アオイちゃんを常時無表情にして五割増しに口下手にした結果wwwww   作:花極四季

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ジャスト一年だ。――いい悪夢(ユメ)は見れたかよ?


そうだ
これは悪夢(ユメ)なんだ
ぼくは今、悪夢(ユメ)を見ているんだ
目が覚めたとき、
ぼくはたくさん話数を更新していて、
AOIちゃんがバッタバッタと無双する展開を
読者に届けている筈なんだ……



九話

 【ギルド管理協会】――それは文字通り、ギルドを管理する公的機関の名である。

 ランドソルにおいては、ギルドに所属することは市民権を得ることと同義であり、ギルドに所属しているかそうでないかで利用できる施設やサービスにも差が出てくるどころか、社会的信用にさえ影響してしまう。

 ランドソルへの定住を推進することで国の拡充を狙った露骨な優遇政策ではあるが、それ故にギルド所属者が得られるメリットは枚挙に暇がない。

 拠点となる「ギルドハウス」の無料支給、前述の各種サービスの提供を始めとした権利の取得、仕事の斡旋と様々である。

 その為、認可された活動目的に沿った功績・実績を満たしていないとされるギルドは解体されてしまう。それらの是非を査定するのも含めてが【ギルド管理協会】の仕事である。

 

 ランドソルは広大な都市であり、それ故にギルドの数も数え切れないほどに存在している。

 真っ当に成果を出しているギルドが殆どではあるが、中には表向きに掲げた結成目的を隠れ蓑に非合法な組織を形成しているギルドというのも少なからず存在する。

 当然それらは処罰の対象となるが、広大さ故にそれを洗い出すのも困難であり、手が届いていないというのが実情である。

 必然的にその業務内容は多忙を極めることとなり、今日も今日とて忙しく駆け回る一人の女性がいた。

 

 名前はカリン。緑のロングヘア―と眼鏡が特徴的な【ギルド管理協会】の一員の女性である。

 いち職員を名乗ってはいるが、その仕事ぶりは異常の一言で、受付窓口の担当を始めとして、各種書類整理、現場への派遣、複数ギルドの管理といった業務を個人で捌けるハイスペックな人間である。

 そんな彼女の存在あってしても仕事が安定することは無く、優遇政策による人口の指数関数的上昇を前には焼け石に水でしかない。

 

 そんな彼女の趣味――と言って良いのかは不明だが、人間観察が彼女の仕事へのモチベーションとなっている。

 正確には面白い人材を探すことだが、それが高じて人間観察に目覚めたに等しいので些細な差だろう。

 多種多様な人達と関わり合いになる仕事であり、ギルドに相応しい人物かを見極める観察力も当然求められる。

 誰でも適当に許可を与えてしまえば、ランドソルの治安を悪化させる要因となり、ひいては【ギルド管理協会】の信用問題からランドソルの風評にまで影響が出てしまいかねない。

 それ故に、ギルド申請の窓口にはひと際優秀な人材が宛がわれるのが慣例となっており、当然その席にはカリンが居る。

 このように趣味と実益を兼ねた業務ということで、この多忙な業務内容の中でも笑顔を絶やさずにいられるのである。

 

 そうしていつも通りに受付前で業務をこなしていた時――その人物は現れた。

 最初は、扉の開く音がした。だけど、気にも留めなかった。

 次に、その事実に違和感を覚えた。そこでようやく、資料を見る為に下げていた顔を上げた。

 ――不意に、深緑の螺旋を視た。

 まるで心臓を鷲掴みにされて無理矢理鼓動を止められているかのような感覚を覚え、つい呼吸を忘れてしまう。

 果たして、どれ程の時間が経ったか。一秒か、数分か。時間の感覚さえも超越した生き地獄は、深緑の螺旋の持ち主の言葉によって霧散することとなる。

 

「ここで仕事を斡旋していると聞いたのですが」

 

「え……?あ、はい!?その通りですが、えっと……?」

 

 反射的に言葉を返すも、思考は未だ混乱の中にある。

 改めて目の前の存在の全貌を捉える。

 緑の外套に覆われて体格ははっきりとしないが、凛としてどこか冷淡にさえ見える表情とエルフ特有の長い耳は露出しており、それだけでも彼女が疚しい目的でここを訪れた訳ではないことが推測できる。

 そして、こうして真正面から対峙しているにも関わらず、どこか霞を見ているかのように不確かな存在感。

 何かしらの魔道具を有しているのか、或いは本人の気配遮断能力によるものなのか。どちらにせよ、こんな目を惹く格好をしているにも関わらず、他の職員を始めとしたこの場に居る人達がカリンの素っ頓狂な声でようやく彼女を認識していたことからも、その力は想像を絶するものである。

 それを裏付けるように、数多の冒険者をこの目で見てきたから分かる、強者の風格と言うべきか。そんな雰囲気を纏っている。

 少なくとも、ギルドの影響力を利用しようと画策する小悪党とは一線を画す存在であることは間違いない。

 数秒の人間観察を終え、咳払いをひとつ。いつも通りの笑顔で対応を始める。

 

「仕事の斡旋ですね。まず、お名前と所属ギルド名を伺いたいのですが」

 

「名はアオイ。ギルドには所属していない」 

 

「アオイ様……ですね」

 

 ギルド未所属者用の手続き表に情報を記載していく。

 【ギルド管理協会】の支部はランドソル内に点在しているが、ギルド関係の窓口はここにしかない為、カリンが把握していない人物は漏れなくギルド未所属者という扱いになる。

 

「申し訳ありませんが、ギルド未所属者に斡旋できる仕事には制限が設けられており、相応の等級の仕事しか斡旋することは出来ません。ギルドに所属することでランドソルの各種サービスに課せられた制限の開放が為されるため、もし都合が合うようでしたらギルドに所属することを推奨致します。ギルドマスター以外に既存のギルドに所属することに制限はなく、複数のギルドに所属することも可能な為、よろしければ此方から掛け合ってみましょうか?」

 

「気遣い有難く。しかし、当面ギルドに所属する予定はない。雑用でも何でも受けることに異論はない」

 

 返す刀で拒否され、暫し思案する。

 【ギルド管理協会】としては、ギルド所属は自由意志を尊重するものでありカリンに強要する権利はない。

 しかし、カリンからすれば目の前の少女は、言うなれば降って湧いた宝石。否、インペリアル・ジェード。

 カリンの優れた人材センサーが爆発しかねない程の逸材を放り出すなど、それこそこのランドソルにとっての不利益にしかならない。

 眼鏡の奥をキラリと光らせ、思考をフル稼働させる。この期を逃すまいと必死に外堀を埋める算段を立てていく。

 彼女の立場からでも可能な仕事で、ランドソルで大きな影響力を持つ所からの依頼で、彼女のような異質な存在さえも受け止められるギルドが……あった。

 

「――では、これならどうでしょうか?」

 

 此方の興奮の一切を抑え込み、決して真意を悟られないようにいつも通りの笑顔でその資料を差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある一室にて、黙々と資料を漁りながら簿記に収支の計算を記入する女性が一人。

 収支の内容に頭を抱え、溜息を吐きながらも懸命に仕事をこなす。

 そんな彼女の名はユカリ。【メルクリウス財団】に所属するギルドメンバーの一人であり、ギルド内の金回り担当である。

 【メルクリウス財団】は数あるギルドの中でも飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けているギルドであり、その勢いたるや留まることを知らない程の大手ギルドである。

 主な活動内容は金融業であるが、出資者として現地に赴き、時には現場担当を差し置いて陣頭指揮を取ることさえやってしまう型破りなギルドマスターの存在もあり、世間での評価は賛否両論となっている。

 何故出資者とはいえそのような越権行為が罷り通るのか、それはアキノが世間で知らぬ者はいない程有名な商家であるウィスタリア家の令嬢というのが大きい。

 金銭が関わる行為には大なり小なりウィスタリア家が関与しているのが常であり、その影響力は語るまでもない程。

 しかも、出資に足るとアキノが判断した場合に振り込まれる額は常識外れな大盤振る舞いであり、その理由も理路整然としたものではなく大抵が勘の一言で片付く根拠薄弱なもの。

 タチが悪いのが、それで成功する確率が高いという事実であり、しかし同時にやらかす時はその際の儲けも吹っ飛ぶこともしばしばで、金庫番としては胃痛の種である。

 

 本人の名誉の為に言うが、アキノは決してウィスタリアの権威を笠にやりたい放題しているのではなく、取引先が勝手に萎縮しているだけである。

 元より【メルクリウス財団】はアキノの箱入りで育ったが故の破滅的金銭感覚を矯正する目的に立ち上げたものであり、自立を促す観点からもウィスタリアが無償で【メルクリウス財団】を擁護することはない。

 ウィスタリア家からもそう通達されている筈なのだが、そうは言っても相手が相手。鵜呑みにするには規模が大きすぎる上に【メルクリウス財団】自体にも実績がある以上、額面通りに解釈しろという方が無理からぬ話。

 しかしそう言った事情を見抜いた上で交渉に及んでいる部分もある為、一概に彼らに非があるわけではない。

 こちらも商売である以上、善意ばかりを押し出していては成り立たない。

 そも、こちらは金を貸す立場であるからして、立場としては対等にはなり得ないのだからさもありなんである。

 

 そんな破天荒なアキノを筆頭に、主力メンバーは一癖も二癖もある者ばかりで構成されており、ユカリもまたその一人である。

 ユカリは過去に聖騎士団に所属しており、その経験から優秀な癒し手として一目置かれている。

 元々はアキノの父の下で経理に携わっており、アキノ自身の引き抜きとアキノの父の要望により今に至る。

 経理だけではなくランドソルの法にも精通しており、その知識を以て【メルクリウス財団】を目の敵にする悪徳ギルドを悉く返り討ちにしてきた。

 アキノを筆頭に【メルクリウス財団】内のメンバーの暴走を食い止めるストッパーとしてのポジションを確立しており、事実アキノの父の要望がまさにそれである。

 

 そのような苦労人気質な経緯と見目麗しい清楚な外見もあって、一見してどこに一癖の要素があるかと疑問を抱くだろう。

 しかし彼女、実は異様なまでに酒――麦しゅわ好きである。酒癖の悪さは本人も自覚しているほどで、一度麦しゅわを決めてしまえばぶっ倒れるまで止まらない上に、暴走する側である【メルクリウス財団】のメンバーがストッパーに回らざるを得ない程に暴れ尽くすのである。

 単純な麦しゅわ好きの中に、【メルクリウス財団】で引き起こされる事柄から来るストレス発散の要素が含まれていないとは言えないが、それを抜きにしても酒乱であることに疑いはない。

 酒場で管を巻いている様子を常連は度々目撃しており、そんなこんなでユカリは残念な美人として評価されている。その酒癖の悪い行動を肴に麦しゅわを呑む者が居る程度には日常に溶け込んでおり、恋愛ではなく愛玩という方向で愛されキャラとなっていたりするが、本人はその事実を知らない。

 

「んっ、んう~っ!!」

 

 ユカリは簿記の記入を止め、おもむろに椅子の背もたれに寄りかかりながら身体を伸ばし出す。

 黙々と同じ姿勢で作業を続けていた為、それをほぐさんと身体をよじる度に感じる微かな心地よさに、自然と頬が緩んでいく。

 作業を始めて二時間程度だが、どうにも気が乗らない。

 理由としては、珍しく【メルクリウス財団】には主要メンバーが不在である為である。

 アキノは商談の関係で実家に帰省、メンバーの一人である獣人のタマキは、自ら構えているタイヤキ屋にかかっており、アルバイトでありながら主要メンバーと化しているヒューマンのミフユは別のアルバイトに精を出している。

 ギルドの核であり良くも悪くも状況を動かす天才であるアキノが不在ということもあって、今の【メルクリウス財団】は非常に静かだ。

 その他メンバーも在籍してはいるが、基本的に書類関係はユカリのようなアキノに認められた者にしか触れさせられない為、平のメンバーは営業で出払っているのが殆どであり、そうなるとギルド内は普段の活気が嘘のように静寂に包まれることとなる。

 騒がしいのが好きという訳ではなく、単純に誰にも見られていないと気が抜けてしまうからである。

 つまり、サボって麦しゅわが呑みたい、と欲望が湧いてきてしまったのである。

 

 しかし、じゃあサボろうかと安易に投げ出せるほどユカリは非常識でもなければ不真面目な訳でもない。麦しゅわは夜に呑むものであり、真昼間から呑むのは道徳に反する行いだという常識は弁えている。

 とはいえ、常識と共に理性が働くかといえばまた別。一度脳裏に浮かんでしまったからには、それを振り払うには相応の要因が求められる。

 普段ならばアキノに振り回されることで相対的に短く感じていた一日が、何倍にも引き延ばされているかのような錯覚すら覚える。

 不謹慎だが、何か起こらないかと考えてしまった矢先、手紙が投函される音が聞こえたので受け取りに向かう。

 手紙を運んできたのは、速達用に調教された伝書鷹だった。

 速度特化に調教された鷹は、調教の手間と掛かる負荷による長期運用に不向きな性質上コストパフォーマンスが悪く、余程の理由がない限り利用されない。

 鷹に括りつけられた手紙が入った筒を外し、お礼の一言と餌を与えて飛び立つのを見送った後、自室で手紙の封を確認する。

 封蝋に刻まれた印は【ギルド管理協会】宛てのものであると証明しており、血の気が引いた。

 

 まず思い至ったのが、アキノのやらかした何か。

 具体的にこれと言ったアテはないが、とにかく問題が起こればアキノを疑えは最早お約束の流れであり、今回もその例に漏れないのではと戦々恐々している。

 何せ、アキノのやらかしには必ずと言って良いほどに莫大な金の動きがあり、たとえプラス収支であろうと経理担当からすれば仕事が増えるので素直に喜べないし、その逆ともなれば骨折り損のくたびれ儲けになる訳で。どちらに転んでも仕事が増えることは確定しているのだから、血の気も引くというもの。

 とはいえ、中身を見ない訳にもいかず。数秒を呼吸を整える時間に置き、意を決して封を切った。

 

 中身を改めると、それは人材確保をギルドに依頼した件に関して記載された書類だった。

 昨今の魔物の活発化に伴い街道が荒らされたことで流通に著しい停滞が見受けられたことで、再発を懸念してか街道の整備を始めとした道路整備関連の事業もまた活性化しており、【メルクリウス財団】もこの機を逃すまいと関連事業に出資を打診するように動き始めている。

 アキノの実家帰省はこれが理由で、規模が規模だけに協力関係を組んだ方が諸々都合が良いというのが、アキノ父による判断とのことで、一般庶民の生涯平均年収を端金と言えるほどの大商人が後継者である娘の教育よりも優先させるということは、それほどまでのお金が動く事案であることが伺える。

 事実、近いうちにランドソル郊外に新たな道路を開通させようという企画を立てているギルドが複数あり、それらが合同しての開発が行われるという情報が耳に入っており、もしそれが成功すれば既存のルートよりも短い距離かつ安全に遠征が可能となり、遠方への開拓や流通ルートの円滑化にも繋がるという算段となっているようで、場合によっては国が介入するほどのプロジェクトにまで拡大しかねない熱量を感じる程の空気を感じている。

 

 【メルクリウス財団】で依頼していた人材確保に関してだが、それを語る前の大前提として、街道の拡張や新たなルートを開拓するにあたって未開拓な土地――主に森や山といった魔物が跋扈する場所を迂回することなく直通させることで大幅な短縮が見込めるということで、アキノはあろうことかその中でも特に危険度の高い大森林を暫定目標としているのである。

 確かにあそこをぶち抜くように一本道を繋がれば、港町オーマへの大幅な短縮ルートを確保できる上、立地の関係上(ひな)びた港町ということで近年寂れつつある傾向のオーマの活性化にも一役買うことが出来るとすれば、とんでもない利益を生む可能性はあるだろう。

 しかし、それは所詮机上の空論、皮算用でしかない。目標達成に向けての問題点は幾つも存在する。

 

 兎にも角にも、問題の起点となっているのはその大森林がとても危険な魔物が跋扈する魔境であるという部分にある。

 危険な魔物の存在が確認されてはいるが、それ故に調査もまともに行われておらず、現状の情報でさえあらゆる情報に具体性が無く信憑性に乏しい。危険な魔物と定義してはいるが、それさえも上澄みという可能性さえあるのだ。

 かつてランドソル王家が今よりも数世代前に遡る頃、他国と一触即発な外交を行っていた過激派な王が、勅命で例の大森林の開拓を数多のギルドに呼び掛けて一個師団を編成するといった、事情を知っていれば無謀も無謀な計画をしていたという。

 理由はルート開拓により遠征が容易となり、補給線を伸ばすことで兵站を確実に確保する為であった。

 当時はその大森林の危険性が周知されておらず、その結果――ギルドの三分の二は壊滅、死傷者もそれに比例するものであったという。

 当然、王の勅命が齎した損失は甚大であり、その責任を負われ過激派の王は生涯の隠居生活を余儀なくされ、その後釜には穏健派であった弟が座ることとなり、それが現ランドソルの血筋へと繋がっている。

 それに伴い拡大路線にあった軍備も縮小していき、遺族への賠償金やらも含めて戦争ができるような状態ではなくなった。

 本来ならばこのような醜聞が一般人にまで周知されているのは、王家の威信を保つにあたって不都合が多い筈。

 だが、その事実を当時の穏健派の王が敢えて全面的に周知を図ったことで、過激派の王とのスタンスの違いを見せつけ、同時に当時の王の責任であるという逃げ道を失くすことでそれを覚悟と誠意とした。

 その結果、ランドソル王家へ向けられていた不信感や不満を抑えることに成功したというのだから、穏健派の王はかなりの敏腕とカリスマ性を持っていたのだろう。

 そして、今に至るまででランドソルを当時以上に成長させてしまったのだから、この血筋はとりわけ優秀であるのが伺える。

 

 そんな歴史もあって、あの大森林の話題は一種のタブーのような扱いとなり、必要以上の接触を避けるような不文律が出来上がっていた。

 とはいえ、完全に無視をしていては何かあった際の対応も出来ないということで、定期的に腕に覚えのある者達がギルドの垣根を超えた徒党を組んで、魔物の生態系や動植物の調査を行うこと度々あったのだが、結果は芳しくなかった。

 光すら通さないほどの大森林ということもあり、アキノが膨大な資金を投入して製作された飛空艇(未完成)の試運転の際に俯瞰してみたところ、全体の広さこそ把握すれどもそれ以外は全く不明。徒歩で直接探索しないことにはどうにもならないという結論しか出なかった。

 

 そこで、人材確保の件に戻るのだが――その内容はつまり、その大森林の調査を買って出る人材が欲しいという内容なのだ。

 ハッキリ言おう。いるわけがない。よしんばいたとしても、二つ返事で引き受けられる案件ではない。

 仮に実力が相応であったとしても、そのレベルの人材が徒党を組んでこそ不測の事態への対処も可能であり、そこに価値が生まれる。

 如何に報酬を積み上げようとも命には代えられないのだから、何よりも安全を確保するのが当然であり、大前提だ。

 多少のリスクを考慮はすれども、それを言い訳に適当な計画をしようものならば、彼の過激派の王のように僅かな破綻が修復不可能なしっぺ返しとして返ってきかねない。

 商売人としてのリスク管理以前に、人としての倫理がそのような愚行を犯すなとどあってはならないと告げている。

 そういった観点からアキノに諦めるように諫めたが、商売人の勘やら本能が働いている時のアキノは絶対に意思を曲げようとはせず、結局ダメ元でギルドに依頼を出してそれで集まらないなら次善策を練るようには言い聞かせた。

 アキノとて最大効率にかまけるばかりに時流に乗れないなんて、商売人としての恥を晒してまでこだわることは流石にしないだろうし、自然消滅する案件だと過去の記憶として埋没していたそれが、今こうして掌の中に納まっている。

 とはいえ、内容には送られてくる人員は一名のみ。

 そうなってしまうと、依頼を出してしまった手前忍びないが断りを入れることになってしまうだろう。

 

 だが、気になるのは希少な伝書鷹を使ってまで速達の通知を行ってきた理由。

 【ギルド管理協会】からしても、如何にこれが【メルクリウス財団】からの依頼とはいえ内容が内容だけに案件としての優先順位は低いと見ている筈。

 【メルクリウス財団】でなければ悪戯や詐欺を疑われるそれが、まるで重要案件が如き待遇で返信されてきたのだから、疑問に思うなという方が無理からぬ話。

 幾ら悩めども理由は思い付かず、そうして時間を浪費している間に呼び鈴の鳴る音が響き、驚きのあまり反射的に身体が跳ねる。

 普段ならば誰かが応対するであろうが、それに頼れる程人が居ない状態ではこちらで出向く他ない。

 

「はーい、今行きまーす!!」

 

 悩みを一度振り切り、訪問者へ応対すべく部屋を出た。

 

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