お久しぶりです。FGOに嵌っておりました。
プリヤドライも進展ありまして、どこまで本家設定に寄り添えるか、考え中です。
FGO設定もケリィ含めなかなかに美味しいですよね~
「んー! おいしーい! 流石ね、セラ。もうアインツベルンの誇りだわ」
「……いえ、その、いつもの夕飯ですからね。イリヤさん。そんなに大げさに言わなくても」
「えー、だってこんなに美味しいもの、初めて食べたのよ。こういうときの感想は素直に伝えた方がいいんでしょ?」
「は、はい? まあ、その通りなのですが……」
「あ、でもこの野菜は苦いからきらーい。今度から出さなくていい……っ、ごごご、ごめん! ちょっと苦手だけどちゃんと食べるから! 栄養バランスは大事だよね! うん!」
「……イリヤ、なんか変なものでも食べたのか? なんかさっきから言動が支離滅裂になっているような……」
「年頃の乙女にはよくあること。あまり気にしない方がいい。というか気にしたら負け」
「……そ、そうか」
以上が本日のアインツベルン家夕食の会話である。
イリヤは部屋に戻ると、ベッドへ一直線に倒れ込んだ。
時計の短針は真下を少し回ったばかり。今日という日はまだ終わらない。
「うう。まさかこんなに二重人格生活が疲れるとは思わなかった……。絶対、周りに変だと思われてるー」
朝からまだ約十二時間しか経っていないが、既に疲労困憊のイリヤであった。
学校でもシロの行動に振り回されて、フォローが追いつかない場面も少し……いや、かなりあった気がする。
「なによ、だらしないわね。何もかもが初めてなんだから大目に見なさいよ。大丈夫、次は上手くやるわ」
その自信がどこから湧いてくるのか分からないが、もう一人の
たぶん周りから奇異の目で見られる辛さをまだ知らないからこう言えるのだ。今はだいぶ落ち着いたが、銀髪赤目という珍しい容姿でそれなりの苦労をしているだけに、イリヤはつい恨めしく思ってしまう。
(仲良くなるまでが大変だったんだからね……。まあ、今ではちょっとやそっとのことで壊れる友情でもないけど)
いつも行動を共にする友人たちは、なんかおかしいなとは思いつつ、いつも通りに接してくれている。こんなにありがたいことはない。
「いやあでも、端から見ている分にはとっても楽しめましたよ! シロさんもこの調子でどんどん初体験に挑戦していきましょう!」
「そんなにシロを焚きつけないで! ルビー!」
人の気も知らぬままフヨフヨと頭上を漂うルビーに、イリヤ必死の声を飛ばす。
ルビーには朝の内に事情をある程度話していた。昨日の夜にイリヤに秘められた『力』があったということはバレているのだ。その『力』の象徴であるシロを隠す意味はあんまり無いなと思ったのだ。
ちなみにそのときのルビーの反応は
「やはり二重人格でしたか!? これはギャップ萌えを狙えますね! なんという美味しい設定でしょう!」
と空中で色々変なポーズを繰り出していた。
このことに関して更なる口止め料は請求されることは無く、イリヤは胸をなで下ろしていたのだが――――
(こういうことだったのね……。結局は黒歴史が追加されることに変わりがないからっ)
これから今日と似たような騒動が毎日あるかと思うと、またげんなりしてしまうイリヤであった。
「しかし流石に美遊さんはあからさまに不審がっていましたね~。イリヤさんの戦線復帰宣言にもなんだか微妙な顔をしていましたし。凛さんのほうは逆に、よく戻ってきたわねと感心していましたけど~」
イリヤの目の前に移動したルビーはその材質のよくわからない翼を器用に折り曲げ、対照的な二人のニュアンスを表現する。
イリヤは今日の放課後、凛と美遊に、昨日の一日で散々悩み考え抜いて出した答えを伝えていた。
校門の前で待ちかまえていた二人に、まず最初にしたことは頭を下げることだった。
『この前はごめんなさい。私の間違った判断で皆を危険な目にあわせたこと、本当に反省しています。そしてそのまま逃げ出しちゃったことも』
本当はあのときあの場にいたルヴィア、そしてフェイカーにも謝りたかった。迷惑をかけて申し訳なかったと。……でもそれはまた次の機会で。
昨日一日、凛とルヴィアが放っておいてくれたおかげで決意は固まった。
イリヤは顔を上げ、凛と美遊をしっかり見つめて宣言した。
『……だから、次は失敗しない。逃げ出さない。私は――――ミユと一緒に戦う。一緒に最後までやり遂げます!』
未だに前回のミスを思い出すと、フェイカーの叱責と共にお腹の底が冷えることがある。
振り返った次の瞬間、命を落とす可能性に、鳥肌が立ったりする。
けれど。
(大丈夫。私がいるもの。正しい答えを私が指し示してあげる)
ふわりと背を暖めてくれる存在がいる。
(『間違いなんかじゃない』。イリヤの人を助けたい、友達を助けたいという思いを否定される筋合いは、どこにだって有りはしないわ)
イリヤの心強い味方はたくさんいる。
それがイリヤの支えとなって、戦いに挑む勇気をくれる。
『ミユは友達だから。友達を見捨てて普通の生活に戻るなんて、私にはできないよ』
ふわりと笑ったイリヤに、凛はあっけにとられたようだった。
しかしイリヤの決意が本物だと認識すると、何故かほっと胸をなで下ろし言ったのだ。
『なんだ。意外と根性あるじゃない。あんな目にあって、フェイカーにきつく言われて……。てっきり今日は辞表でも受け取るかと思ったわ』
その可能性は無かったとは言い切れない。兄や母親との語らいがなかったら、イリヤはそのまま身を引いていたかも知れない。
『何があったかは知らないけれど、やる気があるなら助かるわ。バーサーカーのカード回収は明日の夜。万全の状態で挑みましょう。イリヤ』
すっと差し出された凛の手を、イリヤは『よろしくお願いします』と握った。
そして今夜。来るバーサーカー戦のため、再びエーデルフェルト邸へ作戦会議に赴くのだが。
「ミユ、もっと嬉しそうな顔を見せてくれると思ったんだけどなー」
イリヤはベッドに転がって天井を仰ぎ見る。
離脱すると思っていた仲間が戻ってきたのだ。それはとても心強いだろうし、戦力だって多くなって強敵に立ち向かう危険だって減ることになる。
イリヤが美遊の立場であれば、こんなに嬉しいことはないと思う。
しかし、美遊はそうではなかったようなのだ。
イリヤは見た。イリヤの決意と共に美遊の顔が曇っていったのを。
「あんな顔させたかった訳じゃないのに……」
一人物憂げになるイリヤだが、次の瞬間には全く別の言葉が飛び出た。
「なに弱気になってんのよ、イリヤ」
(シロ)
いつのまにか入れ替わる。今日一日でだいぶ慣れた感覚だ。
「確かに、ミユはあなたの戦線復帰に乗り気じゃないようだったわ。表情は硬くって一言もしゃべらなくって、目を合わせもしない。もしかしたらあなたのことは邪魔に思っていて、本当は手柄を独り占めしたいのかも」
「ミユはそんな子じゃないよ!」
反射的にイリヤはシロの言葉を否定した。
美遊がそんなこと考えるはずがない。出会ってまだ数日だがそれだけは断定できる。
イリヤが表に出てくるほど強い否定に、シロはじゃあこれは?と別の可能性を示唆した。
「ミユは手柄も結果もリスクでさえ全部一人で抱え込んで、イリヤを巻き込みたくないのかも」
(あ……――――)
思い当たる節はある。
美遊は生真面目で責任感が強くて、なにより不器用だけど優しい子だから、イリヤが戦いから離脱する事でこれ以上友人が傷つかないと安堵していたかもしれない。
再び戦場に舞い戻るイリヤは、美遊の心労を増やしただけかもしれない。
戦いに臨む以上、そこに百パーセント安心安全なセーフゾーンなどないのだから。
「でもそこで怯んでたら駄目でしょ? それで引き下がるような思いではないんでしょ?
……なら堂々とそばにいてあげなさいよ。美遊がどう思おうと、イリヤが決めたことなんだから」
そう、イリヤは決めたのだ。
美遊を一人にしない。――――美遊の寂しそうな背中は見たくないから。
一緒に困難に立ち向かう。――――共にいる人の温もりが、勇気に変わることを知ったから。
友達として、美遊が背負っているものをわかち合いたいのだ。
だからこそイリヤは気合いを入れる。美遊の無言の拒絶に怯んでしまったけれど、それで引き下がっては一日悩んだことが無駄になる。
美遊が嫌がっても、そばにいる。一緒に戦う。その先に美遊の心からの笑顔が見れると信じて。
「よーし、私、頑張る! ミユに戻ってこない方がよかったなんて言わせないように!」
「その意気よ、イリヤ。まったく、弱気になっている暇なんか無いんだから」
「うん。ありがと、シロ。そして当日はよろしくね。けっこうあてにしてるので」
「はいはい、任せなさいな」
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これが最後だとアイツは言った。
目の前に突き立つは六振りの剣。いずれも現代ではお目にかかることもできない、いにしえの神秘を有した剣だ。
英雄に振るわれた剣。伝承に謡われた剣。
それらの剣を構成する要素の全てを、今は士郎にも読み取ることができた。なにせこれらは目の前で丁寧に丁寧に嫌みかと思うほど、一から十までの工程をゆっくりなぞって投影されたものだからだ。
確かに今夜が最後の機会だろう。
明日の夜は最後のクラスカード、バーサーカー・ギリシャの大英雄ヘラクレスの黒化英霊との戦闘だ。これら六振りの剣はヘラクレスが持つという十二の命を削りきる切り札になる。生半可な魔術や武器ではあの巌のような肉体だけで弾かれてしまう。故にそれを貫通するに足る神秘を内包したこの六振りを、あの丘から引っ張り出す必要が合った。だが戦場で活躍できるほどの強度で投影するには、士郎の魔術の技量では土台無理な話である。
だからこそ士郎が魔術の師と仰ぐ男は、最初で最後のお手本とばかりに、その生涯をかけて磨き上げた唯一の魔術を詳らかに披露したのだ。
焦ることなくどこまでも丁寧に、一滴の魔力も無駄に消費することなく、ただ読み取った情報のままに剣を創りあげる。基本骨子から材質・工程・蓄積経験までの全てを網羅し、一部の隙もなく現実世界へと出力する。
淡々と工程を完了させてゆくが、その揺るぎない技術と、余すこと無く魔力を扱う技量へと至る過程には、膨大な時間と経験の蓄積が必要となるのだろう。創ることへ最適化された回路とそこを滑らかに流れる魔力に、士郎は吸い込まれたように目が離せなかった。
そうして本物と見紛うほど――創られる過程を見つめていた士郎でさえ、本物の隣に置かれたら正解がどちらかわからなくなるほどの――複製品が現実の質量を帯びて成立した。
これが投影魔術。
失われた幻想の一端を現実へと顕現させる、この男と士郎だけが再現できる異端の神秘。
あらためて世界の深淵を見るような奇蹟への感動に、声もでない士郎であった、が。
次の瞬間、士郎は信じられないものを見た。
これらの奇蹟の創り手たる男――――アーチャー。
その褐色のたくましい腕が、完璧に仕上げられた剣の柄と切っ先を手に取ると。
「――――
にゅっとそれを引き伸ばした。
(…………はあ!?)
あまりの暴挙に別の意味で声がでない。
それは完成された美術品に金槌を当てるような所行である。
本物を限りなく模倣したが故の、本物に迫る輝きに、泥を投げつける行為である。
呆然と成り行きを眺める士郎の目の前で、男は次々と
「こんなものでいいだろう。ヘラクレス相手に近接戦は厳しいからな」
そうして六振りの剣は――――剣でありながら、剣ではなくなっていた。
その刀身は細く、より鋭く引き伸ばされていた。剣として斬るのではなく、飛翔し突き立つことへ特化したカタチへと変化していた。
士郎は視た。同じ投影魔術の使い手として、看過できない所行の結果を見定めるために。
驚くべきことに、これだけカタチを弄ばれていても剣としての骨子は残っていた。その身に内包する神秘と特性も大きくは変わってはいない。外形に射られるモノとしての要素を付加されたはずなのに、奇跡的なバランスを保ってその剣としての輝きを損ねてはいなかった。
士郎は胸をなで下ろす。
この誇るべき神秘の奇蹟が色あせずにここに在ること、現代に甦った古代の幻想が無茶苦茶な改造によって壊れ、消える事態にならなかったことに安堵したのだ。
(よかった……。元々完成しているモノに手を加えるなんて、下手したらせっかく投影した剣が耐えきれなくて自壊したかもしれないのに……。俺にはできっこないぞ、こんなこと)
感心しながら剣だったもの見やる士郎だったが、もっとよく見ようと腕を伸ばした時点でふと気がついた。――――元々の剣がどのようなモノだったか、ということを。
(いや、……いやいやいやいやちょっと待て。ちょっと待てよ。
この剣ってすごい英雄の持ち物だよな。後世に語り継がれるような英雄の、命を懸けた戦いと冒険を共にした無二の相棒だよな。投影品とはいえ、ここまで自由にいじって魔改造してよかったのか!? 冒涜的というか、元の持ち主に怒られないか? これ)
非常に微妙な顔で、偉大な英雄の持ち物を弄んだ張本人を見上げれば、当のアーチャーはしれっと自分のなした仕事の検分している。どうやら、粗もなくいい仕事をしたと本人は満足気だ。
「……アーチャー。お前の投影魔術がすごいことは分かった。とてもよくわかった。それを自分が使いやすいように改造できるってことも、驚いた。……だけどなぁ。ほんとコレ、大丈夫か? 元の持ち主とかに喧嘩売っているようにしか見えないんだけど」
使い手にとっては唯一無二の、ただ己だけの剣だったモノ。それを他人が勝手に模倣し、いいように弄ぶなど、持ち主にとって気分の良いものではないだろう。
罰当たりな行為の応報が今にも返ってくるのではと、おそるおそる問いかける士郎だったが、アーチャーはそれはないと、ばっさり切り捨てた。
「これはあくまで投影品だ。よくできた複製に過ぎない。よってそれをどう扱おうと問題はない。
それに持ち主たちが活躍した時代は遙か過去の世界であって、神秘の減衰した現代で彼らの遺品をどうこうしようと、彼らにその事実を知るすべはない。仮に知ったとしてもどうすることもできんよ」
「そ、そうなのか? ……それならいいんだけど」
考えてみれば当の本人たちはとっくの昔に亡くなっているわけで、現代に生きているはずもない。それこそ幽霊となって化けて出てきやしない限り、文句のつけようもないだろう。
……目の前にその幽霊っぽいのが存在していることを、あえて全力で無視すればの話だが。
アーチャー自身も英霊と自称していた以上、英雄の一人であり、今現在に存在してしまっている過去の英雄である。自分の武器がコピーされて他人に好き勝手に使われたり弄ばれても、コイツはどうも思わないのだろうか?
そんな考えが思い浮かんだが、今までの戦闘でのアーチャーの武器の扱い方を見るに、割とどうでもよいのかもしれないと思い直した。いや、投影した剣とか普通に爆弾にしてたし。
容赦なく投影品を使い捨てていた姿を思い出しながら、六振りの”剣だったもの”を前に士郎は素直な感想を漏らした。
「うーん。でもやっぱり、もったいないよなー。あんな本物そっくりの再現度の高い綺麗な剣だったのに……。手元にとっておきたくなるような、それこそ生涯を共に戦い抜けることができるような、本物そのものといえる完璧な投影に手を加えるなんて、俺には怖くてでき――――……」
その言葉を言い終える前に、白刃の光が瞬いた。
いつか見た双剣の片割れ。
一呼吸もなく投影してみせたアーチャーは、それを士郎の首元へ突きつける。
「もったいない、だと?」
呆れと共に、切っ先には静かな怒りがのせられていた。
「馬鹿なことをいうものだな。投影魔術は一時しのぎの代用品を用意するものだ。その場を切り抜けることができればいい。一合の剣戟を受け止めることができればいい。ただ目的を達成することができればいい。投影品は使い捨ての消耗品だ。それを惜しむなど、ただの愚か者がすることだ」
士郎に向けられた白の剣。一目見ただけで分かる。中身がスカスカの粗末な代物だと。
だが士郎はその切っ先から目を離せないでいた。
「投影することが目的ではない。投影は目的を達成するための手段や道具でしかない。この一度振るえば霧散するような脆い剣でも、貴様を黙らせるには十分だ」
薄氷の上で成り立っているような剣。それでも士郎の柔らかい喉笛を裂くだけの鋭さはあった。
「理解したか? 投影に精度を求めるのは、その必要があるからだ。魔力は無尽蔵にあるわけではない。今回はヘラクレスという神代の英雄を倒すために、遠坂の宝石を消費してまでここまでの再現度を求めたがな。
ただの魔術師を相手にするのならばランクを落としたものでも十分だ。むしろ雑な造りでも複数同時に展開した方が効果的な場合もある。
――――本来の目的を見失うな。我々は魔術師ではなく魔術使いだ。魔術の為に研鑽を積むのではなく、己の目的を達成するための道具として魔術を使え」
アーチャーは本気だった。この魔術の使用に対する前提をはき違えたままであれば、今ここで始末してしまった方がいいだろうと、その目は語っていた。
「……わかった。肝に銘じておく。魔術は手段で道具。剣は消耗品。目的以外は使わない。……これでいいか」
「わかればいい」
アーチャーは静かに士郎に突きつけていた剣を手放した。
音もなく落下してゆく剣は地面に接触するや否や、ガラス細工よりも簡単に砕け、僅かな粒子も残さず消え去った。それこそ存在自体が
それでも目的は果たされた。最低限の魔力で、士郎へ投影魔術の教訓を刻むという目的が。
アーチャーは棒のように立ちすくむ士郎を一瞥すると、剣を収めるモノを探してくると告げて土蔵から出ていった。
張りつめた空気と共に、元凶がいなくなったところで、士郎はぺたりと地面に座り込んだ。今になってぶわりと汗が滝のように出てくる。
(あー、怖かった……)
アーチャーの殺気とも呼ぶべき気配と、瞬時に顕れた刃。
圧倒的強者が敵対者となることと、いつでも人を殺しうるモノが用意できるという投影魔術の脅威。
そういうものへの認識と教訓もまとめて、心身に刻み込まれた濃密な時間だった。
(……そうだよな。綺麗っていっても結局は剣なんだ。人を傷つけることができるものなんだよな)
だからむやみに剣を投影してはいけないし、よくできたからといって剣を現実に常駐させておくのもよくない。アーチャーの言うとおり、この投影魔術は誰かを守るという目的以外には必要ないものだ。
(ま、今の俺じゃあ、包丁一本でも命がけだけど)
誰かの賞賛がほしくて魔術を使うのではない。誰かに剣のできを褒めてもらう為でもない。
自分が守りたいものの為に、この力を使うのだ。
(だから、
己のできる能力の範囲での最適解があの魔改造であるのならば、士郎が口を出すのも差し出がましいことなのだ。
英霊たちの生涯をかけて鍛え上げた原典を尊重するのはいい。ただ、それを惜しんではいけない。どうせ原典は色あせることなく永遠に胸の内に突き立っているのだ。投影の模造品くらいは、使い捨て前提の運用をしても、まあ問題はないということなのだろう。
(たぶんこいつ、自分の努力の成果を自慢したりだとか見せびらかしたりだとか……、いや、誰かに見せて褒めてもらうとか、考えたこともなかったんだろうな)
特に魔術に関しては、絶対そうだろうな、と確信できる。
投影魔術の使い手は今までアーチャーただ一人だという。手探りで独自に構築された術式に、外から甲乙を決める基準など無い。投影のできは、常にあの丘にある
つまりは完全に自己完結してしまっている。
それにアーチャーにとって、もはや投影できることは当たり前。投影魔術を成立させ、なおかつ、それらを活用し消費するまでが一連の流れだ。そこに他者の評価が差し込まれる余地はないし、そう割り切っているから、魔術に対してなにか言われても、動じることもないのだろう。
だからこそ、投影品の剣をもったいないと言った士郎の発言は、見当違いの考えとして一蹴されたのだろう。
士郎はただこう言いたかっただけなのだ。同じ投影魔術を修得するにあたり、普通に、当たり前に抱いた思いを伝えたかっただけなのだ。
ただ単純にすごいと。構築速度、精緻な再現性、存在強度。どれをとっても、神業と言うべきすごい技量なんだぞ、と。
「さて、追いつくのに何年かかるやら……」
アーチャーから魔術を教わって今日で二日目。素人に毛の生えたようなへっぽこ魔術使いは、すご技を間近で披露してくれた魔術の師への、畏敬の念を強める。
嫌みったらしい小言が多く、ついムキになってつっけんどんな態度をとってしまうが、ああ見えて尊敬に値するすごい男なのだ。アーチャーは。
だが今日が最後なのだ。明日の戦いで英霊ヘラクレスを下せば、冬木の地に生じた異変は解決され、アーチャーは去るという。
まだアイツには聞きたいことがある。アイツから学びたいことがある。足りない時間の中で、一番よくアイツを知るには――――コレしかない。
「よし、行くか」
士郎は立ち上がり土埃を払うと、土蔵の外へと足を向ける。
入り口で軽く振り返ると、薄暗い土蔵の中、高い位置にある小窓から差し込んだ月明かりが、現代に甦った幻想を静かに照らしていた。
その輝きを目に焼き付けて、士郎は進む。
目指すはあれらの創造主。無限の剣を内包した錬鉄の英雄アーチャー。
その男に、士郎は挑む。
馬鹿なことだと自覚している。自殺行為だとも。
けれど、アイツは多分つき合ってくれる。阿呆が、と呆れながら、真剣に刃を合わせてくれるはずだ。
アーチャーはあれでいて誠実な奴だから、誠実さを持って頼めば、応えてくれる。
「
カタチだけの投影。先ほど見たばかりの夫婦剣の片割れ。白の中華剣・莫耶。
神秘も何もない、かろうじて外形だけを顕現させたシロモノだ。
本当は双剣として投影したかった。だがこれが今の士郎の精一杯だ。おそらくただ刃を触れ合わせただけで、幻想は塵に還るだろうが、それでいい。何度でも投影しよう。
「アーチャー。手合わせ、お願いしてもいいか?」
さあ、最後の授業の始まりだ。
打撲裂傷、たぶん骨折は無い。