プリヤ世界にエミヤ参戦   作:yamabiko

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 お久しぶりです。とうとう夏になってしまいましたね。アニメの方はUBWも終わり、プリヤ・ヘルツ始まっちゃいましたね。……更新頑張ります。
 あとコメントのほうも順次返させて頂きます。

 今回もまとめるの難しかった。原作の漫画見ながら、ちょびっっと変えていくの楽しかったんですけど、心境のほうを大分改変しているので、そこら辺が。

 意外とイリヤが士郎さんっぽくなってしまった。……何故だ。


【24】

 夢を見た。

 雪が舞い散る真っ白な世界。

 大きなお城を背景に、その子はいた。

「やっと会えたね、お姉ちゃん?」

 にっこりと笑うその子は、私と同じ顔をしていた。

 

 ***************

 

 強大な巌を受け止める。

 サファイアの防護壁を咄嗟に挟んだのは正解だった。

「美遊!!」

「大丈夫です!」

 軽々と吹き飛ばされたが、着地に支障は無し。すぐさま牽制として魔力弾を放つ。

「砲射(シュート)!」

 だが相手は止まらない。魔力弾は身体の表面で掻き消され、受け止めた反動さえ無かった。

 凶悪かつ巨大な拳が突進のエネルギーと共に振り下ろされる。

「……っ!」

 間一髪で距離を取った美遊が見たのは、陥没したコンクリートの床面と、さらに階下へと続く大穴だった。

「なんてデタラメな腕力……!」

「絶対に直撃は避けてください! 物理保護でも守り切れません!」

 いつもは冷静なサファイアの声に、焦りが滲んでいる。それほど敵の攻撃力は高い。

 二メートルを超える大男はのそりと体勢を整えた。美遊とサファイア、その対角線にいる凛とルヴィアのどちらに向かうか考えているのか。

 とにかく飛び上がる余地のないこの狭い空間で、あの巨体での突進力はかなりの脅威だ。

「魔力砲による牽制がまったく効かない。やっぱりフェイカーの言っていた通り……」

「巌のような大男、大地を割る拳、Bランク以下の攻撃の無効化。……あの黒化英霊の正体は、ギリシャの英雄ヘラクレスで間違いないでしょう」

 ならばこれ以上の偵察は不要。早くこの空間から脱出しなければ。

 しかし離界(ジャンプ)のための陣を引くには数秒ほどかかる。その間に攻撃されるのはまずい。

「誰かが足止めしないと……」

 だが美遊が念話で伝えるまでも無く、二人は動いていた。

「Anfang―――!轟風弾七連」

「Zeichen―――!爆炎弾七連」

 敵である巌の巨人を中心に、爆炎混じりの台風が吹き荒れた。

 凛とルヴィアの風属性と火属性による相乗魔術掃射・炎色の荒嵐(ローターシュトゥルム)。

 キャスター戦でも披露したこの魔術はBランク程度の攻撃力しかないが、一工程(シングルアクション)で発動できるという速効性が強みだ。石に魔力と術式を留める宝石魔術の真骨頂とも言える。

 凛としてはルヴィアと合わせるなど気に喰わないにもほどがあるが、この状況では甘いことは言っていられない。即席のBランク魔術でアレを足止めするには、同じ実力を持つルヴィアと魔術効果を倍増させるしかなかったのだ。

(キャスターのときはケチった宝石も足して、ちゃんと七連にしてやったわよ!)

 それでもAランクにはわずかばかり届かない。だが、それでいいのだ。風は火を助ける。目的は、派手に燃え上がる炎の壁での目くらましなのだから。

(美遊! 離界(ジャンプ)の用意を!)

 渦巻く炎を横目に、凛とルヴィアは美遊と合流すべく、弧を描くように駆け出した。

 今回の場所は、広いとは言えないビルの屋上。クラスカードを回収するたびに空間は狭まってきているが、この逃げ場のないフィールドでは不利な条件が多い。

 投擲武器の無い近接戦闘主体の相手には、距離を置いた狙撃戦が有効なのだが、この狭さでは構えてチャージしている間に接近されて叩き潰される。

(戻ったらよく作戦を練らないと)

 そんなことを美遊までの二十メートルを駆ける間に考えていたせいか。

「凛さん!」

 横合いからから伸びる剛腕に、一瞬反応が遅れた。

「……っ、しまった」

 炎が燻る中から迫る鉛色の巨躯。

 黒い鬣をなびかせ、赤と黄の瞳は凛を標的と定め。

 鋼のような腕が、凛の細腰に触れる――――その寸前。

 

 十数本の矢がそれを叩き落した。

 

「え? ……あ?」

 続いて起きる炸裂音。

 指向性を持った爆発が鉛の巨人を後退させる。

 駆けていた勢いのままコンクリートの床面に倒れんだ凛は。

「まったく君は危なっかしいな」

 現在、最高に顔を合わせづらい男に、ひょいと抱き上げられた。

「ちょっ、ちょっと! どこ触ってんのよ!」

 背やひざ裏に感じる腕の感触と、がっしりした男の胸板に、軽くパニックになる凛。

 バタバタと手足を動かし、なんとか脱出しようと試みるが――――

「……開口一番に言うことはそれか。まあ、今は口を閉じることだ。噛むぞ」

 凛をお姫様抱っこでがっしりホールドすると、フェイカーは駆けた。

 背後では更に大きな爆発音が鳴り、前方では美遊とルヴィアが唖然とした表情を向けている。

 ものの数秒で美遊が展開した魔法陣へと辿り着いたフェイカーは

「では帰るとしようか」

 と、美遊に何食わぬ顔で飄々と告げた。

 鏡面界から去る直前、フェイカーの肩越しに爆心地を確認した凛が見た光景は――――

 

 えぐり取られたように欠落した屋上の一角だった。

 

 **************

 

「は――……。やっぱりお風呂は落ちつくねぇ……」

 チャポン、と湯船に浸かりながら、イリヤは至高の表情を浮かべ言った。

 ここのところ夜はクラスカードの回収で忙しかったから、こうしてのんびりとお風呂を楽しむのは久しぶりかもしれない。

「なんだかジジむさいですよ、イリヤさん」

 魔術礼装であるカレイドステッキ・ルビーが、石鹸の泡でワシャワシャと自身を洗いながらコメントする。

 ……いつも思うのだが、あれ、お湯洗いして中身は大丈夫なのかな? たびたび披露される機械っぽいモノなんかは、水に濡れたら一発でアウトな気がするんだけど。

 そんなことを内心で思いつつ、イリヤはルビーに反論の言葉をあげる。

「お風呂は人類が生んだ至高の文化だよ。ホントに日本人に生まれてよかったと思う瞬間よねー。あとジャパニメーションを観ているときとか」

「イリヤさんは日本人とドイツ人のハーフでしょうー」

 というかその二つが同列というのも何か問題な気もしますが、と、ルビーのツッコミが入るが、ルビー自身も桶にお湯を張ってくつろいでいるので、なんだかな、という感じである。

「……夜だね」

「夜ですね~」

 カポーンという効果音が似合いそうな穏やかな時間。だがイリヤが思い返すのは、この日常の裏側――――クラスカードとの戦いだった。

「ミユ、大丈夫かな」

 今日のところは偵察だけだと、凛からルビーを介して連絡を受けていた。

 だから明日、残る最後のカード『バーサーカー』との戦いに参加するか否かを聞きたい、とも。

 イリヤは一生懸命考えていた。

 朝帰りをしたせいでセラに小言を言われつつ、今日も学校を休ませてもらって一日中自室で自問自答を繰り返した。

 自分はどうしたいのか。

 自分にやれることはなんなのか。

 どうすればみんなの足手纏いにならないのか。

 ――――失敗のない、全てが上手くいく方法は。

「……ミユに謝りたい。凛さんとルヴィアさんにも」

 イリヤの早まった判断が皆を危険にさらしてしまった。ミユにいたっては危うく死ぬところだった。

 今も鮮明にあのミユの姿は思い出せる。

 この時点でイリヤは自分が死ぬ危険性があることより、自分の間違った行動でみんなの命が危うくなることの方が、怖くなっていた。

 そしてその範疇にイリヤの戦線離脱も含まれることも――分かっていた。

 カレイドステッキ・ルビーを扱えるのは今のところイリヤだけ。クラスカードを駆使でき、無限の魔力が供給される魔法少女は戦力として大きい。その一角を欠いての戦闘は余裕の無いものになるのではないか。

 この問題の解答は簡単だ。

 つまりはルビーが大人しく凛にマスター登録を戻せばいいのだ。

 だがルビーは頑固だった。あの白い羽を引き千切る勢いで引っ張ってみても、鋏で脅してみようとも、ルビーの意志はナイロンザイル並みに頑丈だった。

(『わたしのマスターはわたしが決めます!』なんてかっこいいこと言っているけど)

 ルビーはイリヤをこの事態に巻き込んだ全ての元凶だ。まあ、ルビーのおかげでミユやサファイア、凛、ルヴィアに出会えたとも言えなくはないが。

 そんな元凶として図々しくもイリヤの傍に居座るルビーをどうこうするのは、イリヤには無理な話だった。もともと自分より実力のある凛たちでさえ無理だったのだ。だからルビーに関しては、もう諦めるしかなかった。

 それに……やっぱりしたくないのだ。友達として『イリヤ』と呼んでくれたミユを見捨てるようなことは。

(だから結局は、私が上手くやればいい話なんだよね)

 間違えず、常に最善で正しい判断で動ければ、誰も死なず怪我もしなくていい。

 そしてそのためには――――――……。

 

 温いお湯と、前向きになった思考にどっぷり浸かっていたイリヤは気付かなかった。

 ドタバタと騒がしくなっていた浴室の外。

 だんだんと長髪の女性の影が迫り――――。

 

「イヤッホウ、イリヤちゃーん! お・ひ・さ~!!」

「えっ、マ……ママ!?」

 突然スパーンと開けられた浴室のドア。そこから顔を出したのは、外国にいるはずのイリヤの母親、アイリスフィールだった。

「ただいま! イリヤ」

「お帰り、ってどうして急に!? 帰国はまだ先じゃ……」

「一時帰国よ、一時帰国。仕事が一段落ついたから、私だけ帰ってきたの。切嗣はまだ向こうで仕事中だからすぐに戻らないといけないんだけどね」

 アイリはそう言いながら、ぽんぽん服を脱いでいく。

(この流れはまさか)

「長旅で疲れちゃったの。久々に一緒に入りましょう!」

「やっぱりー!」

 言っておくが、イリヤの家の浴槽は一般的な大きさである。一人で入る分には余裕のある広さなのだが、二人となるとけっこうきついのだ。

 それでもアイリはちゃっちゃと長い髪をまとめ上げると、イリヤを膝の間に抱え込む形で湯船の中へ入ってしまった。当然の如くお湯が盛大に溢れるが、アイリが気にした様子は無い。

 昔は風呂で遊んで湯船の量を減らしてしまうと、セラの小言が飛んできたものだが――今日はアイリがいるのと、わずかな帰国の合間のスキンシップということで、まあ許されるかもしれない。

「は――……。やっぱりお風呂は落ちつくわねぇ……」

 イリヤと同じことを呟いて風呂を満喫するアイリ。

 ただしその腕はイリヤの慎ましい胸に回されている。……久々のスキンシップとしてはちょーっと過剰な気もするのだが。

「うーん、ちょっと留守している間に随分と変わったようね」

「胸は急には大きくならないよ!?」

 アイリのいきなりのセクハラ発言に、即座に反応するイリヤ。ツッコミ力が上がってますねーと傍で見守るルビーは、今はただの玩具モードであった。

「あら、胸のことじゃないわよ? ほら、うちの目の前に豪邸が建っていたでしょ? 家の前の景観が変わりすぎて、一瞬、帰り道を間違えたかと思ったの」

「あ、そっちのこと」

 ちょっとだけイリヤは安堵する。変わったこと――――イリヤが魔法少女となって、夜な夜な魔法戦を繰り広げていることがバレたのか、とも思ったのだ。

「セラから聞いたけど、イリヤのクラスメイトが住んでいるんですってね。名前は? もう友達にはなれた?」

「名前はミユっていうの。友達には――――なれたよ。皆みたいに『イリヤ』って呼んでくれたんだ」

「あら、それは素敵なことね。……それで、今日は何を一日中悩んでいたのかしら? 部屋からずっと唸り声が聞こえてたって、リズが言っていたわよ。ミユちゃんって子と関係あるのかしら?」

「――――……えっと」

 イリヤは迷った。

 悩みは一般人であるアイリに話せるような内容では無い。魔法少女に変身してステッキ片手に冬木の平和のため戦っていますなんて、到底話せる訳がない。

 けれど。

 さっきまで悩み考えぬいて出た結論がちゃんと正しいものなのか、この決断でよかったのか、という不安もまたある。ルビーはイリヤさんの好きにすればいいですよ、としか言わないから、当てにならないのだ。

 だからイリヤはポツリポツリと話しだした。

 ちょうど兄が浜辺で聞いてくれていたように、背から伝わるアイリの温もりは、イリヤの心の底で張りつめていたものを緩ませる。

 イリヤは昨日のことで分かったのだ。

 誰かに吐露することは胸が軽くなることだと。例え、抱えているものが減りはしないと分かっていても、ただ話を聞いてくれる、それだけで随分と変わるのだと。

 

 

「ミユはなんて言うか、すごいんだ」

 出会ってまだ短いけれど、ミユができることはたくさんあった。

 運動も勉強も一気にクラスで一番になるくらいできて。

 冷静で、周りの難しい話にもついていけて。

 ――――やるべきことをちゃんとやれて。

「なんでもできる子なの。……私とは違って」

「あら、イリヤだってできる事はたくさんあるでしょう?」

 アイリの温かい言葉に、イリヤが浮かべたのは苦笑いだ。

 自分は慌てふためくばかりで、戦いなんかその場その場で何とか凌いでいただけだった。

 戦い始めた動機だって、アニメの中の魔法少女に憧れて、ただやってみたかったという半端な気持ちでクラスカード回収に参加していた。

 だけどミユは、最初から覚悟していた。真面目に命を賭けて戦っていたのだ。

「……二人でやろうって決めたことがあったの。でも私はそれで失敗しちゃって」

 危うくミユを死なすところだった、という言葉は飲み込んだ。

「一緒にいた人にすごく怒られた。私の自分勝手な行動が、みんなの足を引っ張ったって。もう来るなって」

 今でもフェイカーのことを思い出すと、お腹のあたりがキューっと縮こまる。

 怖かった。刺すような鋭い視線と、自分のミスを糾弾する声が痛かった。

 フェイカーは言っていた。

 もう、関わるなと。足手纏いになるのなら、いない方がいいと。

「でも、私は」

 それは教訓。フェイカーに切りつけられた傷口はまだ痛むけれど、これを糧として次に生かせばいい。

「ミユと一緒にやろうって決めたことをやり遂げたいの。今度は間違えないから……。

 覚悟も決めるし、ちゃんと一緒に戦いたいの!

 ――――だって、ミユは友達だもん!」

 しっかり言い切るイリヤ。

 これが今日一日考えて考え抜いた末の結論。これがアイリに否定されたらちょっと立ち直れないかも、と不安になりつつ後ろを見上げると。

 アイリは笑っていた。深く愛に溢れた母親の笑みだった

「そう。あなたは逃げ出さないのね。えらいわ、イリヤ。……本当にしばらく見ないうちに成長したわね」

 嬉しそうに声を弾ませるアイリ。

「そ、そんなことないよ。ホントは一度、逃げ出しちゃったし。でも、お兄ちゃんが迎えに来てくれたの。それで今みたいに話を聞いてくれて――――」

 イリヤは宝物となった兄の言葉を思い出す。この言葉があるから、イリヤはまた戦うことを選択できたのだ。

「『間違ってなかった』って言ってくれたの。失敗したけど、私の頑張りは無駄じゃなかったって」

 自分の行動を肯定してくれた。それだけで次も頑張ろうという気になれたのだ。

「あらあら、シロウも随分と立派になったわね。帰ってきたら、うんと褒めてあげないと」

 アイリはコロコロと笑う。

 子供の成長を実感できたのがよほどうれしいらしい。切嗣もこんな気持ちだったのかしら、とちょっとずれた感想を洩らしていた。いや、おとーさんも子育ては初めてのはずだよね?

 ちなみに兄は今、学校の備品の修理とやらで昔住んでいた家のほうに出掛けていた。夜の外出にセラは苦い顔をしていたが、行先も勝手知ったるところだったから、渋々許可を下したのだ。

 スキンシップが過剰なアイリに、兄はどんな褒め方をされるだろうか。

 兄のリアクションにちょっぴり期待するイリヤである。

 

「でもまあ安心したわ。鍵が二度も開いちゃっているし、十年間溜めてた魔力もほとんど空になっているし。随分と盛大に使っちゃったようだから、ちょっと心配だったのよ?」

「……え?」

 一瞬、聞き間違えたかと思った。

 アイリから魔力なんて言葉が飛び出すとは。

「マ、ママ? 何を言っているの?」

 鍵? 十年間溜めていた? 盛大に使う? 魔法少女のことじゃなくて?

 ぽかんと戸惑いだけが浮かぶ。

 イリヤの心当たりがない様子に、アイリは逆に驚いたようだ。

「あれ? もしかして力を使ったこと自覚して無かった? ……あー、やっちゃったかなー」

 どうしましょう、と目を泳がせるアイリに、イリヤは逃さないとばかり喰いつく。

 いや、魔力という力が起こす現象を知っているだけに、ここはちゃんと把握しておかねばと思ったのだ。

「どういうこと!? 力ってなに!?」

「えーっと、ホラあれよ。『それは自分で気付かねば意味がないのだ』とか『今はまだその時ではない』みたいな」

「なにそれ!? 余計に気になるんですけどー!? っていうか惚けないで教えてよ!」

 イリヤは更に追求しようとするが―――

「あーもー反論禁止!」

「DV?!」

 ずべしっと頭の登頂に入ったチョップ。これは痛い。

「うう、家庭内暴力はんたーい」

 理不尽な仕打ちにイリヤは涙目になるが、アイリは愛の鞭よ、と片目を瞑って見せた。

 そして静かになったイリヤの前で、うーんと腕を組んで悩む素振りをすること十秒。

 アイリは姿勢を正すと、正面からイリヤと向かい合った。

「……イリヤは、恐ろしくない? この『力』のことを知ったことによって、今までの自分(常識)が崩れていくことになるかもしれないのよ?」

 どうやら、イリヤの必死な様子に何か感じるものがあったようである。

 アイリからの問いかけに、イリヤは慎重に答えた。

「怖くないって言ったら、嘘になるかもしれない。……けど、このまま知らんぷりして生きていけるほど、私はノーテンキじゃないよ」

 もう時既に遅し、だ。イリヤは知っている。クラスカードに魔術師。魔法少女に黒化英霊。そして魔力による魔術の威力。

 自分で把握できない『力』があるなんて知れた日には、それがいつ暴発するのか冷や汗が止まらない。――――いつの間にか『力』に自分が取って代わられる、それが怖い。

(あれ? この感じ前にも……?)

 その感覚の尾を捉える前に、アイリの返答が割り込んだ。

「逃げないのね。……いいわ。ならちょっとだけ、話すわね」

 イリヤはなんとなく、今日もまた特別な日になると、予感した。

 浴室の窓には満天の星空。奇しくもルビーが飛び込んで来た夜と同じ空だった。

 

「まず言っておくと、『力』そのものに良いも悪いも無いの。重要なのは使う人の意志であって、『力』自体を恐れる必要はないわ」

 母は語る。イリヤが見たことも無かった『魔術師』の顔で。

「それを踏まえた上よく聞きなさい。

 あなたには『力』が備わっている。それは生まれついてのもので――――おそらく、あなたが今、一番必要としているものよ」

「…………」

 何も言えず目を見開くイリヤ。ちなみに傍で聞いていたルビーの感想は、意外と直球キター!だった。

「本当は不安もあるんでしょう? そのミユちゃんと一緒にやろうって決めたことで、また失敗しちゃうんじゃないかって。上手くいかなかったらどうしようって」

「それは……」

 図星だった。

 そればかりは、考えただけでは払拭できず、蓋をして遠巻きに眺めていたことだった。

 いくら戦う覚悟と意志を固めても、実力がいきなり上がる訳では無い。そして実力アップのための経験値は実戦に出ないと手に入れる事は出来ない。しかし次の実戦はもう失敗できない本番で。実のところ、どうすればいいか分かっていなかったのだ。

「……でも、うまくやるしかないの。間違ったらまた……」

 誰かを死なせてしまうかもしれない。

 ――――それはダメだ。それだけはやっちゃいけない。

 

 俯いてしまったイリヤを、アイリは抱き寄せた。

「大丈夫よ、イリヤ」

 優しいアイリの声が響く。それは啓示。一人で奮闘していたイリヤへのご褒美。

(本当は最期の時まで、開かれなければいいと思っていたけれど)

 

「あなたが望むのなら、あなたの『力』はそれに応える。そういうものよ」

 

 イリヤスフィールは前に進もうとしている。ここにはもう、守られるだけの子供はいない。

 ならば。

 

「――――うまく使いなさい。もう鍵は開いているわ」

 

 冬の聖女が告げる、解錠の音。

 扉は放たれ、運命は回る。

 

 (これが我が子にとって福音とならんことを)

 

 

 




ここ、お風呂場なんですけど~ (By ルビー)
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