プリヤ世界にエミヤ参戦   作:yamabiko

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総合閲覧数2万を突破!感謝の言葉しか出ません!
今回はドキドキ、アーチャー視点で書きました。

Fate/stay nightネタが強いです。
アーチャーはUBW後です。(ココ重要)

そして、またもや短くてすみません! でもここでシリアスパートがひと段落なのでご容赦ください!



【7】

 気が緩んだか、倒れこんできたイリヤをそっと抱きかかえる。

 目を閉じ、気を失ったイリヤは親の懐で眠るような、そんな安心しきった表情を浮かべていた。

(よくここまで見知らぬ男に気を許せるものだ。他の男でもそうなら将来が心配だが)

 世の中、お人好しの善人だけで構成されているわけでは無いのだ。いくら窮地から救ったとはいえ、無防備過ぎやしないか?

 軽く解析の魔術をかけるが、疲労以外の変調は見当たらない。精神的負担が大きかったのだろうと判断し、気絶したイリヤを黒髪の少女にそっと預けた。

 少女はイリヤの親しい友達なのだろう。凛やルヴィアと共にこの空間にいたこと、そして先ほど駆けつけてきた様子から、そう推察する。

 今も少女はこの場に乱入した男に対して、警戒の目を向けていた。少なくとも、簡単に信用しないだけの賢さはあるようだ。

 自然と口元が緩む。このイリヤは良い友達に巡り会えている――――。

「イリヤを頼む」

 一言だけ言い残して、アーチャーは疾走を開始した。ぐるりと弧を描くようにセイバーとの距離を詰める。

 セイバーは満身創痍であるが、僅かでも魔力が残っているのならばまた斬撃を飛ばしてくるかもしれない。背後の守るべき少女たちを巻き込まないためにも、近接戦に持ち込む必要があった。

 ギンッ!

 干将莫耶――白と黒の夫婦剣が、セイバーの黒に染まった聖剣と火花を散らす。

 アーチャーの渾身の一撃を、ボロボロで碌に力の残っていないであろうセイバーが受け止める。

 セイバーは魔力の霧を展開せず、全て剣を振り回す推進力としているようだ。

 真名解放された『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』の呪いを回避したとはいえ、もはや実体化さえ危ういのか、身体の端もぶれ始め、粒子となって解けかかっている。

 だが、それほど消耗しているにもかかわらず、英国の誇る円卓の騎士王はアーチャーと打ちあって見せた。

 理性など無い。あの洗練な意志を宿す翡翠の瞳は、混濁した金へと変貌し、ただ本能のままアーチャーの振るう剣に反応しているに過ぎない。しかし、そんな状態だからこそ、セイバーの直感スキルは最大まで跳ね上がっているようだ。

 どれほど速く剣を振るっても彼女は反応し、受け止める。無理矢理に体を動かすせいで、傷口は広がり血飛沫が飛ぶが、それを無視して剣を振るい続ける。

 傷だらけでも決して退かないその姿は、アーチャーに一つの光景を思い出させた。

(君はそんな姿になってまで、何を望むというのだ)

 アーチャーは剣を交わしながら、セイバーの言葉を成していない声を上げる口元を注視した。彼女の唇から言わんとすることを読み解く。

「セ――― イ―― ハ――― イ――」

 ――――聖杯。

 それはアーサー王が探し続けた物。持ち主の願いを叶える願望器。

 彼女が世界と契約をしてまで望んだもの。

(セイバー……いや、アルトリア。この君はまだ聖杯を諦めてはいないのか)

 摩耗した記憶にわずかに残る黄金の離別が頭をかすめる。

 アーチャーは、この冬木の地に眠るものが彼女の求めるものではないことを知っていた。

 そして、彼女の願いも。

「……いいだろう、ならば私が引導を渡してやる」

 アーチャーは手にした二刀を続けざまに投擲する。意図してセイバーが避けやすいように調整し、更に新たに投影した全く同じ姿の夫婦剣も同様に投げつける。

 直感によって全て攻撃を受け止められてしまうのであれば、来ると分かってもなお避けられない状況を作り出せばいい。

 アーチャーは三対目の干将莫耶を投影し、セイバーへ斬りかかる。

 干将莫耶は陰陽一対の夫婦剣。ゆえに互いに引かれあう性質を持つ。

 投擲された二対の双剣は、地に落ちることなく引き戻される。

 そう――ちょうどセイバーの元で交わるように。

 セイバーの眼が大きく開かれる。

 

「鶴翼三連」

 

 セイバーの姿が影のように霞んだ。

 重なる金属音。

 アーチャーの振り下ろした双剣は、黒の聖剣によって阻まれる。

 だが次の瞬間―――トンッ、とセイバーの胸の中央から白の切っ先が突き出した。

 それは夫婦剣の片割れである陰剣・莫耶。

 回転する刃が交わる刹那、セイバーは直感のおもむくままに、飛来する干将莫耶を薙ぎ払い、アーチャーの握る一対も防いだ。しかし、それさえ計算に入れ、僅かタイミングを遅らせた莫耶を防ぐことはできなかったのだ。

「あ、あ―――、ゔあああああああああ」

 セイバーの絶叫が上がる。

 聖杯を手に入れることが出来ないと悟った、絶望に満ちた声音。

 アーチャーはその悲痛で痛々しい様子に、投影を破棄し、血で汚れるのもかまわずセイバーを抱きしめた。

 このセイバーはサーヴァントとして召喚された彼女ではない。あくまで彼女の力を写し取ったカードの仮初の姿でしかない。そう、英霊の『現象』として存在しているに過ぎない。

 けれど、このカードが干渉を及ぼした英霊が『アルトリア・ペンドラゴン』ならば……聖杯を得る機会があれば馳せ参じる彼女ならば、『現象』として現れるのであっても全力で応えるだろう。

 だからこそ、黒く堕ちたとしても『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』を回避できるほどのスペックを備えていたのだ。コレは正にアルトリアの願う『聖杯を求める現象』なのだ。

「もう、いいんだ。アルトリア」

 アーチャーは未だ絶叫を上げるセイバーの耳元で囁く。

「君は間違っていなかった。――――もう聖杯を求める必要はないんだ」

 そう言って、彼女のほどけてしまった髪を優しく梳いた。

 何度も何度も。ただ、彼女が自分を認められるように。ただ、頑張ってきた自分を受け入れてくれるように。

 そんな願いを込めて、彼女を抱きしめる。

 壊れたオレだって、間違っていなかったと、受け入れることが出来たのだ。彼女にだってできるはずだ。

 腕の中の彼女ははただの『現象』かもしれない。だけど、『記録』としてでも本体の君に届くかもしれない。ならば伝える価値はあるだろう?

 いつの間にか、あの悲しい声は止んでいた。

 セイバーが顔を上げてこちらを見つめる。

 道を見失った迷子のような表情だった。

 既に足元は粒子となって、消滅が近いことを告げている。

「アルトリア……」

 抱きしめた身体の存在感が、どんどん失われていくのが分かる。

 ますます抱く腕に力を込めたとき、彼女は何かに気付いたように目を見開いた。

「……あなたが私の鞘だったのですね」

 意味を成さない音だけを発していた唇が、初めて明確な言葉を紡いだ。

 柔らかく清水のような声は、彼方へ追いやってしまった記憶とどこまでも同じで。

 再びアーチャーを見上げた彼女の眼は、深く澄んだ碧をしていた。

 アーチャーはその瞳に目を奪われる。

 彼女の碧に吸い込まれるようだ。いや、その瞳はだんだん近づいて来て……。

 唇に軽い感触。

 彼女は最後に笑みをたたえて、粒子となり消えていった。

 




アーチャーの生前はセイバー√に近いルートだと思って書きました。

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