pixivに上げてる残りの二話も続けてあげちゃいます!
今回の話は士郎視点が主です。プリヤ士郎のつもりで書いてるのに、だんだんSN士郎っぽくなってしまう不思議。小さい頃のトラウマは根深いですね。
青い影が赤き閃光と共に、黒騎士へ迫る。
赤い魔槍の精緻な槍さばきを、機械じみた反射で黒き剣が迎撃。剣戟の音が鳴り響き、交点からは衝撃の余波で火花のような魔力光が飛び散る。
青の小柄な槍兵――青のケルティックスーツを纏ったイリヤは、自身の背丈を大きく超える槍を自在に操り、圧倒的だった黒い騎士と対等に刃を交えていた。
(いったい、どうなってるんだよ。イリヤは普通の女の子のはずだろ。なんで―――あんな戦いができるんだ)
衛宮士郎は一歩踏み出すごとに体中に走る痛みに堪えながら、己の『うち』にいるアーチャーへ問いかける。
(おそらくはカードの術式を発動させたのだろう。英霊の『座』に干渉する術式だったが、まさか英霊の力を写し取り、己に『置換』させる物だったとは)
(よくわからないけど、つまりイリヤは今、『英霊』の力を使っているってことか?)
イリヤは普段からは信じられないほど俊敏に動いていた。その身体能力だけでも人間の範疇では無い。槍さばきも戦いの運びかたも、熟練の戦士を思わせる。
目に霞むほどの速さで繰り出される赤き魔槍。それは遠くからでも理解できるほどの神秘の塊であり、『宝具』と呼ばれる伝説に記された英雄の武具だった。
士郎は無意識のうちにその正体を読み取っていた。
(あの赤い槍は……『ゲイ・ボルグ』だ。因果を逆転させる必中不可避の魔槍)
(正解だ。その担い手はケルト神話の太陽神の息子、アイルランドの大英雄、『クー・フーリン』だ)
その大英雄なら、かの有名なアーサー王である黒騎士と対等に渡り合えるだろう。
(彼の力をもってしてなら、彼女を倒すことが出来るかもしれない。貴様の行動は無意味に終わるかもしれない。なのに、なぜ向かう?)
アーチャーの皮肉気な声。
士郎は今、大橋から河原へと向かう道をよたよたと歩いていた。体中を走る痛みは変わらず、士郎の意識を苛み続ける。
(確かに、ずたぼろな俺があそこに行く意味なんか無いかもしれない。イリヤがあの黒騎士を何とかしてくれるかもしれない)
士郎の体は先ほどの投影でボロボロだ。行くだけ足手まといになる可能性は大いにある。
(けどな、俺はそうやって言い訳して、さっき遠坂とルヴィアを見殺しにしたんだ)
黒騎士を倒したと思った。遠坂とルヴィアの砲撃はそれだけの威力があった。
しかし、現実の黒騎士は想像以上で。
『宝具』の真名解放によって放たれた黒の極光に呑み込まれた二人は、おそらく生きてはいまい。
士郎の幼少期に刻まれた光景が蘇る。どうしようもない力の前に自分だけがまた生き残ってしまった、と。
胸の内には、まさに後悔と罪悪感が重くのしかかっていた。
あの時何か自分にもできることはあったのではないか。
何か行動に移せていたら、二人は生きていたのではないか。
そんなIFを延々と繰り返しているような気がする。
(だから貴様は行くというのか。己の命を度外視して)
アーチャーの声は厳しい。それはそうだ。さっきまで威勢のいいことを言っていたのに、それを翻してる。銀の花が根を張る大地ごと消えてしまったら、守るということにはならないかもしれない。
(俺だって命は惜しいさ。痛いのだって嫌だ。だけど――――もう後悔するのも自分だけ生き残るのも、ごめんだ)
(……お前は他人を信じないのか。こんな傷付いた体だ。力ある誰かに託し、ただ蹲っていても誰も文句は言うまい)
アーチャーは痛いところを突いてくる。
魔術に関して自分は門外漢で、専門家や実力を伴った奴が解決してくれるのを待っていた方がいいのかもしれない。――――まさに今、黒騎士と闘っているイリヤを見守る女の子のように。
しかし、士郎は何もせず傍観することはできなかった。
心に巣食うあの日に見殺しにした人々の声がこんな時に限って、鳴り止まないのだ。
オマエはまた見殺しにするのか、と。
遠坂とルヴィアは助けられなかった。でも、まだイリヤは生きてる。
心の片隅で、幼い自分を救ってくれた男――養父の切嗣が浮かべていた表情を思い出す。
その笑顔に憧れていた。いつか自分もそんな風に笑えたらと思った。
後悔と罪悪感、そして自らの手で助けたいという思いが、士郎を動かしていた。
(俺は何もできないとあきらめて、ここで転がっているなんてできない。クー・フーリンになったイリヤが絶対に勝つなんて保証はないんだろう? なら俺のこの行動が無駄になるなんて最初から決めつけるな!)
それに士郎の胸には嫌な予感があった。既視感と言ってもいい。
クー・フーリン(ランサー)とアーサー王(セイバー)の戦いを以前も見たことがある――気がする。それは唐突に浮かび上がったイメージの断片にすぎないが、起こり得る可能性の一つとしては確率が高い。
その時の結末は確か――――。
士郎は青の槍兵となったイリヤと黒騎士の戦いに目を向ける。ちょうど黒騎士が赤い魔槍を力強く弾き、距離を置いたところだった。双方ともに息が切れ始め、イリヤは距離が空いたことをチャンスというように、槍の投擲体勢に入る。
(あれは……ヤバい!)
赤い魔槍が周囲の魔力を暴力的に収束させていく。それは真名解放の予兆。
イリヤはこれで決着をつけるつもりか己の全魔力も槍に注ぎ込んでゆく。
士郎は焦り、遅々としか進まない歩みを速めようとするが、逆に足を縺れさせて倒れこんでしまった。
(イリヤ、その展開はダメだ。それじゃ―――)
痛みを無視してもなお、思い通りに動かぬ体に士郎の焦燥感は募るばかりだ。
そこに声をかけたのは沈黙していたアーチャーだ。
(衛宮士郎、お前に命をかける覚悟があるなら、この状況を打破できる方法を教えてやる)
(打破、だと。そんな方法があるならすぐに教えてくれ! このままじゃイリヤが危ない)
今頃その方法を提示するなど、と怒りも沸いたが、身を刺す痛みは共有しており、わざわざ理由もなく苦痛を味わう時間を長くするわけない。
(もちろん、私はマゾヒストではない。しかしこの方法は失敗すればお前の命は無い。成功したとしても何らかの後遺症は残るだろう。だからこそ、ギリギリまで様子見させてもらったがな。そうも言っていられん状況になった。それでもやるか?)
(ああ、ここで尻込みしてイリヤを助けられなかったら、俺は一生後悔する。だからとっとと教えろ!)
何しろ時間が無い。イリヤの槍はいつ放たれてもおかしくはない状態なのだ。
(ならば今一度、魔術回路を開け。スイッチは銃の撃鉄を起こすイメージだ)
士郎はその通りに思い浮かべる。
(
言葉は不思議と自然に出てきた。これもどこからかやってきたものなのか。さっきから知っていることと『識っている』ことの区別が曖昧になっている気がする。
しかし、回路が開けた瞬間、今まで以上の痛みが襲いその疑問は吹っ飛んだ。まるで火傷の上を溶けた鉄が流れ込んだような絶対的な痛みが駆け巡る。
(意識を手放すな。ポンコツの回路を無理矢理動かしているのだ。制御出来なかったら死ぬぞ)
(そ、そこまで、言うなら、お前がやれ、ばいいのにな。最初に、魔術を使ったの、はお前、だろ)
痛みに気絶しないよう、思考を回して何とか意識を保つが、言葉は途切れ途切れにしか形を成さない。
(あれは一種の混乱状態であったからこそできたことだ。今は痛覚がお前の体の主導権は衛宮士郎にあるのだと、境界線を明確にさせてしまっている。ゆえに私ができるのは魔力の誘導くらいなものだ)
士郎の魔術回路に流れている熱い何か――魔力が神経をやすり削るように一点に向けて流れていく。行き先はずっと手放さずに持っていた「Archer」と銘打たれたカード。
(イリヤスフィールが手本を見せてくれたおかげで、大体の構造は把握できた。そして私の意志があり、私になる可能性を含んだ身体(器)がある。不完全でも起動するはずだ)
カードに込められた術式の大半は、『英霊の座』に干渉するものと写し取った力を制御するものだ。
平行世界上の同一人物というイレギュラーによって『座』への干渉を果たした。だが力を写し取るだけのはずが、霊格の低い守護者ゆえか、意志の欠片まで持ってきてしまった。
アーチャー――守護者エミヤの意志はいま、衛宮士郎へと協力するつもりでいる。ならば力の制御は己がすればいい。
必要なのはこのボロボロな身体を英霊の力に『置換』させる術式だけである。
幸いなことに衛宮士郎は守護者エミヤの同位体であり、身体の齟齬は少ないはずだ。
アーチャーは本来の手順を素っ飛ばし、必要な術式にだけ魔力を注ぎ込む。
(後は術式の起句を告げるだけでいい。小僧、今更だがこの後どうなるかは保証できんぞ)
(はは。無理は、承知、の上だ。教えろ、よ)
士郎の身体は酷使しすぎてオーバーヒート寸前だった。
それでもこの絶望的な展開からイリヤを救うための意志だけで、発狂しそうなほどの痛みをねじふせる。
そして、アーチャーに告げられた言葉を口にした。
「『
それは奇しくも、赤い魔槍の真名解放と同時であった。
クラスカードについてはだいぶ、捏造が入ってます。