び交わる。最初は気にもならなかった視線が、今ではまるで別物に見える。

 息が詰まる。眩暈がする。全身が汗まみれで気持ち悪い。

 見誤っていた。違う、輪郭さえ捉え切れていなかった。

 私如きの浅慮で踏み込むべき領域ではなかったのだ。 

 

「――やはり、私に陽だまりは分不相応か」

 

 私達を一瞥したアオイは、おもむろに席を立ちあがる。

 

「待って!」

 

 咄嗟に引き留めてしまった。

 この機会を逃してしまえば、二度と会えなくなるのではないかという焦りが生んだ一声。

 だが、未だに胸中には彼女への複雑な感情がない交ぜになっている体たらくで何ができる?

 事実、私は制止の言葉以上の言葉を紡げずにいる。魚のような口の動きは虚空を呑むばかりで、肝心なものがなにひとつ出てこない。

 アオイの世界の中で溺れているのに、心は乾いていくばかり。

 

「再度言いますが、私に対して感じている恩義を返そうとする必要はありません。その気持ちだけで充分ですから、貴方は子供たちと共に陽だまりの中で生きてください。私のような欠陥品に構う必要はありません」

 

「――でも、それだと貴方が!」

 

「私がこうなっているのも、すべて私が欠陥品だからに他ならず。そも、貴方と私が出逢ったのは私の愚行が招いたイレギュラーなものに過ぎない。貴方が感じている恩義とやらは、自作自演のようなものなのですよ」

 

 アオイが何を言っているのかが分からない。

 煙に巻こうとしているのか、それともアオイしか知らない真実があるのか。

 そんなの、今はどうだっていい。

 とにかく、何か言わないと。彼女を引き留められる、何かを――

 

「――それとも、私と一緒にいつまでも居てくれますか?それがたとえ、地獄の果てでも」

 

 宣告と共に、アオイはこちらへ掌を差し出す。

 弓の弦を引き絞り続けて出来たタコと、それが目立たないぐらいの裂傷の名残が嫌でも目に付く。

 かつては陶器のように美しかったであろう手は、私と同年代とは思えないぐらいに執拗に苛め抜かれている。

 服に覆われて見えないが、彼女の話通りならば腕や背中には取り返しのつかない痕が残っている。

 化け物から助けられた時に握った筈の手。何故今頃になって気付くのかと後悔がひたすらに募る。

 

 彼女の隣に立つという事は、同じ境遇になる覚悟を持つということ。そして――スズメ達との決別する覚悟も然り。

 彼女が進み続けるであろう艱難辛苦の道程に続くならば、スズメ達は枷にしかならない。むしろ、何かしらの不幸に巻き込む可能性も有り得ないことではない。

 この選択こそ分水嶺。

 光と闇の境界線、その瀬戸際に私は立たされている。

 

「わた、し……は」

 

 その、手を――

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 玄関方向から差し込む一陣の風とドアベルの音が、アオイがこの場を立ち去ったことを告げる。

 夕暮れが窓から差し込む光景が、哀愁のある影をふたつ伸ばしていく。

 静寂に呑まれた一室に残されたのは、終ぞアオイが口をつけることのなかった冷めた紅茶だけだった。

 

「――最低ね、私」

 

 スズメは何も言わない。

 呆れられただろうか。失望しただろうか。このような醜態を晒し、何も為せず、無為にアオイを傷つけることしか出来なかった私に。

 

「あの時差し出された手を、私は取れなかった。彼女があんなにも救いを求めていたのに、私は……貴方達を天秤に掛けて、切り捨てる選択を選んだ」

 

 去り際に見せた、涙を流さんばかりの憂いた表情が脳裏にこびりついて離れない。

 罪悪感とは罪を自覚するための自罰行為であり、ならば私は罪の意識に苛まれる資格さえない。

 最初からすべてを自覚した上で、その果ての終局だと言うならば、罪悪感も後悔もただの甘えでしかない。

 

「救護院のみんながいるからなんて理由で責任転嫁して、仕方なかったなんて一瞬でも考えてしまって……本当、救いようがない」

 

 膝の上であらんばかりの力で拳を握り締め、目尻に浮かぶ涙を堪える。

 後悔の涙を流す資格などない。罪の意識を押し流すための涙など、私のような愚物には高尚過ぎる代物だ。

 

 アオイのことを救いたかった気持ちに嘘偽りはない。あの闇を見せられてなお、その感情は生き続けている。

 だけど、スズメ達の存在を免罪符にして、最初から最後まで自分勝手に引っ掻き回した結果がこれだ。

 ならばいっそ、最初からこのような感情を持たなければ誰も傷つかずに済んだだろうに。

 

 【サレンディア救護院】を立ち上げた当初は、貴族の道楽だの偽善者だの陰で囁かれていたことは知っている。

 それでも、そんな評判を跳ね除けるぐらいの結果は出してきたし、孤児たちを救うことができた実感から生まれる自負もあった。

 この決別は、そのちっぽけな自尊心の延長線上で捉えてしまったばかりに起きた、誰も笑顔にならない道化芝居。

 

「……どうすればよかったのかなぁ」

 

 弱音を口にするとともに、堪え切れない涙が零れ墜ちる。

 堰を切ってとめどなく溢れ出す涙に呼応するように、細くしゃくりあがる呼吸が部屋を満たす。

 今更泣いたってどうにもならないのに。今更後悔したってすべて無駄なのに。

 それでも告解の音は止まない――止められない。

 

「――どうしたの?ママ・サレン」

 

 突然の第三者の声に驚く。

 そこには、心配そうな様子で半開きのドア越しに見つめる、クルミとアヤネの姿があった。

 

「ふ、二人とも……」

 

「泣いているの?」

 

 アヤネに指摘され、乱暴に目尻を腕で拭う。

 涙は拭えたが、腫れた目尻と鼻の先は隠せない。

 

「ちょっと、ね。私のお節介で、かえってお客様を傷つけてしまったの」

 

「お、お客様って、あの緑色の人ですよね?」 

 

「そうよ。前に話したことあったわよね。半年前、私が貴方達が掛かった風土病の薬の材料を探しに行った時に助けてもらった人なの」

 

「そうだったんだ。だけど、傷つけたってどういうこと?」

 

「……彼女、アオイは助けを求めていたの。言葉にはしなかったけど、それがわかってしまったから、どうにかしたいと思ったんだけど……話を聞いていく内に怖くなったの」

 

「ここ、怖い、ですかぁ?」

 

「彼女は私が思っていた以上に根深い問題を抱えていて、その手助けをしたいなら救護院のみんなを捨てる覚悟で臨まないと、間違いなく足手纏いになる。それぐらい大変なことになるってわかった途端、私は彼女が伸ばしていた手を取れなくなった。貴方達を捨ててまで、彼女の問題に関わりたくないと思ってしまったから」

 

 ひとしきり語り終え、再び静寂が戻る。

 言葉にして改めて、自らの身勝手さを思い知る。

 

「……それって、私達のためってこと?」

 

 口火を切ったのは、アヤネだった。

 

「そうよ。貴方達が大事で、見捨てたくなかったの」

 

「……そっか」

 

 アヤネがそう言い切り、

 

『随分と舐めたこと言ってくれるじゃねぇか』

 

 アヤネの持つ長物の先端に付いたぬいぐるみ――ぷうきちから、そんな辛辣な言葉が飛び込んできた。

 

「え……?」

 

 私が困惑している間にも、再びアヤネが言葉を捲し立ててくる。

 

「そのアオイって人は、つまり私達の恩人でもあるってことだよね?だったら、私達だって恩返ししたいよ。力になってあげたいよ!」

 

『つっても、俺らにできることなんざタカが知れてるんだがな』

 

「だから、私達の代わりにママ・サレンがその人の助けになってあげられるなら、私達は何も文句なんて言わない!そのためだったら、毎日のおやつだって我慢するし、嫌いな食べ物も頑張って食べるもん!」

 

「アヤネ……」

 

 どこまでもまっすぐな、素直な感情が胸を打つ。

 純粋無垢な感情が生み出す言葉の力は、衰弱していた精神にとても染み渡る。

 

「わ、わたしもぉ!」

 

 そして、普段では考えられないぐらいに大きな声でクルミが会話に入ってきた。

 

「わたしも、ママ・サレンにたくさん助けられてきました。いっぱい、いっぱい、返しきれないぐらいの恩を与えられました。そんなママ・サレンの恩人で、私達にとってもそうなら、断る理由なんてありませんっ!」

 

「クルミ……」

 

 クルミの吃りが目立つ言葉は鳴りを潜め、しっかりとした活舌で想いを伝えてくる。

 目を逸らすことなくすべてを言い終えた後は、すぐにアヤネの陰に隠れるように逃げてしまったが、彼女の本気は伝わった。

 

「――お嬢様」

 

「……スズメ」

 

 閉口を貫いていたスズメの声が背中から聞こえてきて、後頭部からスズメの匂いが漂ってきたかと思うと、首に手を回され抱き着かれた。

 

「お嬢様は、もっとワガママになっていいと思います」

 

「ワガママなんて、私は充分やりたいことを――」

 

「できてませんよね?今、まさに」

 

 スズメが差し込んだ反論に、言葉を詰まらせる。それが答えだった。

 

「昔からそうでした。エゴとかそういうちょっと悪そうな言葉で煙に巻いていますけど、そのエゴはいつだって誰かのために向けられたものでした。それを助けられた側はキチンと理解しています」

 

 アヤネとクルミを一瞥する。

 二人は迷いなく頷いていた。

 

「お嬢様は優しすぎるんです。最初はやりたいからやったぐらいの感覚で始めたことも、情が移って手放すことなく背負い続けていますよね。ここで荷物を降ろしても誰も咎めないぐらいの貢献をしたとしても、絶対に」

 

「そんなの、当然じゃない。だって、私が始めたことなのよ?」

 

「そこで当然と言える人だから、私達はお嬢様のことが大好きなんです」

 

 抱き締める力が強まり、スズメの体温がよりいっそう伝わってくる。

 ふと、あれ程まで乱れていた感情がいつの間にか平静を取り戻していることに気付いた。

 

「アヤネちゃんも言っていましたが、そんな大好きなお嬢様に報いるようなことをしたいと、この場にはいない子供たちだってそう思っています、絶対に」

 

「――――ッ」

 

「ランドソルに住む人達がお嬢様に良くしてくれるのも、巡り巡って彼らの為になることをたくさんやってきたからであって、その行いはキチンと誇りに思うべき偉業なんです。そんな誰かのために頑張ってきたお嬢様が、誰のためでもない本気の自分だけのワガママを言ったところで、咎めはしませんよ。そんな人は、私がお説教しちゃいます」

 

 冗談めかした口調で締めくくられたスズメの言葉。柔らかい口調から発せられるそれらが徹頭徹尾本気であることは、長年の付き合いから自然と伝わってくる。

 

「だから、仰ってください。お嬢様の――サレン様の本音を」

 

「わた、し、は――」

 

 一字一句を噛み締めるように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

 三人に背中を押され、それでも目を逸らし続ける。そんな意地を張り続けてまで彼女達の想いを跳ね除けるほど、私は愚かではないつもりだ。

 覚悟を決め、一歩踏み出す。

 

「アオイを、助けたい。彼女の悲しみを拭えるような手助けをしたいの!」

 

 胸中で燻っていた想いを、余すところなく吐き出した。

 それを聞き届けた三人に笑顔が咲く。

 

「そんなの、最初からわかってたよ」

 

「そ、それでも、ママ・サレンの口から聞けて良かったです」

 

「よく仰ってくれました、お嬢様」

 

 三者三様の言葉に迎えられ、改めて思い知る。

 やっぱり、私はみんなのことが好きだ。

 だから、救護院の皆を見捨てることなく、それでいてアオイのことも救う。

 ワガママだなんて百も承知だ。分不相応かなど、後から考えればいい。

 だって、これは私のエゴだから。

 一度決めたなら貫き通してなんぼの精神で、今までだってどうにかなったのだから、きっとアオイの件も何とかしてみせる。

 今すぐには無理だけど、いつかきっと貴方の隣に立って見せる。

 差しあたって、事業拡大の案件をアキノに目を通してもらうところから始めよう。

 商売敵というほどではないが、ライバル視していた部分は確かにあったから今までは頼ることはなかったが、意固地になるのはもうおしまい。

 やれることは徹底的にやらないと、彼女の歩くスピードには決して追いつけないのだから。

 

「待ってて、アオイ」

 

 風になびいたドアベルが、まるで福音のように鳴り響いた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――

 

 アオイの脱ボッチ日記

 

・またやらかしたぁ!

 

 半年ぶりにサレンさんに会うということで、私の気分はウキウキのお猿さん状態だった。

 サレンさんはたくさんのお子さんがいるということで、リア充を通り越して最早雲の上の存在過ぎて、ぼっちな私でもあまり気にならない稀有なお方だ。

 その辺りは、似た雰囲気を持つミサトさんがいたからというのもあると思う。本当ミサトさんには助けられてばかりだなぁ。

 

 それはそれとして、私自身もお子さんの容体は気になっていたところではあったが、あの時はやむにやまれず別れることになったからね。

 ……そもそもあの時戦った植物の魔物、アレ絶対私がやらかしたせいだよね。

 私が調子に乗って色んな場所で魔物を倒したせいで、一帯の弱い部類に入る魔物が移動を始めて生態系が狂い始めた結果、食糧となり得た魔物の喪失と共に大型の魔物も移動を始めたのではないかと推測している。

 当然、魔物も安住の地が欲しいであろうことから自分達よりも弱い生態系がいる場所を目指す筈。

 つまり、間引きなどによって生態系がある程度一律になっているような場所。

 魔物はそこが人の手の入った土地だと考えられる知能はないため、あくまで自分主体で安全かどうかで判断して移動しているだろう。

 あの植物の魔物も、そういった流れから辿り着いた流れ者に違いない。

 実際、あれ程の凶悪な生態の魔物がランドソル近辺にいて見逃されるわけがない。あれはもっと、樹海とか大森林に生息するタイプの魔物だ。

 だから、あの時サレンさんが襲われていたのは私のせい、ということになる。

 

 ああああああああああぁああああ!馬鹿、馬鹿!馬鹿ぼっち!

 仮にも森に住むエルフが、生態系のことを考慮せずに乱獲なんて、未熟以下のミジンコ、いやミジン子です!!

 こんなだから、未だにぼっちから脱却できないんだろうなぁ。

 誰かと一緒にいるという事は、それだけ周囲に気を配ることが大事になるのだから、その辺りを改善しない限りはいつまでもぼっちのままだ。

 

 大丈夫、私はやれる子。やれるぼっち。反省すれば強いぼっち!

 これまで何度も繰り返してきた自己暗示で反省し、そうして辿り着いたランドソル。

 遠巻きに見たことは何度もあったけど、近くに来ると口があんぐり開くぐらい大きい。

 自然の広大さに負けない大きさに圧倒されたのもそうだけど、何よりも行き交う人、人、人!

 

 こんな中に入って周囲の視線を万が一集めようものなら、その場で気絶すること間違いなし。

 ここでも普段からお世話になっている外套の出番。

 被ることで透明になれる、ぼっちの私に相応しい装備。これには何度も色んな場面で助けられてきた。

 これをくれた人は『ノーフェイス・クイーン』と確か呼んでいた。

 これにお世話になるたびに、こんな素晴らしい装備を与えてくれた人のことをすっかり忘れてしまった己を恥じる。確か眼鏡をかけていたような、ぐらいに曖昧模糊な記憶力で本当にごめんなさい!

 

 長いぼっち生活で培った無音無風走法で完璧なスニーキングを利用し、辿り着ければよかったんだけど……結局人に尋ねる結果になってしまった。

 ランドソルは迷宮のように入り組んでいて、景色の代わり映えしない大森林の中で過ごした経験のある私でも目を回すぐらい複雑だった。

 私は勇気を振り絞って近くにいた金髪ツインテールの子供に道を尋ねることにした。

 尋ねてから不審者に思われるのではと思ったが、子供は全然気にした様子もなくわかりやすく説明してくれた。

 まだちっちゃいのにハキハキと喋るし、口調も大人っぽいし、なんか帯剣してるしで、ランドソルの子供は成長が早いんだなぁ。

 お礼に何をあげればいいかわからなかったので、私が使ってる弓の弦を何本かあげた。

 魔力の増減で強度が変化し、弦楽器と弓としての弦の強度を両立することに成功した、自慢の一品である。

 すっごい困惑されたけど、お小遣いをあげようにも無一文だったから……。

 二束三文にしかならないかもだけど、それを売れば少しはお金になる、よね?

 

 紆余曲折を経て辿り着いた【サレンディア救護院】。

 突然の訪問にもサレンさんは快く歓迎の意を示してくれた。やっぱり子持ちの人は心が寛容なんだなぁ。

 というか、ここに来るまでに何十人も子供がいたけど、多分殆どはお友達だろう。流石に何十人も産んでいるようには見えないし。

 

 そして、新たな衝撃的事実。

 サレンさんには御付きのメイドさんがいた。つまり、お金持ち!リッチ!勝ち組!

 眩しい、眩しすぎる!優しいし子持ちだしお金持ちだなんて、なんですかこのミセス・パーフェクトは!

 同じエルフなのにこの差、羨ましいを通り越して凄いとしか言えない。

 思えば、救護院という名前にしてはそういう施設要素は見当たらないし、使われなくなった救護施設を改修してギルドにしたのだろう。名前はその名残に違いない。

 

 世間話に端を発し、魔物から助けてくれたお礼がしたいという流れになったときは、凄い困惑した。

 だって、あれは私がやらかしたせいだから、お礼どころか非難されるべき立場である。

 しかし、それを正直に言う気にはなれなかった。折角の数少ない知り合いとの繋がりを断ち切るような選択はできなかった。

 罪悪感で身がよじれそうだったが、無難にランドソルのことを教えてもらう方向性に持っていくことに成功する。これならお金もかからないし誰も損しない。

 個人的にも、あの人込み激しい場所を練り歩いて地理を把握するとかいう苦行をせずに済む。経緯が経緯だけに素直に喜ぶべきではないが。

 

 ギルドについて説明されたタイミングで、所属の有無を問われた。

 正直、一対一の対話さえままならないのに、不特定多数の人と交わるギルドとか、敷居が高すぎます。具体的にはランドソルの上空に飛んでる謎の塔ぐらい高い。

 【フォレスティエ】の存在は、前にミサトさんと話した時に聞かされていたため覚えていたけど、内輪で固められているとはいえ、私が外様である以上他のギルドと立場は大差ない。

 今後もランドソルを利用するなら、ギルドに入るべきなんだろうけど……まだ気乗りしない。というか、怖い。

 いずれは、いずれはなんて繰り返しズルズルと引き延ばしていく未来が見えるけど、じゃあ入ろうと言えるならぼっちにはなっていないわけで。

 

 それから、紅茶に口を付けてないことを指摘され、恥ずかしくなった。

 紅茶もまともに飲んだことのない上に、カップも高級感増しましで、私如きが触ってもいいのかと戦々恐々するあまり、逆に気を遣わせてしまった。

 サレンさんは優しいから、自分達に不備があったと考えていたに違いない。

 ぼっちには慣れ親しんだ、会話の途切れた空気というのをどうにか打開しようと、意を決して身の上話をひたすらに語り明かそうとした結果、見事にドン引きされました。

 喋っている内容なんてほとんど覚えてないけど、ヤバいことを口に出したであろうことは二人の反応から見て明らかだった。

 本当、今日は駄目駄目続きで自己嫌悪でたまらなくなる。

 やること為すこと全部裏目に出て、そういう星の下にでも生まれたと言われた方がむしろ納得する空回りぶりだ。

 

 私はいたたまれなくなったあまり立ち去ろうとしたが、優しいサレンさんはそれでも引き留めてくれる。

 でも、その優しさは友達ひとりまともに作れない欠陥持ちに向けるぐらいなら、もっと子供たちにその分の愛情を注いでもらった方がこちらとしても気持ちに収まりがつく。

 だからこそ、私は去り際にひとつ問いかけた。私の脱ぼっちが成り立つまで協力してくれますか?と。

 結果は、予想通り。

 サレンさんには家庭があり、家を守る大切な役割がある。私ひとりにかまけている時間など、最初からありはしない。

 それでも、と未練がましく問いかけたのは、サレンさんを困らせるだけの悪手だったと今では後悔している。

 

 本当はそのままランドソルを立ち去るつもりだったけど、折角教えてもらったことを活かさないようなサレンさんの時間を奪っただけのろくでなしにはなりたくなかったから。

 でもお金はないから取り敢えず誰も寄り付かなさそうな路地裏で『ノーフェイス・クイーン』を纏い一夜を明かすことにした。

 建物に囲まれているというだけで、とても穏やかな気分で過ごすことができて良かったです。

 





星6サレンが生放送で開示された瞬間、プロット投げ捨てて全力でサレンを曇らせる方向にシフト。
本当はコラボキャラよろしく一時滞在ルートだった。だがもういなくなった。

時間設定で五時ジャストにしているけど、書き終わったのは当日の午前三時半というほぼ急ピッチ。だから内容に矛盾とか不自然な部分とかあるやもだから、お兄さん許して!
その癖文章量は前回を大幅更新しての17500近く。これもうわかんねぇな。
プロットは処理されたので、今後の展開に少しだけ苦心していたり。ノリでやるもんじゃあねぇや!

よし、ねる!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。