プリヤ世界にエミヤ参戦   作:yamabiko

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長くなったので区切りを一つ入れて投稿します。

ハサン戦まだ終わらん。前書きで書いたことは達成しないというジンクスがあるのか……? 

今回は言うなれば、エミヤいじめの回ですかね。


【17】

 まずいことになった。

 赤い外套を纏うフェイカー、もといアーチャーは、慚愧の念で崩れそうになる顔を必死で引き締める。

 昨夜のセイバーとの戦闘を、カレイドステッキの片割れであるルビーが、何らかの形で記録していたことを承知はしていたが、まさか既に公開済だとは。しかも「見た」と言うことは映像付きだということだ。

(下手に流さず、消去を確認するまで脅しておけば……)

 忸怩たる思いが全身を重くするが、後悔すること既に遅し。

 遠坂凛は獲物を狙い定めた猫科の動物のように目を細め、隣のルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトもまた狡猾な狐のように唇を弧に描く。

 追いつめられた獲物はアーチャー自身だ。

 今更あの時の己の行動を振り返ってみても、なんとも青臭い行動をしてしまったとは思う。だが、セイバー……彼女の前でそれ以外の行動は思いつかなかったのだ。例えあの瞬間が何度でも来ようと、アーチャーは同じことを繰り返しただろう。

 そこに後悔は無い。

 だが、その場面を他人に鑑賞されることになろうとは――――全身から火が噴き出しそうだ。告白のシーンを目撃されたならばどこまでも動揺してしまう学生時代に逆戻りしたかと思うほどである。

 そして相手も悪かった。

 自身の愉悦をどこまでも求めるというふざけた性格の人工精霊ルビーに、狙った獲物は容赦なく叩き潰す凛。同じく五十歩百歩なルヴィア。また治療の魔術をかけながらも、じっとアーチャーを見つめる美遊も、どこまでも真実を追及してきそうである。

 気の毒に、と同情の念を浮かべるイリヤスフィールだけならば、どんなに言いくるめるのが楽だったか。

「さて、まずは黒化した騎士王――――アルトリアとの関係を喋ってもらいましょうか」

 一番手は宣戦布告をした凛だ。そして今一番聞かれたくないことを突いてくる。

「えっ、そこから聞くの? クラスカードについての情報源についてじゃなくて?!」

 イリヤがもっともなことを言うが、凛は目配せをしながら簡単にあしらった。

「どうせ芋づる式に出てくるわよ。こいつが隠していることは多分、全部つながっている気がするの。勘だけどね」

 鋭い。

 アーチャーはどうにか繕った仏頂面の裏で冷や汗をかく。

 確かにアーチャーの隠し事はある一つの出来事に収束する。

 すなわち――――聖杯戦争。

 冬木の地で行われたこの大儀式は、アーチャーの、ひいてはエミヤシロウの運命を位置付ける因果の塊だ。アーチャーの存在自体を語る上でも重要な事柄でもある。

 だが、『小聖杯』であるイリヤが一般人として生活しているこの世界で、聖杯戦争についてなど言えるはずも無い。例え並行世界の出来事であっても、イリヤの家族―――切嗣たちが隠している情報を晒すことはできない。

 故に、アーチャーはさらに強固な鉄仮面を顔に貼り付ける。

 必要以上の情報を漏らすような失敗は、するまい。

「別に君たちに告げる必要は無いと思うのだがな。今後の戦闘に必要な情報は渡したのだ。もう十分だろう。それともあれか。君たちは勝手にプライベートを嗅ぎ回る探偵にでも憧れているのかね?」

 まずは挑発で相手の怒りを誘う。そうして相手が激昂し挙動を乱したところで、場の流れをこちらに取り戻す。

 しかし、今まで何度か仕掛けた術中に、凛もさすがに学習したようで、冷静に切り返してきた。

「憧れなんか無いわよ。でもね。こうまでしないとあんたのことを少しも理解できないし」

「……君に理解してもらう必要も無いのだが」

 これは挑発でもなんでもなくアーチャーの本心である。

 クラスカードの回収さえしてしまえば、もはや接触することも無い。

 アーチャーにとっては、最善の結果になりさえすれば、誰からどう思われようとも構わないのだ。むしろ自身の性格や正体がかなり捻じ曲がって複雑であることを自覚しているアーチャーは、他人に理解してもらう労力と手間をかけさせてしまうことを、申し訳なく思うほどである。

「……いいわ。じゃあこれは私の知的好奇心ってやつよ! あんたの気を悪くしようともあんたが答えるまでこの結界から出しはしないわ! さすがにあんたでもAランクの障壁を突破するのは骨が折れるわよね!」

 どうやら先の発言は、挑発として放った台詞よりも、凛の逆鱗に触れたらしい。

 何故だ。

 内心で首を傾げながらも、また面倒なことになったと眉を寄せる。

 アサシンも未だ残っている状況で、余分な魔力を消耗させられるはずも無く。

 ここは適当に嘘八百で誤魔化すか、と方針を決めるが、凛はそんなことはお見通しだったようだ。

「ルビー、仕事の時間よ。どうせあんたのことだから、取り付けているんでしょう?」

 拗ねて放っておかれていたルビーは、この凛の意味深長な一言で復活。

 身をくねらせて舞い上がった。

「ふふふ、さすが凛さーん。私のことわかってきましたね~」

 別にわかりたくは無かったわよ、と愚痴をこぼす凛の前で、ルビーはその身を変形させる。

「24の秘密機能の中でもひときわ高性能! 『ウソ発見器』モード! 私の前に嘘なんて無意味だぜ!」

 ババーン!と効果音付きで変形を終了させたルビーの右の翼には、マイク状の部品が握られ、そして輪の天頂から突き出たアンテナからは緑やら赤の光を点滅させる。

「……うわぁー」

 イリヤの引き攣った心境に、アーチャーも同じ思いを抱く。

((えげつない))

 もはや退路を断たれた。なんだ、……私は今から真実の断片を片手に、凛の切込みを躱していかねばならないのか。

「さあ、とっとと白状しなさい! あんたとアルトリア、一介の魔術師と伝説のアーサー王との関係は!?」

 勢いを増す凛の気勢に、アーチャーは最後の抵抗とばかり沈黙を貫こうとするが、

『もう、いいんだ。アルトリア。君は間違って―――』

「やめんか!」

 人生(英霊となってからも含め)で最大と言っていいほどの恥ずかしい記録を再生される苦行の前に、思わず制止の声を出してしまった。

「答えないのならコレ、延々と垂れ流すから」

「いや~、マジで鬼畜の所業ですね、凛さん! 音声だけでもフェイカーさんには効果絶大です!」

 ルビーと凛の連携は鮮やかにアーチャーを崖っぷちまで追い詰める。

 仮面は鉄製でも、心は硝子でできているアーチャーである。

 表面上は仏頂面を保つも、内心ではあまりの責め苦に、膝を屈した瞬間であった。

 

 *************

 

(……ここまでする必要があったのかな?) 

 フェイカーさんの気を損ねて、クラスカード回収に協力しないと言いだしたら、どうするんだろう?

 イリヤはハラハラしながら凛とフェイカーのやり取りを見守っていた。口元は手のひらで蓋をしつつであるが。

 さっきは迂闊に思ったことをそのまま外に垂れ流してしまい、凛に注意されたのだ。せっかくの念話の魔術が無駄になるでしょうが、と。

 だからちゃんと喉を震わすことなく念話でつぶやいたのだが――――

(フェイカーの情報が全て正しいとは限りませんのよ。イリヤスフィール)

 今度はルヴィアからの厳しい指摘が。

(与えられた情報を鵜呑みにするのは愚か者のすることですわ。きちんとした裏付けをとり、その情報が正しいことの確証を得て初めて、行動に移すものなのですのよ)

(でも、わざわざクラスカード回収を手伝ってくれているんだし、フェイカーさんはいい人っぽいと思うんだけどなー)

 楽観的なイリヤの意見に、美遊も固い声で言葉を投げかける。

(イリヤ、世の中には都合のいいことばかりじゃない。どうしようもない理不尽なこともたくさんある。簡単に信じたらダメ)

(……ハーイ。ワカリマシタ)

 疑い深いルヴィアはともかく、美遊までもがフェイカーを前に気を張っている。

 イリヤは一人、取り残された気分になるのであった。

 

 

「彼女とは主従関係だった。それだけのことだ」

 渋々といった様子でフェイカーは口を開く。言葉数は少ないが、こちらの質問に最低限のことは答えてくれそうだ。それでこそ散々追い詰めた甲斐もある。

「王と従者って関係だけじゃないでしょう。じゃなきゃ最後のアレはなんだったわけ?」

「あれは餞別のつもりだろう。アレのおかげで傷も癒えた。そういう呪い(まじない)の類だ」

 本当だろうか? 凛は猜疑の視線をフェイカーへ投げかける。

「ルビー、確認」

「嘘を言ってはいませんよー。でもー、あのチッスは明らかにラヴも含まれていたと思いますがねー」

 ルビーの煽りにもフェイカーの表情に変化はなかった。どうやら面の皮にも強化魔術をかけたようである。凛は、とりあえずはフェイカーとアーサー王は主従以上の関係があったものとして、聴取を進める。 

「呪い(まじない)、ねぇ。まぁアーサー王の傍には魔術師マーリンがいたとされているから、何らかの術を習得していてもおかしくは無いけど……。

 なら、現代に生きるあなたが古の伝説のアーサー王に仕えたっていう矛盾はどういうことなのかしら」

 フェイカーは数秒、目を逸らし沈黙していたが、凛がルビーをけしかける直前で、衝撃的な事実を告げた。

「……私はこの時代に活動した魔術師では無い。そして生前の彼女とは縁があっただけだ」

 口をパクパクとさせ、マヌケ面を晒す凛。

 ルビーへと向いていた首をギギギと錆びついた人形のように回し。

「――なんですって! じゃあ、あんたはアーサー王の時代から現代に来たっていうわけ?!」

 生前の騎士王と面識があったということは、フェイカーは千数百年前に生きていた人物のはずである。アジア系の顔立ちや中華風の剣など、中世ヨーロッパには似合わない風体だが、東洋人が西洋にいた可能性は否めない。

「最初に言ったはずだがな。私の存在自体が、世界の気まぐれ、いや奇跡だと」

 凛は唇をかんだ。前の発言は誤魔化しなどでは無く真実だったわけである。流してしまわず吟味すれば、こんなに厭味ったらしく復唱されることも無かったのだ。

(時空の移動……それこそ魔法の領域じゃない)

 フェイカーの言い方から察するに、彼自身の力では無く、外的要因でこの時代に流れ着いたとも受け取れる。

 頭を高速回転させる凛を横目に、今度は冷静に観察していたルヴィアが指摘をはさむ。

「フェイカー、あなたはアーサー王にこう言いましたわよね? 『もう聖杯を求める必要はない』と。聖杯は万能の願望器を指しているのでしょう。あなたがこの時代にいることは聖杯による奇跡なのですの?」

「……そうだな。『聖杯』のおかげで――私は彼女に出会い、その結果、今の私があると言っても間違いではないな」

「もったいぶった言い方はしなくていいわ。要するにアーサー王があんたを聖杯の力でこの時代に送り込んだんでしょう」

 凛はフェイカーの発言を言い直す。

 確かに聖杯なら時空の壁を越える奇跡も起こせるはずである。ましては騎士王が生きていたのは、精霊などの息吹きがまだ強く残っていた時代だ。十分にあり得る。

 そしてフェイカーが騎士王へ贈ったもう一つの言葉―――『君は間違っていなかった』は、フェイカーを現代へ渡航させたことに関するものかもしれない。フェイカーないしは騎士王の願いはこの時代で叶えられたということか。

「でもアーサー王は一度の奇跡でも満足できなかったようね。死後英霊になってからでも聖杯を求めるなんて……いったいどんな願いを持っていたのよ」

 険しい顔で考え込む凛の後ろでは、このやり取りを静かに窺っていたイリヤがおずおずと質問を切り出した。

「えっと、フェイカーさんはアルトリアさんの願いを諦めさせたんだよね? 大事な人の願いなのに……。どうしてなの?」

 自分の大切な人の願いであれば、叶えさせてあげたいと思うのが普通だと思うのだけれど。

 戸惑いの色を隠さないイリヤに、フェイカーは僅かに気を緩めて言った。

「彼女の誇りのためにも、その願いの内容を詳しくは言えんが―――彼女自身が消滅してしまうかもしれない、そんな可能性の持った願いは間違っていると思ったのだ。……私が言えた義理ではないのだがな」

 イリヤはそれ以上、言葉をかけることができなかった。

 自身が消滅する可能性を含んだ願いなど、想像もできず、またフェイカーの表情があまりにも穏やかで――――なんと続けたら良いのか、わからなかったのだ。

「……あなたは何を願ったの? その何でも叶える聖杯に」

 次に声を上げたのは美遊だ。サファイアと治癒魔術を展開しながらも、視線はしっかりとフェイカーを捉えている。

「何も」

 ポツリ、とフェイカーは言った。

「何も願いはしない。私の願いは自らが叶えなければ意味がない物だったからな。

 ―――今、あえて願うとすれば世界の恒久的平和か。もっとも、その願いのために切り捨てられる者が一人でもいるならば願い下げだが」

 最後には自嘲の色を乗せたフェイカーの回答だったが、美遊はそれを聞き、大きく目を見開いた。

 彼は聖杯を必要としない人間だった。ならば、『聖杯』である美遊を利用することも無いかもしれない。――――みんなを『聖杯(美遊)』の奪い合いに巻き込まずにすむ。

 美遊は静かに息を吐き出し、無意識に強張っていた身体から力を抜く。胸中に溜まったっていた重しが一つ、取り除かれた瞬間だった。

 そんな美遊を横目に、凛は呆れたように念話で呟いた。

(なんて無欲なヤツ。普通、お金が欲しいとか、宝石が欲しいとか、名声が欲しいだとか、はたまた過去の過ちをやり直したいとか、思いつくでしょうに)

(……最初にお金と宝石が出てくるあたり、凛さんらしいね)

 イリヤが合いの手を入れるが、凛は構わずに断言した。

「やっぱりアンタ、変人だわ」

 フェイカーが返した反応は、ただ困ったように眉を寄せるのみだった。

 

 ルヴィアは凛の出した分かりきった結論を鼻で笑いながら、今までに出たフェイカーの情報を整理していた。

(フェイカーはアーサー王に仕えた中世の魔術師。そして聖杯により現代への時間跳躍を果した。―――まだクラスカードの関連も、イリヤスフィールとの接点も明らかではありませんわね)

 美遊の治療も終盤である。それに無限の魔力供給があるとはいえ、結界を張り続けるイリヤスフィールの疲労も考えなくては。

 先ほどから短剣が結界に弾かれる音がちょくちょく聞こえているのである。アサシンも様子を探っているのだろう。不用意に結界を解いたら、すぐにでもアサシンの反撃の狼煙が上がる可能性も高い。

「フェイカー、あなたが変人なのは遠坂凛が言うまでもなく、最初から自明の理でしたが、まだまだ聞きたいことはありましてよ。

 鏡界面に突如として現れた礼装――――クラスカード。そのクラスの内訳と英霊について、なぜ知っていますの?」

 ルヴィアの正面切っての問いに、フェイカーは肩をすくめた。

「『クラスカード』については、私は知らなかったとしか言いようがないな」

「嘘おっしゃい! あんなに情報を与えておいてそれは無いでしょう!?」

 ルヴィアは血相を変えるが、

「嘘じゃーありませんよー」

 とルビーが口をはさむ。嘘が出たら思いっきりいじるつもりのルビーは、なかなか赤に変わらないアンテナのランプをベシベシと叩いていた。

 ギリリと歯を食いしばり睨み付けるルヴィアに、フェイカーはやれやれと息をつくと、顔を引き締め話し出した。

「何度も言うようだがな―――縁があったのだよ。数奇な運命ともいえるような縁が。

 ……私とアーサー王は、ある戦争で彼らと会い、そして戦った」

 戦争。現代の感覚では、戦車や航空機、銃器から砲弾が飛び交う近代の様子をイメージするが、アーサー王の時代の戦争とくれば騎馬に槍、そして剣で制す戦いだったのだろう。

 だが、決定的な矛盾がある。

「時代が違いすぎますわ。クー・フーリンにヘラクレス、それにアーサー王。数百年は離れているのですのよ。出会うはずの無い英雄たちが揃うなんて……」

 ルヴィアの呟きにフェイカーは顔を歪め答えた。

「ああ、彼らは召喚されたのだ。枠(クラス)を用意され、その枠の範囲で力を振るう英霊としてな」

 その言葉に目をむく魔術師二人を尻目に、フェイカーは続ける。

「用意された枠(クラス)は七つ。もう理解できると思うが――――『クラスカード』の枠と同じだ」

 もはや絶句するしかない。一国を率いるアーサー王の軍勢に、複数の英霊で対抗する相手がいようとは。そもそも、まだ大気中の魔力が濃い時代だったとはいえ、召喚魔術で英霊を召喚し使役し、戦争に用いようなど頭がぶっ飛んでいるとしか思えない。

「あれ? でもアーサー王――アルトリアさんは『セイバー』の英霊だったよね?」

 沈黙してしまったルヴィアと凛に代わり、イリヤが質問を投げかける。

 先日のクラスカード回収の際、『セイバー』の黒化英霊は騎士王――アルトリアだったのだ。アーサー王がまだ生きている時代なら、『セイバー』のクラスには他の英霊が召喚されたはずなのだが……。

「彼の騎士王はイレギュラーの塊でな。生前にも関わらず、『セイバー』として召喚されたんだ」

 今度こそ魔術師二人の顎がカクンと落ちた。ルビーを見やるが、アンテナのランプは緑のまま。魔術的観点からいえば、あまりにもふざけたイレギュラーだ。

「……結果は?」

 美遊もこの展開は気になるようで、続きを催促する。

「その時の結果としては、アーサー王が英霊の中で一人勝ち残り、戦争は終結した」

 フェイカーは簡潔に締めくくった。

 その際、僅か懐かしむように目を細めた気がした。

 

 

「……さすがアーサー王。最期の戦い、カムランの丘でモードレッドに敗れるまで負け無しの王様だったことはあるわ」

 彫像から一足先に復活したのは凛の方であった。

「で? その戦争とクラスカード、何が関係あるっていうのよ」

「先日の発言、『なぞり』というのにかかってきますの?」

 遅れて復活したルヴィアも凛に追随して問い詰める。

 フェイカーはこの質問に苦虫を噛み潰したような顔で答えた。

「『世界』には修正力がある―――ようだ。

 既に起こった事象をもう一度繰り返すような――例え世界が違っていても――レールが敷かれているようなものだ。そのレールから外れるには、ある種埒外な知識か、または誰かの小さな勇気か―――はたまた大馬鹿者の判断などが必要だ」

 フェイカーはここで大きく息を吐き出して、眉間のしわをなんとか緩めた。

「つまりだ。七つの枠に七の英霊。そして召喚魔術。ここまでの要素が揃えば私が体験した戦争を『なぞる』可能性が高い。

 実際、『ランサー』としてクー・フーリン、『セイバー』としてアーサー王が接続先に選ばれ、さらに『ライダー』はゴルゴンの怪物メデューサ、『キャスター』は裏切りの魔女メディア、イレギュラーであった『アサシン』も暗殺集団の頭目・山の翁と、同じ顔触れがそろっている。ならば、残る『バーサーカー』はギリシャの英雄ヘラクレスだろう」

 滔々と語られた情報を、凛とルヴィア、そして美遊も頭をフル回転させて咀嚼する中、イリヤは全ての理解することは諦め、気になった部分だけ聞いてみることにする。

「『アーチャー』の英霊は誰だったの?」

 まだイリヤたちが判明できてなかったクラスカードの英霊の名も、フェイカーは次々と挙げていったのだが、『アーチャー』の名だけが出ていなかったのだ。

 気になるのも当然のこと。

「――――私がアーサー王と共に参戦した戦争では、『アーチャー』の正体は最後まで判明せずにヤツは退場したよ」

 そう言うフェイカーの表情はとても微妙なものになっていた。そう、イリヤの中の語彙では到底言い表せられないような。

『アーチャー』に対してフェイカーは、何か複雑な感情を抱いているようだった。

 

 




だって、ソレ。いつかの自分だから。
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