セイバーの正体ばらしはちょっと書き方を工夫してみました。
あと美遊はなかなか胸の内を語ってくれない子ですが、生死の境においてちょっとは取り乱しちゃってもいいと思うんですよね。それでより深くイリヤたちと仲良くなってくれたらいいと思います。
書きたいことがたくさんでてきて、中々進まない。原作だと二話で終わっているのに……。難しい!
若干原作2weiと3reiのネタバレが入ってます。
※前と続いてpixiv掲載時のまえがきと同じ文章です。
魔法少女が黒い騎士と対峙している。
言葉にするととてつもなくシュールな気もするが、あえて突っ込むまい。
赤いカレイドステッキを操る猫耳を生やした遠坂凛は、黒く染まったセイバーと接近戦を仕掛けている。いくら体術の心得とステッキの支援があるからといって、最優のサーヴァントで召喚される英霊と鍔競り合いなど、無茶をするものだ。
そんな凛を囮……いや前衛に出し、キツネ耳をピンと立てたルヴィアは大掛かりな術式でも用意しているのだろう、徐々に魔力が集束されていくのが分かった。
(遠坂のやつ、すごいな。あんな奴と互角に渡り合ってる)
小僧の関心はセイバーと刃を交し合う凛にあるようだ。
元々彼女はあの無限に魔力が供給される礼装のステッキが無くとも、自分の実力のみで英霊に立ち向かったこともあるのだ。あのくらい出来て当たり前だろう。例えそれが平行世界の遠坂凛だとしても、あの鮮やかな赤の輝きは変わらない。
対して、セイバーはやはり私が生前サーヴァントとして召喚した彼女だったが、この度は正常に召喚されたわけでは無いようだ。
精霊の加護であった『
その剣筋に彼女の清廉さや騎士然とした理性や意志は感じられず、ただ機械か獣の如く敵に反応して剣を振るっているだけだ。
(あれはサーヴァントでは無い。あえて言うのならば英霊の現象というべきか)
(英霊の現象? あそこで戦っているのは確かに人だろう?)
(人の形をしているが、意志や魂があるわけでは無い。写し取られた『英霊の力』が形をとり存在しているに過ぎん)
でなければ、凛といえども、真っ当に打ち合うことすらできないだろう。
凛が空いた胴に入れられた一閃をギリギリ防ぐ。セイバーが硬直したその一瞬に、ゼロ距離射撃を見舞って距離を置いた。
今のは危なかったな。両手で振り抜かれていたら障壁が持たず、胴から真っ二つだったぞ。
そして、大規模の砲撃術式を用意していたルヴィアと合流し、魔方陣を展開する。そこに充填された魔力は先ほどの『偽・螺旋剣』に迫るほどだ。
(あれなら、アレもひとたまりも無いだろう)
(……いや、その読みは甘いな、小僧)
「
凛とルヴィアの掛け声。今期の時計塔の首席候補の二人が紡ぐ、全力の魔術がセイバーに向けて叩き付けられる。
轟音と衝撃。
川床は盛大にえぐれ、熱量によって大量の蒸気が上がる。
着弾地点には露出した土面以外、何もないだろう。
そう、通常ならば。
(あれは現象であっても、)
凛たちは勝利の余韻に浸っているが、相対していたのは最優と呼ばれるセイバー。
その中でも彼女は二度の聖杯戦争でも最後まで勝ち残った、とりわけ優秀なサーヴァントだったのだ。――――簡単に倒しきれるものか。
水面が割れ、黒き極光が現れる。
鎧さえ魔力に変換し、その一撃は放たれる。
それは星が編んだ最も貴き幻想。堕ちたとしても力はそのままに。
彼女が振り下ろす、その真名は。
「
(最強の騎士、アーサー王だ)
*************
美遊は、ただ茫然と見ているだけしかできなかった。
カレイドステッキを投げ渡し、選手交代として凛とルヴィアが、あの黒騎士を相手にして一歩も引かぬ戦いしているのを見せつけられた時も。
黒騎士が放った黒い極光が、鏡面界を切り裂き、凛とルヴィアを呑み込んだ時も。
そして今、イリヤスフィールから膨大な魔力が噴出していても。
(彼女は魔術師ではなかったはず……。そもそも一人の人間が許容できる魔力量じゃない!)
一体何が彼女に起こっているのか。
ザッという音に反応して振り向けば、あの黒い騎士が剣を携えてこちらに向かってくるのが見えた。
美遊は構えをとりはしたが、カレイドステッキのサファイアが手元に無い中どうすることもできない。
……いや、対抗する手段はあるが、今の美遊の魔力量で術式を展開できるかどうか。
「――倒さなきゃ」
背後からのイリヤスフィールの声。
美遊はぎょっとしてイリヤスフィールの様子を窺う。その声は先ほどとは全く違う、平坦な調子だ。そして魔力の噴出は止まらないが、無作為に放たれていた魔力に方向性が与えられたように思える。
「……どうやって? 手段? 方法? ――力?」
イリヤスフィールの瞳が美遊にまっすぐ向けられる。
感情がこそげ落ちた色。ただ事態に対処するために機能している機械のような。
「……力なら、そこにある」
美遊に向けて手が差し伸べられる。――正確にはクラスカードを収めたポケットへ、だ。
「イリヤスフィール、あなた、何を――――?」
カレイドステッキが無い今、クラスカードから宝具を『
美遊の胸の内は緊張と困惑がほとんどを占めていたが、イリヤスフィールへの怒りもまだ燻っている。カードを渡すことには抵抗があった。
だが。
ぞくりと背後から突き刺さる威圧感。英霊という人を超えた上位の存在から放たれるプレッシャーは、魔法少女に転身もせずステッキの加護の無い生身の少女には、到底堪え切れるものではなかった。
黒い騎士はこちらを獲物と捕捉した。あの騎士が行動に移したら――――何もできず切り伏せられる。待ち受けるのは死のみ。
その結末を幻視した美遊に湧き上がったのは、恐怖と「まだ、死ねない」という義務感と悔しさだった。
私はまだ、何も成せていない。やり遂げていない。カードのことも、そして兄との約束も――。
けれど自分には、立ち向かうだけの力は無く。
美遊は手を差し伸べるイリヤスフィールを見つめた。膨大な魔力を纏う姿はこの絶望的な状況の中の一筋の光のように思えた。そう、まるでなんでも願いを叶える伝説の『聖杯』のような……。
知らず口から言葉がこぼれた。こぼしてしまった。
「……お願い、助けて」
言って後悔する。私は、自分の意志を無視して縋りつかれる辛さを誰よりも知っているはずなのに。だから、誰にも頼らず弱音も吐くまいとしていたのに。
しかし美遊のその言葉に、イリヤスフィールは、人形のような無表情から一転、ふわりっと花が咲きほころぶ聖女のような笑みを浮かべた。それこそ、『願いを叶える存在』であることが嬉しいように。
「任せて、ミユさん。私はあなたを助ける」
美遊は意を決して、手持ちのカードを全てイリヤスフィールに託した。彼女ならこの窮地を救ってくれると、どこか確信する自分がいた。
イリヤスフィールはカードを確認し、
「クラスカード『ランサー』を選択」
と三枚のうち一枚を残して他のカードはポケットにしまい込んだ。もう失くさないようにと気を付けたのかもしれない。美遊はこんな状況にも関わらず、つい口元を緩めてしまった。
だが、次の瞬間顔を引き攣らせることとなる。
「『
イリヤスフィールの足元に美遊にとっては見覚えのある魔方陣が展開される。イリヤスフィールから噴出していた魔力は目的地が定まったというようにその魔方陣へと次々に吸い込まれていく。
そして、魔力が収束されたあと。
そこにいたのは。
青い軽鎧を纏い、真紅の槍を携えて『英霊化』したイリヤスフィールだった。
アーチャーのカードが無いことで起きる、バタフライ効果を楽しんでいただければ。